12月11日の生理心理学で使った資料です。
今回と来週の2回は、私の専門領域から最新のお話。
今週は、ストレスバイオマーカとしての唾液中生化学物質について。
ストレスというと実にあやしげな概念。
これを物質で表現できたら、工学や医学などの科学者たちと同じことばで心の問題が検討できますね。
こうした考えから、精神神経内分泌免疫学という4つの学問領域をつなげた総合学問領域が生まれました。
1981年のこと。中心人物はAder先生。
免疫系の働きが、腫瘍の成長を抑えますが、心の持ちようでその働きに違いが現れることからはじまったこの領域。
一歩間違えれば、あやしげな宗教のような世界とつながりそうですから、気をつけて研究をしなくてはなりません。
私が最初にはじめたのが、唾液中の免疫物質である、免疫グロブリン「分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)」を、ストレスの指標にしようという実験でした。
時まさにバブルがはじけて日本経済が落ち込み、55年体制が崩壊したといわれた1993年のことです。
失われた10年とよくいわれる、1993年からの10年ですが、私にとってはそれまでの研究領域を広げる画期的な10年となりました。
s-IgAという免疫物質は、鼻腔や口腔などの上気道上粘膜中で活動し、細菌をやっつけてくれます。
当時、ストレス事態がつづくと、免疫機能が低下すると考えられていたので、急性ストレスを負荷するとs-IgAは分泌量が低下するだろうと思って実験しました。
騒音負荷ストレス。結果は、真逆。s-IgAは増加したのです。
ゴーグルを装着して生活するというブラインド生活ストレス。これも結果は、s-IgAの増加。ストレス負荷をとると、基のレベルに戻りました。
試験ストレス。試験の一ヶ月前から徐々に s-IgAは減少しましたが、試験当日から急増。1月後元のレベルに戻りました。
どうも、急性ストレスを負荷するとs-IgAは増加することがわかりました。
看護大時代の修論生竹さんとの共同研究では、妊婦さんにお願いして唾液を定期的に採取。分娩前後でs-IgAは急増することがわかりました。難産の人では、s-IgA急増は早くおこる。お母さんってすごいですね。生まれてくる子どもの健康のために、免疫物質を大量に放出しているんでしょうか。
さて、慢性ストレス事態では、逆にs-IgA量は低下することもありそうです。
本学着任以降、唾液中コルチゾールの研究も開始しました。
コルチゾールは、ストレスの内分泌指標そのもの。唾液から抽出されるコルチゾールも同様と考えると、この増減はストレスマネジメントの効果を直接みるための物差しになるはずです。
経験則からして、15分間も歩行すると、イライラした気分が解消されます。
実験で15分間歩いた前後、そしてさらに20分ほど後の計3回唾液を採取し、コルチゾールの変化をみると、一貫して低下していました。
一方、s-IgAは歩行前->後で増加し、20分後低下しもとにもどります。
実に面白い結果となりました。15分歩行はストレスを解消し、免疫機能を高めたことになります。
大学生はほぼこの傾向がありますが、高齢者ではコルチゾールが歩行によって低下せず逆に増加する例もみられました。高齢者には15分は長すぎるのかもしれません。
若い人にとって、人前でスピーチすることはストレスだといわれます。テレビカメラの前で、自己紹介をするという実験をしました。
スピーチ前後で唾液を採取したところ、男女ともs-IgAは増加しました。一方、コルチゾールは男子大学では増加しましたが、女子では減少ないし無変化。
スピーチ課題は、女子大学生にとっては健康によいチャレンジャブルな課題でしたが、男子大学生にとってはストレッスフルな課題そのものだったということでしょう。
今週はここまでの話をしました。
来週は、笑うこと、泣くことなどがコルチゾールやs-IgSにどう影響するのかをみる実験をお話しします。
またその後、まばたき反射にみられるプリパルス抑制(PPI)の話をしましょう。
PPIは精神病のバイオマーカといわれています。
来週をたのしみに。
