多重債務道５０ 長い冬

赤信号のまま突き抜けた交差点。前方から車は来ていたが交差点まで距離があったので衝突する事無くすり抜ける事が出来た。

「捕まったら何をされるか分からない・・・」

「連れ戻される・・・助けて・・・」

安堵感から急に追われる事になった事で、自分の神経は高ぶり、混乱を続けながら無我夢中で逃げ続けた。ふと我に返ると、何でこんな道でこんなにスピードを出しているのだろうと急に恐怖感に襲われアクセルを緩めた。バックミラーを見ても何も走っている物はいなく、闇の中の街灯が灯っているだけだった。
「あっ、ここは・・・」
何か見覚えのある景色と思っていたら、前に住んでいた家の街だった。ついこないだも来たばかりだったが、無我夢中で逃げてきた場所は何故かこの街だった。また思い出の公園に行こうと思い向かった。

駐車場に隠すようにバイクを置き、あの滑り台のトンネルに向かい、相変わらず冷たいコンクリートの上で考え事をした。

きっと今帰っても、上司達は家の前で待ち構えているに違いないので朝方帰ろうと決めた。朝帰ったら会社には封書にて事情と謝罪文、退職願い届けを郵送にて送る事を決めた。今の自分にとって今一番重要なのは多重債務による借金をどうするかが問題だった。借金の問題を解決方や進む方向性を決めていないと本当に妻と子供と離別するしか道は無くなると思った。

妻との話し合いも難色を示すのは当たり前だと思っている。借金が会社にばれる。会社に行けなくなる、会社から家に連絡、どうする事も出来ずに逃走、退社、離婚。こう言う構図は数年前から会社で数名見てきた。まさか自分もこう言う同じ運命をたどるとは思ってもいなかった。

この公園には前妻と何回も来た。あの頃は自分も若かった、子供もいなかった為、夫婦といえども殆ど恋人同士の様な関係だった。楽しい思い出ばかりがよみがえって来る。前回来た時も、「あの時は・・・」と楽しい思い出ばかりを思い出していた。

この街で体験した事は、この地方の「短い春」の様に夢のように楽しいひと時だった。この生活の終焉後に多重債務の始まりになった。あれから１０年後の現状は荒んだものだった。今の現状を見向きもせず過去の事を懐かしむ。もしかしたら多重債務者の特有の理論なのか？と思った。現状を打破すべき何か行動をしなければ「長い冬」の間に死んでしまうのでは無いかと考えた。

朝方には家に帰ろう。

もうしばらくここで昔を懐かしみ
この場所にはもう二度と来ない事を祈った


でも何もかもすべて失敗に終わったら
ここに来てしまうかもと思った。

人気ブログランキングへ

ブログランキング【くつろぐ】