てなわけで。
2月は殆どなにもしなかったせいでこんなネタを作りながら書かずじまいでした。
時節をはずしてますが、これ以上遅くなって来年書くのもなんだから載せておきます。
例によってサカキ師匠との妄想話です。
もうずうっと書いてないので、知らない人は読まずにスルーしていいです。
しかも今回は大分ふざけた話ですのでご了承下さい。
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キュルルル~と音を立ててDAが回る。
これもはずれか。
まぁこんなこともある。それらしい情報を受けて探索に向かっても空振り、ということだってありうるのだから。
2月半ばの寒さの中での探索は厳しい。
弟子の戸田山もさすがに寒さが身に堪えているのか今日はなにやら元気がないように見える。
無理もない。今日も山には雪雲が重くのしかかり、吹く風は身を切る寒さなのだから。
「戸田山、少しテントの中で暖をとったらどうだ?」
地図をチェックしていた戸田山はゆっくりと顔をあげた。
「あ、はい。でもあと少しっすから・・・」
「別にテントに持ち込んでやればいいぞ。DAたちだってテントの中まで戻って来られるんだから。」
「はい。じゃあそうするっす。」
自分もテントの中に入り、ラジオで天気情報をチェックする。
山の上の雪雲がどうも気になる。あれがこちらまでかかって来るようならば、一度撤収して天候の回復を待ったほうがよいだろう。
「戸田山、明日昼まで探索したら一度山を降りるからな。」
「え?でも魔化魍が見つからなかったら??」
「明日の午後から雪がひどくなりそうだ。動けなくなる前に撤収したほうがいい。」
食料もそれほど大量に持ってきたわけではない状況でそれはとても危険だ。
大体ただでさえ自分達は食料の減りが早いのだから特に気をつけないと。
(勿論それは主に弟子のせいなんだが)
「そうっすか。雪じゃあ川で魚捕って来るわけにもいかないっすもんね・・・」
・・・そういう問題なんだろうか?
いつもながらとんちんかんなんだか真剣なんだか分からない返答をする奴だ。
夕飯は少なめにした。万が一に備えて食料を温存した方がいい、と。
食べて少しは元気が出たのか、ちょっと明るい調子で戸田山が話しかけてくる。
「師匠、今日は14日っすよね?」
「そうだな、2月も半分過ぎたわけだな。今時分は一番寒くてきつい時期だが、3月になれば少しは違ってくるさ。」
「・・・そうっすか・・・」
ん?なんだかまたしょげてるような??
「まあ魔化魍の奴もこんな寒いときにわざわざ出てこなくてもいいよなぁ?いっそ冬眠でもすればいいのにな?」
そう冗談めかしていうと、戸田山もちょっと元気だしたかのように答える。
「そうっすよね!俺もそう思うっす!!そうすれば今頃はのんびり出来るっすもんね!」
うん、やっぱり寒さが堪えてるんだなぁ。無理もない。
いくら鍛えてるとはいえこう厳しい探索が続くのはつらいものだ。
せめて楽しいことでも話して気持ちを紛らわさせよう。
「そうそう、こんな寒いときはあったかい家の中でこたつにみかんだよな。」
「あ~・・・そ、そうっすねぇ・・・みかん・・・」
ん?はずしたかな??
「それとも鍋なんかもいいよなぁ。あったかいこたつで鍋!」
「なんだか食べる話ばっかりっすよ師匠」
「え?」
いかん。戸田山を元気付けようとするとつい食べ物の話になってしまう。
でもいつもならそれに結構乗ってくるくせになぁ??
「ああ14日かぁ・・・(ため息)」
「なんだ、やけに日にちを気にしてるじゃないか?2月はなにかあるのか?」
自分の言葉にちょっと驚いたような戸田山。
「え、いやその・・・別にそういうわけでもないんっすけど・・・」
「そうか、そういえばお前の誕生日からもう10日も経っちゃったんだなぁ」
「そ、そうっすね。あのときはおごってもらっちゃってありがとうございました。」
「ははは。まぁいつもじゃなんだが誕生日くらいはな・・・」
そう、2月4日は戸田山の誕生日ということを当日まで忘れていて。
日菜佳さんが教えてくれなかったらそのまま何もしてやらずに過ごしてしまったに違いない。
危なかった・・・どうもそういう仕事以外の行事やイベントごとは自分の予定から抜け落ちてしまいがちだから気をつけないと。
「まあ俺なんかかえってこんなとこにいるほうがあきらめもつくからいいんっす」
そう戸田山が言った声は小さくて自分にはよく聞こえなかった。
「え?何だって?」
「あ、いや、ひとりごとっす・・・」
やっぱりどうも普段と違う。
いつもの無駄な元気さはどこへやら、ため息なんてついたりして。
夕飯、やはり少なすぎたか?昼からちょっと控えめだったから、もう腹が減ってつらいんだろうか??
「兎に角明日は早めに山を降りような?『八甲田山』にならないようにせいぜい気をつけないと。」
「はっこうださん?」
「・・・いいよ知らないのなら・・・」
だんだん会話を続けるのも疲れてきた。どうしたんだ今日の戸田山は??
こんなときはさっさと寝てしまうに限る。
「そろそろ休もう。寒いときは体力も消耗するから、よく寝ておいた方がいいぞ。」
「ふぁい・・・明日は15日っすよね・・・?」
なんだかまた落胆してるように聞こえるのは気のせいだろうか?
