さかいほういちのオオサンショウウオ生活

Copyright (C) Sakai Houichi. All Rights Reserved.

冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その2

2008年06月01日 19時55分47秒 | 小説
冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その1から



1ヶ月もすると、都太陽少年の頬や右足の傷も癒え、傷跡も見えないくらいになったきた。
2日前から城萬二郎探偵は、国際警察機構の主催で「世界探偵会議」に招かれ、英国・倫敦に行ってしまっていて不在である。
世界探偵会議には、あのエルキュール・ポアロやシャーロック・ホームズなど、著名な探偵諸氏が招かれているようだが、我城萬二郎もその中の一人なのだ。
二郎先生の話によると、最近世界では、悪の天才モリアティ教授や怪盗ルパン、怪人ファントマなどの起こす奇怪な事件が頻発しているらしいのだ。
世界探偵会議は、その対策を検討するために、世界中の探偵の知恵を借りようというものらしい。

「何か、嫌な予感がするなぁ・・」
城萬二郎探偵事務所の留守番をしながら、都太陽は考えていた。
城萬二郎探偵が居ない時を見はからっているかのように、決まって怪人たちが事件を起こすような気がしてならない・・・・
太陽少年は、そう思っていたのだった。

もう3月も過ぎようとしている。
2階にある探偵事務所の下に見える桜並木は、もう八分咲きの桜の花で華やかに街を賑わしている。
窓から入ってくる少しだけ暖かい風は、太陽少年の嫌な予感をちょっとだけ和らげてくれていた。

そんな長閑な気分に浸っていると、突然、月子夫人がドアを開け慌てて入ってきた。
「太陽君!大変よ! また、怪人風男が挑戦状を送ってきたわ!!」
太陽少年は、座っていた椅子から落ちそうになるくらいに驚き、言った。
「なんですって! また風男が、何かを盗むつもりなんですね!」
月子夫人は、ハアハア息を切らせながら話す・・・
「今度は、女優の春風彩子さんのダイアモンドのネックレス『サウザンクロス』を狙っているらしいの!」

「女優の春風彩子と言えば、今度の新作映画 『春風物語』の主演女優じゃないですか!?」
映画通の太陽少年は、そう驚いて答えた。
「そう、その映画の完成披露パーティーの時に、そのネックレスをするらしいの・・・」
月子夫人の話によると・・・・
怪人風男は、京都の松竹梅映画撮影所で新作映画「春風物語」の完成披露パーティーを行うとき、主演女優・春風彩子の着用している時価5億円とも6億円とも噂されているダイアモンドのネックレス「サウザンクロス」を、パーティーの客の面前で盗んでみせようというのだ。

全部話し終わると、月子夫人は少し落ち着いた様子になった。
「模造品をつけて、出席すれば安全ですよ。」と太陽少年は、言ったが・・
「模造品じゃだめだって春風彩子さんは言うのよ・・・、夢を与える女優が、そんな模造品なんかできないっていうの!」
月子夫人は、答えた。
「それに気の強い性格の春風彩子さんは、そんな怪人なんかに弱みを見せるのがいやらしいの・・・」
困った表情で、月子夫人は太陽少年に言った。
「僕に、そんな大事な警護が出来るでしょうか? この前のこともあるし・・・・」
自身なさそうな太陽少年を見つめながら、姉の月子は強く言った。
「大丈夫よ!宮澤警部も50人の警官を動員して警備に当たってくれるし、なにより警部自身が、あの風男に恨みがありますからね!」
うふっと、笑いながら元気付けてくれる月子夫人の言葉に、太陽少年は自分にも警護が出来るような自信を与えてくれるのだった。



女優・春風彩子の新作映画「春風物語」の完成披露パーティーの当日になった。
その日は少し早めに起き、京都まで行き、都電の嵐山線に乗った。
撮影所のある駅には、完成披露パーティーに出席するだろうと思われる、映画で見覚えのあるような俳優の顔が数人見えた。
駅を下りると、松竹梅映画撮影所は直ぐ近くに有った。
撮影所の玄関や周りを囲む塀の付近は、宮澤警部の部下である警官たちが厳重に警護している。

