冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その1から
1ヶ月もすると、都太陽少年の頬や右足の傷も癒え、傷跡も見えないくらいになったきた。
2日前から城萬二郎探偵は、国際警察機構の主催で「世界探偵会議」に招かれ、英国・倫敦に行ってしまっていて不在である。
世界探偵会議には、あのエルキュール・ポアロやシャーロック・ホームズなど、著名な探偵諸氏が招かれているようだが、我城萬二郎もその中の一人なのだ。
二郎先生の話によると、最近世界では、悪の天才モリアティ教授や怪盗ルパン、怪人ファントマなどの起こす奇怪な事件が頻発しているらしいのだ。
世界探偵会議は、その対策を検討するために、世界中の探偵の知恵を借りようというものらしい。
「何か、嫌な予感がするなぁ・・」
城萬二郎探偵事務所の留守番をしながら、都太陽は考えていた。
城萬二郎探偵が居ない時を見はからっているかのように、決まって怪人たちが事件を起こすような気がしてならない・・・・
太陽少年は、そう思っていたのだった。
もう3月も過ぎようとしている。
2階にある探偵事務所の下に見える桜並木は、もう八分咲きの桜の花で華やかに街を賑わしている。
窓から入ってくる少しだけ暖かい風は、太陽少年の嫌な予感をちょっとだけ和らげてくれていた。
そんな長閑な気分に浸っていると、突然、月子夫人がドアを開け慌てて入ってきた。
「太陽君!大変よ! また、怪人風男が挑戦状を送ってきたわ!!」
太陽少年は、座っていた椅子から落ちそうになるくらいに驚き、言った。
「なんですって! また風男が、何かを盗むつもりなんですね!」
月子夫人は、ハアハア息を切らせながら話す・・・
「今度は、女優の春風彩子さんのダイアモンドのネックレス『サウザンクロス』を狙っているらしいの!」
「女優の春風彩子と言えば、今度の新作映画 『春風物語』の主演女優じゃないですか!?」
映画通の太陽少年は、そう驚いて答えた。
「そう、その映画の完成披露パーティーの時に、そのネックレスをするらしいの・・・」
月子夫人の話によると・・・・
怪人風男は、京都の松竹梅映画撮影所で新作映画「春風物語」の完成披露パーティーを行うとき、主演女優・春風彩子の着用している時価5億円とも6億円とも噂されているダイアモンドのネックレス「サウザンクロス」を、パーティーの客の面前で盗んでみせようというのだ。
全部話し終わると、月子夫人は少し落ち着いた様子になった。
「模造品をつけて、出席すれば安全ですよ。」と太陽少年は、言ったが・・
「模造品じゃだめだって春風彩子さんは言うのよ・・・、夢を与える女優が、そんな模造品なんかできないっていうの!」
月子夫人は、答えた。
「それに気の強い性格の春風彩子さんは、そんな怪人なんかに弱みを見せるのがいやらしいの・・・」
困った表情で、月子夫人は太陽少年に言った。
「僕に、そんな大事な警護が出来るでしょうか? この前のこともあるし・・・・」
自身なさそうな太陽少年を見つめながら、姉の月子は強く言った。
「大丈夫よ!宮澤警部も50人の警官を動員して警備に当たってくれるし、なにより警部自身が、あの風男に恨みがありますからね!」
うふっと、笑いながら元気付けてくれる月子夫人の言葉に、太陽少年は自分にも警護が出来るような自信を与えてくれるのだった。
女優・春風彩子の新作映画「春風物語」の完成披露パーティーの当日になった。
その日は少し早めに起き、京都まで行き、都電の嵐山線に乗った。
撮影所のある駅には、完成披露パーティーに出席するだろうと思われる、映画で見覚えのあるような俳優の顔が数人見えた。
駅を下りると、松竹梅映画撮影所は直ぐ近くに有った。
撮影所の玄関や周りを囲む塀の付近は、宮澤警部の部下である警官たちが厳重に警護している。
入り口近くの受付で名前を書いていると、宮澤警部が手を振ってやってきた。
「やぁ!太陽君~!今着いたのかい!?」
相変わらずの赤ら顔の警部は、酒も飲んでないのに鼻の頭や頬が赤かった。
「今着きました。厳重な警備ですね。これなら風男も逮捕できるかもしれません!」
太陽少年は警部に向かって、言った。
「うむぅ・・しかし、どんなに厳重にしても油断は出来ん!あいつは、どんな能力を持っているのかわからんからなぁ・・・」
ほんのちょっとだけ不安な顔つきをしたが、直ぐにいつもの顔に戻って、警部は太陽少年に言った。
「例の段取りはついてますか?」
少し緊張した面持ちで、太陽少年は宮澤警部に尋ねた。
「月子さんもさっき来てくれて、準備を手伝ってくれてるよ。そうさな・・・準備は万端、仕上げをごろうじろ!っていう奴だよ!太陽君!」