「ああ、15日だ。そして山を降りる日だ。帰ったらゆっくり出来るからそれを楽しみにしような?」
元気付けようとそう声をかけたが、耳にしたのはまた覇気のない「ふぁい・・・」という返事だった。
----
翌日、結局魔化魍を見つけることなく雪が舞い散り始めた山を後にし、雷神を走らせる戸田山と自分。
「あ、その先にコンビニがあるからちょっと停めてくれるか?」
「はい」
店に入るかと戸田山に尋ねたが’自分はいい’という返事だった。
うーん・・・やはり大分まいってるのかもしれない。
運転もここから代わってやろうなぁ。
コンビニで戸田山の好きそうなおにぎりや弁当、暖かい飲み物をかごに入れ、レジに向かった。
ふと、レジの前に’半額!!’と大きく書かれて並んでいるものに目が留まる。
へぇ、チョコレートかぁ。
何故か普段見ないようなおいしそうなチョコレートが、きれいに包装されて紙袋に入っている。
甘いものは血中糖度を直ぐ上げるからいいよなぁ。よしこれも買っていくか。
半額とはありがたいし。
「待たせたな。弁当こんなもんでいいか?」
「はい・・・」
「コーヒーやココアもあるが何がいい?好きなの選んでいいからな」
あいかわらず浮かない様子の戸田山。しょうがないなぁ。
子供に対するようでなんだが、ここは甘いものに活躍してもらおう。
「それからほら、これもな」
チョコレートの紙袋を差し出すと、急に戸田山の様子が変わった。
「えっ・・・?これ、俺にっすか??いいんっすか??」
「お前以外に誰がいるんだ?」
なんだか妙なリアクションにちょっと面倒になりながら答えると。
「うわー!!ありがとうございます!!俺めちゃくちゃうれしいっす!!」
途端に目を輝かせて大喜びする戸田山。
なんだ。こんなものでよかったのか。
チョコレートでこんなに喜ぶとは、まったく子供みたいだなぁ。
そういえば丁度甘いものを切らしていたものな。疲れてて甘いものが食べたかったのかな。
これからはもう少し飴やチョコも持って行くことにするか。
弁当を食べて運転を代わり雷神を走らせる。
助手席の戸田山は弁当2個とおにぎり3個を平らげ、チョコレートの紙袋を取り出すとまた随分とうれしそうに眺めている。
「食べないのか?」
「ええっだってなんかもったなくて・・・」
もったないってお前、戦時中のチョコレートが貴重品だった頃の子供じゃあるまいし。
つい「ギブミーチョコレート!」と進駐軍に叫ぶ戸田山を想像してしまい、ふきだしそうになるのをこらえて言った。
「チョコなんだから食べないほうがもったいなくないか?遠慮することないんだぞ??」
「そう言われるとそうっすね、それじゃあ・・・」
がさごそと包みを開けチョコをひとつ口にいれる戸田山。
「ああ~おいしいっす~!!!師匠ありがとうございます!!」
「そうか、よかったな。」
「あ、し、師匠も1つどうっすか?」
「いや、私はいいよ。お前にやったんだから全部食べていいぞ?」
「師匠~!!俺、おれ・・・ほんとうれしいっすよ~!!」
妙にうるうるした目で自分を見る戸田山。まったく感動体質な奴だなぁ。
チョコひとつでこんなに感激されるとはちょっと気恥ずかしいほどだが、昨日からどうにも気になってた元気のなさが解消されたんならまあいいか。全部食べてもっと元気出してくれよ。
ああ進駐軍もチョコを子供に渡したあとこんな気分だったのかなぁとまたばかなことを思い浮かべながら帰途を急いだ。
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たちばなの戸を開けると、香須実さんが迎えてくれた。
「あ、おかえりなさい。ちょっと待っててね戸田山くん。」
「え、俺っすか?」
一旦奥に引っ込むとなにやら持ってくる香須実さん。
「はい。一日遅れになっちゃったけど、これは女性一同からのチョコレート。」
「えええ~!あ、ありがとうございます!!!」
またまためちゃくちゃうれしそうに受け取る戸田山。
1日遅れ?
チョコレート?
自分、なにか忘れてるような気が・・・
「あ、サカキさんちょっとこっちへ・・・」
香須実さんに手招きされて奥に入ると、領収書を見せられた。
「今年の分はこれだけだったんで、人数割りして3千円ってことで。サカキさんいらっしゃらなかったから立て替えておいたんで、今払って頂いていいですか?」
あっ!
「ひょっとしてこれ、あの・・・」
「もう!バレンタインのチョコレート代ですよ!まさかまたすっかり忘れていたんじゃないでしょうね?」
ぎくぎくぎく!!