入り口近くの受付で名前を書いていると、宮澤警部が手を振ってやってきた。
「やぁ!太陽君~!今着いたのかい!?」
相変わらずの赤ら顔の警部は、酒も飲んでないのに鼻の頭や頬が赤かった。
「今着きました。厳重な警備ですね。これなら風男も逮捕できるかもしれません!」
太陽少年は警部に向かって、言った。
「うむぅ・・しかし、どんなに厳重にしても油断は出来ん!あいつは、どんな能力を持っているのかわからんからなぁ・・・」
ほんのちょっとだけ不安な顔つきをしたが、直ぐにいつもの顔に戻って、警部は太陽少年に言った。

「例の段取りはついてますか?」
少し緊張した面持ちで、太陽少年は宮澤警部に尋ねた。
「月子さんもさっき来てくれて、準備を手伝ってくれてるよ。そうさな・・・準備は万端、仕上げをごろうじろ!っていう奴だよ!太陽君!」
わっはつはっ・・と笑う顔は、いつものリラックスした警部の顔に戻っていた。
遠くに居て、作業を手伝っている城萬月子も、こちらに気がついたのか、手を振っている。



松竹梅映画撮影所のビルの中の迎賓室で、完成披露パーティーは開かれる。
撮影所の3階に有り、ビルの入り口を通らなければ、誰も入ってくることは出来ない。
太陽少年と城萬月子は、小学校の体育館を少し小さくしたような大きさの迎賓室に入っていった。
部屋のあちこちにあるテーブルには食事が用意され、良い匂いを漂わせ、いやがうえにも食欲をそそらせる。
部屋の中には、映画関係者や見たことのある俳優や新聞社の記者達で賑わっている。
窓は開け放たれ、さわやかな春めいた心地よい風と春の匂いを、部屋の隅々にまで行き渡らせていた。
そんな爽やかな春に相応しい容貌で、中央辺りで来賓たちににこやかに会話ををしている美しい女性が、女優の春風彩子だった。

春風彩子が、太陽少年と月子が入ってきたのに気づいて、こちらの方にやってきた。
「あなたが、あの名探偵城萬二郎さんの肝いりという少年ですね!」
春風彩子は、太陽少年より背が高く、ほっそりとしてまるで女神のようだった。
良い香水の香りがして、都太陽少年はクラクラと倒れそうな面持ちになっていた。
胸には、あのダイヤモンドのネックレス・サウザンクロスが、夜空の星のようにキラキラ輝いている。

「ぼ、僕が、都太陽です!」
握手しようと、緊張しながら右手を出した。
「よろしく。私の宝物を守ってきださいね。太陽さん。」
そう言うと、春風彩子は、太陽少年の手をギュッと握り返してくれた。
心臓がドキドキと脈打っているのが、いつもより強く感じられる。
太陽少年は、初めて会う銀幕のスターに、ボーと魂を抜かれてしまったようだ。

月子夫人が左手の肘で、太陽少年の背中をコツンと軽くつついた。
「ボゥーとしてちゃ駄目よ!風男は今にも現れるかもしれないんだから!」
ハッとして我に返った太陽少年は、月子の顔を見て照れくさそうに微笑んだ。
「・・・あぁ!そうだ!・・例の準備は整っていますか。」
恥ずかしさをごまかすように、妙に真面目な口調で太陽少年は尋ねていた。
それが可笑しかったのか、城萬月子はクスクスと笑いながら答えていた。
「抜かりは有りませんことよっ!」
そんな風に月子がおどけて言うものだから、太陽少年もつられて笑ってしまっていた。



冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その3 完結篇へ続く

冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その1

2008年06月01日 00時37分07秒 | 小説


登場人物
都太陽(みやこたいよう)
城萬月子(じょうばんつきこ)
宮澤警部(みやざわけいぶ)
春風彩子(はるかぜあやこ)
& 怪人風男

怪奇 風男

都太陽少年と城萬月子夫人と宮澤警部は、怪人風男を町外れの空き地にまで追い込んだ。
「もう、観念しろ!風男!」
太陽少年は、黒いシルクハット黒いタキシードと黒いマントに包まれた、風男に向かって叫んだ。
「さぁ!四越百貨店から盗んだ黒真珠・銀河の瞳を、今すぐ渡すんだっ!」
風男は数十分前、厳重な警備を掻い潜り、高級デパート四越百貨店から、時価3億円はするという直径20Cmはあろうかと思われる黒真珠・銀河の瞳を盗んだところだったのだ。

