多重債務道４７ 月夜

夜中の０時。アミューズメントパークもカラオケ以外は閉店の時間になった。
結局オープン時から閉店までほとんど景色の見えるカウンターで過ごした。店員の視線などはまったく気にならなかった。店の外に出ると秋の夜ながら肌寒いと感じた。
朝から何も食べてなくお腹がすいたので朝にも行った牛丼屋に立ち寄った。朝とは違う店内。あのおばちゃん店員もいないし、客層も若者だらけだった。スーツを着ているのも自分だけだった。朝も、夜中もなんか自分だけと言う疎外感を感じながらも食し帰路に向かった。

妻には何て説明するのか朝から考えていたが、いまだ結論は出ていない。自分の親や妻はきっと心配しているに違いない。警察などに捜索願いなどを出していないか心配になった。

家の近所の交差点を曲がると見覚えのある車が家の前に一台止まっていた。課長の車だった。

なんでこんな０時過ぎに自分の家の前にいるのか？

やっぱりなんとしても捕まえて会社に連れ戻したいのか？

家の前にいるという事は、もしかしたら妻と話をしたのか？

昨日、今日の興奮した状態から気持ちの平穏さを取り戻しかけた自分だったが、課長の姿は見えないが車を見た瞬間から気が動転し平穏さを失った。

「ここには居れない」
「直ぐにここから去らないと・・・」

でも行く場所は無かった。
直ぐに考えつかなかった・・・
バイクを走らせながら、ふと朝の事を思い出した。
朝に見に行った昔の住んでいた家
昔、一緒に住んでいた人と行った思い出の公園
自然と１５キロ以上ある公園に向けてバイクを走らせていた。

公園に行くしか考えられない自分。
これからどうなるのか？という恐怖と自分の家にも帰れないという情けなさで薄っすらと涙目にもなった。
涙目になったせいか満月に近い月はキラキラと輝いて見えた。

思い出の公園に着いた。駐車場には誰も乗ってない小さいトラックが一台戸止まっておりバイクを道路から見えないようにトラックの影に隠した。

この公園のコンクリートで出来た滑り台には子供が立って入れる程のトンネルがあった。今から１０年前のこのトンネル中で前妻に自分の将来の夢などを語った思い出があった。そのトンネルに入ってみた。

外灯の光が浅く入ってくる。

疲れ果てた自分はそのトンネルの中でスーツであるのも関係なく座り込んだ。
冷えたコンクリートがよりいっそう体温を奪う。震えながらも少し寝よう思った。

本当に綺麗な月夜だった。

その記憶は今でも鮮烈に目に焼きついている・・・

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