”はかりごと(かけひき)はかねては用いない方がよい。はかりごとをもってやったことはその結果を見ればよくないことがはっきりしていて、必ず後悔するものである。ただ戦争の場合だけは、はかりごとがなければいけない。しかし、かねてはかりごとをやっていると、いざ戦いということになった時、うまいはかりごとは決してできるものではない。(後略)”
西郷隆盛の言葉(現代語訳)だ。彼の事跡をそのまま表している。
戦(倒幕運動・戊辰戦争)においては冷徹な謀略家・軍人であり、平時は「敬天愛人」の人であった。
計略を弄する単なる戦争屋とする見方も、その行動に一点の曇りもない道徳家とする見方も、両方誤りである。
上の言葉(現代語訳)は『西郷南洲先生遺訓 口語訳付』(西郷南洲百年記念顕彰会刊)より引用させていただいた。
原文は次の通り。
”策略(さりゃく)は平日致さぬものぞ。作略を以ってやりたる事は、其迹(あと)を見れば善からざること判然にして、必ず悔い有る也。唯戦に臨みて作略無くばあるべからず。併し平日作略を用ふれば、戦に臨みて作略は出来ぬものぞ。孔明は平日作略を致さぬゆゑあの通り奇計を行われたるぞ。予嘗て東京を引きし時、弟へ向ひ、是迄少しも作略をやりたる事有らぬゆゑ、 跡は聊(いささ)か濁るまじ、夫れ丈けは見れと申せしとぞ。”