憲法を改正するのは、現在とても難しいですが、このような案もあります。
【大阪日日新聞、日本海新聞2月15日掲載《慶応大学、小林節教授の『一刀両断』》より】
『興味深い幸福実現党の憲法9条論』
私の教え子のひとりに、饗庭直道君という、幸福実現党の党首を務めたことのある青年がいる。最近、彼が私の研究室を訪ねて来て、一見ユニークな憲法9条論を説明してくれた。
それは、9条の解釈・運用として、これまでは対立するしかなかった諸説を、状況に応じて使い分けるべきだというものである。それは、大要、次のものである。
まず、世界史の現実の中で自国の独立ひいては自国民の自由、生命、名誉、財産を守ることは、国家の最低限の責務である。
その点で、わが国の最高法である憲法は、国家の行動規範として、次のように定めている。
つまり、(1)日本国民は、…平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した。(前文)(2)その上で、戦争と…武力の行使は…永久に…放棄する。そのため、…戦力は…保持しない。(9条)
しかし、これでは、国際政治の現実の中で日本は滅んでしまう。だから、将来、憲法を改正して、国家の自衛権と自衛軍の保持を明記する。
とはいえ、そのような改憲は具体的な政治日程に乗っていない。しかし、それまでの間も、現実にこの国の独立は、北方領土、竹島、尖閣諸島の状況に見られるように、さまざまに脅かされている。
そこで、改憲までの間、解釈・運用で国の独立を守る。
つまり、理想・基本方針としては上に引用した前文と9条は否定しないが、現実にその「公正と信義に信頼」できない諸国に対してだけは「戦争と武力の行使を放棄」せず「そのための戦力は保持」する…とする。
これは、一見して御都合主義のように思われてしまうかも知れないが、決してそうではない。
まず、日本国憲法の基本精神は「平和主義」であるが、それは、決して「敗北主義」(つまり、不当な侵略に無抵抗で滅びる方針)ではない。
だから、世界史の現実を前にして、わが国が、その公正と信義を信頼できる国に対しては決して戦争に訴えないが、信頼できない軍国主義国家に対しては、屈せず、自衛権を行使する…と宣明することによりわが国の独立を保持することは、憲法と矛盾しないのではなかろうか。
なぜならば、法令の条文の解釈は前文等に明記されたその立法趣旨の制約を受けて行われるべきものだからである。