南海泡沫の後で

貨幣収集を時代背景とともに記述してゆきます。

中国・1角アルミ貨

2013年12月26日 00時41分06秒 | 投資
1992年の中華人民共和国の1角アルミ貨である。

中国の貨幣制度において元の下の補助貨幣である。当然、材質、作りともに安物である。

中国は言うまでもなく人民元であるが、これは実はわが国における呼称であり、中国では人民幣(レンミンビン・RMB)という。1元は10角であり、1角は100分である。また中国人は日常会話では、元のことを塊(カイ)、角を毛(マオ)と呼んでいる。


1992年に中国に旅をした妻に聞くところによると、既にインフレにより分は使うことはなかったとの話であった。
だがまだ角は若干使っていて、1.5元などといった価格の買いものなどをする時に用いていた。貨幣も存在していた。

さらに1994年までは人民元とは別に外国人用の兌換元が別に貨幣の制度としてあり、外国人は両替をすると兌換元にされ、これを用立てにするのであった。こうした外国人が使った兌換元も人民元と混ざって市中に流通していた。
中国国内でも兌換元の方が再度外貨に両替でき、また外国製品も買えるなど、庶民に人気があったようである。額面は対等である制度であったが、人気が集中したために市中でのレートは対等ではなくなり、闇両替なども行われていた。

妻の旅の思い出話によると、街中を歩いていると兌換券欲しさにしきりに両替屋が声をかけてきたそうである。

しかし94年で兌換元は廃止。さらにインフレは進み、この後、分は発行されなくなる。

中国では一般に紙幣の方が多用される。小額紙幣も発行されており1元札も角の額面の札もある。しかし
コインの流通も増えてきているという。

私が中国に旅をしたのは2003年だった。妻との新婚旅行に北京の旧正月に行ったのだが、当然その時は分は使うこともなく、
角も使った覚えはない。1元からであった。
最も小さな買い物は屋台でシュンピン(春餅)というクレープのようなものを食べたのが2元だったと思う。その時は1元札を使っていた。
そのころのレートは1元=13円程度だったかと思う。今は17円程度だが。
角は使った覚えはないが、たしか帰国時には角の紙幣をいくつか持ちかえったような気もする。元から円へ戻した時の余りだったかもしれない。


1992年は中国にとっても経済的にターニングポイントとなる。
トウ小平が経済政策を保守路線を否定し市場経済を引き続き推進し改革開放路線をその後一挙に発展させる「南巡講話」を行っている。

改革開放路線はそれ以前より始まっていたものの、天安門事件により保守路線へと傾きつつあったが、
トウ小平が再度市場経済を重視するべきとし改革開放路線は以後、急速に進んでいく。それ以後の中国の経済発展ぶりは
言うまでもないだろう。

トウ小平の改革開放路線も1978年以降、延々と続けられてきたわけであるが、やはり大国の経済政策というのは一朝一夕に行かないのである。
地道な活動の連綿たる持続が経済の発展の礎なのだ。

しかしトウ小平の改革開放路線がこれだけ持続されたのも、党員ならびに民意の支持があったためであろう。
それまでの中国は大躍進政策と文化大革命の狂気と飢餓により民衆は疲弊しきっていた。党幹部でさえ粛清の恐怖に苛まれ、
平常ではなかった。
誰もがもう既に毛沢東主義の狂気と暴力よりも現実の豊かさ、尋常な生活の安定を求めていたのである。
トウ小平自身も文化大革命中は追放され、息子も迫害されたあげく建物から突き落とされて障害者となり、
トウ小平自身で介護していたという。そのトウ小平も、1976年の訪中で日本の経済発展ぶりに驚いていたという。内紛に明け暮れ
発展が途絶え荒廃していたのは中国であることに改めて気付かされたのであった。


とはいえ、このコインが発行された1992年当時はまだまだ今のような中国ではなく、上海ですら古臭く地味な都市であったと
妻は言っている。インフラもなにもかもが不便であり先進国とは雲泥の状況であった。
しかしその後の中国の発展ぶりは言うまでもなく猛烈なバブル的急成長であり、その他の先進国よりもむしろ資本主義的な国になっているようにも思われる。
中国の最近の発展ぶりには驚くばかりだが、人々の様相には明暗が入り混じる。
一つの国家において人間の運命が一筋縄でいかないのはいつの時代でもだ。光があれば影があるのはいつでもどこでもだ。

中国は、我々から見ると生きていくには厳しい国だ。人間が生きていく生き様が生々しく、激しくぶつかりあう。
階級による貧富の差は激しく、弱者が強者に支配される度合いは日本の想像を絶する。
その様相は旧中国とでも言うべき古い時代以来のものだ。壮絶な歴史の連続が生み出す
人間存在の厳粛さがある。生存闘争が激しい国なのだ。


さてコインのほうだが…
この1角アルミ貨は、現在のものの一つ前のもので、1991年度に出された貨幣シリーズの一つである。
材質は100%アルミで軽く、チープで特段の価値などもない。絵柄は安っぽく素っ気ない。意匠に嗜好をこらしたいとかそうした美的価値観は乏しい。まあ菊花の絵柄は普通と言った感じか。その頃の中国の技術力を反映している。まだまだ90年代初めにおいては
中国の物的生産力、技術力は本格的発展前の、スタート地点に近かった。

一応額面のあるほうに菊花があしらわれているのと、縁どりの飾りというか、周縁に9角形を施し中国の9つの民族を象徴させている。
裏面には中華人民共和国の簡体字表記と国章とアルファベットでZHONGHUA RENMIN GONGHEGUO と年号の1992が書かれている。

大きさはΦ22.5、2.2g。
1角のコインは中国はこのタイプの前に1980年代に黄銅貨で発行していたが1991年にこのアルミ貨に変更。
さらに1999年にさらに大きさを小さくしてデザインも変更し、その後は材質を変えながら今はステンレススチール貨となっている。
1980年代以前は角のコインはなく紙幣で発行、流通されていたようだ。1980年に作られた黄銅貨の角のコインは
素っ気ないようでいて字体などになんとなくキッチリした感じがあり好感があるが、このコインはアルミでもありデザインも
間に合わせ感がぬぐえず、ためつすがめつしていてもどうということもないコインだ。

最近ヤフオクでも金貨などが売買されているようだが、そうした資産運用の手段になりうる華々しいアンティークコレクションのコインとは対極にあるコインと言える。私もこれは買っていない。コイン商からの通販のおまけであった。

しかしこの卑小ともいえるコインのために結構な時間を中国について調べたりしたのだから、結構面白く使えたわけである。