「え、あ、そんなことは・・・」
「あったみたいですね。でもまぁいつもそうなるから、って私達に頼んでるわけですからしょうがないですねぇサカキさんの場合?」
ちょっとため息混じりに言う香須実さん。
「はい、その通りです・・・毎年本当にありがとうございます」
ついついぺこぺこしながら3千円を払った。
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その頃、表では。
「あれ~戸田山くん、探索終わったの?」
「あ、みどりさん。はい、丁度今戻ったところなんっす。」
「寒くて大変だったね~。雪降らなかった?」
「降りそうなんで一旦戻ろう、って師匠が。」
「そうだったんだー。あ、そのチョコもらったんだね。」
「はい!女性一同ってことはみどりさんからもってことすよね?」
「うんまあね。」
「ありがとうございます!俺チョコレートもらえるなんて思ってなかったからうれしいっす!!」
「まったく鬼さん達はそんな人ばっかりなんだから~日菜佳ちゃんが『頑張ってる鬼さん達にせめてよろこんでもらいましょう!!』ってはじめたのよ、いいこよねー日菜佳ちゃん?」
「本当っすねぇ!!日菜佳さんにもお礼言わないと!!」
「あとはサカキさんにもね?」
「え?師匠も?」
「そりゃそうよ。まあね、サカキさんは鬼だから最初は入ってなかったんだけど、私達がチョコあげるようになったらどうも『サカキはチョコくれないのか?』とか言って困らせる人がいたみたいで。」
「ええっそんなことが?」
「うん。まぁ多分サバキさんとかエイキくんあたりじゃないかと思うけど。サカキさんはほら、そういうこと全くうといじゃない?かえって面白がってねだられちゃったんだと思うよ?」
「あーそうなんっすよ。なんでああうといのかと俺でも思うっす。・・・ああっい、今の師匠には絶対言っちゃだめっすよ!お願いします!!」
「言わないよ~。まあとにかくそんなこんなですっかり面倒になっちゃったサカキさんが、自分もあげる仲間に入れてくれって言ってきたわけ。だから、サカキさんにもね?」
「そうだったんっすか、わかったっす」
ちょっと考えた様子の戸田山は、みどりにおそるおそる尋ねた。
「あのう、ってことはチョコレートはみんなこれでOKってことにしてる、ってことっすよね?」
「うん。だってさ~面倒くさいじゃない?誰にはやったのに俺にはこない、とか言われちゃうとね~?だからもう鬼さん達にはこれだけで済ませてるのよ。」
「・・・師匠も?」
「サカキさんなんて、もともと誰かにチョコレートあげたりしてないでしょう?連名で渡すようになったらなおのこと誰にもなんにもしてないんじゃないかな?あげるとしたらよっぽど特別な人に、かもね~?」
「そそそそそ、そうなんっすかぁあ?」
「あれ~なんだか随分うれしそうね~?なにかあったの?」
「ええっ!いやそんなわけじゃないっすけど~ほんとうに!何でもないんっす!」
「なーんかあやしいな~?あっひょっとして!誰かに別にチョコもらったとか?」
「ああっそんなぁ!!ででもほらあの、ふ、深い意味なわけないっすよね?義理チョコっすよね??」
「やっぱりそうなんだー!!よかったねぇ~!誰にもらったの?って昨日一緒にいたのってサカキさんだけだよねぇ?まさかサカキさんがくれたの???」
「あっでも昨日じゃなかったんっすけど!!」
「えええっほんとにサカキさんにもらったの??うわーサカキさんでも誰かにチョコあげたりするんだー!!やっぱり可愛い弟子は特別なのかしらねぇ~??」
「ええっそ、そんな、そんなことは・・・そ、そうなんすっかねぇ??でも昨日は何にも言ってもくれなくて、今日急にくれたんっすけど・・・」
「だってそりゃあ今日まで山で探索だったんでしょう~?チョコ準備するの忘れたんでばつ悪くて黙ってたんじゃないの?サカキさんそういうとこ抜けてるというか、よくなんだか忘れてるし~ほら誕生日のときだって・・・」
「え?誕生日って誰の?」
「(しまったこれはナイショだった)・・・あ、うん、あのね・・・よく自分の誕生日忘れたりしてるなーって話!(これも本当だからいいや~)」
「あはは、師匠らしいっすー。そんなら俺、次の師匠の誕生日はなにか企画しちゃおうかな~?」
「あ、それいいね~。でもなんで祝われてるかわからなかったりして、サカキさん」
「あはははは、そこまでっすかぁ??いくら師匠でも言ったらわかると思いたいっすよー」
「そうよねぇ、ふふふふふ。でもさぁそのサカキさんがチョコあげるのを忘れなかったなんてびっくりだよ~~。例え1日遅れだってすごいことかも~?」
「や、やだなぁみどりさん、そんなことないっすよ、たまたま店でチョコみて思い出したって程度かもしれないじゃないっすか?」
---------------
奥に行ったついでに報告も済ませて戻ってみると、戸田山とみどりさんが楽しそうにしゃべっていた。
「でもいいよねーチョコレートもらえるなんて。私ももらう側になりたいくらいよ~」
「みどりさんお菓子好きっすもんね。チョコも好きなんっすか?」
「だーいすき♪こう、仕事してるじゃない?ああなんかちょっと休みたいな~って思っても、チョコ1個食べたら平気になっちゃうもの~。」
「すごいっすねぇ!それであんな可愛いDAがいっぱい出来るわけっすね!!」
「そうなのよ~、あーんもう、いっそチョコでDA作っちゃおうかしら~」
「あ、師匠!!!」
自分に気がついて急に相好を崩して笑いかけてくる戸田山。
おお、昨日とはうって変わった表情じゃないか。
今のみどりさんの話どおり、チョコ1個でそんなに元気になるものなんだなぁ。すごいもんだなぁ。
「サカキさんお疲れ様~」
「みどりさんこんにちは。あ、そうだ。DAがちょっと調子悪いのがあったんでみてもらってもいいですか?」
「えっそうなの?寒さにやられちゃったかな??」
「かもしれません。なにしろ山は風も強くて結構過酷な稼動条件だったから。」
「そうなんだ、かわいそう・・・サカキさんと戸田山くんも大変だったね?」
「まあいつものことですから、大丈夫ですよ。」
そうだ、戸田山。元気そうにはなったけれど昨日あれだけ変だったんだから休ませてあげないとな。
「戸田山、報告も済んだからもう帰っていいぞ?今日はゆっくり休めよ?」
「あ、はい。じゃあお先に・・・」
帰りかけた戸田山だったが、急にまたこっちを向くと
「あの、師匠?」
「なんだ?」
妙にもじもじとしてどうしたんだろうと思っていると。
「あの、あの・・・今日は本当にありがとうございました!俺、こんなうれしいことなかったっす!!」
それだけ言って、そのまま逃げるように戸を開けて出て行った。
「・・・なんだあれ??変な奴だなぁいつもながら・・・」
「そ~お?すっごく可愛いじゃない~?サカキさんだってそう思ってるんでしょう~本当は~??」
みどりさんの言葉があまりに意外すぎてふきそうになる自分。
「な、なんですかそれ???一体なにを根拠にそんなことを???」
「とぼけちゃってぇ~。聞いちゃったんだから~」
いやににこにこするみどりさん。わけが分からない・・・
「聞いたって何をですか?」
「戸田山くん、うれしくってしょうがないみたいだったよ~?もう赤くなったりもじもじしたりで可愛すぎて笑うの我慢するの大変だったんだから私。でもサカキさんのこと見直しちゃったな~♪よく忘れずにあげたよね、チョコレート。」
「チョコレート?」
「うん。あげたんでしょ戸田山くんに?バレンタインのチ・ョ・コ!」
「はぁ???」
自分があまりに驚いた声を出したので、かえって不思議そうにするみどりさん。
「え、だってきれいに包装してあるのをもらったって戸田山くんものすごぉ~~~く照れながら言ってたよ?」
「包装?あああっ!!!」
あの半額チョコのことか!
