日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(37)

2024年07月24日 03時13分01秒 | Weblog

 節子は、不意を突かれた咄嗟の出来事であり、丸山先生の力強い腕力に抱き抱えられて抵抗も虚しく強引に唇を奪われたあと、彼の膝の上に仰向けにされたことに、なんの抵抗も出来ず、唯、両手先で丸山先生の胸の辺りを押す様にして「先生 いけませんわ」「およしになって下さい」と言いながら、かろうじて首を左右に振り続けたが、彼の燃え盛った情熱は彼女の必死の抵抗を無視して、脂ぎった顔と肉の厚い唇に弄ばれた。  
 節子は、もがきながらチラッと見た彼の黒々と光る深い目がギラギラと光って見えて、一瞬、獣に襲われているかの様に不気味さを覚え猶更抵抗力を喪失した。

 節子は、何度も繰り返されるキスの度に、本能的に首を振って拒もうとしたが、だが、愛欲をたぎらせた彼の圧倒的な体力は、節子の微力な抵抗を苦もなく押しつぶしてしまった。
 彼は、何度か繰り返すキスをしながら、やがてセーターの上から彼女の乳房をもみほぐすように優しく時には強く愛撫し、彼女はその都度「あっ・・・あぁ・・」と悶えて身をよじりながら、か細い声をあげてもがいた。
 彼女は、硬く閉じた唇に彼の舌先を感じると、口ずけされるままに、心の中で「いけない・・いけない・・」と思いつつも、彼の手慣れた愛撫に理性が薄れてゆき、時間が経過するほどに、自然にそれを受け入れ失伸した様に目を閉じ両手から力が抜けていった。
 彼女は、年令に比して経験の浅い知識で、それまで病弱な健太郎との性の営みが普通と思っていたのとは違い、彼の力強く半ば一方的であるが強引な愛撫を受けたことで、女盛りである彼女の身体に潜んでいた性の本能が無意識のうちに覚醒し、意思とは反対に身体全体に反応して、これまでに願望は勿論経験したこともない、屈強な男らしい激しい愛に酔いしれて思考能力も薄れてしまった。

 ほどなくして、彼が離れると、節子は上半身を起こして彼の胸に顔を摺り寄せて、両手を彼の首に廻し、すすり泣く様な声で「先生 わたし、いけないことをしてしまったわ」と呟くと、彼は、彼女の顔を両手の掌で優しくなで涙を拭いながら
  「山上さん 本当にすみません」
  「僕は、先生が病院にこられたときから、非常に関心を持ち読けていましたが、自分の欲情を抑えきれずに、貴女の人格を犯してしまい、いま、良識を一番大切にすべき医師として、大変恥ずかしい思いで一杯です」
と、静かに言いつつも、その目は、欲望を遂げた征服の歓びに燃える目の色で、節子の目をいじらしそうに見つめていた。
 その言葉が言い終わらないうちに、再び、節子を抱きしめデープキスをしながら再度セーターの上から乳房を柔らかく愛撫し始めたが、彼女も、今度は抵抗することもなく彼のなすがままに任せていた。 
 その間にも、途切れ途切れに言葉をつないで
  
  「先生 奥様の御様子はいかがですの・・」
  「わたし、この様に力強く愛されたことは、生まれて初めてですわ」
  「わたしなら、きっと先生の愛情をしっかりと受け止められると思いますわ・・」
  「若し、許されるなら、このまま全てを捨てて、何処かに二人で逃げ出して、静かに過ごしたいと、先程、一瞬思ってしまいましたわ」
と、心と体がバラバラになった非現実的なことを、うわずった声で口ずさみ、このまま、時が止まってくれればと願いつつ、風の音も聞こえない静寂な幽玄の世界の中で、これまでに想像したこともなく、ましてや経験したこともない、その激しい愛に悶えて身を焦がしていた。 

