診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

トリプトファン事件

2022年12月31日 | 医療、健康

健康食品、サプリメント( 健康補助食品 )の摂取は副作用もなく安全であると誤解されている場合が多く、過剰摂取には注意を要することを前回お話した。1989 年(平成元年)に健康食品による衝撃的な事件が起こった。睡眠と日内リズムに関連するセロトニンとメラトニンに体内で代謝される必須アミノ酸であるトリプトファンの健康被害事件である。トリプトファンは、睡眠導入のサプリとして米国では爆発的に売れた。しかし、これを摂取することで約 1,500 ほどの人がアレルギー反応に深く関与する白血球の一種の好酸球の増多と、非常に酷い筋肉痛を伴う新しい病気を発生し、『 好酸球増多筋痛症候群 』 と名付けられた。日本の昭和電工が大量に売り上げており、間もなく製造中止になった。製造工程(遺伝子組み換え)でごく微量の不純物が混入したことが原因と当初は考えられていたが、他社の製品でも被害者が少なからず出ていることなどよりこの考えは後に否定的となり、恐らく快眠を希望するあまりに過剰摂取したことが原因ではないかと考えられている。なんと死亡者が 38 名も出てしまったのである。この事件により、健康食品・サプリメントに対して過剰摂取には注意を要すること、真偽は不明であるものの遺伝子組み換えの食品を制限することなど注目された。現在、ダイエットを目的に本来の食事を制限し、栄養分としてサプリメントを何種類も大量に摂取して栄養分が補われたなどと紹介しているテレビ番組や芸能人が多いようだが、あくまでサプリメントは補助目的の健康食品であることを再認識すべきである。副作用は薬だけにあるのでなく、その服用方法を間違えれば、健康食品にも起こり得るのである。さらに付け加えると、一般食品にもあり得るということである。美味しいからと、ひたすら欲望のまま食事やアルコール、おやつを摂りすぎたり、友人に誘われたからとちょこちょこランチと称して外食したりする人が多いのには驚きである。これ皆、一般食品の過剰摂取で糖尿病、高脂血症、肝機能障害などを発症しますよね。これこそ正に一般食品の副作用なのですが、気付いていない人が多すぎます。いい大人なんだから、自己制御し、もっと自分に厳しくならないとといつも診察しながら思っています(笑)。


健康食品 ・・・ 科学的根拠が要らない

2022年12月29日 | 医療、健康

健康食品、サプリメント( 健康補助食品 )の市場が本邦では年間  兆円に届こうとしている。そもそも食品は一般食品と保健機能食品( 特定保健用食品( トクホ )や機能表示食品 )に区別される。保健機能食品はある程度、科学的根拠を示さないと承認されないが、この科学的根拠も非常に怪しいものである。一方、市場の多くを支配している健康食品やサプリメントは一般食品に属するため、科学的根拠は要らない。その半面、効果・効能をパッケージなどに表記することができない。『 ○○〇に効く! 』 などと表記してしまえば違法になる。いわゆる口コミで伝えていくしかない。一例を紹介すると、夜間の頻尿に効果があるのではと言われている 『 ノコギリヤシ 』 というサプリメントが数社から販売されている。一般食品とみなされるので効果・効能を表記することはできない。K製薬の商品では 『 水分をとると夜に何度も・・という中高年男性に 』 と記してある。D社の商品では 『 ◇ キレ・近さに悩んでいる  ◇ 夜中に何度も・・・ ◇ 安心して出かけたい 』 と記載されている。この文面だけ読めば何のこと? というわけだが、ノコギリヤシをネットで調べれば科学的根拠がないにも関わらず、男性頻尿に効果があるといったことはあちこちに載っている。まあ、インチキ的な法整備である。健康食品やサプリメントは科学的根拠不要で販売元がパッケージに記載さえしなければ、好きなことを言っても自由なのである。また、これらの摂取は副作用もなく安全であると誤解されている場合が多い。しかしながら、過剰摂取には注意を要する。歳を取ると骨が弱くなるという理由でカルシウムを積極的に摂ろうと、乳製品を過剰摂取した上に、カルシウムのサプリまで購入して服用されている人がいる。科学的にはどんなに多くカルシウムを摂っても、骨量はわずか1%未満しか増えない。逆に、多く摂れば摂るほど、血中のカルシウム濃度が上昇して、動脈硬化を加速させてしまい心筋梗塞や脳梗塞を招いてしまう結果になる。メリットとデメリットを考えるとお分かりかと思う。次回、『 トリプトファン事件 』 について触れようと思う。

 


マスクは日本国の民族衣装!?

2022年12月01日 | 新型コロナウィルス

高齢者の患者さんから、『 5 回目のコロナワクチンを打ってきました 』 とか、『 5 回目のワクチン接種券が届いたのですが、打たないといけませんか?』 という質問が毎日毎日診察中にある。所詮、少し強めの喉風邪なので、重症になり得ることも死ぬこともないのでそこを考えて接種するかどうか考えては如何ですかと回答している。少しでも不安なら接種すればいいし、まあ、罹っても風邪程度なら辞めておこうという考えでもよいと思う。それより、見切り発車したこの m-RNA ワクチンを 1 年半ほどの間に4 回も 5 回も打って将来大丈夫か?ということである。この答えは誰も知らない。先の限られた高齢者は良いが、子供や若年者に将来、何らかの障害はでないのかと不安になるが、誰もわからない。6 割以上の国民がワクチンを打てば集団免疫ができ、収束するだの、梅雨や夏はウィルスの感染能力が弱くなるだとか、ウィルスの一般論を得意気に語っていた専門家と言われる者の推測などコロナには全く当てはまらない。私は、ワクチン反対派ではない。コロナが起こりだし肺炎で倒れ、人工呼吸器やECMO を装着された従来株、α 株、δ 株の時は、迷うことなくワクチン接種を勧めたが、最早オミクロン株になってからは、むやみに打つ必要があるのか凄く疑問に感じている。コロナが続く限り、6 回目、7 回目・・・と続いていくのではと思われる。欧米では殆どマスクをしていない。この国だけいつまでもマスクをし続けている。冬季ぐらいは着けても悪くないが、相変わらず広い屋外でも皆着けている。恐らく、この先 3 年も 5 年もいやその先もマスクをし続け、頭に巻かれるターバンがインドや中東のイスラム世界での象徴のように、マスクは日本国の民族衣装として海外では認知されるようになるであろう。なんとも情けない話である。先日、私用があって先輩のクリニックを訪れたのだが、予約制を導入していないこともあって、待合室は立ち見となり混雑。その割には、医師、看護師、事務員は皆マスクの上にフェイスシールドを着け、白衣の上にガウンを着、手には青いゴム手袋をし、受付の所には飛沫予防の為のビニールシートが垂れ下がっていた。『 えっ!2 3 年前にタイムスリップ!? 』 と驚愕してしまった。医者でもこんなに不勉強な人が身近にいるとなれば、一般の人でも未だにコロナを恐れる人がいるわけだと納得した。