この 4 月から1 年間、一部公費負担で帯状疱疹ワクチン接種が始まりました。この 1年間( 4 月 1 日~ 3 月 31 日)の対象者は、この期間に 65、70、75、80、85、90、95、100 歳になる方です。恐らく、来年度以降も同様に施行継続されると思います。接種ワクチンは、これまで頻用されていた国産の乾燥弱毒生ワクチン『 ビケン 』と、海外の乾燥組換え不活化ワクチン『 シングリックス 』の 2 種類があります。シングリックスは高価なため、自費で接種希望される方は殆どいませんでしたが、今回の公費負担で接種される方が多くなるのではと思われます。両者のメリットとデメリットを、幾つかの文献からまとめてみると、接種 1 年後の帯状疱疹予防効果は 50 ~ 60 %(ビケン)、90 %程度(シングリックス)、帯状疱疹に伴う神経痛予防効果は 60 ~70 %(ビケン)、80 ~ 90 %(シングリックス)。接種 5 年後の帯状疱疹予防効果は 40 %程度(ビケン)、80 ~ 90 %(シングリックス)。ビケンに関しては、5 年が経過した時点で、再接種の必要がありますが、シングリックスに関しては、接種 10 年後でも 70 %以上の予防効果が認められているため、2 度目の接種時期が 10 年以上先でも良いと考えられています。しかしながら、副反応はビケンが接種(皮下注射)部位の軽度の局所反応程度であるにも拘わらず、シングリックスは筋肉注射のため、70 ~ 80 %以上に中等度~高度の疼痛や筋肉痛、全身倦怠感などコロナワクチン接種に似た症状を伴い、両者には稀にアナフィラキシーショックを呈することもあります。ビケンは 1 回の接種、シングリックスは 2 ケ月あけて 2 回の接種が必要であり、費用は、自費の場合、ビケンが 8,000 円程度であるのに対し、2 回接種するシングリックスは 45,000 ~ 50,000 円もします。4 月から一部公費負担となり、自己負担額はビケンが 4,950 円、シングリックスは 1 回 11,000 円( 2 回で 22,000 円)です。但し、市民税非課税世帯、生活保護受給世帯の方に関しては、全額免除となります。先日、早々に 85 歳の女性が来院され、非課税なのでシングリックスを接種したいとお越しになられましたが、残念ながら、今年度に 85 歳になられる方でなく、この方は今年度内(来月)に 86 歳になられるので適応はなく、90 歳までお待ちいただくか、全額自己負担で従来通り接種頂くことになりますのでお帰り頂きました。というより、シングリックスに対する一部負担者と全額免除者の差が大きすぎ、不公平感が否めません。自己負担額が自費の約半額とはいえ、 22,000 円でシングリックスを選択する人はそんなに多くないと思われます。一方、費用の心配ない全額免除者では、容易にシングリックスを選択するという現象が起こってくるでしょう。これこそ平等でなくなってしまいます。本来なら、負担者の場合、2 種のワクチンの自己負担額は同等( 4,950 円)にし、その上で、副反応、効果を自己で考えた上で、ワクチンを選択してもらえばいいと思います。シングリックスが安価で接種できるからと、コロナワクチンのような全身倦怠感や痛み、発熱を伴う可能性のある副反応を経験するくらいなら、殆ど副反応のないビケンを選択する人も結構おられると思います。最後に、帯状疱疹は重症化するような疾患でなく、原因ウイルスを鎮静化し、疱疹の拡散を抑えることのできる内服薬は数種類あります。5 ~ 7日間服用すれば落ち着きます。しかしながら、疱疹部位に一致した神経領域のピリピリ、ズキズキした痛み(帯状疱疹後神経痛)が残ることが厄介で、殆どは数週間~数ヶ月で消失しますが、稀に数年以上持続することがあります。当院でも3年以上痛みが持続し、ペインクリニックに通院されている方が 2 名おられます。この痛みを避ける目的でワクチン接種をする訳です。
