5日前の事である。運転免許証の更新通知ハガキが届いた。しかしいつものと様子が違う!
なんとそこには『更新手続きをする前に「高齢者講習」を受講する必要があります』。と朱書きされていた。
なになに? コーレイシャコウシューとは??
調べた結果、更新時に70歳以上になる場合はこの講習を受けなければならない決まりになっているのだ。 (高齢者講習とは、ここをクリック)
それで、この講習とは? 座学と実技をあわせて3時間の講習を最寄の自動車教習所などで受講するというもの。
この費用が5,800円もかかる。この受講証明を持参して免許更新手続き(さらに手数料が2,500円必要)をすることになったのだ。
しかも、70歳以上になると3年毎に更新手続きが必要となる。これはますます面倒だ。
そうか、高齢者の運転が危ないためにこのような仕組みが取り入れられたのか。と一部納得。
しかし、実技!とは!?
東京に転勤してからは不必要となった車を手放して「ペーパードライバー」暦30数年。
今や運転の自信はまったく無い! ならば、とうとう免許失効か?と驚いた。
その後ネットで調べていくと、この実技の出来不出来は問題なくて、受講したことさえ証明出来れば良いのだそうだ。
しかし、「それでは安全運転を防止することにはならないじゃないか。意味の無い講習ではないか」とまた思い悩む。
そして、なおも調べていくと免許を自主返納すれば身分証明として使用できる「運転経歴証明書」なるものが貰えると言う。
これは有効期間が無い、つまり一度取得すればその後更新することなく生涯使用出来ると言うのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/42/8a3c9a8c80301b4e64e702bfb2176c7c.jpg)
ペーパードライバーながらも更新し続けたのは免許証を身分証明として使いたかったからにほかならない。
今後、運転する必要性が無いのならば自主返納制度を利用した方がいいかなあ?と考え出した。
これなら、今すぐでも近くの警察署に出向き簡単に手続きする事が出来る。写真一枚と、1,000円の手数料で出来る。
それでも、半世紀以上の長い間、手元にあった免許証を返納するのには決断が必要であった。
最初のバイク免許は簡単に取れたが、普通車の時には自動車学校に通って苦労の末に取得したのだった。
当時の思い出が浮かんでくるとなかなか手放すのが惜しまれる。
必要な免許用の写真は既に用意できていたが、この迷いが5日続いた。
そして、今日8月15日、「お盆と終戦の日」にあやかって「免許証返納の日」にする事にした。
自分にとっての「決断」である。
午後から、近くの警察署に出かけた。徒歩3分くらいだが今までは用が無いので訪れたのは初めてのことだった。
お盆のせいか、用事の人は自分をいれてもたったの3人と少ない。
免許更新の窓口に向かうと、白髪の男性警察官が迎えてくれた。(警察OBかな?と思えた)
「あのう、この免許証を返納したいんですけど」と差し出した。
すると、しばらく私を見つめながら、やさしく小さな声で「・・まだ・・早いんじゃないでしょうか・・」とおっしゃる。
若く見える私を見かけで判断したようだ。
「ええっ!もうすぐ70歳になるんですよ。免許証をよく見て下さい!」。
すると、じっと免許証を見ながら「・・ああ・・、そうですね・・」と納得したようだ。
「少しお待ちください」と丁寧な言葉で説明しながら、順々に作業を始めた。
私の目の前で、免許証から必要事項を手続き書類に書き写している。それは、今時めずらしい万年筆で丁寧にゆっくりと。
「綺麗な字ですねえ」というと彼は照れながら「ああっ、そんなに言われますと手が震えます」と笑顔で。
そして「花おじさんは福岡におらっしゃったとですか?」とポツリ。思わず「ハイ」と答える。
彼、「私は熊本出身ですよ」
私、「どこですか?」
「河内(カワチ)です、知っとんなはるですか?」
「はい!知っとるですよ、ミカンの名産地でしょが。免許証の裏ば見て下さい、本籍地は熊本なんですよ!」
なんという奇遇。それからお互いに熊本の昔の話などで盛り上がった。
不思議な事に、彼の母親と私の母親が生きていれば今年で共に百歳になること。そして父親が若くして亡くなっており、私の父は52歳で、彼の父親は54歳で亡くなられたと言うのだ。
そして、「花おじさんは、わたしの先輩になりますねえ」
「ええっ!私のほうが先輩ですか? 何歳ですか?」
すると彼は「5歳先輩ですよ」
「そうですか。じゃあちょっと威張りますかねえ」と腕組して見せて笑った。
「いやあ、今日は気分が良かったですよー」と彼。
「私も楽しかったですよ。警察なんて恐い所と思っとったバッテン(笑)」
「東京で熊本ん人と遭うちゃあ、思いもよらんやったですよー、良かったらまた来てくれんですかー」とふるさと言葉で。
十日ほど後で電話連絡があり、そこで再度出向いて「運転経歴証明書」を受領することになる。
また、彼に会えるのが楽しみである。
決断して良かったと思った。