宮沢警部の拳銃は、キッチリ風男に向けられている。
「ふっふっ・・・無駄だよ、私に拳銃の弾など通用せんっ!」
怪人風男は、ギョロリとした目つきで、不適に笑っている。
「なっ・・なんだと・・・今すぐ渡さんと、撃つぞっ!」
宮澤警部の声には、怒りがこもっていた。
警部の両手に握られた拳銃は、風男に向けられ、今にも引金を引かんばかりである。
「さぁ!撃ってみろっ!!」
白髪の混じった長い髪の毛を風に揺らせながら、風男はニヤリと笑って挑戦的に言った。

パァァァァ~ン!!
空き地の空間を響かせ、宮澤警部の拳銃が火を吹いた。
と、同時に、風男の右手が、野球のボールを投げるような仕草をしたのだ。
瞬間に、太陽少年と風男の真ん中くらいに、ポトリと、警部の拳銃から発射された弾丸が地面に落ちた。
風男の手から発射された風圧の塊・風圧弾が、拳銃の弾丸を飲み込み、弾丸の運動エネルギーを吸い取ってしまったのだ。
落下した弾丸は、その衝撃と摩擦熱で熱せられ、地面に生えている雑草をうっすらと焦がしている。

「な・・なんてこった・・・・」
警部は、愕然とした表情を浮かべ、つぶやいた。
「警部・・・奴が何故、風男と呼ばれているか、知っていますか?」
太陽少年は、戦う姿勢を崩さず、宮澤警部に言った。
「あいつは、風を操ることができるんですよ・・だから、風男と呼ばれているんです!」
太陽少年は、風男を鋭く指差しながら、言ったのだった。
「なんだって・・・・」
警部は、信じられないといった表情だった。

「そういうことなんだよ、警部・・・俺は、風を自分の思いどうりに動かせるんだよ!」
風男は、警部を馬鹿にしたようにせせら笑っている。
「俺の風圧弾を受けてみろっ!」
言うが早いか、風男は手のひらから目に見えない風圧弾を、警部めがけて投げつけた!
ボォォォォ・・・と、
汽船の警笛のような音をさせながら、見えない風圧弾は警部の拳銃を直撃した。
圧縮されてボールのような塊になった空気は、ヘビー級のボクサーのストレートパンチよりも強烈な威力を持っていた。
パチィーンッと、風男の風圧弾は、警部の拳銃をもぎ取るように空き地の外れまで吹っ飛ばした。

警部の手は、痺れてジンジンしていた。
「警部!危ない!」
太陽少年は叫んだが、それも虚しく、警部の下顎に2発目の風圧弾がアッパーカットのように炸裂した。
ド~ンと、太り気味の警部の体が箪笥が倒れるよに後ろに転倒した。
「やめなさいっ!」
名探偵城萬二郎の妻であり助手でもある、城萬月子夫人が叫んだ!
「威勢の良いご婦人だ・・・ふっふっふっ・・君が、あの城萬二郎の細君か・・・」
「しかし、威勢の良いはここまでだっ!」
ボォォォォォ・・・!!
低い警笛の音が、月子婦人に素早く迫ってくる。
瞬間に、3発目の風圧弾が月子夫人のみぞおちに当たり、月子はくの字に曲がり、声も立てずに気絶した。

「なんてことするんだっ!卑怯者!」
太陽少年は、風男を罵って叫んだ!
「小煩い小僧めっ!君にはカマイタチ手裏剣を御馳走してやろう!ふふふっ!」
不敵に笑いながら風男は、力道山の空手チョップのように平手を振り下ろした。
ヒューン!と、軽い音を立てて、太陽少年の右の頬あたりを風が通り過ぎて行った。
太陽少年の耳や髪の毛や頬が、後方に引っ張られるように感じた。
瞬間に、鋭い痛みが太陽少年の右頬に走った。
そして、なま暖かい液体が、頬をつたって流れるのを感じていた。

