孫娘は小耳症

孫娘(2021年4月生まれ)は左耳小耳症で両耳難聴です。
頼りない娘を支えつつ孫娘の成長を見守ります。

吹っ切る能力

2024-05-26 04:16:16 | 3歳から

公立高校で教員をしていたときのことです。

かなりレベルの高い進学校で、「一浪してでも志望校を目ざす」という生徒が少なからずいました。

 

Aくんもそういう生徒のひとり。

卒業翌年の3月、週刊誌でAくんの名前を見つけました。

「大学合格者数(高校)ランキング」という特集記事の中で。

 

この記事では、東大・京大レベルの大学に限って、高校名の他に合格者名も載るのです。

Aくんの名前は、理工系ではトップレベルの某国立大のところにありました。

「Aくんすごいじゃん!やったね!」

職員室で、同僚とも喜び合いました。

 

その夜、おめでとうを伝えたくてAくんに電話しました。

今から30年もまえの話です。

携帯電話などありません、電話と言えば家電(イエデン)です。

 

お母さんと二人暮らしのAくん宅。

電話には誰も出ませんでした。

 

まいっか。

また週明けにでも電話しよう。

 

2〜3日後に電話すると、今度はAくんにつながりました。

「おめでとう、良かったね!」

「え?何のことですか?」

 

何と!!

Aくんはトップ国立大の合格を知らなかったのです!!

 

どうせダメだと思い、発表を見に行かなかったとのこと。

「だ、だってさ、合格通知が届いたでしょ?」

薄いペラっとした封書で届いたから、やっぱりダメだと思い、封も開けていないとか。

あわててその封筒を取りに行って、電話口で開封するAくん。

「あ、ほんとだ!合格って書いてある!」

 

喜びと失望が同時にやってきました。

入学手続きの期限が過ぎていたのです...。

 

つらい経験でした。

わたしは何度も自分を責めました。

「なぜ、週刊誌を見たあの日に、もう一度電話しなかったんだろう?」

「その翌日でも間に合ったかもしれない」

 

でももちろん、いちばんつらい思いをしたのはAくんだったはず。

けっきょくかれは、滑り止め的に合格していた中堅私大に進学しました。

 

このエピソードを、最近たびたび思い出します。

わたしがあのときのAくんだったら、と想像するのです。

 

「何で何で」と果てしなく繰り返し、

時間を何百回も何千回も巻き戻し、

そのうち頭がぐちゃぐちゃになって、

前に進めずその場にうずくまってしまう。

 

わたしはつねに自分の能力を過信して生きてきたけれど、じつはこんなにも脆弱な部分があったんだと今更に気づきました。

過去を吹っ切る能力。

未練を断ち切って前を向く能力。

これがわたしには決定的に欠けているのでした。

 

つまりかんたんに言うと、

わたしは、ろう学校に関する判断ミスから、いまだに立ち直れないのです。

どういう角度から考えても、今年一年はろう学校に通いつづけたほうが良かった。

どうしてその適切な判断ができなかったんだろう?

3月まで時を戻したい。

ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ...。

 

そして、そのつらさが行き着くところは、「そもそも引っ越しさえなかったら」という埒もない繰り言です。

じつにもう情けない体たらくです。

 

そんな状態ではありますが、次記事から少しずつマメの近況を書いていきます。

自分の気持を奮い立たせるためにも。

 

ちなみに、メガトン級の判断ミス(というかうっかりミス)をしたAくん。

そのミスを吹っ切れたのか。

 

吹っ切れていませんでした。

直後に会ったときも、数年後に会ったときも。

その後はどうだったのか。

思い出すたびに胸が痛いです。