ブログを書こうとキーボードを打ちつつも、内容に不満な為、途中で断念することばかりで、なかなか新しいブログを書くことができない。関西・大阪万博や高校授業料無償化をはじめ、毎日耳に入る情報にはもううんざりで、ギブアップ状態である。住みにくいこの世の中とおさらばしたい気持ちでいっぱいである。古きを悪とし、AIが全てとし、便利そうで非常に不便になっていくこの世の中にはギブアップである。若者たちがこの世界に慣れ親しんでいることに不安を感じるが、それは唯の年寄りの戯言にしか過ぎないのかもしれない。
さて、今回は、つい先日経験した非常に珍しい症例について書いてみようと思う。
当院は、コロナ感染症が出現し流行しだした 2020 年より、待合室の混雑を避ける目的でフリーであった午後の診察も含め、完全予約制にしている。したがって、時間を要する初診の診察は、混雑する午前の予約は困難な為、比較的時間に余裕のある午後の診察で予約を取って頂くことになっている。先日、午後の診察で 29 歳の男性が初診で来院された。問診票には、『 一週間ほど前から少し歩くと胸が痛くなる。4 日前、朝から終日痛みが酷く、それが一日半ほど続いたが、今は痛みはありません。』といった内容であった。この内容だけからいえば、不安定狭心症から心筋梗塞を発症し、4 日経過した亜急性心筋梗塞という一連の疾患が浮かんでくる。しかし、『 29 歳! 心筋梗塞? まず、有り得ないでしょう! 』と考える。殆どの医師は、どんな疾患でも診断に、まず年齢を最優先する。29 歳の胸痛? 自然気胸、筋肉痛、不安神経症・・。まあ、若い人がよく訴えるストレス性の症状(不安神経症)であろうと考えたが診察前に心電図をとることを指示し、そして診察を行った。『 えっ! いま、息苦しくないですか? 胸の痛みはどうですか?』 と確認すると『 少し動くとどきどきして息があがりますが、動かなければなんともないです。痛みはありません。』との返答だった。心電図は、急性心筋梗塞後数日経過したものと判断した。『 ちょっと、心エコー(超音波)しますので横になって下さい 』と診察台に横になってもらい心エコーを施行。左心室の前壁の心尖部領域と心室中隔(左心室と右心室の間の壁)が殆ど動いていない。心電図の異常もまさしくこの領域を示していた。『 今、本当に大丈夫? 苦しくないですか? 』。心臓(心筋、冠動脈など)の解説図を見せながら、『 29 歳と非常に若いのですが、4 日前に心筋梗塞を発症し、現在、1/4 ~ 1/3 の心筋は動いていません。(図を説明しながら)この血管(前下行枝)の上流のあたりが詰まっています。早急にカテーテル検査を受けて、入院にて安静が必要です。』と説明し、目と鼻の先にある大阪労災病院の後輩部長に電話連絡し受けてもらった。本人にしてみれば、今は胸痛もなく、だいぶ楽になったのにといったところで、きょとんとしていた。40 年近く循環器医をしているが、尼崎の関西労災病院勤務時代に同じく 29 歳の心筋梗塞患者を他の医師が担当しているのを経験して以来の 2 例目で、このような若い人の心筋梗塞という診断は、あまりにも珍しく、頭の片隅にもない。心筋梗塞の場合、発症1週間程度は絶対安静が必要なのであるが、この方のように症状が楽になったからと動き回ると、壊死した心筋がペラペラ、フニャフニャになってくるので、障害の受けていない元気な心筋の収縮により引っ張られ、破れてしまう。いわゆる心破裂という現象が起こり致命的となることがある。翌日、病院担当医より想像通り、前下行枝の上流(# 6)が完全閉塞していたと連絡があった。この 3 日後、Iさんの定期診察時にIさんから、『 先生、先日は孫が大変お世話になりました。お陰様で一命を取り留めました。』と挨拶された。『 えっ。Iさんのお孫さんでしたか。よく痛みに我慢できましたね。大抵は痛みが酷いので救急車を呼ぶのですがね。』『いえ、胸痛があるので近くの医院を受診したのですが、ニトログリセリンを処方されただけで、大した事はないと言われて帰ってきました。私が、不安だったので、加藤先生に診てもらいなさいといって、先日伺った次第です。』『そうでしたか。そのままなら、心破裂で死亡するか、心不全で呼吸困難になって救急車を呼ぶことになっている可能性が高かったと思います。しかし、入院し投薬、安静などにより壊死した心筋も安定化し、2 週間程度で退院できると思います。