「そりゃぁサカキさんにしてみればただの義理チョコだろうけど、そんなんでもよろこぶものなのよね~男の人達って。可愛いよね~?戸田山くんなんて素直だから尚更、なんじゃない?まあ遅くはなっちゃったにしたって、よく思い出せたな、って感心しちゃった~。」
すみません。
自分、今のいままでそんな行事があること忘れてました。
チョコはただのおやつのつもりでした。安かったもんで。
「ああやっぱりこの間誕生日きれいに忘れてたの反省して気をつけてあげてたんだね~・・・って思ったんだけど・・・違うの?」
はい。確かに、あの件は悪かったから気をつけようとは思ったんです。
でもこんなにすぐになにかしなくちゃならない行事があるなんて頭になかったんです。
ずっと黙っている自分を怪訝そうに見てみどりさんは言った。
「ねえ?まさかたまたま偶然チョコ買ってあげただけ、とか言うんじゃないよね?」
ぐさっ!!
「まさかね~板チョコとかならともかく、ちゃんと包装してあるソレらしいチョコをそんな間違いする人いないよね、この時期に。ギャグマンガじゃあるまいし~??」
ぐさぐさぐさ。
そのギャグマンガをやってる人間(いや鬼)が目の前にいるとは、とてもじゃないけれど言い出せなくなってしまい沈黙する自分。
「でもそういうことが他の人に知られちゃうとまた『俺にはないのか?』が始まって面倒だから、ちゃんとナイショにしておくからね~?戸田山くんにも口止めしといたから安心していいよ~?」
「戸田山にも?」
「うん。だってサカキさんが誰かに催促されずにチョコあげたなんて私が知ってる限りで初めてだもの。ああこれはやっぱり戸田山くんは可愛い弟子だから特別なんだな~って思って。でもそういうの他に知られるのも照れくさいものね?そうかだから隠したくてとぼけようとしたんでしょ~?も~サカキさん、今日はすっごく考えたじゃなーい、えらいなぁあ~!!」
-----------
DAをメンテナンスしてもらいながらよく状況を思い起こした。
つまりは・・・自分は’可愛い弟子にだけ特別に今まで誰にもやらなかったチョコをあげた’って思われてるわけ???みどりさんと戸田山に???
それでやっと納得がいく戸田山の異常にうれしそうな態度。
・・・やってしまった。そりゃあ勿論自分だって戸田山を喜ばせて元気付けたくてしたことではあるけれど・・・まさかそんな日だったとは・・・・道理で効果がありすぎなわけだ・・・
ああああこれでまたきっと感激しまくった戸田山がまたもや懐きまくってくるんじゃなかろうか。
いっそ正直に戸田山に言おうか。
いやそんなことしたらあのよろこびようの裏返しでものすっごくがっかりすること間違いなしだ。
・・・うーんそれはいやだ・・・さすがにそんな姿はみたくない。
戸田山は無駄に元気で一生懸命なのがいいんだから!
黙っていよう。
また大失敗するところだったのが偶然救われた格好になったんだ。
戸田山が懐いてくるのはいつものことなんだから、我慢出来る。
昨日みたいに元気なくノリ悪くいられるほうが耐えられない!
ああそれにしても。
高々チョコ1個がそんなに気になってたものなのか??
昨日元気なかったのは、「バレンタインなのにチョコひとつもらえなかった」から???
考えてみれば戸田山、意外にそういうの気にするからなぁ。
これは本気でちゃんと気をつけてやらないと、いつか自分戸田山を傷つけてしまうかもしれない・・・
頑張れ自分。行事やイベント忘れるのはいつものことでしょうがないと思ってたが、ちょっと手帳に書いておけばいいことじゃないか。
仕事のことと一緒に書くようにしよう、これからは!!!
