先日亡くなったYさんの母親がケーキを買いに来た。
「あの子はこれが好きだったものね、
孫のRにはこれ・・」と言って10個ばかり買われた。
亡くなったYさんの次男(中3)を引き取って育てている。
お線香を上げに行った時も顔を見せてくれた。
祖父母としてはこのお孫さんを立派に育て上げる
宿命を感じているようだった。
悲しんでばかりはいられないようだった。
ふと今朝は、ずっと昔のことを思い出した。
ちょくちょく来店してくださったXさんが
結婚してまだ間もない頃、ご主人を急性白血病で亡くした。
Xさんはひどく心を痛め2年ほど経っても化粧気もなしに
見るからに鬱状態で町を歩いていた。
夫はそれまでに親しく言葉を交わしていた事もあって
見るに見かねて言葉を掛けたようだった。
ある日Xさんの妹さんが夫に会いに来たが、
生憎留守だったので、伝言を受けた。
「マスターにこれ以上お姉ちゃんに
何も言わないでと伝えてください」
(夫は何を言ったのだろうか、
余計なことを言ったのか)と、不安になった。
あとで夫に聞いたところ「そんな格好で歩いていたら、
町のみんなが振り返っているから、化粧くらいしろよ」
みたいなことを言ったと言う。
それを聞いた私も何でそんなことを!と思った。
Xさんは妹さんに「マスターからこんな事言われた。
そんなに変?」と言ったそうだ。
夫は、妹さんの言葉に少し戸惑いを感じているようだった。
暫く経って、驚いたことにXさんが颯爽として来店した。
「マスターは?」
この時もマスターは不在で、「ごめんね、今いないの・・」
「マスターに心配してもらって、元気になった姿を見せに来たの。
久しぶり、ケーキとコーヒー下さい」
そう言って注文するXさんは見るからに元気なっていた。
カウンター席に座り、亡き旦那様の話をしたり近状を話したりした。
突然、
「この曲、亡くなった○さんがとても好きだった曲なの。
これ聞いているととても元気になれるの。ママさんも是非聞いて欲しい」
と言って、MDのヘッドフォンをカウンター越しに私の頭へ付けた。
丁度その時店内は混んでいたが、されるままにした。
注文聞きへも行かねばならず、ポケットにMDカセットを入れ、
頭には大きなヘッドフォンを付けた前代未聞の格好で、
他のテーブルへ注文を聞きに行った。
さわやかな男性ボーカルの声が頭の中に響いていた。
「マスターから言ってもらえて、嬉しかった。又来ます。」
と言って彼女は帰っていった。
第三者的に聞くと、とんでもないことを言ったように思えたが
、二人の間の会話はもっと奥深かったのであったろうと思った。