診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

5月からコロナは5類に

2023年01月27日 | 新型コロナウィルス

コロナは感染症法上、5/8 GW 明けから 5 類に引き下げられるようである。やっとといったところである。一年ほど前にデルタ株からオミクロン株に変わった時点で、毒性(重症化)の劇的な低下を認め、肺炎になり人工呼吸器や ECMO を装着されるようなことはなくなった。当然、オミクロン株感染による二次的でなく、直接的な死亡者も激減してきたわけである。感染のしやすさはこれまでのウィルス感染に比べものにならないほど高いことは事実で、今後も感染しやすいことには変わりはない。オミクロン株に変わる前には、当院の患者さん 3 名が、両側肺炎の重症化でお亡くなりになられ、他 3名が人工呼吸器装着による治療を受けられ回復されたが、オミクロン株になってからは、感染された方の数は圧倒的に増えたものの、95 歳のKさんを筆頭に重症化することもなく発熱、咽頭痛、咳嗽という症状を 35 日間認める程度で回復されている。5 回のワクチン接種を受けた方もそこそこ感染されており、データーは確認していないが、10 月以降のオミクロン株対応ワクチン接種もさほど効果があったとは肌で感じられない。3 回接種しておけば重症化なく風邪程度の症状で済みそうである。インフルエンザとオミクロン株の死亡率を比較すると、ほぼ同等であると報告されている。5 類になればゾーニングもできない手狭な当院でも、診察を行うことができる。2 類である現在、感染者と非感染者を分けて待機する部屋もなく法律上 発熱外来はできず、私が感染( PCR 検査陽性 )した場合、1 週間クリニックを閉めないといけなくなり、350 人ほどの患者さんの従来の疾患の診察、処方が出来なくなるのである。しかし 5 類になれば、その制限なく私が体調不良を訴えない限りは休診することなく診療が続けられる。開業して 22 年になるが、持病の尿管結石発作の激痛で計 2 日急遽休診にしたが、発熱などの症状があっても休診したことはない。濃厚接触の概念から、510 分程度の至近距離の診察でもマスクさえしておれば、感染や濃厚接触にはならない。逆に、患者さんが感染していても同様である。待合室や診察室で感染する可能性は非常に低いのである。今更、オミクロン株に対しての 5 類変更に賛成、反対なんて意味がなく、風邪程度でも罹りたくなければ、最小限の生活圏で過ごせばいいし、感染しても騒がず、風邪の治療(解熱鎮痛剤、咳止め服用)で経過を観るというなら、好きに動けばいいと思う。コロナが発生する以前に、風邪が流行る冬でもマスク、手洗いもせず、感染しても個人の判断で仕事をしたり通学したりしていた時をどう思うかである。オミクロン感染を理解もせず、理解しようとせず、只々連日の死亡者数の発表で怖がっていることに対して、意味を知って考え直す時である。死亡される方の多くはどんな人だと思いますか?


夢のある仕事、正解のない仕事?!

