診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

脳貧血 ?

2024年07月15日 | 医療、健康

夏になって気温が上がり、発汗などにより体内から水分が減少すると血圧が下がってきます。冬と同じだけの降圧剤を服用していると血圧が下がり過ぎてしまう人が結構います。この季節は一段階、降圧剤を弱くして服用してもらう方が多いです。診察室では血圧測定以外に、『 最近、立ちくらみは出ていませんか? 』 と質問し、血圧の過剰な低下が無いか確認しています。『 昨日、貧血が酷かったです 』 といわれる患者さんが時々おられます。『 え、貧血?どんな症状が出てましたか? 』 と聞くと、立ちくらみやふらつきを訴えます。なるほど、貧血?ね。世間一般では脳貧血 と言われているようですが、医学的にはこの症状を貧血とは言いません。貧血と言われたら、全く別の病気を考えてしまいます。この場合は、血圧低下による一過性の脳虚血の状態ですが、病院で 『 貧血が酷いです 』 なんて言ったら、血液検査をされてしまいます。医学的な貧血とは、赤血球の成分であるヘモグロビン(血色素)が減少する現象を指します。このヘモグロビンは酸素を全身の各臓器に運ぶトラックの役目をするので、これが減少すると臓器が酸素欠乏になっていくわけです。症状としては、頻脈(動悸)、息切れが大半で、さらに進むと顔や手足のむくみ、臓器障害が出てきます。貧血にはいくつもの種類があり、特に頻度の多い鉄欠乏性貧血は有名です。これは名前の通り、鉄分が不足する貧血で、過度のダイエット、菜食主義による鉄摂取不足や、婦人科疾患の出血過多(月経不順、子宮筋腫による出血など)、高齢者になると、胃や腸からの鉄吸収が悪く鉄欠乏性貧血を呈することも少なくありません。しかしながら、注意が必要なのは悪性疾患、特に胃がん、大腸がんによる慢性の消化管微量出血によるものが比較的多いことを経験します。鉄欠乏性貧血と診断された場合は、鉄剤の薬を服用するのが一般的ですが、同時に胃カメラ、大腸ファイバーを受けることが無難です。極端な菜食主義者や胃腸からの吸収障害によるビタミン B12 欠乏性貧血、葉酸欠乏による貧血などは頻度は多くないものの時々遭遇します。腎機能が低下してくると、造血因子が減少して起こる腎性貧血(高齢者でちょこちょこ遭遇する)、その他 溶結性貧血や再生不良性貧血、赤芽球癆・・・ など多種あります。貧血もないのにあるいは原因もわからず、鉄剤のサプリをTVコマ―シャルに騙されて服用している人がそこそこいるようですが、不要なことをして体調を崩さないことを祈ります。


『 機能性ディスペプシア 』 と 『 頭位変換性めまい 』

2024年06月09日 | 医療、健康

毎年 4 5 月の木の芽時になると、多くの人が 体調不良を訴える。気温の寒暖差によるストレスにより自律神経の機能が乱れやすくなってしまう。『 胃がムカムカする 』 、 『 少し食べるだけでお腹が張る 』 、 『 吐き気が続く 』 、 『 胃がキリキリする 』 など、上腹部 (心窩部) の症状を訴える人が増える。私も、そのうちの一人である。症状の精査目的で胃カメラ (内視鏡) 検査を行うも、胃炎や潰瘍、さらには胃ガンなど (器質的異常) もなく、比較的綺麗な胃であるにも関わらず、症状は取れず長引く場合もある。これは胃の機能的な異常 (動きが悪い) によって、症状が引き起こされていると考えられ、『 機能性ディスペプシア 』 と呼ばれる。治療としては、胃酸を抑える薬、胃の動きを良くする薬などを服用するのであるが、良く反応する場合と殆ど反応しない場合がある。そのうち自然に治ることが一般的である。私の場合、先月、夜間睡眠中に突然吐き気を催し、トイレに起き上がったが、吐けない。気分の落ち着くのを待ったが、結局夜が明けてしまった。朝食も摂れず、水分のみ摂って出勤。体のだるさと吐き気は続きながらの診察スタート。この時は、流石に診察は困難かと悩みながら開始した。しゃべるのもきつかったが患者さんからは容赦はない(笑)。しかしながら、昼前にはかなり症状も改善し、午後の診察は普段通りできた。 また、先々週、覚醒時にベッドから起き上がろうとしたとたん、体が大きく揺れ目の前の景色がジェッ トコースターに乗っている時のように右から左から画面が歪んで飛び込んでくる。立ち上がることもできず、再び大の字をかいてベッドに倒れ込むも、症状は更に酷くなる。ベッド上に座り込むことで少し症状は軽くなり、5 分ほどして揺れは落ち着き、目の前の画面も落ち着いた。いわゆる頭位変換性めまい (BPPV) である。65 歳以上の女性に多く、診察の場で出会う患者さんは結構おられるので、この現象がすぐに理解できた。しかし、いざ実際に自分が経験するとこんなに酷いものかと驚いた。教科書通り、5 6 日で回復した。最初の 3 日間は、吐き気も伴ったため、朝食はできず紅茶のみで仕事に向かった。診察中も少し頭を左右に動かすと、突然ジェットコースターに乗っているような画面の揺れを感じる為、頭をできるだけ動かさないように注意しながら診察を続けたが、なかなか厳しい時間であった。6 月になり、気分不調を訴える患者さんも少し減ってきたようである。しかし、間もなく梅雨に入りじめじめした日が続き、梅雨が明けると恐ろしく暑い夏が待っている。調子よくなる季節なんてあるのだろうか?