そう心に決めた2月15日であった。
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サカキ師匠、こんな奴だと思わなかった、という声が聞こえてきそうだ・・・
でもでも、彼女は実はこんな奴のつもりだったんです。
仕事熱心なんだけどそれ以外の俗事にはうといというかアバウトというかいい加減というか・・・困ったもんです。
ついでに子供の頃はどうやらおじいちゃんから戦争の頃の話をやたら聞かされて育ったんで、妙なこと知ってるみたいです。
・・・すみません、なんか久々なのにこんなんで・・・
2月は殆どなにもしなかったせいでこんなネタを作りながら書かずじまいでした。
時節をはずしてますが、これ以上遅くなって来年書くのもなんだから載せておきます。
例によってサカキ師匠との妄想話です。
もうずうっと書いてないので、知らない人は読まずにスルーしていいです。
しかも今回は大分ふざけた話ですのでご了承下さい。
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キュルルル~と音を立ててDAが回る。
これもはずれか。
まぁこんなこともある。それらしい情報を受けて探索に向かっても空振り、ということだってありうるのだから。
2月半ばの寒さの中での探索は厳しい。
弟子の戸田山もさすがに寒さが身に堪えているのか今日はなにやら元気がないように見える。
無理もない。今日も山には雪雲が重くのしかかり、吹く風は身を切る寒さなのだから。
「戸田山、少しテントの中で暖をとったらどうだ?」
地図をチェックしていた戸田山はゆっくりと顔をあげた。
「あ、はい。でもあと少しっすから・・・」
「別にテントに持ち込んでやればいいぞ。DAたちだってテントの中まで戻って来られるんだから。」
「はい。じゃあそうするっす。」
自分もテントの中に入り、ラジオで天気情報をチェックする。
山の上の雪雲がどうも気になる。あれがこちらまでかかって来るようならば、一度撤収して天候の回復を待ったほうがよいだろう。
「戸田山、明日昼まで探索したら一度山を降りるからな。」
「え?でも魔化魍が見つからなかったら??」
「明日の午後から雪がひどくなりそうだ。動けなくなる前に撤収したほうがいい。」
食料もそれほど大量に持ってきたわけではない状況でそれはとても危険だ。
大体ただでさえ自分達は食料の減りが早いのだから特に気をつけないと。
(勿論それは主に弟子のせいなんだが)
「そうっすか。雪じゃあ川で魚捕って来るわけにもいかないっすもんね・・・」
・・・そういう問題なんだろうか?
いつもながらとんちんかんなんだか真剣なんだか分からない返答をする奴だ。
夕飯は少なめにした。万が一に備えて食料を温存した方がいい、と。
食べて少しは元気が出たのか、ちょっと明るい調子で戸田山が話しかけてくる。
「師匠、今日は14日っすよね?」
「そうだな、2月も半分過ぎたわけだな。今時分は一番寒くてきつい時期だが、3月になれば少しは違ってくるさ。」
「・・・そうっすか・・・」
ん?なんだかまたしょげてるような??
「まあ魔化魍の奴もこんな寒いときにわざわざ出てこなくてもいいよなぁ?いっそ冬眠でもすればいいのにな?」
そう冗談めかしていうと、戸田山もちょっと元気だしたかのように答える。
「そうっすよね!俺もそう思うっす!!そうすれば今頃はのんびり出来るっすもんね!」
うん、やっぱり寒さが堪えてるんだなぁ。無理もない。
いくら鍛えてるとはいえこう厳しい探索が続くのはつらいものだ。
せめて楽しいことでも話して気持ちを紛らわさせよう。
「そうそう、こんな寒いときはあったかい家の中でこたつにみかんだよな。」
「あ~・・・そ、そうっすねぇ・・・みかん・・・」
ん?はずしたかな??
「それとも鍋なんかもいいよなぁ。あったかいこたつで鍋!」
「なんだか食べる話ばっかりっすよ師匠」
「え?」
いかん。戸田山を元気付けようとするとつい食べ物の話になってしまう。
でもいつもならそれに結構乗ってくるくせになぁ??
「ああ14日かぁ・・・(ため息)」
「なんだ、やけに日にちを気にしてるじゃないか?2月はなにかあるのか?」
自分の言葉にちょっと驚いたような戸田山。
「え、いやその・・・別にそういうわけでもないんっすけど・・・」
「そうか、そういえばお前の誕生日からもう10日も経っちゃったんだなぁ」
「そ、そうっすね。あのときはおごってもらっちゃってありがとうございました。」
「ははは。まぁいつもじゃなんだが誕生日くらいはな・・・」
そう、2月4日は戸田山の誕生日ということを当日まで忘れていて。
日菜佳さんが教えてくれなかったらそのまま何もしてやらずに過ごしてしまったに違いない。
危なかった・・・どうもそういう仕事以外の行事やイベントごとは自分の予定から抜け落ちてしまいがちだから気をつけないと。
「まあ俺なんかかえってこんなとこにいるほうがあきらめもつくからいいんっす」
そう戸田山が言った声は小さくて自分にはよく聞こえなかった。
「え?何だって?」
「あ、いや、ひとりごとっす・・・」
やっぱりどうも普段と違う。
いつもの無駄な元気さはどこへやら、ため息なんてついたりして。
夕飯、やはり少なすぎたか?昼からちょっと控えめだったから、もう腹が減ってつらいんだろうか??
「兎に角明日は早めに山を降りような?『八甲田山』にならないようにせいぜい気をつけないと。」
「はっこうださん?」
「・・・いいよ知らないのなら・・・」
だんだん会話を続けるのも疲れてきた。どうしたんだ今日の戸田山は??
こんなときはさっさと寝てしまうに限る。
「そろそろ休もう。寒いときは体力も消耗するから、よく寝ておいた方がいいぞ。」
「ふぁい・・・明日は15日っすよね・・・?」
なんだかまた落胆してるように聞こえるのは気のせいだろうか?