2009/12/13・記
今回と来週の2回は、私の専門領域から最新のお話。
今週は、ストレスバイオマーカとしての唾液中生化学物質について。
ストレスというと実にあやしげな概念。
これを物質で表現できたら、工学や医学などの科学者たちと同じことばで心の問題が検討できますね。
こうした考えから、精神神経内分泌免疫学という4つの学問領域をつなげた総合学問領域が生まれました。
1981年のこと。中心人物はAder先生。
免疫系の働きが、腫瘍の成長を抑えますが、心の持ちようでその働きに違いが現れることからはじまったこの領域。
一歩間違えれば、あやしげな宗教のような世界とつながりそうですから、気をつけて研究をしなくてはなりません。
私が最初にはじめたのが、唾液中の免疫物質である、免疫グロブリン「分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)」を、ストレスの指標にしようという実験でした。
時まさにバブルがはじけて日本経済が落ち込み、55年体制が崩壊したといわれた1993年のことです。
失われた10年とよくいわれる、1993年からの10年ですが、私にとってはそれまでの研究領域を広げる画期的な10年となりました。
s-IgAという免疫物質は、鼻腔や口腔などの上気道上粘膜中で活動し、細菌をやっつけてくれます。
当時、ストレス事態がつづくと、免疫機能が低下すると考えられていたので、急性ストレスを負荷するとs-IgAは分泌量が低下するだろうと思って実験しました。
騒音負荷ストレス。結果は、真逆。s-IgAは増加したのです。
ゴーグルを装着して生活するというブラインド生活ストレス。これも結果は、s-IgAの増加。ストレス負荷をとると、基のレベルに戻りました。
試験ストレス。試験の一ヶ月前から徐々に s-IgAは減少しましたが、試験当日から急増。1月後元のレベルに戻りました。
どうも、急性ストレスを負荷するとs-IgAは増加することがわかりました。
看護大時代の修論生竹さんとの共同研究では、妊婦さんにお願いして唾液を定期的に採取。分娩前後でs-IgAは急増することがわかりました。難産の人では、s-IgA急増は早くおこる。お母さんってすごいですね。生まれてくる子どもの健康のために、免疫物質を大量に放出しているんでしょうか。
さて、慢性ストレス事態では、逆にs-IgA量は低下することもありそうです。
本学着任以降、唾液中コルチゾールの研究も開始しました。
コルチゾールは、ストレスの内分泌指標そのもの。唾液から抽出されるコルチゾールも同様と考えると、この増減はストレスマネジメントの効果を直接みるための物差しになるはずです。
経験則からして、15分間も歩行すると、イライラした気分が解消されます。
実験で15分間歩いた前後、そしてさらに20分ほど後の計3回唾液を採取し、コルチゾールの変化をみると、一貫して低下していました。
一方、s-IgAは歩行前->後で増加し、20分後低下しもとにもどります。
実に面白い結果となりました。15分歩行はストレスを解消し、免疫機能を高めたことになります。
大学生はほぼこの傾向がありますが、高齢者ではコルチゾールが歩行によって低下せず逆に増加する例もみられました。高齢者には15分は長すぎるのかもしれません。
若い人にとって、人前でスピーチすることはストレスだといわれます。テレビカメラの前で、自己紹介をするという実験をしました。
スピーチ前後で唾液を採取したところ、男女ともs-IgAは増加しました。一方、コルチゾールは男子大学では増加しましたが、女子では減少ないし無変化。
スピーチ課題は、女子大学生にとっては健康によいチャレンジャブルな課題でしたが、男子大学生にとってはストレッスフルな課題そのものだったということでしょう。
今週はここまでの話をしました。
来週は、笑うこと、泣くことなどがコルチゾールやs-IgSにどう影響するのかをみる実験をお話しします。
またその後、まばたき反射にみられるプリパルス抑制(PPI)の話をしましょう。
PPIは精神病のバイオマーカといわれています。
来週をたのしみに。
2009/12/13・記