最近、ILC国際リニアコライダー計画縮小と使用済み核燃料貯蔵を巡るニュースに接し、社会の流れが渦巻いている、と感じずにはいられない。この二つの問題は何かにつけ、その動きが連動しているように見えるのは筆者の思い過ごしだろうか。
使用済み核燃料は国内で貯蔵するしかない。原子力政策を推進してきた国、自治体、国民は今更責任を回避できない。住民不在の政策や開発の推進は次世代に負担を強いることになることは明らかである。地方にバラ色の経済効果をちらつかせるようなやり方では誰も幸せにならないことは福島第一原発事故で痛いほど判ったはずだったが、もう忘れたのか。
2018年4月14日付岩手日報の報道によると、ILC計画見直しを検討する文科省の有識者会議、素粒子原子核物理作業部会の第4回会合が13日同省にて開催、全長31㎞から20㎞に計画が見直された後の科学的意義について説明。欧州合同原子核研究所(CERN)の大型円形加速器によるヒッグス粒子の実測可能性が明確になったことなど、ILCの建設意義自体を議論する場となっているようだ。
ヒッグス粒子と思われる新粒子の発見について2013年に欧州合同原子核研究所(CERN)が発表、そのニュースは全世界を駆け巡った。まもなく日本学術会議は巨額の建設費を含む総事業費(計画縮小前は1兆円程度、縮小後でも8000億円超)や建設意義について疑義を呈し、提言した。この時点で既にILC計画の意義は期待できないことが決定的になったものの、しばらく計画が見直されることはなかった。
今般のILC計画縮小は、人口減少少子超高齢化の急激な進行に対する社会保障費の増大、米国による関税引き上げなどの経済制裁、米国中東摩擦に起因する原油値上がり、激変する東アジア情勢に呼応する防衛予算の増大で、経費削減の筆頭株となった結果と思われる。
さて、使用済み核燃料の中間貯蔵については、昨年あたりから動きが激しくなっている。
2018年1月8日の河北新報の記事の見出しは『<使用済み核燃料>むつ市長「受け入れられぬ」 緊急会見で怒りあらわ』
むつ市の中間貯蔵施設は東京電力と日本原子力発電が共同出資したリサイクル燃料貯蔵(RFS)が両者の使用隅核燃料を受け入れるために建設したもので。関西電力が美浜、大飯、高浜原発から出る使用済み核燃料を搬入するニュースは寝耳に水だったに違いない。しかし、いずれなし崩し的に全国から搬入されるであろうと想像していた人間は少なくないはずだ。
2018年5月30日付日本経済新聞によれば、関電が12月に青森に事務拠点を開設すると発表。関電は年内に使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地を選定する必要があるが、関電は無関係と否定している、と。
2018年6月2日付関西電力プレスリリース
中間貯蔵施設に関する一部報道について
一部報道機関において、中間貯蔵施設に関する報道がされていますが、当社が使用済燃料を青森県むつ市の中間貯蔵施設に搬入し一時保管する方針を固めた事実は一切なく、むつ市の中間貯蔵施設に出資する方向で調整をしている事実も一切ありません。
また、当該出資のためのファンド設立を検討している事実も一切ありません。
以 上
2017年5月12日付中部電力プレスリリース
「青森カスタマーセンターの開設について」
2015年2月15日拙ブログ『岩手北上山地ILC国際リニアコライダー誘致と使用済み核燃料最終処分地との関係』を再掲する。
『このブログ記事を9か月もの間、下書き状態でとどめていたのだが、やはり意見は述べておこうと思い、公開することにした。
高エネルギ―加速器研究施設ILC国際リニアコライダー事業の動きが本格化している。
岩手県北上山地の古い地層は盤石で、実験施設の立地場所となったが、日本学術会議はILCの国内誘致に関し、懐疑的な見解を示してきた。
国際リニアコライダー(ILC)事業が未来永劫継続するとは思えず、将来、数十㎞に及ぶ長大な地下トンネルの改造転用が議論されるであろうことは想像に難くない。ILCについては、長期的視野をもって臨む必要があるだろう。