「ああ、15日だ。そして山を降りる日だ。帰ったらゆっくり出来るからそれを楽しみにしような?」
元気付けようとそう声をかけたが、耳にしたのはまた覇気のない「ふぁい・・・」という返事だった。
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翌日、結局魔化魍を見つけることなく雪が舞い散り始めた山を後にし、雷神を走らせる戸田山と自分。
「あ、その先にコンビニがあるからちょっと停めてくれるか?」
「はい」
店に入るかと戸田山に尋ねたが’自分はいい’という返事だった。
うーん・・・やはり大分まいってるのかもしれない。
運転もここから代わってやろうなぁ。
コンビニで戸田山の好きそうなおにぎりや弁当、暖かい飲み物をかごに入れ、レジに向かった。
ふと、レジの前に’半額!!’と大きく書かれて並んでいるものに目が留まる。
へぇ、チョコレートかぁ。
何故か普段見ないようなおいしそうなチョコレートが、きれいに包装されて紙袋に入っている。
甘いものは血中糖度を直ぐ上げるからいいよなぁ。よしこれも買っていくか。
半額とはありがたいし。
「待たせたな。弁当こんなもんでいいか?」
「はい・・・」
「コーヒーやココアもあるが何がいい?好きなの選んでいいからな」
あいかわらず浮かない様子の戸田山。しょうがないなぁ。
子供に対するようでなんだが、ここは甘いものに活躍してもらおう。
「それからほら、これもな」
チョコレートの紙袋を差し出すと、急に戸田山の様子が変わった。
「えっ・・・?これ、俺にっすか??いいんっすか??」
「お前以外に誰がいるんだ?」
なんだか妙なリアクションにちょっと面倒になりながら答えると。
「うわー!!ありがとうございます!!俺めちゃくちゃうれしいっす!!」
途端に目を輝かせて大喜びする戸田山。
なんだ。こんなものでよかったのか。
チョコレートでこんなに喜ぶとは、まったく子供みたいだなぁ。
そういえば丁度甘いものを切らしていたものな。疲れてて甘いものが食べたかったのかな。
これからはもう少し飴やチョコも持って行くことにするか。
弁当を食べて運転を代わり雷神を走らせる。
助手席の戸田山は弁当2個とおにぎり3個を平らげ、チョコレートの紙袋を取り出すとまた随分とうれしそうに眺めている。
「食べないのか?」
「ええっだってなんかもったなくて・・・」
もったないってお前、戦時中のチョコレートが貴重品だった頃の子供じゃあるまいし。
つい「ギブミーチョコレート!」と進駐軍に叫ぶ戸田山を想像してしまい、ふきだしそうになるのをこらえて言った。
「チョコなんだから食べないほうがもったいなくないか?遠慮することないんだぞ??」
「そう言われるとそうっすね、それじゃあ・・・」
がさごそと包みを開けチョコをひとつ口にいれる戸田山。
「ああ~おいしいっす~!!!師匠ありがとうございます!!」
「そうか、よかったな。」
「あ、し、師匠も1つどうっすか?」
「いや、私はいいよ。お前にやったんだから全部食べていいぞ?」
「師匠~!!俺、おれ・・・ほんとうれしいっすよ~!!」
妙にうるうるした目で自分を見る戸田山。まったく感動体質な奴だなぁ。
チョコひとつでこんなに感激されるとはちょっと気恥ずかしいほどだが、昨日からどうにも気になってた元気のなさが解消されたんならまあいいか。全部食べてもっと元気出してくれよ。
ああ進駐軍もチョコを子供に渡したあとこんな気分だったのかなぁとまたばかなことを思い浮かべながら帰途を急いだ。
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たちばなの戸を開けると、香須実さんが迎えてくれた。
「あ、おかえりなさい。ちょっと待っててね戸田山くん。」
「え、俺っすか?」
一旦奥に引っ込むとなにやら持ってくる香須実さん。
「はい。一日遅れになっちゃったけど、これは女性一同からのチョコレート。」
「えええ~!あ、ありがとうございます!!!」
またまためちゃくちゃうれしそうに受け取る戸田山。
1日遅れ?
チョコレート?
自分、なにか忘れてるような気が・・・
「あ、サカキさんちょっとこっちへ・・・」
香須実さんに手招きされて奥に入ると、領収書を見せられた。
「今年の分はこれだけだったんで、人数割りして3千円ってことで。サカキさんいらっしゃらなかったから立て替えておいたんで、今払って頂いていいですか?」
あっ!
「ひょっとしてこれ、あの・・・」
「もう!バレンタインのチョコレート代ですよ!まさかまたすっかり忘れていたんじゃないでしょうね?」
ぎくぎくぎく!!