しかし、将来に渡って 1/4 ~ 1/3 の心筋は殆ど動かない状態での生活になります。日常生活や、軽度の運動は問題ないでしょうが、若者の激しい運動などはできません。退院してからまた診察しましょう。』という一幕があった。本来、狭心症や心筋梗塞は、長年に渡って血圧のコントロール不良、糖尿病のコントロール不良、LDLコレステロールのコントロール不良、長年の喫煙などで径 2 ~ 4 mm程度の冠動脈が徐々に詰まってくる疾患であるから、若者で起こることはまずあり得ない。連日、胸の痛みや動悸で受診される初診の患者さんが多いのだが、殆どは精神的な不安や疲れ、ストレスなどによる自律神経の緊張による症状で心臓には問題がないことが殆どで、今回のような例は非常に稀であり、本物、偽物の狭心症を診断するのが我々の仕事である。
2025 年も明けた。一年が経つのはあっという間。毎年、年始には『 今年は何をしようか? 』 と考え、想像するのだが、特に思いつかない。夏の暑さに比べ、冬の寒さに弱い私は、例年冬になると気分が冴えず(どちらかというと、うつ傾向)、何をやるにも気力がわかない。年々、筋力の衰えを感じ、筋力トレーニングでも継続しようと思い立つが、三日坊主。最早、サルコペニアを発症していると自覚する自分に対策を講じていないことが問題と感じている。さて、サルコペニアとはどういうことか? これは、筋力、筋肉量が減少し身体機能が損なわれることを指す。加齢にともない、筋肉量は減少。肩、尻、太ももといった比較的大きな筋肉はやせ細って、ペラペラになってしまう。筋トレやたんぱく質食の摂取がその予防にはなるのだが、続かない。月に 3 ~ 4 回ゴルフのラウンドをするが、50 歳台後半から突然、飛距離が落ちてきた。どれだけ大きくクラブを振り回してもボールは飛ばなくなった。当然、筋力だけではない。肩の関節、腰の関節(腰椎)、股関節などの関節障害や全身の筋肉の萎縮や硬化といった障害が加齢により出現し進行していく。これにより、四肢や体幹部の可動域が小さくなり、体が思うように動かないこともボールが飛ばなくなる原因の一つである。これらの運動器機能障害をロコモティブシンドロームという。一年半ほど前からこのロコモティブシンドロームの対策として、80 分間程度のストレッチを専属のトレーナーについて他動的に月 2 回程度行っている。かなり、肩や股関節は柔らかく回るようになり、腕もしっかり伸びるようになった。益々歳を重ねていくと、筋力、筋肉量の減少(サルコペニア)が進み、運動器(筋肉、関節、骨など)の機能低下が進行し、歩行能力をはじめ、体の動きは自己の意識通りには動いてくれなくなる。そうすると、精神的にも不安が強くなり、時に『 うつ(老人性うつ病) 』になったり、社会的にも他人と交わることも減り、閉じこもってしまうようになる。これがフレイルである。元々、筋肉量の少ない女性が、高齢になると男性以上にサルコペニアが進行し、ロコモティブシンドロームを発症し、最後はフレイルになっていく。以前、ブログ『 83 』( 2019/10/19 )に記したように、女性の場合、83 歳を過ぎてくると、このフレイルが急加速してくる。早めの、対策が重要である。
過去のブログを紹介します。
『 83 』 (2019/10/19)
夏になって気温が上がり、発汗などにより体内から水分が減少すると血圧が下がってきます。冬と同じだけの降圧剤を服用していると血圧が下がり過ぎてしまう人が結構います。この季節は一段階、降圧剤を弱くして服用してもらう方が多いです。診察室では血圧測定以外に、『 最近、立ちくらみは出ていませんか? 』 と質問し、血圧の過剰な低下が無いか確認しています。『 昨日、貧血が酷かったです 』 といわれる患者さんが時々おられます。『 え、貧血?どんな症状が出てましたか? 』 と聞くと、立ちくらみやふらつきを訴えます。なるほど、貧血?ね。世間一般では脳貧血 と言われているようですが、医学的にはこの症状を貧血とは言いません。貧血と言われたら、全く別の病気を考えてしまいます。この場合は、血圧低下による一過性の脳虚血の状態ですが、病院で 『 貧血が酷いです 』 なんて言ったら、血液検査をされてしまいます。