≪手を動かさねばっ!≫

日常で手を使うことや思ったこと。染織やお菓子作りがメインでしたが、病を得て休んでいます。最近は音楽ネタが多し。

Ballone Burini のコンバーターボタンアコーディオンを手に入れた!

2021-07-28 19:14:49 | 音楽

手元に届いたのは今年の1月あたまでだいぶんまえの話なのだが、タイミングを逸しブログにあげそびれていた。

昨年の夏に Serenelli の本格的なボタンアコーディオンを手に入れた のだ。右手に HMML のリードセットが揃って音色が響き、それはさながらパイプオルガンのようで、かつてパイプオルガンのレッスンを受けていた身(しかしその後まったく縁が切れていた身)としては、急にオルガンで奏でるコラールがやりたくて仕方なくなってしまった。
そしてそのボタンアコを手に入れた翌日に 肺がんの診断を受け、すぐに死ぬことはないだろうと思いはすれどそれなりの心境の変化というのもあって、これは最もやりたいことからやった方がいいな、という気持ちになった。
それで、こともあろうに初めてのボタンアコでいきなり バッハ BWV 659『来たれ、異教徒の救い主よ』を練習し始めたのだ。ボタンは鍵盤より少ない面積に沢山音を配することが出来るので(2オクターブが余裕で届く)、オルガンの両手のパートを右手だけで演奏できるんじゃないか、という意図もあった。しかし右手のボタンをまったく思うように鳴らせないというのにいきなり3旋律を弾こうとするのは本当に大変だった。

Serenelli のボタンアコの左手は普通のストラデラ式のベースで、ルートとコードをずんちゃんずんちゃん鳴らす伴奏にはとても向いているのだが、バッハのポリフォニーの一番下の旋律を奏でるには少し不便であった。
というのも、左手には5セット4オクターブのリードセットがあってスイッチで切り替えて重ね/厚さは変えられるものの、ルートや対位ベースを鳴らすと循環して1オクターブの音域しか動けないのだ。BWV 659 のペダルの旋律にはオクターブを行き来する部分があって、そこを仕方なく同じ高さの同じ音が続くと興醒めなんである。本体に欲しい音程のリードは存在しているのに演奏で使えないというのはなんとも悔しい。
では他のコラールは?と物色すると、これがまあたいていペダルの旋律はオクターブを行き来するので、Serenelli のこのボタンアコでコラールは演奏しない方がいい、という気分になってしまった。
また、ストラデラ式の音の配列はⅡⅤ(ツーファイブ)で1度違う音がぜんぜん近くにない一方、右手は新たに始めたC配列で、音の地図を2枚頭の中に用意しなければならないのがキツい。わたしがストレスなくポンと出せる頭の中の地図はピアノ鍵盤のみなのに、青息吐息の2枚の地図を同時に頭に描きつつブラインドタッチで蛇腹も操作しなければならない、というのはマルチタスクが過ぎる。

という理由があって、Serenelli を手に入れてまだ1曲も仕上げていないというのに、左手も右手と同様に単音で数オクターブを往き来出来るフリーベースのボタンアコが欲しくなってしまった。コラールをやりたいのだから右手の壮麗な響きの出る HMML からリードセットは減らせない。どうせ買うなら妥協せずこの際もっと上のスペックのダブルチャンバー(カソット)という響きをよくするパーツの入ったものがいいよな!顎でスイッチを操作できるチンスイッチもよさそうだよな!などと、手術を終え自宅に戻ったわたしの欲は膨らんだ。

Serenelli を手に入れたとき同様、高価な楽器なのだからやはり手に取って確かめたい。Serenelli を手に入れたベイアコさんで クロッジオのフリーベースのボタンアコ を触ってみたが、可愛らしい ML で断念した。
次に、御茶ノ水の谷口楽器におじゃまして ピジーニのスーパーコンパクト を触らせていただいた。これは!という手応えではあった。
スーパーコンパクトは 11.9kg ある。どこがコンパクトなんだ !? と思うが、それはコンバーターでダブルチャンバー/カソットというスペックなのにその軽さだからなのだ。もちろん軽いのはフルスペックではないからなのだが。フルスペックのコンバーターアコーディオンは 13kg は超える。
コンバーターというのは切り替えられるという意味で、それはコードの出るストラデラ式とフリーベースにスイッチで切り替えられる機能なんである。わたし、フリーベースだけでもいいんだけど、と思ったりもしたが、右手が HMML のスペックになるとコンバーターしか見当たらない、というのも追い追い分かってきた。
あとは東京蛇腹店に ブガリのバヤンタイプ というのがあるようなのだが、値段にビビって触らせてもらう気にもならなかった。