「え、あ、そんなことは・・・」
「あったみたいですね。でもまぁいつもそうなるから、って私達に頼んでるわけですからしょうがないですねぇサカキさんの場合?」
ちょっとため息混じりに言う香須実さん。
「はい、その通りです・・・毎年本当にありがとうございます」
ついついぺこぺこしながら3千円を払った。
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その頃、表では。
「あれ~戸田山くん、探索終わったの?」
「あ、みどりさん。はい、丁度今戻ったところなんっす。」
「寒くて大変だったね~。雪降らなかった?」
「降りそうなんで一旦戻ろう、って師匠が。」
「そうだったんだー。あ、そのチョコもらったんだね。」
「はい!女性一同ってことはみどりさんからもってことすよね?」
「うんまあね。」
「ありがとうございます!俺チョコレートもらえるなんて思ってなかったからうれしいっす!!」
「まったく鬼さん達はそんな人ばっかりなんだから~日菜佳ちゃんが『頑張ってる鬼さん達にせめてよろこんでもらいましょう!!』ってはじめたのよ、いいこよねー日菜佳ちゃん?」
「本当っすねぇ!!日菜佳さんにもお礼言わないと!!」
「あとはサカキさんにもね?」
「え?師匠も?」
「そりゃそうよ。まあね、サカキさんは鬼だから最初は入ってなかったんだけど、私達がチョコあげるようになったらどうも『サカキはチョコくれないのか?』とか言って困らせる人がいたみたいで。」
「ええっそんなことが?」
「うん。まぁ多分サバキさんとかエイキくんあたりじゃないかと思うけど。サカキさんはほら、そういうこと全くうといじゃない?かえって面白がってねだられちゃったんだと思うよ?」
「あーそうなんっすよ。なんでああうといのかと俺でも思うっす。・・・ああっい、今の師匠には絶対言っちゃだめっすよ!お願いします!!」
「言わないよ~。まあとにかくそんなこんなですっかり面倒になっちゃったサカキさんが、自分もあげる仲間に入れてくれって言ってきたわけ。だから、サカキさんにもね?」
「そうだったんっすか、わかったっす」
ちょっと考えた様子の戸田山は、みどりにおそるおそる尋ねた。
「あのう、ってことはチョコレートはみんなこれでOKってことにしてる、ってことっすよね?」
「うん。だってさ~面倒くさいじゃない?誰にはやったのに俺にはこない、とか言われちゃうとね~?だからもう鬼さん達にはこれだけで済ませてるのよ。」
「・・・師匠も?」
「サカキさんなんて、もともと誰かにチョコレートあげたりしてないでしょう?連名で渡すようになったらなおのこと誰にもなんにもしてないんじゃないかな?あげるとしたらよっぽど特別な人に、かもね~?」
「そそそそそ、そうなんっすかぁあ?」
「あれ~なんだか随分うれしそうね~?なにかあったの?」
「ええっ!いやそんなわけじゃないっすけど~ほんとうに!何でもないんっす!」
「なーんかあやしいな~?あっひょっとして!誰かに別にチョコもらったとか?」
「ああっそんなぁ!!ででもほらあの、ふ、深い意味なわけないっすよね?義理チョコっすよね??」
「やっぱりそうなんだー!!よかったねぇ~!誰にもらったの?って昨日一緒にいたのってサカキさんだけだよねぇ?まさかサカキさんがくれたの???」
「あっでも昨日じゃなかったんっすけど!!」
「えええっほんとにサカキさんにもらったの??うわーサカキさんでも誰かにチョコあげたりするんだー!!やっぱり可愛い弟子は特別なのかしらねぇ~??」
「ええっそ、そんな、そんなことは・・・そ、そうなんすっかねぇ??でも昨日は何にも言ってもくれなくて、今日急にくれたんっすけど・・・」
「だってそりゃあ今日まで山で探索だったんでしょう~?チョコ準備するの忘れたんでばつ悪くて黙ってたんじゃないの?サカキさんそういうとこ抜けてるというか、よくなんだか忘れてるし~ほら誕生日のときだって・・・」
「え?誕生日って誰の?」
「(しまったこれはナイショだった)・・・あ、うん、あのね・・・よく自分の誕生日忘れたりしてるなーって話!(これも本当だからいいや~)」
「あはは、師匠らしいっすー。そんなら俺、次の師匠の誕生日はなにか企画しちゃおうかな~?」
「あ、それいいね~。でもなんで祝われてるかわからなかったりして、サカキさん」
「あはははは、そこまでっすかぁ??いくら師匠でも言ったらわかると思いたいっすよー」
「そうよねぇ、ふふふふふ。でもさぁそのサカキさんがチョコあげるのを忘れなかったなんてびっくりだよ~~。例え1日遅れだってすごいことかも~?」
「や、やだなぁみどりさん、そんなことないっすよ、たまたま店でチョコみて思い出したって程度かもしれないじゃないっすか?」
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奥に行ったついでに報告も済ませて戻ってみると、戸田山とみどりさんが楽しそうにしゃべっていた。
「でもいいよねーチョコレートもらえるなんて。私ももらう側になりたいくらいよ~」
「みどりさんお菓子好きっすもんね。チョコも好きなんっすか?」
「だーいすき♪こう、仕事してるじゃない?ああなんかちょっと休みたいな~って思っても、チョコ1個食べたら平気になっちゃうもの~。」
「すごいっすねぇ!それであんな可愛いDAがいっぱい出来るわけっすね!!」
「そうなのよ~、あーんもう、いっそチョコでDA作っちゃおうかしら~」
「あ、師匠!!!」
自分に気がついて急に相好を崩して笑いかけてくる戸田山。
おお、昨日とはうって変わった表情じゃないか。
今のみどりさんの話どおり、チョコ1個でそんなに元気になるものなんだなぁ。すごいもんだなぁ。
「サカキさんお疲れ様~」
「みどりさんこんにちは。あ、そうだ。DAがちょっと調子悪いのがあったんでみてもらってもいいですか?」
「えっそうなの?寒さにやられちゃったかな??」
「かもしれません。なにしろ山は風も強くて結構過酷な稼動条件だったから。」
「そうなんだ、かわいそう・・・サカキさんと戸田山くんも大変だったね?」
「まあいつものことですから、大丈夫ですよ。」
そうだ、戸田山。元気そうにはなったけれど昨日あれだけ変だったんだから休ませてあげないとな。
「戸田山、報告も済んだからもう帰っていいぞ?今日はゆっくり休めよ?」
「あ、はい。じゃあお先に・・・」
帰りかけた戸田山だったが、急にまたこっちを向くと
「あの、師匠?」
「なんだ?」
妙にもじもじとしてどうしたんだろうと思っていると。
「あの、あの・・・今日は本当にありがとうございました!俺、こんなうれしいことなかったっす!!」
それだけ言って、そのまま逃げるように戸を開けて出て行った。
「・・・なんだあれ??変な奴だなぁいつもながら・・・」
「そ~お?すっごく可愛いじゃない~?サカキさんだってそう思ってるんでしょう~本当は~??」
みどりさんの言葉があまりに意外すぎてふきそうになる自分。
「な、なんですかそれ???一体なにを根拠にそんなことを???」
「とぼけちゃってぇ~。聞いちゃったんだから~」
いやににこにこするみどりさん。わけが分からない・・・
「聞いたって何をですか?」
「戸田山くん、うれしくってしょうがないみたいだったよ~?もう赤くなったりもじもじしたりで可愛すぎて笑うの我慢するの大変だったんだから私。でもサカキさんのこと見直しちゃったな~♪よく忘れずにあげたよね、チョコレート。」
「チョコレート?」
「うん。あげたんでしょ戸田山くんに?バレンタインのチ・ョ・コ!」
「はぁ???」
自分があまりに驚いた声を出したので、かえって不思議そうにするみどりさん。
「え、だってきれいに包装してあるのをもらったって戸田山くんものすごぉ~~~く照れながら言ってたよ?」
「包装?あああっ!!!」
あの半額チョコのことか!
