さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その3

2008年06月02日 17時36分34秒 | 小説
冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その2



パーティーが30分も続いていたころだった。
ビルの3階の窓の外に、
ゴゥゥゥーーという風の吹く音が数回した。
始めは春の突風かと思われたが、しだいに強くなっていく風に、迎賓室のカーテンはパタパタと靡き、窓の近くにあるテーブルを小刻みに振動させている。
「何か変だぞ・・」と太陽少年が感じた瞬間・・・・
バァァァ~~~ンと、物凄い風圧の大きな突風が部屋中に進入し、テーブルや椅子や人々を薙ぎ倒していた。
部屋は一瞬にして、台風の後のような悲惨な状態に成り果てていた。
バラバラに飛ばされ破壊された、テーブルや食器や椅子が来客の顔や腕に怪我をさせている。
風男が来たのだ!

風と共に窓から侵入した風男は、サッと中央に倒れている春風彩子に忍び寄るように近づき・・・・・
春風彩子の胸から、ネックレス・サウザンクロスを引き千切るように取り上げた。
「ふふふ・・どうやら本物のようだな!結構!結構!」
風男は満足げに言ったのだった。
そんな、風男を見つめる春風彩子は、恐怖のあまり硬直し口も聞けないようだった。

「現れたなっ!風男!!」
そう叫ぶと、太陽少年は、迎賓室のドアをすべて開け放ち、全員に逃げるように指示した。
来客は、我先にと出口から逃げだし、春風彩子も月子夫人と共に迎賓館の外に避難した。

部屋の中は、太陽少年と風男だけになり、まるで一騎打ちのようであった。
太陽少年は、ゆっくりとゆっくりと総ての開け放たれたドアをシッカリ閉め、慎重に窓際に進み、開放されていた窓を総て閉じていったのだった。
「小僧!何のまねだ・・・」
風男は、いぶかしげに太陽少年に言った。

太陽少年は、そんな言葉に答えようともしないで叫んだ!
「スモークの煙を入れてください!」
閉ざされた部屋の中に、天井に設置してある換気口から、映画で霧の場面に使う白い煙がモワ~ッと入ってきた。
スモークが部屋に充満するのに、たいして時間はかからなかった。
部屋の中は、まるで霧のなかのように白く薄ぼんやりとしている。

「この煙が何なのかは知らんが、サウザンクロスは頂戴した!今回も、俺の勝ちだな!」
風男は、勝ち誇って言った。
「勝負は、最後までわからないぞ!」
太陽少年は、スモークで少し霞んだ風男を睨みながら叫んでいた。
「もう、最後だよっ!城萬二郎の助手君!」
そう言うが早いか、風男はボールを投げるように手を振った!
ブオォォォォ~ンと、鈍い音をたてながら、風男の風圧弾が飛んできた。

『思ったより遅いな!』
太陽少年は、心の中で思った。
風男の放つ風圧弾は、部屋に充満した煙の粒子を取り込み、まるで白いボールのようになって、軌跡を残しながらこちらに向かって跳んでくる。
「分かるぞ!ハッキリと!・・・ハッキリと見えるぞ、風圧弾の飛んでくる方向がっ!」
太陽少年の計算どうりだった!
目に見える風圧弾は、そんなに早くはなく、太陽少年にも充分避けられるスピードだったのだ。

2発3発と、風男は風圧弾を投げつけてきたが、目に見えるようになった空気の玉は、太陽少年の体をかすめる事すらなかった。
「風男!もう諦めろ!無駄だっ!もうお前の風圧弾は効果が無いぞ!早くネックレスを返せ!!」
太陽少年は、叫んだ!

「くっそっ!では、これならどうだ!」
風男は、空手チョップの動作で、カマイタチ手裏剣を投げつけてきた。
ヒューンと音をたてながら少年めがけて飛んでくるカマイタチ手裏剣は、本物の鎌の刃物のように三日月の形を保ちながら、クルクルと回転しながら跳んでくるのだった。
先ほどの空気弾より、早い!
慌てず、太陽少年は目を守るため、城萬二郎から貰ったアメリカの軍隊で使用されているサングラスを胸のポケットから出し、顔に掛けた。
これで、あの鋭いカマイタチの軌跡を、視線をそらさずに見きわめることができる。

「小ざかしい奴だ・・・」
そう叫びながら、怪人風男は先ほどとは違う手の動きをした。
それは、まるで忍者が連続に手裏剣を投げるような仕草だった。
小さな鎌の形の空気の刃が、
ヒュンヒュンと、都太陽少年に向かって飛んで来る!
「こんなに多くては避けきれない!」
そう思った太陽少年は勝負に出たのだった。
ヒュンヒュンと飛んで来るカマイタチ手裏剣は、数は多いが致命傷にはならないくらい小さな物だ・・・
「当たったとしても小さな傷で済むだろう・・・」
そう決意し、太陽少年は風男に飛びかかったのだ!