短期間の計画に気を取られ、これまで失敗してきた数々の開発計画失敗の轍を踏むべきではないだろう。
さて、使用済み核燃料は青森県六ヶ所村に約3000トン保管中で、完成間近の青森県むつ市の中間貯蔵施設に3000トン、同県内には東通原発(100トン保管)もあり、大間原発も建設中であるので、国内の使用済み核燃料17000トン余のうち3~4割近くが青森県内に保管されることになる。
加えて、青森県には陸海空自衛隊基地および駐屯地、米空軍三沢基地(1998年にテポドンの標的となった)、Xバンドレーダー等々の防衛施設も存在し、ある意味、沖縄よりも日本の危険を背負っている土地なのである。
テロや自然災害が発生した場合の危険が懸念される。
自分たちが出した危険なゴミを、厚顔無恥にもモンゴルに押し付けようとしたことも記憶に新しい。ただ、使用済核燃料は国内どこかで貯蔵せざるを得ない。
青森県について言えば、どの程度の県民が子孫や将来の県民に対する責任と相応の覚悟をもって受け入れているのか。
電源三法交付金など、懐に入る金は入れておきたい。財源の乏しい地域では交付金、補助金は頼みの綱ではある。
矛盾を承知で言うと、青森県のせびり方はたかが知れていて、沖縄に比べると小銭レベル、と思ってしまう。どうせ魂を売りとばすなら、小銭で騙されないで、トコトンせびってみせろ、とも言いたい。
青森県知事は核の最終処分地にはさせない約束(口約束)を国との間でしている、と県民に説明しているが、岩手県のILCに関わるQ&Aでも放射性物質の最終処分地にはならない旨、簡単に述べられていて、問題の重さは伝わってこない。
日大の高橋正樹教授は2012年9月17日堺市で開催された日本地質学会において、高レベル放射性廃棄物の最終処分地として、安定した地層である北上山地(岩手県)、阿武隈高原北部(福島)、根釧地域(北海道)を挙げており、その後も自民党資源・エネルギー戦略調査会の会議などで発言を繰り返している。
予め仕組まれたなどとは言わないが、放射性廃棄物の最終処分地選定とILC誘致は奇妙にも時期を一にしている。ILC事業が終了する数十年後、この地下施設の転用・再利用方法について論議を呼ぶことは火をみるより明らかである。
もっとも問題が噴出する頃には、当事者たちははあの世に行ってしまっているだろう。
放射性廃棄物処分問題は国の重大問題であり、国内で解決しなければならない。いずれかの地域がその重荷を担わねばならない、と考えるのは当然ではある。
万が一、事故が起きても、人口が少ない東北地方なら被害は小さい、ということになるのか。
ひと昔前、サントリーの佐治氏の「東北のクマソ」発言や、東日本大震災では日本のGDPの2%しか生産していない地域が失われただけ、という某大臣発言にもあったように、ここは元々アイヌの地だったので、千年前に遡り、無かった国土だと思えばよいではないか、という見方の人もいるかも知れない。
この地の黄金がなければ、聖武天皇の国家的大プロジェクト「奈良の大仏」も開眼しなかったと思うが…。
話をもどそう。両手を挙げてILC誘致に沸き返る岩手の姿は、かつて、国策を丸呑みし、製鉄、製糖、コンビナート、原子力船むつ等の事業がことごとく失敗し、原子力施設誘致に至るまで長期展望にもとづいた議論を放棄し、目先の利益に飛びついた青森とその住民の姿と重なる。
農地や漁場を手放し、手にした金で町にキャバレーを作り、六ヶ所御殿を築きながら、職を失い出稼ぎ者となった人々と同じ道筋を、岩手の人々は辿ろうというのだろうか。一体、彼の地の人々は本当に幸せになったのだろうか。
今からでも、もっと議論を尽くし、想定されるあらゆるメリットデメリットを再評価すべきである。
あくまで誘致するというのなら、危機が生じた場合の現実的対応策についての議論を怠らず、ひいては後代への負の遺産まで覚悟すべきであろう。その時になって、話が違う、では済まされない話だ。