 彼は、じっと節子の目を見つめながら
 「私も、貴女と一緒に暮らせたならなぁ。と、勝手なことを考えていましたが・・。だが、私達は人生に未経験な若者ではないのですから、それには順序を踏んでゆかなければなりませんね」
  「然し、その順序も現実的には受け入れられない至難のことでしょう」 
  「私は、社会的に許されないことを、自分勝手な欲望の赴くままに、貴女の平穏で幸せな家庭と人生を乱してしまい、後悔の思いで胸が一杯です」
と、彼女の大腿部に手を置いて、うなだれて自信なく小声で語り
  「それにしても、今日は、かねてからの願望が叶い良かったです」
  「貴女が何時の日か、このことが原因で責めを負うことになるとしたならば、私は逃げたり事実を否定したりせず、男らしく責任を一身に負います」
と、冷静に返答をするので、彼女も暫く間をおいて、心を落ち着かせて現実に戻り、ゆっくりとした口調で
 「その様なことがあれば、お互いに人生の破滅に繋がり、それに、わたくしにも責任の一端がありますので、家族に対し心苦しい日々が続くと思いますが、それに耐えて、ご迷惑かけないように努めますわ」
 「今後、人様が貴方のことをどの様に批判しようとも、先生が好きになりましたわ」
 「わたしも、一瞬とわいえ、女として最上の歓びを感じましたのですから・・」
と返事をして、またもや、軽く肩を両手で抱かれたとき、下の川べりの方から「誰か来て・・。助けてぇ~」と悲鳴が聞こえてきた。

 それは、江梨子からの悲鳴にも似た叫び声で
 「理恵ちゃんが、川の淵の雪が崩れて川に落ちゃったの・・!。 大至急助けに来て!」
との連絡で、丸山先生は今までの雰囲気が一変したかの様に、キリッとした顔で急に立ち上がりスキーを履くと、節子さんに「君はゆっくりと、木にぶつからない様に降りて来てください」と告げるや、大柄な体格に似合わず軽い身ごなしで、木々の間を巧みに回転技で滑り抜け、素早く目的の場所を目指して滑り降りていった。 
 節子は、興奮が冷め遣らない口に、純白の冷たい雪を一口飲み込むと、その歯に染み渡る冷たさで幾分心の平静さを取り戻し、真昼の夢から覚めたように現実の世界に戻って、何度か転倒しながらも、川の淵に滑り降りていった。

 丸山先生は川の淵にたどり着くと、すぐにスキーをはずして川に飛び降り、理恵子の股に首を入れて自分の肩に乗せて肩車すると、川淵の雪に身を寄せて、上にいる人に引きずりあげるように大声で叫んで指示をし、理恵子が上がるのを見届けると、自分は川下の岩を利用して小枝につかまり上がって来た。

 理恵子を、皆でバスの中に入れると、先生は「お~い! 車のヒーターを最高にして、毛布でバスの真ん中を仕切れ」と号令して、にわか作りの脱衣場を作ると、節子さんに対し「理恵子の濡れたスラックスを脱がせ、毛布で腰から下をぐるぐる巻いてください」と指示して「一寸、見たところ骨折や捻挫はない様です」「これからすぐに、御自宅に送りますので・・」と、早口で告げると、カーテンをはずさせ、運転手に道順を地図で指示していた。

 節子は、理恵子になにも言わずに、携帯で手短に健太郎に事情を説明して、お風呂を沸かしておく様に頼んでいた。
 彼女は、理恵子の青ざめた顔で震えながら「お母さん 心配かけてすみません」と言うのを聞きながら、心の中では突発的な出来事であるにせよ、自分の犯した不倫に対する神仏の咎めかしらと。か、自身の情けなさ、或いは女の業の深さ等を次ぎ次と思いめぐらせて考えながら、帰宅後のことが心配で心が落ち着かず、自分を信じてくれている純真な理恵子に答えることが出来なかった。
    


  

 

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