飛び交うカマイタチ手裏剣の間を避けながら、太陽少年はすばやく風男に突進していった。
カマイタチ手裏剣の一つが顔のサングラスに当たり、厚いレンズがパリーンと音を立てて壊れた。
バラバラになったサングラスが太陽少年の頭上の左後方にヒューンと吹き飛ばされた。
サングラスをかけていなければ、目が潰れていたにちがいない。

太陽少年は風男の胴体に体当たりし、2人は
ドーンと床に倒れこんだ。
風男は怯んだ。
とっさの隙に、太陽少年の手は、すばやくネックレスを風男から奪い取ったのだった。
その時、風男の右足が少年の腹のあたりに当たり、ガ―ンと太陽少年は遠くに蹴り飛ばされてしまった。
ドーンと、しこたま床に叩きつけられてしまったが、太陽少年の手には取り返したネックレスがシッカリと握り締められていた。

「警部!取り返しました!」
そう太陽少年が叫ぶが早いか、ドアから宮沢警部と十人ほどの警官が突入してきた。
「もう観念しろ!風男。お前は逃げられん!完全に包囲されている!」
宮澤警部は叫んだ!
ウゥゥゥ~~~~!ウウゥゥ~~!
外では何台ものパトカーのサイレンの音が響き渡っていた。

ネックレス強奪を諦め、退散を決め込んだのか、風男は「チッ!」と憎憎しく舌打ちをした。
そして、霧の中にたたずむ風車のように、風男は両手をグルグル回しはじまた。
男の回りの空気が回転をし始め、小さな旋風が発生している。
旋風は、部屋の中のスモークをも飲み込み、見る見るうちに人間も飲み込むほどの竜巻になっていった。
瞬間に、パリーンと分厚い窓ガラスが粉々に砕け散り、外の風が
ササァァァーーと入ってきた。
竜巻の中心に居る風男は、もう空中に浮いている。
風の勢いが激しくて、警官も近づく事もできない。

「くそっ!おぼえておれっ!!」
そう忌忌しく叫ぶと、風男は竜巻に乗り、窓からフワリと逃げていった。

「今だっ!スイッチを入れてっ!!」
太陽少年は、外で待機していた月子夫人に叫んで合図した。
間髪を入れず、月子は映画の撮影用の巨大な送風機のスイッチを入れたのだった。
ググゥオーン・・・・・低い音を響かせながら、巨大な扇風機のような送風機の羽根が目に見えない速度で回転している。
送風機から風が吹き出し、撮影所は暴風域に飲み込まれたようだった。
月子夫人は、送風機を反対に向け、掃除機のように空気を吸いこむようにセッティングした!
送風機は、風男の包んでいる竜巻を完全に吸い込むように、激しく激しく回転している。
シュルルルゥ~~~~ッ・・と、吸引機と化した送風機が、風男を包んでいる竜巻を見る見る吸い込んでいく。

風男の動きが止まった!

送風機が竜巻を完全に吸い込んで・・・・
しだいに風男を浮かせている竜巻は、小さく小さくなり、やがて掻き消す様に消滅してしまった。
「うわぁぁぁぁー!」
叫びながら風男は、10階ほどのビルの高さから、まっ逆さまになって落下した。

地面に風男の体が叩きつけられたと同時に・・・・
風男の上空からダウン・バーストのような重い風圧の固が、
ドドーンと重低音を鈍く響かせ落下してきた。
まるでダウンバーストが、風男に怒っているかのようにも見えた。
ダウンバーストは風男の真上に落ち、細かい砂粒や土埃を煙幕のように巻き込み、撮影所内にモアモアと激しい砂塵を巻き起こした。
激しい風圧で、映画の小道具がそこ等じゅうに吹っ飛ばされ散乱した。
そして、近くに有った満開の桜の木の花弁をも、一枚残らず空中高く舞い上げてしまった。



しばらくすると、撮影所内の砂埃が落ち着き、周りの風景も見えるようになってきた。
ゴホンゴホン咳き込みながら、宮澤警部が風男の落下した地点に走っていった。
「な、なんだ!これは、奇怪な・・・!奴は魔術師なのか!?」
そう叫びながら、警部は呆然としている。
警部の見つめている地面には、もぬけの殻となった風男の黒いタキシードとマントが、蝉の抜け殻のように落ちていた。
「風男の体は、どこへ行ってしまったんだ・・・?」
警部は、男の服を握り締めながら、独り言のように、呟いていた。

太陽少年も、ビルから駆け下り、その現場を見つめた。
そのうち警官やパーティーの来賓たちが、抜け殻となった風男の所に集まり、ガヤガヤと騒々しくなっていった。
人だかりの中には、月子夫人も春風彩子も居た。
「風男は死んだんでしょうか?」
太陽少年は、誰とでもなく聞いている。
「判らん・・・」
宮澤警部が、小さく答えている。


「まぁ!綺麗!」
突然、春風彩子が甲高い声で叫んだ。
「まぁ・・・ホント・・」
月子夫人も、同意しながら言った。
先ほどのダウンバーストで、空中に吹き飛ばされた桜の花弁の一枚一枚が、まるで雪でもあるかのように皆の頭上に降り注いでいるのだ。
太陽少年も宮澤警部も、空を見上げている。
本物の雪のように桜の花弁がフワフワと舞い落ちてくる。

風男の黒いもぬけの殻の上にも、ヒラヒラと桜の花弁の雪は積もっている。
「やはり、風男は死んだんだろう・・・・」
太陽少年は呟いたが、誰にも聞こえなかった。
ヒラヒラと舞い落ちる桜の花弁は、風男への手向けの花に見える・・・・
そう、太陽少年は思ったのだった。



ガヤガヤと、中村警部と警官達が、事件現場を捜査している。
太陽少年は、そんな雑音を背中で聞き流しながら、さっき風男から取り返したネックレスを春風彩子の手に渡している。
「どうも有り難う!・・・本当に有り難う・・・」
涙ぐみながらお礼を言う春風彩子を見ていると、太陽少年は自分が少しだけ頼もしく感じられ、誇らしい気分になっていくのだった。
桜吹雪となって舞う桜の花びらは、さっきから太陽少年や月子夫人や宮澤警部の上にずっと降り注いでいて、まだしばらくは止みそうに無いようだ。

  

おわり