「そりゃぁサカキさんにしてみればただの義理チョコだろうけど、そんなんでもよろこぶものなのよね~男の人達って。可愛いよね~?戸田山くんなんて素直だから尚更、なんじゃない?まあ遅くはなっちゃったにしたって、よく思い出せたな、って感心しちゃった~。」
すみません。
自分、今のいままでそんな行事があること忘れてました。
チョコはただのおやつのつもりでした。安かったもんで。
「ああやっぱりこの間誕生日きれいに忘れてたの反省して気をつけてあげてたんだね~・・・って思ったんだけど・・・違うの?」
はい。確かに、あの件は悪かったから気をつけようとは思ったんです。
でもこんなにすぐになにかしなくちゃならない行事があるなんて頭になかったんです。
ずっと黙っている自分を怪訝そうに見てみどりさんは言った。
「ねえ?まさかたまたま偶然チョコ買ってあげただけ、とか言うんじゃないよね?」
ぐさっ!!
「まさかね~板チョコとかならともかく、ちゃんと包装してあるソレらしいチョコをそんな間違いする人いないよね、この時期に。ギャグマンガじゃあるまいし~??」
ぐさぐさぐさ。
そのギャグマンガをやってる人間(いや鬼)が目の前にいるとは、とてもじゃないけれど言い出せなくなってしまい沈黙する自分。
「でもそういうことが他の人に知られちゃうとまた『俺にはないのか?』が始まって面倒だから、ちゃんとナイショにしておくからね~?戸田山くんにも口止めしといたから安心していいよ~?」
「戸田山にも?」
「うん。だってサカキさんが誰かに催促されずにチョコあげたなんて私が知ってる限りで初めてだもの。ああこれはやっぱり戸田山くんは可愛い弟子だから特別なんだな~って思って。でもそういうの他に知られるのも照れくさいものね?そうかだから隠したくてとぼけようとしたんでしょ~?も~サカキさん、今日はすっごく考えたじゃなーい、えらいなぁあ~!!」
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DAをメンテナンスしてもらいながらよく状況を思い起こした。
つまりは・・・自分は’可愛い弟子にだけ特別に今まで誰にもやらなかったチョコをあげた’って思われてるわけ???みどりさんと戸田山に???
それでやっと納得がいく戸田山の異常にうれしそうな態度。
・・・やってしまった。そりゃあ勿論自分だって戸田山を喜ばせて元気付けたくてしたことではあるけれど・・・まさかそんな日だったとは・・・・道理で効果がありすぎなわけだ・・・
ああああこれでまたきっと感激しまくった戸田山がまたもや懐きまくってくるんじゃなかろうか。
いっそ正直に戸田山に言おうか。
いやそんなことしたらあのよろこびようの裏返しでものすっごくがっかりすること間違いなしだ。
・・・うーんそれはいやだ・・・さすがにそんな姿はみたくない。
戸田山は無駄に元気で一生懸命なのがいいんだから!
黙っていよう。
また大失敗するところだったのが偶然救われた格好になったんだ。
戸田山が懐いてくるのはいつものことなんだから、我慢出来る。
昨日みたいに元気なくノリ悪くいられるほうが耐えられない!
ああそれにしても。
高々チョコ1個がそんなに気になってたものなのか??
昨日元気なかったのは、「バレンタインなのにチョコひとつもらえなかった」から???
考えてみれば戸田山、意外にそういうの気にするからなぁ。
これは本気でちゃんと気をつけてやらないと、いつか自分戸田山を傷つけてしまうかもしれない・・・
頑張れ自分。行事やイベント忘れるのはいつものことでしょうがないと思ってたが、ちょっと手帳に書いておけばいいことじゃないか。
仕事のことと一緒に書くようにしよう、これからは!!!
そう心に決めた2月15日であった。
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サカキ師匠、こんな奴だと思わなかった、という声が聞こえてきそうだ・・・
でもでも、彼女は実はこんな奴のつもりだったんです。
仕事熱心なんだけどそれ以外の俗事にはうといというかアバウトというかいい加減というか・・・困ったもんです。
ついでに子供の頃はどうやらおじいちゃんから戦争の頃の話をやたら聞かされて育ったんで、妙なこと知ってるみたいです。
・・・すみません、なんか久々なのにこんなんで・・・