わっはつはっ・・と笑う顔は、いつものリラックスした警部の顔に戻っていた。
遠くに居て、作業を手伝っている城萬月子も、こちらに気がついたのか、手を振っている。
松竹梅映画撮影所のビルの中の迎賓室で、完成披露パーティーは開かれる。
撮影所の3階に有り、ビルの入り口を通らなければ、誰も入ってくることは出来ない。
太陽少年と城萬月子は、小学校の体育館を少し小さくしたような大きさの迎賓室に入っていった。
部屋のあちこちにあるテーブルには食事が用意され、良い匂いを漂わせ、いやがうえにも食欲をそそらせる。
部屋の中には、映画関係者や見たことのある俳優や新聞社の記者達で賑わっている。
窓は開け放たれ、さわやかな春めいた心地よい風と春の匂いを、部屋の隅々にまで行き渡らせていた。
そんな爽やかな春に相応しい容貌で、中央辺りで来賓たちににこやかに会話ををしている美しい女性が、女優の春風彩子だった。
春風彩子が、太陽少年と月子が入ってきたのに気づいて、こちらの方にやってきた。
「あなたが、あの名探偵城萬二郎さんの肝いりという少年ですね!」
春風彩子は、太陽少年より背が高く、ほっそりとしてまるで女神のようだった。
良い香水の香りがして、都太陽少年はクラクラと倒れそうな面持ちになっていた。
胸には、あのダイヤモンドのネックレス・サウザンクロスが、夜空の星のようにキラキラ輝いている。
「ぼ、僕が、都太陽です!」
握手しようと、緊張しながら右手を出した。
「よろしく。私の宝物を守ってきださいね。太陽さん。」
そう言うと、春風彩子は、太陽少年の手をギュッと握り返してくれた。
心臓がドキドキと脈打っているのが、いつもより強く感じられる。
太陽少年は、初めて会う銀幕のスターに、ボーと魂を抜かれてしまったようだ。
月子夫人が左手の肘で、太陽少年の背中をコツンと軽くつついた。
「ボゥーとしてちゃ駄目よ!風男は今にも現れるかもしれないんだから!」
ハッとして我に返った太陽少年は、月子の顔を見て照れくさそうに微笑んだ。
「・・・あぁ!そうだ!・・例の準備は整っていますか。」
恥ずかしさをごまかすように、妙に真面目な口調で太陽少年は尋ねていた。
それが可笑しかったのか、城萬月子はクスクスと笑いながら答えていた。
「抜かりは有りませんことよっ!」
そんな風に月子がおどけて言うものだから、太陽少年もつられて笑ってしまっていた。
冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その3 完結篇へ続く1ヶ月もすると、都太陽少年の頬や右足の傷も癒え、傷跡も見えないくらいになったきた。
2日前から城萬二郎探偵は、国際警察機構の主催で「世界探偵会議」に招かれ、英国・倫敦に行ってしまっていて不在である。
世界探偵会議には、あのエルキュール・ポアロやシャーロック・ホームズなど、著名な探偵諸氏が招かれているようだが、我城萬二郎もその中の一人なのだ。
二郎先生の話によると、最近世界では、悪の天才モリアティ教授や怪盗ルパン、怪人ファントマなどの起こす奇怪な事件が頻発しているらしいのだ。
世界探偵会議は、その対策を検討するために、世界中の探偵の知恵を借りようというものらしい。
「何か、嫌な予感がするなぁ・・」
城萬二郎探偵事務所の留守番をしながら、都太陽は考えていた。
城萬二郎探偵が居ない時を見はからっているかのように、決まって怪人たちが事件を起こすような気がしてならない・・・・
太陽少年は、そう思っていたのだった。
もう3月も過ぎようとしている。
2階にある探偵事務所の下に見える桜並木は、もう八分咲きの桜の花で華やかに街を賑わしている。
窓から入ってくる少しだけ暖かい風は、太陽少年の嫌な予感をちょっとだけ和らげてくれていた。
そんな長閑な気分に浸っていると、突然、月子夫人がドアを開け慌てて入ってきた。
「太陽君!大変よ! また、怪人風男が挑戦状を送ってきたわ!!」
太陽少年は、座っていた椅子から落ちそうになるくらいに驚き、言った。
「なんですって! また風男が、何かを盗むつもりなんですね!」
月子夫人は、ハアハア息を切らせながら話す・・・
「今度は、女優の春風彩子さんのダイアモンドのネックレス『サウザンクロス』を狙っているらしいの!」
「女優の春風彩子と言えば、今度の新作映画 『春風物語』の主演女優じゃないですか!?」
映画通の太陽少年は、そう驚いて答えた。
「そう、その映画の完成披露パーティーの時に、そのネックレスをするらしいの・・・」
月子夫人の話によると・・・・
怪人風男は、京都の松竹梅映画撮影所で新作映画「春風物語」の完成披露パーティーを行うとき、主演女優・春風彩子の着用している時価5億円とも6億円とも噂されているダイアモンドのネックレス「サウザンクロス」を、パーティーの客の面前で盗んでみせようというのだ。