『紅麴』 機能表示食品で死亡!

2024年04月01日 | 医療、健康

遂に出てしまったのか、日本版 『 トリプトファン事件 』。このブログの 2022 12 29 日および 31 日の記事『 健康食品・・・科学的根拠が要らない 』 と 『 トリプトファン事件 』を参考にして欲しい。今回、恐ろしいのは健康補助食品(いわゆるサプリメント)でなく、機能表示食品であるということである。表向きにはサプリメントよりも格が上の信頼性のありそうな印象を得るが、私も知らなかったが、販売側の自己申告で国の審査もなく了承されてしまうということである。この小林製薬、次から次へとウサン臭い商品を面白おかしくネーミングを付けて売りさばいている。てっきり厚労省の天下りが山ほどいて、簡単に承認されているのかと勝手に理解していたが、どうも国の承認の仕方に問題があったようである。医薬品としても 『 ナイシトール 』 と名付けて内臓脂肪が減少するなどと売っているが、これは 『 防風通聖散 』 という昔からある漢方薬に添加物を加えて売っているだけで、一昔前、『 防風通聖散 』 がやせ薬として週刊誌を騒がせたことがあり、結局それは効果なしと結論づけられた。また、足の痙攣(こむらがえり)を抑える医薬品として 『 コムレケア 』 というネーミングで売っている商品があるが、これも昔からある 『 芍薬甘草湯 』 という漢方薬に何らかの添加物を加えて売っている。この芍薬甘草湯はこむら返りに非常に良く効く漢方薬で、当院を含め日常よく医療現場では処方される。咳、痰の切れを良くする薬として 『 ダスモック 』 という商品も、漢方薬の 『 清肺湯 』 に添加物を加えて売っているだけ。これはあまり効かない。一般の人なら、この会社は次から次に凄い薬を作り出しているんだな~と感心し、過剰評価をしてきているに違いない。製薬業を愚弄するようなこのような商売の仕方がまかり通っていることに、何か制限を掛けるべきと常に思っていた。先月も、診察中に S さんとこれらの商品について話したことがあった。そこにきて今回の事件である。今、この商品のどこに問題があるかと精査中のようであるが、医者の立場からすれば、疾患をサプリなどの食品で治療しようなどと考えるのは大きな間違いであると考える。血液をさらさらにして脳梗塞や心筋梗塞を予防しようと 『 ナットウキナーゼ 』 を服用している人も多いようだが、ナットウキナーゼの作用機序では、これらの疾患の予防には全く意味がない。素人同士の浅い知識で予防、治療できるものではないことを認識するべきである。

 


