カズオ・イシグロの「忘れられた巨人(原題は「埋葬された巨人」)」
が Kindle 版になっているのを見つけてしまった。
うーむ・・・
文庫になるまで待とうかと思ったが、
待てずに買ってしまう。
逃避だ。
Wired のサイトに載っていた紹介文がよくできている。
> 何か大事なことが過去に起きたはずなのに、
> 記憶にもやがかかっているようで思い出せない。
> そのもやの向こうにある「記憶」を探して老夫婦は旅に出る。
> 旅するなかで夫婦が出会うのは、山の上に住むというドラゴンの秘密だった。
> その秘密の向こうに見え隠れする、無残な出来事の記憶。
> 果たして、その記憶を取り戻すことは幸せを意味するのか?
> もしくは、それは新たな悲劇を意味するのか?
> 「忘れられた巨人」とはいったい何なのか?
> 当代きってストーリーテラー、カズオ・イシグロが、
> アーサー王伝説を下敷きにしながら贈る、異色のファンタジー・ノヴェル。
読み始めて驚くのは、
これまでの作品で共通していたモノローグ形式ではないこと。
全知の語り手が語る、普通の物語形式になっている。
その理由のひとつは、Wired のインタビューの
>「『忘れられた巨人』においてわたしが書きたかったテーマは、
> ある共同体、もしくは国家は、いかにして
> 『何を忘れ、何を記憶するのか』を決定するのか、というものでした。
> わたしは、これまで個人の記憶というテーマを扱ってきましたが、
> 本作では『共同体の記憶』を扱おうと思ったのです。
> そしてそこから前作と同じように、空間と場所の設定を考えたのです。
> その結果、4〜5世紀のイギリスを舞台にすることにしたのです」
ということなのだろう。
「語り手の、ねつ造された、信頼できない記憶」というテーマは、
「精霊の守り人」でも出てくる「ねつ造された建国神話」に
直接的につながっている。
それでは、個人的な記憶が出てこないかというと、
イシグロならではの愛の物語も含まれていて、
「私を離さないで」のパラフレーズとも考えられる
内容になっている。
舞台は、アーサー王伝説の頃のイギリス。
物語の登場人物も、アーサー王伝説を下敷きにしている。
語りの形態は違っても、
物語の進み方はなんともイシグロ的なので、
途中、結末が知りたくて、かなり飛ばし読みした。
またゆっくり読まないといけないが、
それでも、最終的にはかなり味わい深かった。
かなり重苦しい感じの味わい・・・
憎しみの記憶が復讐の連鎖を生むのなら、
記憶が消えれば平和になるのだろうか?
しかし、それはまた、幸せの記憶、
愛の記憶も消すことになるが・・・
憶えていたほうがいいのか、
それとも忘れたほうがいいのか・・・
共同体の記憶という基本テーマに、
愛しあう二人の記憶、そして、
死の島へは、二人一緒には渡れない、
という孤独のテーマが絡み合う。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、
どこまでもどこまでも一緒に行こう」
というジョバンニの言葉が思い出される。
かなり映画的なシーンもあるから、
誰か映画にしてくれそうだ。
さらに逃避して検索していたら、
こんなページも見つかった。
それによると、
> カズオ・イシグロはインタビューによると次の作品は今のところ
> 人工知能テーマを考えているらしい。機械に仕事が奪われ、
> さまざまな能力で劣る存在になってしまったら、
> 人間の人間たるゆえんはどこにあるのか? と。
だそうだなので、期待してしまう。
でもまたあと10年待たされるのだろうか?
こちらもメモしておく。
* * *
アーサー王伝説は、ディズニーの映画
(と PC のピンボール)くらいでしか知らなかったので、
改めて興味を持って、中公新書の Kindle 本を買ってしまった。
ケルト人というのは、アイルランドのローカルかと思っていたら、
ローマの前には全ヨーロッパに広がっていたらしい。
ふーむ・・・
ヨーロッパの深層は
ギリシャだけではないのね。
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