医学的な貧血とは、赤血球の成分であるヘモグロビン(血色素)が減少する現象を指します。このヘモグロビンは酸素を全身の各臓器に運ぶトラックの役目をするので、これが減少すると臓器が酸素欠乏になっていくわけです。症状としては、頻脈(動悸)、息切れが大半で、さらに進むと顔や手足のむくみ、臓器障害が出てきます。貧血にはいくつもの種類があり、特に頻度の多い鉄欠乏性貧血は有名です。これは名前の通り、鉄分が不足する貧血で、過度のダイエット、菜食主義による鉄摂取不足や、婦人科疾患の出血過多(月経不順、子宮筋腫による出血など)、高齢者になると、胃や腸からの鉄吸収が悪く鉄欠乏性貧血を呈することも少なくありません。しかしながら、注意が必要なのは悪性疾患、特に胃がん、大腸がんによる慢性の消化管微量出血によるものが比較的多いことを経験します。鉄欠乏性貧血と診断された場合は、鉄剤の薬を服用するのが一般的ですが、同時に胃カメラ、大腸ファイバーを受けることが無難です。極端な菜食主義者や胃腸からの吸収障害によるビタミン B12 欠乏性貧血、葉酸欠乏による貧血などは頻度は多くないものの時々遭遇します。腎機能が低下してくると、造血因子が減少して起こる腎性貧血(高齢者でちょこちょこ遭遇する)、その他 溶結性貧血や再生不良性貧血、赤芽球癆・・・ など多種あります。貧血もないのにあるいは原因もわからず、鉄剤のサプリをTVコマ―シャルに騙されて服用している人がそこそこいるようですが、不要なことをして体調を崩さないことを祈ります。
毎年 4 ~ 5 月の木の芽時になると、多くの人が 体調不良を訴える。気温の寒暖差によるストレスにより自律神経の機能が乱れやすくなってしまう。『 胃がムカムカする 』 、 『 少し食べるだけでお腹が張る 』 、 『 吐き気が続く 』 、 『 胃がキリキリする 』 など、上腹部 (心窩部) の症状を訴える人が増える。私も、そのうちの一人である。症状の精査目的で胃カメラ (内視鏡) 検査を行うも、胃炎や潰瘍、さらには胃ガンなど (器質的異常) もなく、比較的綺麗な胃であるにも関わらず、症状は取れず長引く場合もある。これは胃の機能的な異常 (動きが悪い) によって、症状が引き起こされていると考えられ、『 機能性ディスペプシア 』 と呼ばれる。治療としては、胃酸を抑える薬、胃の動きを良くする薬などを服用するのであるが、良く反応する場合と殆ど反応しない場合がある。そのうち自然に治ることが一般的である。私の場合、先月、夜間睡眠中に突然吐き気を催し、トイレに起き上がったが、吐けない。気分の落ち着くのを待ったが、結局夜が明けてしまった。朝食も摂れず、水分のみ摂って出勤。体のだるさと吐き気は続きながらの診察スタート。この時は、流石に診察は困難かと悩みながら開始した。しゃべるのもきつかったが患者さんからは容赦はない(笑)。しかしながら、昼前にはかなり症状も改善し、午後の診察は普段通りできた。 また、先々週、覚醒時にベッドから起き上がろうとしたとたん、体が大きく揺れ目の前の景色がジェッ トコースターに乗っている時のように右から左から画面が歪んで飛び込んでくる。立ち上がることもできず、再び大の字をかいてベッドに倒れ込むも、症状は更に酷くなる。ベッド上に座り込むことで少し症状は軽くなり、5 分ほどして揺れは落ち着き、目の前の画面も落ち着いた。いわゆる頭位変換性めまい (BPPV) である。65 歳以上の女性に多く、診察の場で出会う患者さんは結構おられるので、この現象がすぐに理解できた。しかし、いざ実際に自分が経験するとこんなに酷いものかと驚いた。教科書通り、5 ~ 6 日で回復した。最初の 3 日間は、吐き気も伴ったため、朝食はできず紅茶のみで仕事に向かった。診察中も少し頭を左右に動かすと、突然ジェットコースターに乗っているような画面の揺れを感じる為、頭をできるだけ動かさないように注意しながら診察を続けたが、なかなか厳しい時間であった。6 月になり、気分不調を訴える患者さんも少し減ってきたようである。しかし、間もなく梅雨に入りじめじめした日が続き、梅雨が明けると恐ろしく暑い夏が待っている。調子よくなる季節なんてあるのだろうか?