2024年 スタート

2024年01月01日 | 医療、健康

新年明けましておめでとうございます。只々月を跨ぐだけなのに、年が変わると世間は大騒動です。しかし、時が過ぎ行くのは早過ぎますね。兎に角、一週間が早過ぎる。当然一ヶ月が早く経ってしまう。人間が気付かないうちに地球の回転速度が変わって一日24時間が実は12時間ぐらいになっているのではと考えたくなる。全てが神の仕業で科学でも気付かないような変化が起こっているのではと疑いたくなる。2019 年の年末から始まった新型コロナ騒動が何もかもおかしくしてしまったのもその要因の一つなのかもしれない。新年早々、能登半島が震源地と思われる大きな地震が起こってしまった。5 Mほどの大きな津波が押し寄せてくるとの警報が出されている。被災地の方々には大変気の毒な災害であるが、元日からこの出来事では、今年も前途多難な一年になると覚悟したスタートである。今、このブログを書いている時点では詳細は不明なのでこれ以上のことは控えるとする。さて、今年はどんな年にしたいものかと考えてみるが、特に何も浮かばない。仕事柄、多くの患者さんの疾患が、上手くコントロールできるようにと努力しつつ祈るばかりである。高血圧、高脂血症、糖尿病など生活習慣や加齢によるこれらの疾患は比較的治療も容易であるが、治癒できるわけではない。如何に自己管理と薬を上手く調節しつつコントロールし、脳や心臓などの合併症を防ぐかである。自己管理だけに頼っても疾患のコントロールはできないし、薬だけに頼っても同じである。当院には他院に比べて多くの慢性心不全の患者さんがおられる。よく聞かれるが、『 心不全って、どんな病気ですか? 』と。心不全は病気(病名)ではありません。字の如く、心臓の状態が完全ではない状態を意味する用語である。要するに慢性心不全とは慢性的に心臓が悪い(正常ではない)というだけのことなのである。では、その心臓が悪い原因は? というところが病名になる。それが、心筋梗塞によるものであったり、弁膜症(僧帽弁や大動脈弁の逆流症、狭窄症など)や心筋症(拡張型心筋症や肥大型心筋症)であったりで、これらが原因で心臓が慢性的に悪くなっていく(慢性心不全)。この慢性心不全は、経年的に確実に悪化して行くのだが、先ほど記したように自己管理と薬の調節でできるだけ進行を遅らせようとするのが我々が行っている医療(治療)である。開業して 20 年以上経過するが、この間、凄く良い薬が次々と創り出され、新しい治療法が生まれてきている。20 年前の知識(医療)では疾患を持った患者さんに最良の治療を反映してあげることができない。我々も日々勉強である。診察中に多くの患者さんから『 先生、いつまでも元気で私たちを診察してくださいね!』なんて暖かい言葉を頂くが、自分の中では、年々きつくなってきた体力の限界か、知識の習得ができなくなる(勉強できなくなる)時が引退と思っている。80 歳、90 歳と高齢でありながら診療をされている大先輩の先生方には頭がさがるが、中には、十分かつ新鮮な知識を取り入れられず、首をかしげてしまうような処方もよく拝見する。責任重大な仕事だけに、患者さんとの信頼関係も重要である。今年も宜しくお願いします。


ダイアベティス

2023年12月07日 | 医療、健康

世間一般同様に医学界でも馴染んでいた呼称が変更されることが目立つようになってきた。痴呆症が認知症、高脂血症が脂質異常症、慢性腎機能障害が慢性腎臓病など。最近では糖尿病の呼び名をダイアベティスに変更しようという案が日本糖尿病協会がら先日発表された。糖尿病は英語では diabetes mellitus(ダイアビティース メリタス)となるが、医療現場ではその頭文字を取って DM(ディーエム)と呼ぶのが一般的である。確かに糖尿病とは如何にも尿に糖が出てくる病気と思われがちであり、間違いではないが、糖が出ない糖尿病などよくあることである。私は予てから、糖尿病という呼び方には納得しておらず、診察室ではよく患者さんに『 全身性動脈硬化症 』という病態であると説明している。脳動脈がガタガタになりそのうち詰まってしまう脳梗塞、冠動脈がガタガタになって詰まってしまう心筋梗塞、目の血管が詰まってしまう網膜症、腎動脈が詰まってしまい腎不全に陥り慢性透析に移行、下肢の動脈がガタガタになり詰まる閉塞性動脈硬化症などなど、血糖のコントロールを怠ると全身の動脈の内腔はどんどん狭くなり、カチカチ(石灰化)になり(動脈が硬化する)、やがて詰まって(閉塞して)しまう。しかしながら今となって糖尿病の呼称変更として英語用語をカタカナ表記にするなど昭和の英語教育みたいなセンスのない変更には頭をかしげたくなる。どうせ、糖尿病協会の古臭い幹部が提案したことであろうと予測できる。また、高脂血症が脂質異常症に変更された(高脂血症も併用可)ことにも納得いかない。コレステロールや中性脂肪を脂質というが、共に高値であることが問題(動脈硬化の大きな原因)であって、低値であることは何の問題もない。脂質異常症にしてしまえば、脂質の低値も問題であるかのような誤解を招く。にも拘わらず、高血圧は変更せずそのまま。高脂血症が脂質異常症なら、高血圧は血圧異常症だろうと反論したくなる。全く、どこの権力者が自己を誇張しようとしているのかバカバカしい。

余談になるが、医学で使う略語が一般社会で使われる略語と同じものがいくつかあるので紹介する。日本の力を世界に知らしめた野球大会 WBC は医学では白血球( white blood cell )、最優秀選手である MVP は心臓弁膜症の一つである僧帽弁逸脱症( mitral valve prolapse )、チャットGPT は肝機能の指標の一つである GPT( glutamic-pyruvic transaminase )、音楽グループの AAA は医学では腹部大動脈瘤( abdominal aortic aneurysm )、教育現場での PTA は医学では下肢動脈などの末梢血管のバルーンやステント治療( percutaneous transluminal angioplasty )となる。まだまだ沢山ある。略語も本来の意味を知った上で使いたいものである。