全部話し終わると、月子夫人は少し落ち着いた様子になった。
「模造品をつけて、出席すれば安全ですよ。」と太陽少年は、言ったが・・
「模造品じゃだめだって春風彩子さんは言うのよ・・・、夢を与える女優が、そんな模造品なんかできないっていうの!」
月子夫人は、答えた。
「それに気の強い性格の春風彩子さんは、そんな怪人なんかに弱みを見せるのがいやらしいの・・・」
困った表情で、月子夫人は太陽少年に言った。
「僕に、そんな大事な警護が出来るでしょうか? この前のこともあるし・・・・」
自身なさそうな太陽少年を見つめながら、姉の月子は強く言った。
「大丈夫よ!宮澤警部も50人の警官を動員して警備に当たってくれるし、なにより警部自身が、あの風男に恨みがありますからね!」
うふっと、笑いながら元気付けてくれる月子夫人の言葉に、太陽少年は自分にも警護が出来るような自信を与えてくれるのだった。
女優・春風彩子の新作映画「春風物語」の完成披露パーティーの当日になった。
その日は少し早めに起き、京都まで行き、都電の嵐山線に乗った。
撮影所のある駅には、完成披露パーティーに出席するだろうと思われる、映画で見覚えのあるような俳優の顔が数人見えた。
駅を下りると、松竹梅映画撮影所は直ぐ近くに有った。
撮影所の玄関や周りを囲む塀の付近は、宮澤警部の部下である警官たちが厳重に警護している。
入り口近くの受付で名前を書いていると、宮澤警部が手を振ってやってきた。
「やぁ!太陽君~!今着いたのかい!?」
相変わらずの赤ら顔の警部は、酒も飲んでないのに鼻の頭や頬が赤かった。
「今着きました。厳重な警備ですね。これなら風男も逮捕できるかもしれません!」
太陽少年は警部に向かって、言った。
「うむぅ・・しかし、どんなに厳重にしても油断は出来ん!あいつは、どんな能力を持っているのかわからんからなぁ・・・」
ほんのちょっとだけ不安な顔つきをしたが、直ぐにいつもの顔に戻って、警部は太陽少年に言った。
「例の段取りはついてますか?」
少し緊張した面持ちで、太陽少年は宮澤警部に尋ねた。
「月子さんもさっき来てくれて、準備を手伝ってくれてるよ。そうさな・・・準備は万端、仕上げをごろうじろ!っていう奴だよ!太陽君!」
わっはつはっ・・と笑う顔は、いつものリラックスした警部の顔に戻っていた。
遠くに居て、作業を手伝っている城萬月子も、こちらに気がついたのか、手を振っている。
松竹梅映画撮影所のビルの中の迎賓室で、完成披露パーティーは開かれる。
撮影所の3階に有り、ビルの入り口を通らなければ、誰も入ってくることは出来ない。
太陽少年と城萬月子は、小学校の体育館を少し小さくしたような大きさの迎賓室に入っていった。
部屋のあちこちにあるテーブルには食事が用意され、良い匂いを漂わせ、いやがうえにも食欲をそそらせる。
部屋の中には、映画関係者や見たことのある俳優や新聞社の記者達で賑わっている。
窓は開け放たれ、さわやかな春めいた心地よい風と春の匂いを、部屋の隅々にまで行き渡らせていた。
そんな爽やかな春に相応しい容貌で、中央辺りで来賓たちににこやかに会話ををしている美しい女性が、女優の春風彩子だった。
春風彩子が、太陽少年と月子が入ってきたのに気づいて、こちらの方にやってきた。
「あなたが、あの名探偵城萬二郎さんの肝いりという少年ですね!」
春風彩子は、太陽少年より背が高く、ほっそりとしてまるで女神のようだった。
良い香水の香りがして、都太陽少年はクラクラと倒れそうな面持ちになっていた。
胸には、あのダイヤモンドのネックレス・サウザンクロスが、夜空の星のようにキラキラ輝いている。
「ぼ、僕が、都太陽です!」
握手しようと、緊張しながら右手を出した。
「よろしく。私の宝物を守ってきださいね。太陽さん。」
そう言うと、春風彩子は、太陽少年の手をギュッと握り返してくれた。
心臓がドキドキと脈打っているのが、いつもより強く感じられる。
太陽少年は、初めて会う銀幕のスターに、ボーと魂を抜かれてしまったようだ。
月子夫人が左手の肘で、太陽少年の背中をコツンと軽くつついた。
「ボゥーとしてちゃ駄目よ!風男は今にも現れるかもしれないんだから!」
ハッとして我に返った太陽少年は、月子の顔を見て照れくさそうに微笑んだ。
「・・・あぁ!そうだ!・・例の準備は整っていますか。」
恥ずかしさをごまかすように、妙に真面目な口調で太陽少年は尋ねていた。
それが可笑しかったのか、城萬月子はクスクスと笑いながら答えていた。
「抜かりは有りませんことよっ!」
そんな風に月子がおどけて言うものだから、太陽少年もつられて笑ってしまっていた。