2023年01月05日 | ブログ

年末に ふとテレビをつけると、歌番組をやっていた。若い人たちはご存じだと思うが、Radwinps の 『 正解 』 という歌を耳にした。なかなか現代を上手く表現し、若者たちの共感と、我々中高年者の反省を、回顧を考えさせるいい曲だった。『 答えがある問いばかりを教わってきたよ。そのせいだろうか、僕たちが知りたかったのは、いつも正解などまだ銀河にもない・・・ 』 このフレーズに納得と感動を覚えた。自分の過去がそうだった。医者になろうと勉強する。なぜこんなに勉強しないと医者になれないのか? 答えのある問題を正解するまで解き続ける。こんなくだらないことに時間をつぎ込んでいる自分に辛さを感じていた。『 こんなのクイズお宅が強いに決まってる! 自分はお宅になり切れないので負けるだろうな?!』 と思いながら勉強をしていた。また 現代文(国語)の問題など、勉強の仕様がなかった。『 この時、筆者はどう思っていただろう? 』 なんて問がよくある。『 そんなこと筆者に聞いてみないとわからないでしょ!』 といつも反感しながら解答すると、大抵はハズレ。クイズが苦手だったんでしょうね(笑)。友達の半分ぐらいの点しか取れなかった。捻くれていたのかな、考え方が。『 こんなの勉強なの? 人の書いた作品に正解を作るなんておかしくないか? 作品を読んでいる側の感じ方でいいのではないのか! わざわざお金を出して小説を購入して、皆 同じように感じないといけないのか? くだらない受験勉強! 』 我々の時代は、塾など殆どなく皆、家で独自に勉強をしていた時代である。今のような溢れかえるほどの学習塾で受験に出そうな問題を繰り返し解かされ、そのテクニックを教わる。決められた正解を出すために。こんなシステムで育った人間の大半は、世の中には答えがあり、それに合わせて仕事をし、生活をすればいい(楽である)と考えているのであろう。出世することにも興味はないという若者が多く、先輩と食事に行ったりする事が憂鬱らしい。何かにぶち当たったとき、ちゃんとマニュアルやガイドラインがあるのでその通りすれば大丈夫と、答えを見つけ出すことは得意なようだが、自分の頭でその答えが意味するところを考え抜くことはせず、またその能力がない。医療に関してはもっとそうである。最早 IT なくして医療はありえない時代となり、ロボットや AI(人工頭脳)が進出しつつある。いわゆる 莫大なデーターの蓄積により疾患を一瞬にして診断し、治療選択を決定してしまう時代の到来である。30 年以上も前に医師になった頃、患者の問診からその状況を丁寧に聞き取り、今とは比べ物にならない貧弱な情報を参考に( 図書館に足を運んだり、何日もかかる文献を取り寄せたりし )その疾患の診断と、その時代に出来得る最良の治療を選択していた。当然、医師個人の経験、スキル、判断力(ある意味直観力)により患者の命は左右されることは多々あった。困難な症例には、複数の医師で討論を行い治療を行ってきた。ところが、今は院内を iPad 片手に種々疾患のガイドラインというものをクリックすれば、事細かに必要な検査(過剰な検査)、治療薬など一目瞭然である。よって、どの医者が担当しても大きなミスはなく、ある意味、患者にとって安心した医療が受けられるはずである。では、デメリットはないのか?というと、このガイドラインというのは平均的な治療であって、凡そ70 %程度の症例には当てはまるであろうが、残りの 30 %には不十分な結果になる。私が勤務医時代に担当した N さんと Y さんについて少しお話したい。お二人とも、急性心筋梗塞を発症し、救急車で病院に搬送。状態は非常に悪かったが、PCI (カテーテル治療)を緊急で行い、詰まった冠動脈を再開通させ、無事一命を取り留めた。しかしながら、その後の心機能の改善状況は非常に悪く、冠動脈の閉塞により壊死してしまった心筋の範囲が大きすぎ、残された正常部位の動きでは退院も困難な状況であった。意識はしっかりし、ベッド上ではお元気であったが、少し歩行するだけでも息切れが強いよく似たケースであった。これでは退院しても直ぐ逆戻りで平穏な日常生活は困難と判断し、当時の心臓外科部長と相談の上、Dor (ドール)手術をすることになった。広範囲に壊死した心筋を切り取り、残された健常な心筋を縫縮する手術である。今では比較的安全に行える手術となったが、当時は成功率も低く心臓外科部長からは気が進まない返事であった。まだ、50 歳前後のお二人でしたので、どうにか歩くことのできる生活をと思い、患者、心臓外科医師の架け橋として両者に手術を勧めた(非常に無責任な立場でしたが)。外科医の度胸、技術と 患者の医師に対する強い信頼でお二人とも大手術は成功された。Y さんは数年前 84 歳まで当院に通院され、その後は加齢に伴い通院が困難となり近医に変わられた。N さんは昨年 80 歳になられ、3 年ほど前には憧れのスイスへ海外旅行され、現在もお元気に過ごされている。当然現在では、この方々のデーターを含め、全世界の Dor 手術に対する成績、技術のデーターが蓄積され、比較的安全に成功率の高い治療となっている。今では iPad をプチっとクリックすれば Dor 手術を選択されるでしょう。ここで言いたいことは、ガイドライン重視では、その時代に応じてリスクが高いと判断される治療は選択肢に入っていないということである。正解のみを覚えることに訓練された若い医師たちには一人一人の患者に即した治療を考えることが少なくなり、ましてや治療結果によっては患者側から訴訟を起こされることも多く、リスクの高い治療は勧めない。最早医療はAI に任され、ロボットが手術する時代に入ってきている。ある患者さんから、『 息子を医者にしたいのですけど、本人はその気でない。できるだけ、医学部を受験してもらうよう勧めているのですが。』『 いや、お子さんがやりたいことをさせてあげた方がいいのでは? 30 年以上、興味のない仕事をしても面白くないし。我々の時代と違って、夢のない職業と思います。』 『 夢のある仕事ってなんですか?』 『 まずは、本人がそう思うことでしょう。医薬のように、国が関与するような仕事は大切ではあるものの、決して働く者として夢のある仕事とは思えませんね。あたかも、社会主義国家になろうとしているようなこの国では、国が関与する仕事に就くと夢もなく、やりがいもなく 給料は職種問わず同等になってくるでしょう。また、コンピューター(機械)に変わられてしまう仕事(運転業、営業、受付業務など)も、この先困難かもしれませんね。まあ 少子化の中、毎年 1 万人も医学生が合格するレベルですから魅力ありますか? 毎年 50 万人強の受験生が大学共通テストを出願しているわけですから、受験生の 50 人に一人が医者になる時代。価値はありませんよ。国の制約もなく、自由に創作する仕事、正解のない仕事に憧れますね。あくまでも個人の意見ですけどね。』 子供の将来について、やはり親の一言は大きく左右し、責任重大です。子供は純粋かつ従順ですから。