福島第一原発事故以来、東日本が放射性物質によって汚染された今、東京より汚染されていない北東北のほうが国の重荷を背負わされている。』
使用済み核燃料は国内で貯蔵するしかない。原子力政策を推進してきた国、自治体、国民は今更責任を回避できない。住民不在の政策や開発の推進は次世代に負担を強いることになることは明らかである。地方にバラ色の経済効果をちらつかせるようなやり方では誰も幸せにならないことは福島第一原発事故で痛いほど判ったはずだったが、もう忘れたのか。
2018年4月14日付岩手日報の報道によると、ILC計画見直しを検討する文科省の有識者会議、素粒子原子核物理作業部会の第4回会合が13日同省にて開催、全長31㎞から20㎞に計画が見直された後の科学的意義について説明。欧州合同原子核研究所(CERN)の大型円形加速器によるヒッグス粒子の実測可能性が明確になったことなど、ILCの建設意義自体を議論する場となっているようだ。
ヒッグス粒子と思われる新粒子の発見について2013年に欧州合同原子核研究所(CERN)が発表、そのニュースは全世界を駆け巡った。まもなく日本学術会議は巨額の建設費を含む総事業費(計画縮小前は1兆円程度、縮小後でも8000億円超)や建設意義について疑義を呈し、提言した。この時点で既にILC計画の意義は期待できないことが決定的になったものの、しばらく計画が見直されることはなかった。
今般のILC計画縮小は、人口減少少子超高齢化の急激な進行に対する社会保障費の増大、米国による関税引き上げなどの経済制裁、米国中東摩擦に起因する原油値上がり、激変する東アジア情勢に呼応する防衛予算の増大で、経費削減の筆頭株となった結果と思われる。
さて、使用済み核燃料の中間貯蔵については、昨年あたりから動きが激しくなっている。
2018年1月8日の河北新報の記事の見出しは『<使用済み核燃料>むつ市長「受け入れられぬ」 緊急会見で怒りあらわ』
むつ市の中間貯蔵施設は東京電力と日本原子力発電が共同出資したリサイクル燃料貯蔵(RFS)が両者の使用隅核燃料を受け入れるために建設したもので。関西電力が美浜、大飯、高浜原発から出る使用済み核燃料を搬入するニュースは寝耳に水だったに違いない。しかし、いずれなし崩し的に全国から搬入されるであろうと想像していた人間は少なくないはずだ。
2018年5月30日付日本経済新聞によれば、関電が12月に青森に事務拠点を開設すると発表。関電は年内に使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地を選定する必要があるが、関電は無関係と否定している、と。
2018年6月2日付関西電力プレスリリース
中間貯蔵施設に関する一部報道について
一部報道機関において、中間貯蔵施設に関する報道がされていますが、当社が使用済燃料を青森県むつ市の中間貯蔵施設に搬入し一時保管する方針を固めた事実は一切なく、むつ市の中間貯蔵施設に出資する方向で調整をしている事実も一切ありません。
また、当該出資のためのファンド設立を検討している事実も一切ありません。
以 上
2017年5月12日付中部電力プレスリリース
「青森カスタマーセンターの開設について」
2015年2月15日拙ブログ『岩手北上山地ILC国際リニアコライダー誘致と使用済み核燃料最終処分地との関係』を再掲する。
『このブログ記事を9か月もの間、下書き状態でとどめていたのだが、やはり意見は述べておこうと思い、公開することにした。
高エネルギ―加速器研究施設ILC国際リニアコライダー事業の動きが本格化している。
岩手県北上山地の古い地層は盤石で、実験施設の立地場所となったが、日本学術会議はILCの国内誘致に関し、懐疑的な見解を示してきた。
国際リニアコライダー(ILC)事業が未来永劫継続するとは思えず、将来、数十㎞に及ぶ長大な地下トンネルの改造転用が議論されるであろうことは想像に難くない。ILCについては、長期的視野をもって臨む必要があるだろう。
