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日々の寝言~Daily Nonsense~

わたしを離さないで

カズオ・イシグロの
「わたしを離さないで」を読んだ。

===以下、激しくネタバレ===

ものすごく奇妙な小説だ。

設定はSF。
クローン技術が普通のことになって、
健康な人の細胞から作られたクローン人間が、
臓器提供を行っている未来が、
クローン人間の視点で描かれている。

しかし、書きぶりは、
ごく普通のモノローグ小説。

カズオ・イシグロだからモノローグなのは当然だが、
そこで語られる内容も、ほんとうに普通の、
友達や恋人同士の喧嘩とか、そういう話が中心で、
よくある学園青春物の様な感じ。
記述もリアリズムに徹している。
ぜんぜんSFっぽくない、というか、
設定の奇抜さとは完全にミスマッチ。

しかし、それが、何か、普通でない怪しさというか、
心がもぞもぞするような不思議な味わいを生んでいる。
結局、事件的にはたいしたことは起こらないのだが、
それでも、巻を置くことができず、
実質的に1日で読み終わった。

読後感も、ほんとうになんとも言いようがない。
これまでに経験したことのないような、
としか言いようがない。

だいたいのお話は、原型みたいなものがあって、
それをなぞっているわけだが、
こういうのは本当に読んだことがない。
人間の本質についての、
驚くべき視点からの、驚くべき内容のお話。

映画で言えば、ラース・フォン・トリアーの
「ドッグヴィル」みたいな・・・???

でも、邪悪さはずっとずっと弱い、
というか、ほんとうに、印象を
もどかしいほど言葉にすることができない。

この読後感は、読まないと伝えられない。

しかし、よくもまあこんな小説を書けるものだ・・・
まさに奇譚と言うしかない、奇跡のような小説。
人間の想像力というのは本当に不思議だ。

iPS細胞の技術の開発などの結果として、
クローン人間による臓器提供ということは無さそうだが、
そういうこととは全く関係なく、一読の価値はある。
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