南海泡沫の後で

貨幣収集を時代背景とともに記述してゆきます。

フィンランド・500マルカ銀貨・ヘルシンキオリンピック記念

2013年02月27日 23時20分39秒 | 投資
斜陽の地方都市の我が町の県立図書館から、今月コイン関連の図書を借りてきた。
とはいっても、新しい物ではなく、古い本である。かってのコインブームの頃出版されたと思しき物だ。

「コイン利殖入門 暴騰をつづける価値の収集」倉田英乃介著 青春出版社 昭和48年

である。専門書ではない庶民向けの新書である。内容は当時よほどコインブームだったのだろう、
コインの値上がりに有頂天になりそうな、極めて煽動的な、読んでいるとさぞかし興奮したであろうなものである。

試みに「コインブーム 昭和」でググってみると、ちらほらと昭和のコインブームの記述が断片的に散見されるが
詳しく昭和48年頃の状況を記したものはない。ウィキのコピペが目につく程度である。
その原文ともいうべきウィキによれば、昭和のコインブームは東京オリンピック1000円銀貨が契機となったという。昭和39年のことであった。

その後じりじりとこの1000円銀貨は値を上げ、コインブームが到来、このオリンピック1000円銀貨も恰も
サウス・シー・カンパニー株のごときチャートを描くことになったようだ。上記の利殖本がでた1973年、昭和48年がコインブームの絶頂だった模様で、1000円銀貨は2万円をつけていた。が、その後の物品税の出現により高騰していた価格は下落、コインブームも下火となり
今はもはや見る影もない。

昭和48年頃のコインブームの様相はこの本を読むといかなる模様だったか容易に想像できるくらいだ。
記述されているコインの価格は、恰もバブルである。

東京オリンピック記念1000円銀貨 1.1万~1.3万 パック未使用1.5万「手放したら絶対買えなくなる記念コイン 5年後予想3~4倍」

東京オリンピック記念100円銀貨 「せめて400円以下で手に入れること」

万博100円白銅貨 1000~1400円 「値上がり率は年四割」

札幌冬季五輪100円白銅貨 未使用クラス1300~1500円 「今からでも買っておいたほうがトク」

大型50円貨 昭和35年(特年) 極美品 5000円 5~6年後の予想価格 35000~45000「最高4万5千円は行く大型五十円貨」


今ではどうなのかというと、辛うじて上記の価格に近いのは
大型50円ニッケル貨の昭和35年極美品がネットショップで5000円というのがあった。
しかしこれもヤフオクではもっと安く買え、有ってないような値段ではないかと思われる。
誰かがこの値で買えばその値がついたということになり、誰も買わないと高すぎると言うことだ。
しかし当時の物価水準で5000円と、今とではさすがにインフレが進み、5000円の価値は低落している。
結局超長期としては利殖にはならなかったということだ。利殖とは思いこみで、
結局ブームであったのだ。

この時のコインブームは特に現行貨幣について燃焼した模様だ。円銀も高騰していたようだが、とくに今現在と比較して
現行貨幣類のほうが高騰ぶりが際立っている。当時、オリンピック1000円銀貨はきれいな状態だとコイン店での買い取も
8000円はしていたとか。今はだれも8000円も出さないだろう。
きれいなものが2500~3500円位でいつでも買えるからだ。

また、この本は随所にコインブームに乗じて資金をコインに投機をし、狂喜する人々のエピソードが書かれている。
100円銀貨、69年のミントセット、紙幣などの成功譚である。そして我先にと買いに走る人々。まるで西郷札である。
当時をリアルタイムに知らぬ私など、これほど過熱していたのかと思われると同時にブームの空しさをまた、知る。



今回のコインは…東京オリンピック1000円銀貨ではない。これはまた別の機会にしたい。もうちょっと違う形で
取り上げたいからだ。自分なりの思い入れもあるし…

フィンランドのヘルシンキオリンピック記念500マルカ銀貨である。
このコイン、初のオリンピック記念硬貨として作られた。オリンピックのコインはこれが初なのである。
発行年は1951年と、1952年。1951年が発行枚数がかなり少なく、希少とされる。

このオリンピックの記念コイン、上記の本にも登場する。外国コインの利殖についての記述に出てくるのである。
「五輪記念貨のピカ一はヘルシンキ500マルカ 5年後予想七~八倍」
とのことである。当時極美品価格20000~25000円であったという。しかも1951年の方が高く、8~90000円とのこと。
利殖コインとして最も有望確実との紹介である。

その後このコインが利殖コインとしてどうなったのかは分らないが、間違いなく言えるのは、今、このコインを20000円出して買う人は
おそらくいないであろうことだ。

有望確実などと紹介されているものの、このコイン、個人的には目立った美しさなどは見いだせない。オリンピック記念というものの
実に質素である。時代が1950年代であるからか、オリンピック記念コインへ凝ったデザインをテンコ盛りにしようという発想はまだ
なかった様な気がする。正直買わなくとも良かろうかとも思われる。
前述の時代、万単位で売買されていたようだが、今、このコインにその価格は感じられない気がする。
私ならばあえてこれを1万円出して買いたいとは思わないが、当時は実際に上記のような価格帯で取引されていたのだから、もうコインの持つ物自体の固有の美とかアウラなどは思考の外であったのであろう…

ネットによると、この頃のコインブームは、48年春、物品税の導入で急速に終息したとある。
だが、それはもっともらしい説明にしか過ぎない。
ブームはすでに終焉に近づいていたのだ。物品税どうのこうのなどはトリガーにしか過ぎない。


おそらく昭和48年に利息目当てで高価なコインをたくさん買い込んだ人々もいたろうと思われるが、その後実に長い間、コインは下落し続ける。品物によっては2度と当時の高騰した価格に戻ることはない物もあるかもしれない。

それがブームの終焉なのだ。奇しくもこの本は昭和48年4月に第1冊が発行されている。まさにブームのピーク時と思われる。
その頃オリンピック1000円銀貨は22000円をつけた。

おそらく2度とオリンピック1000円銀貨はこの値に戻ることはないだろう。
ところで、この本の著者の倉田英乃介氏は、別の著者名、「五島勉」という名でノストラダムスの大予言の本を出し、ベストセラーになったようだ。結局なにもなかったノストラダムスだったが、まあ話題や興味本位としては楽しめたとは思う。

ノストラダムスの本を真剣に受け止めて、1999年近くになって、余計な不安と無駄な時間を割いた人もいるかもしれないが、
高騰したコインへの遅ればせながらの投資よりは、まだましだろう。結果がわかるのがすぐだったからだ。
コインの下落ぶりは何年にもおよび、元に戻らないと言うのがはっきり認識できるまでには手遅れになってしまった人々も多かったのではないかと思われる。
バンドワゴンの最後尾にはついてはならないと思い知らされる出来事である。

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