短期間の計画に気を取られ、これまで失敗してきた数々の開発計画失敗の轍を踏むべきではないだろう。
さて、使用済み核燃料は青森県六ヶ所村に約3000トン保管中で、完成間近の青森県むつ市の中間貯蔵施設に3000トン、同県内には東通原発(100トン保管)もあり、大間原発も建設中であるので、国内の使用済み核燃料17000トン余のうち3~4割近くが青森県内に保管されることになる。
加えて、青森県には陸海空自衛隊基地および駐屯地、米空軍三沢基地(1998年にテポドンの標的となった)、Xバンドレーダー等々の防衛施設も存在し、ある意味、沖縄よりも日本の危険を背負っている土地なのである。
テロや自然災害が発生した場合の危険が懸念される。
自分たちが出した危険なゴミを、厚顔無恥にもモンゴルに押し付けようとしたことも記憶に新しい。ただ、使用済核燃料は国内どこかで貯蔵せざるを得ない。
青森県について言えば、どの程度の県民が子孫や将来の県民に対する責任と相応の覚悟をもって受け入れているのか。
電源三法交付金など、懐に入る金は入れておきたい。財源の乏しい地域では交付金、補助金は頼みの綱ではある。
矛盾を承知で言うと、青森県のせびり方はたかが知れていて、沖縄に比べると小銭レベル、と思ってしまう。どうせ魂を売りとばすなら、小銭で騙されないで、トコトンせびってみせろ、とも言いたい。
青森県知事は核の最終処分地にはさせない約束(口約束)を国との間でしている、と県民に説明しているが、岩手県のILCに関わるQ&Aでも放射性物質の最終処分地にはならない旨、簡単に述べられていて、問題の重さは伝わってこない。
日大の高橋正樹教授は2012年9月17日堺市で開催された日本地質学会において、高レベル放射性廃棄物の最終処分地として、安定した地層である北上山地(岩手県)、阿武隈高原北部(福島)、根釧地域(北海道)を挙げており、その後も自民党資源・エネルギー戦略調査会の会議などで発言を繰り返している。
予め仕組まれたなどとは言わないが、放射性廃棄物の最終処分地選定とILC誘致は奇妙にも時期を一にしている。ILC事業が終了する数十年後、この地下施設の転用・再利用方法について論議を呼ぶことは火をみるより明らかである。
もっとも問題が噴出する頃には、当事者たちははあの世に行ってしまっているだろう。
放射性廃棄物処分問題は国の重大問題であり、国内で解決しなければならない。いずれかの地域がその重荷を担わねばならない、と考えるのは当然ではある。
万が一、事故が起きても、人口が少ない東北地方なら被害は小さい、ということになるのか。
ひと昔前、サントリーの佐治氏の「東北のクマソ」発言や、東日本大震災では日本のGDPの2%しか生産していない地域が失われただけ、という某大臣発言にもあったように、ここは元々アイヌの地だったので、千年前に遡り、無かった国土だと思えばよいではないか、という見方の人もいるかも知れない。
この地の黄金がなければ、聖武天皇の国家的大プロジェクト「奈良の大仏」も開眼しなかったと思うが…。
話をもどそう。両手を挙げてILC誘致に沸き返る岩手の姿は、かつて、国策を丸呑みし、製鉄、製糖、コンビナート、原子力船むつ等の事業がことごとく失敗し、原子力施設誘致に至るまで長期展望にもとづいた議論を放棄し、目先の利益に飛びついた青森とその住民の姿と重なる。
農地や漁場を手放し、手にした金で町にキャバレーを作り、六ヶ所御殿を築きながら、職を失い出稼ぎ者となった人々と同じ道筋を、岩手の人々は辿ろうというのだろうか。一体、彼の地の人々は本当に幸せになったのだろうか。
今からでも、もっと議論を尽くし、想定されるあらゆるメリットデメリットを再評価すべきである。
あくまで誘致するというのなら、危機が生じた場合の現実的対応策についての議論を怠らず、ひいては後代への負の遺産まで覚悟すべきであろう。その時になって、話が違う、では済まされない話だ。
福島第一原発事故以来、東日本が放射性物質によって汚染された今、東京より汚染されていない北東北のほうが国の重荷を背負わされている。』