太陽少年は、その流れる液体を指で触り、自分の血であることを確認した。
カマイタチは空気が真空になる時に人体の皮膚などに裂傷を負わせる現象だが、風男はそのカマイタチ現象を自分の意志どうりに操れるのだ。
太陽少年は、風男の不気味さと恐ろしさに、初めて気がついたようだった。
ヒューーン!と、見えない真空の凶器が、また、こちらめがけて飛んでくる。
小林少年は、とっさに、サッっと左によけた。
音だけが、ヒュンと虚空を舞った・・・・偶然にも、カマイタチの直撃を免れたようだ。
「チッ」と、怪人は舌打ちをしている。

「こんな時、二郎先生が居てくれたら・・・・」
名探偵城萬二郎は怪人ファント魔を巴里まで追いかけたまま、もう1週間も不在のままだ。
そんなときに限って、こんな不気味な怪人が事件を起こすのだ。
太陽少年は、だんだん心細くなっていく自分の気持ちが、少し腹立たしいように感じていた。
「くそっ!」
太陽少年は、拳を強く握り締め、風男に叫んだ!
「城萬二郎探偵事務所の面子にかけても、お前を捕まえてやるっ!」

「ふんっ!小生意気な奴!」
そう吐き捨てると、風男は太陽少年に向かって、さっきより大きく手を振った。
ビュュュューーーーンッ!
空気を裂くような大きな音が、足元を通り過ぎた・・・・
間髪を居れず、小林少年のズボンをスパッと引き裂き、右足の皮膚をも鋭く切り裂いていった!
「うううっ・・・」
あまりの激痛に、太陽少年は直立していられなくなって、ガクリと跪いていた。

「子供でも、容赦はしないぞ・・憶えておけ!」
勝ち誇った声で言いながら、風男は両手をグルグルと回し始めたのだ。
すると男の足の辺りに、小さな旋風が発生しはじめ、その旋風はしだいに大きくなっていった。
ゴゥッと空気を渦巻く音を立てながら、旋風が竜巻になり男を飲み込んでいく勢いだ。
突然に風男は、竜巻にフワリと飛び乗るような仕草になり、空中に浮いていた。
「黒真珠・銀河の瞳は、俺が頂いておく! 少年よ!また、会おう!わっはっはっ・・・・」
そう言葉を吐き捨て、風男は文化住宅の屋根の波の遥か上空の青空の彼方に消えていった。
空の青さまで、怪人風男に味方しているように、太陽少年には見えた。

都太陽少年は、悔しさのあまり涙で滲んで回りがよく見えなかった。
「くそっ・・悪い奴は、去っていくとき、なんで笑うんだ・・・!!」
癇に障る風男の笑い声が、耳についてはなれない。

「太陽君、大丈夫かね。」
宮澤警部が気がつき、心配そうに言った。
「僕は、大丈夫です。それより月子姉さんは大丈夫でしょうか・・・」
痛みを堪えながら、答えた。

「あいつは人間なのか?小林君・・・?」
宮澤警部は、気絶した太陽少年の姉でもある城萬月子を抱きかかえながら言った。
「わかりません・・・」
太陽少年は右足の激痛を堪えながら答えた。

「うぅっ~ん・・・・・」
月子夫人が、抱きかかえられた宮澤警部の手に中で息を吹きかえしていた。
「まぁ大変!血で真っ赤だわ!」
しばらく茫然自失状態だったが、真っ赤に染まった弟の太陽少年の右足を見て月子は言った。
「大丈夫です、これくらいの傷・・・」
太陽少年は気丈にもそう答えたが、本当は痛くて倒れそうなのだ、しかし、弱気なことは言えない性分なのだ。
正気にもどった月子夫人は、絹のハンカチーフを裂き、太陽少年の右足に包帯のように巻いてくれた。

「黒真珠・銀河の瞳を盗られてしまいました・・・・!」
太陽少年は、悔しそうに言うと・・・・
「命に別状がないのが何よりだわ。さぁ、城萬二郎探偵事務所にもどりましょう・・・」
そう優しく言ってくれる姉の言葉が、右足の痛みを少し和らげてくれるのを太陽少年は感じていた。

風男を追い詰めた空き地には、時折ピューと弱いかぜが吹き、雑草を生物のように揺らしている。
都太陽少年と城萬月子夫人と宮澤警部は、敗北を咬みしめながらも次の戦いの気力を取り戻していくのだった。



冒険小説 少年探偵・都太陽 怪奇風男 その2へ続く