診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

狭心症、心筋梗塞(虚血性心疾患)とは?

2021年04月04日 | 医療、健康

当院は虚血性心疾患に特化した循環器内科であるということで、胸痛を主訴に来院される初診の患者さんが以前から沢山おられます。しかし、全く問題のない胸痛である場合が殆どです。受診される方は案外 20~30 歳台と若い方が多く、症状をインターネットで調べ、自分で狭心症、心筋梗塞と判断して来られる傾向にあります。そもそも、狭心症とはどうして起こるのか? 心筋梗塞はどうして起こるのか? ということを理解すれば、不安も解消するはずです。当院のホームページを見られて受診される方が多いので、下記を参考にしてからお越し下さい。

① 狭心症とは、冠動脈という心臓の表面を取り巻いている 3~4 mm程度の血管(パイプ)にコレステロールなどの塊(プラーク)が長年にわたってこびり付き、その血液の流れが悪くなることにより、心臓そのものが栄養をもらい難くなる疾患です。プラークは年々カチカチになってしまい、そうなればコレステロールの薬を服用しても最早手遅れということになります。これがいわゆる冠動脈の動脈硬化というものです。当然、冠動脈のみならず、脳血管をはじめ、全身の血管にも同様の影響は出てきます。では、コレステロールの塊(プラーク)がこびり付く原因は何なのかということになります。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が長年高値のまま治療なく経過している場合、糖尿病のコントロールが不良(HbA1cが 7 %以上)の状況が長年持続している場合、血圧が高いにも関わらず、症状がないからと長年放置している場合がその殆どの原因になります。長年というのは個人差がありますが 7~10 年ほどの場合が多いです。当然、年齢(男性では 40 歳以上、女性では 50 歳以上)というのもリスクの一つには上がりますが、前述のリスクが無ければ、狭心症や心筋梗塞を来す可能性は非常に低いということです。また、女性ホルモンは動脈硬化を予防する大きな働きをすることがわかっており、女性の場合は閉経してからが注意です。

② 胸痛といっても特徴があります。 冠動脈の全てにプラークがこびり付くわけではなく、こびり付きやすい部位というのがあります。胸痛といった症状が出るのは血管の直径の 3/4 ほどが詰まってくると起こりやすくなります。ではどんな時に胸痛がでるかということです。大人しくしているとき、座っている時、眠っている時など安静時には胸痛は起こりません。階段を昇っている最中、ジョギングをしている最中、荷物を運んでいる最中、テニスなどの運動をしている最中など比較的心臓に負荷がかかっている時に起こります。血管が最早 3/4 以上狭窄してきているわけですから、これらの労作をすれば再現性があります。半年に1回、月に1~2 回胸痛を感じるといって受診される方がおられますが、この程度の頻度では異常ないことがお解かりと思います。数年前に胸痛を感じ、近医で狭心症と診断され、今回久しぶりに胸痛が出ましたと言って来られる方も結構おられます。数年間、胸痛がでない狭心症などありません。診断が間違っていたことになります。また、胸痛の持続時間は 2~5 分程度です。一瞬や数秒、あるいは数十分~数時間などはあり得ません。但し、冠動脈が完全に詰まれば、最早痛みは消失せず、七転八倒し、息苦しさなども出現し、救急車を呼ばざるを得ない状況になります。これが心筋梗塞です。狭心症の延長線上にあるので、大抵は前述の狭心症を経験するのですが、15 %ほどの心筋梗塞は無症状(プラークの狭窄が 3/4 に満たない)から突然発症する場合があります。しかし、これらの症例もLDL高値、糖尿病、高血圧などが十分コントロールされていないはずです。循環器医はコレステロールに非常に慎重になりますが、他の領域の内科医は食事、運動療法を指示する程度である場合が多いです。コレステロールは乳製品や魚介類(イカ、エビなど)で上昇しますが、40 歳半ばを過ぎる頃には内因性のコレステロールが上昇して来ます。寝ている間に、肝臓で作られるコレステロールの量が年々増加していきます。これに対しては、食事療法や運動は無効で、薬を服用する以外はありません。内服治療を受けられ、正常に安定すると薬を止めたいと言われる患者さんが時々おられます。いわゆる素人判断です。身を持って理解してもらうために 2ヶ月休薬し、採血して確認しますが、当然再上昇しています。LDLコレステロールの上限値は 139 ですが、狭心症や心筋梗塞に罹患され、カテーテル治療を受けられた方はLDLコレステロールを 70~80 程度まで下げた方が、再発率がかなり抑えられると解かっています。ですので、当院の患者さんには一般の 2~3 倍の高脂血症の薬を投与されている方が結構おられます。正常であればいいのではありません。インターネットやTV、雑誌などによる薄っぺらい知識で私に対抗しようと来る患者さんがおられますが、かえって不利益になりますので要注意です。

③ 狭心症にはもう一つ、冠攣縮性狭心症というのがあります。画像上(カテーテルやCTによる造影検査)で狭窄が殆どない冠動脈で起こる胸痛発作です。これは前述と異なり、労作には関係なく、殆どが気温の下がる早朝や冬の外気、夏のエアコンなどの寒冷により数分間の胸痛を自覚します。狭窄が殆ど無いといっても、コレステロールや糖尿病、高血圧などによる冠動脈の内膜に障害(傷がつき)があり、その部位が寒冷刺激により数分間痙攣を起こして一時的に冠動脈の流れが悪くなって胸痛が起こります。殆どは数分で痙攣は消失し改善しますが、ごく稀に完全閉塞を起こし、血栓が形成され心筋梗塞を起こす場合があります。この痙攣による現象はニトログリセリン(ニトロペン、ミオコールスプレー)の舌下により 40~50 秒で改善します。20~30 歳台ではまず起こりません。先日も20歳台の方が他院で冠攣縮性狭心症を疑われ、当院を受診されましたが、冠動脈のリスクが全く無く、問題なく経過観察と診断しています。

問題のない胸痛の殆どは、ストレス、疲労、不安、環境の変化などの因子が精神面に影響し、自律神経の緊張感が高っまた状況が続くときに起こりやすいと考えられています。いわゆる不安神経症という状況です。これらの因子が解決されるか、軽い抗不安剤を一時期内服するかで自然に症状は消失していきます。心配し過ぎないことが改善の早道です。胸には心臓以外に、肺、大動脈、筋肉、神経などがある訳ですから、その点についての不安があるようでしたら診察を受けて下さい。


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