ウクライナーロシア間の停戦に向けた米国とウクライナ間の鉱物資源の権益をめぐる合意文書署名前の会談が、ゼレンスキー、バンス、トランプが口論に及ぶというお粗末な茶番劇に終わった。
以下、3月1日毎日新聞から引用。
『トランプ氏は冒頭、「ゼレンスキー大統領をお迎えできて光栄です」と切り出し、「あなた方と協力できることを非常に感謝しています」と語った。戦争を「終わらせたい」と強調し、予定していた鉱物資源の共同開発を巡る合意に触れて「今、少し興奮しているが、本当に興奮するのは交渉がまとまり、合意に達した瞬間だ」などと語った。
これを受け、ゼレンスキー氏も「ご招待に感謝します」と語り始め、「プーチン(露大統領)を止めるために、あなたが強い立場をとっていることを本当に頼りにしている」などと応じた。署名に向けた地ならしは整ったかに見えた。
応酬を繰り広げるトランプ米大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=ホワイトハウスで2025年2月28日、ロイター
ところが会談開始から約40分後、両首脳が記者団からの質問に答えていた際に雰囲気が一変した。
「ロシアに肩入れしすぎではないか」という質問にトランプ氏が答えた後、バンス氏が突然割り込んだ。バイデン前政権はプーチン氏に厳しいことを言っていたが侵攻を止められなかったと話し、「平和、繁栄への道は外交かもしれない」などと語った。
これに対し、ゼレンスキー氏は「聞いてもいいですか」と切り出した。バイデン氏だけでなく、2014年以降のオバマ元大統領や1期目のトランプ氏の下でも状況は変わらなかったと主張。プーチン氏は停戦の合意を過去も破ってきたとし、「あなたが話しているのはどんな外交ですか」と真意をただした。バンス氏は「あなたは失礼だ」と批判し、口論が始まった。
応酬の中で、ゼレンスキー氏が「あなたは(ロシアとの間を隔てる)素晴らしい海がある」とし、「今は(脅威を)感じていないが、将来感じるだろう。神のご加護を」と語ると、トランプ氏も参加した。「我々がどう感じるかを決めつけるな。あなたは第三次世界大戦に賭けようとしている」と強い口調で批判した。
バンス氏も「一度でも『ありがとう』と言ったことはあるのか。あなたの国を救おうとしている米国と大統領に感謝の言葉を述べなさい」とたたみかけた。
ゼレンスキー氏は、米国民に何度も感謝の気持ちを伝えたとし、安全の保証を求めた。しかし、トランプ氏は「米国がいなければあなたはタフではいられないだろう。取引をするか、我々が身を引くかのどちらかだ」と突き放した。さらに、メディアに対して「もう十分だろう。素晴らしいテレビ番組になっただろう」と問いかけて発言を打ち切った。』
ちょっと口を挟みたくなったバンス氏の気持ちも分からないでもない。
筆者は日本の国会議員に対してゼレンスキー大統領がオンラインで演説をした際、国会議員たちがスタンディングオベーションで称賛する猿芝居にげんなりした。
その後も、ゼレンスキー氏が、カーキ色のトレーナーに身を包んで世界中を飛び回る、彼の映画を地で行くような英雄的ふるまいに正直言って食傷気味であった。
ゼレンスキー氏は停戦に関わる重要な協定に署名するならば、スーツで臨むのがふさわしく、トレーナーで現れたのは自己顕示的性格が表れている。
ここは少し我慢して、スーツ姿でトランプ大統領に敬意を表してみせ、鉱物取引を機に安全保障の確保に向けて交渉すべきであったが、おそらくもはや精神的に限界だったのであろう。
彼の退陣は間もなくのことだし、ここで事を荒立てる必要はなかったのであるが、三人の強烈なキャラクターがぶつかった格好だ。
そんなゼレンスキー氏に好意を抱かないバンス副大統領の本音の吐露は余計だった。
安全保障を約束しない鉱物取引という露骨なトランプビジネスに対するゼレンスキー氏の怒りに火を注ぐ結果となった。
トランプ氏はウクライナのレアアースをみすみすロシア一国に奪われるのを避けたかったに違いないし、中国を牽制する必要もある。
そこで、米国の出費を取り戻すためにこんな露骨な提案をしたのだろう。
バンス氏は苦学して成功した立志伝中の人だというが、老獪さを必要とする外交の舞台で、その若さが仇なす結果となった。
最初はトランプ氏は我慢していて、二人の言い争いを止めようとしたように見えたが、ついに彼の導火線にも火が付いた格好だ。
もしかすると、ゼレンスキー氏はこの会談で主張したいことを主張して大統領職を辞めるつもりで乗り込んだのかも知れない。
なぜなら、CNNのインタビューでマルコ・ルビオ国務長官は鉱物取引交渉は締結に向かっていて、ゼレンスキー氏にホワイトハウスまで来ていただかなくても協定締結の手はずが整っていたが、ウクライナ側の希望で、ゼ氏訪問の運びになったのだと説明していたからだ。
大統領辞職の前に一発かましてから辞めようと思ったのではないか。
噂によると、ゼレンスキー氏は米国側からスーツの着用を求められており、通訳の同行も拒否されていたというから、堪忍袋の緒が切れたというところなのだろう。
ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンは核不拡散条約に加盟したことに関連し、1994年12月5日、ハンガリーの首都ブダペストで、アメリカ、イギリス、フランス、中国、そしてロシアからの安全保障の保証を受け、ウクライナはロシアがウクライナ国内に残した核兵器を完全放棄した。(ブダペスト覚書)
主導したのはクリントン大統領とエリツィン大統領であった。
この覚書には違反への対応が定められておらず、口約束、紙切れと化し、今回の戦争勃発後、ビル・クリントン元大統領に後悔の念を表明する結果となった。
ゼレンスキー氏の立場上、ウクライナが米国に再び空手形を握らせられることだけは避けたいはずだ。
今回のホワイトハウスでの一場面は、長い歴史のほんの一瞬の出来事でしかないのだろう。
いずれにせよ、ただの親切で助けてくれる国などあろうはずもなく、有事の際に全面的に他国の支援を受けられるなどと無邪気な気持ちではいられないことを肝に銘じたい。