南海泡沫の後で

貨幣収集を時代背景とともに記述してゆきます。

ドイツ・1コペイカ鉄貨(第一次世界大戦・東部戦線)

2013年06月09日 07時54分31秒 | 投資
外国でコインがブームか、メディアにとり上げられて人々が触発されたか、理由はともあれ、最近高価なコインが値が上がっている模様だ。アベノミクス相場も貢献したか。

かといって、特に関心はない。私が興味がある卑小なコイン類にその余波が来なければ関係ない話だ。
卑小な雑銭ににまで人々が殺到するとも思えない。
というわけで、今回も小銭である。




今回は、第一次世界大戦時、1916年にドイツ軍占領下の東欧で発行された1コペイカ鉄貨である。


戦争の落とし子ともいえるこのコインは、第一次世界大戦勃発後、ロシア軍と戦うドイツ軍が、長期に及び続く
東欧占領地域において、マルクとルーブルの交換の不便を回避するために東部占領軍司令部が作ったものである。他に2コペイカ鉄貨、3コペイカ鉄貨、紙幣も作られた。
その流通地域はバルト三国、クールラント、ベラルーシ、ポーランド、ロシアの一部であった。ドイツ軍占領地域である。
ウィキによるとその地域の当時の人口は290万人、面積は10万8千平方キロ。北海道が8万5千平方キロである。


このコイン、表面はドイツ語で GEBIET DES OBERBEFEHLSHABERS OST とあり、それを形式的に装飾するかのような4つの柏の葉、
周縁に数珠様の飾りと、下部には小さなAのミントマークがある。反対側の裏面は1コペイカ 1916とキリル文字で書かれ、それを覆うようにドイツ風の鉄十字がデザインされている。威圧的だ。

雰囲気は戦時に占領軍が作ったものなので実用本位だ。しかし軍票でもなく、通貨である。
サイズは21.5mm、2.9gである。材質は鉄。しかし私のは錆はそれほどでもない。何か混ぜ物がしてるのだろうか。
ebayでみると状態はまちまちである。茶色いシミがついているもの、錆が表面にでているもの。鉄100%ならどれも残っていない筈だから
多少の防錆のための亜鉛などの合金になっているのであろう。このコイン、ebayでは割と強気の価格(30ドルくらい?)である。出物はあるようだがコイン商が強気の値段で出すせいか、入札はあまりないようだが。

表面にあるGEBIET DES OBERBEFEHLSHABERS OST とは東部軍総司令官地域とでも訳されるだろう。
OBER~は総司令官を意味する。OSTはドイツ語で東、東部である。
逆に額面のほうはキリル文字で1コペイカ表記だ。当然のことながら、これを使う一般庶民の人々は大多数は農民であり、
ドイツ語を解さなかった。彼等はロシア語やその土地土地の言葉を話していたから、額面の理解をさせるためである。
しかしデザインはドイツのものであり、鉄十字も柏の葉も占領地域の人々には異質な外国の軍隊のモチーフである。
占領し、支配するためのコインである。地元民の感情などもとより無視されている。

当時のバルト三国、ベラルーシ、ウクライナなどは古い農村地帯が大多数だったと想像される。そこに住んでいた農民たちは
ドイツ軍などまったく歓迎もせずいかに戦争から身を守ることしか考えていなかったろうと思われる。
1918年には第一次世界大戦も終り、ドイツ軍は撤退していったが、しかしこの地域が平和になったのではなく、次には
ロシア革命後の内戦が吹き荒れ、住民たちの苦しみは続く。

このコイン、ebayなどでよく出される。わが国のヤフオクでも時折出される。私が買ったのはヤフオクだが、送られてきたのは
なぜか韓国からだった。正直なぜ韓国から送られてきたのか訝しげだが、韓国にもコイン収集好きな人はいるだろうし、
このマイナーすぎるコインをわざわざ贋作するかとも思う。型を作って打ち抜くコストは全く回収できないだろう。それに古色を観察するに本物のようだ。
まあ何十ドルも出しているわけでもないからいいのだが。

しかし以前も書いたようにいよいよ中国製の稚拙な偽物がヤフオクでは跋扈している。
高額なコインを入札される場合には要注意だ。
高額すぎて手が出せないコインの贋物をオモチャ代わりに数百円で買うのならいいが、実物と信じて
小遣いを出して買うのは残念な結果となる。高ければ高いほど贋作も精巧になる。
ブームはそういう得体の知れないリスクも産み出す。
だれも見向きもしないときならば、そういう贋作リスクも出にくかろう。

ブームは結局誰かが一番最後に誰も買わない物を買うのである。