スーパーコンパクトはなにしろ現物が目のまえにあるのでたいそう魅力的だったのだが、ピアノしかりトロンボーンしかり中古の楽器ばかり手に入れてきたわたしとしてはもうちょっとお安く探したくなった。また、選択肢の少なさもちょっとつまらなかった。
そうなると探す先はもう海外しかない。ひたすらネットをにらむ日々となった。
ベイアコの原田氏にはドイツの Hohner というメーカーの Morino というシリーズを薦められたので、それを重点的に探したが条件に合うものが出てこない。ネットを見ていて分かったことは、メーカーの数だけいえば圧倒的にイタリアに種類が多く、その楽器はヨーロッパ各地に広がりアメリカやブラジルへも渡っていってその地のネットの中古市場に現れている、ということだった。

ヨーロッパの中古市場にはC配列のボタンアコよりもB配列のものの方がよく目についた(右手ボタンのB配列とC配列)。またロシアのバヤンも数多く出ていた。バヤンの右手はB配列なのだが、左手がフリーベースのものは音の並び方がB配列のボタンアコと逆になっている(C配列、B配列、バヤン。いっぱいスクロールして、フリー・ベースの章の図)。ついでにいうと、ピアノ鍵盤のコンバーター/フリーベースはC配列である。クイント式 というストラデラ式のルートと対位ベースの部分だけを数オクターブ拡大したようなフリーベースシステムもあるのだが、それはわたしに言わせりゃ 気が狂う!ああ、なんでこんなに色々種類があるのだ!

バヤンでの演奏はロシアやその周辺ではとても盛んなようで、バヤン用、特にフリーベースのバヤンの為に書かれたクラシック曲が数多く存在していることがネットを逍遙しているうちに分かってきた。大勢の子どもたちがレッスンを受けているようで、発表会やコンクールの動画を見ることが出来る。もちろん大人の優れた演奏動画もたくさん見ることが出来る。バヤン文化の層の厚さに圧倒された。隣の国なのに言葉や楽器やその音楽があまり日本に浸透していないのがもったいない気がした。

条件に合う手に入りそうな楽器がなかなか見つからないのに業を煮やして、まだ大して習熟していないC配列の Serenelli からバヤンに転向すれば楽器が手に入りやすいのかも、と思ったりもした。
問題は整備である。楽器を使っているうちに調整/調律が必要になるだろう。ゆくゆくはそれを原田氏に頼みたいな、と思ったのだが、バヤンは部品の調達の関係で調整/調律を断ることもある、といわれてしまい、なくなくバヤンは諦めた。ああ、いくつもネットに出ているのに!

原田氏の助言により、個人が ebay などに出品しているいわゆる掘り出し物(親が大事に使っていたよい楽器だが親が亡くなり自分は使わないので、とかそういうアコ―ディオン)を地道に探し、これはというものは動作確認動画を見せてもらうようにした。ボタンをクリックして買い物が済むわけではない。動作確認動画のほかにもアップされていないスペックを訊いたり日本へ送ってもらうよう交渉したり値段の交渉をしたり、と英語が使えない相手はリストから除くことになった。
ネットではドイツ語でもイタリア語でもポルトガル語でもロシア語でもブラウザが緩く翻訳してくれるので半分くらいは意味が分かるが、さすがに交渉は出来なかった。うんうん英語をひねってもタップしてから相手には秒もかからずメッセージが届くのがネットのはずだが、時差の関係でどちらかが寝ていてやりとりにやたらと時間がかかったりした。
これはというコンバーターボタンアコを見つけて連絡したが返事が来ない、とか、実はもう売れていました、とか、ずいぶん性急に薦めてくるけどよくよく問いただしたらフリーベースがC配列ではなくクイント式だった、とか、なかなか交渉は成立しなかった。
ebay は売る気がある人が出しているが、もっと地域密着型で直接取りに来れるのなら売ってあげようという掲示板がいくつかあるのも知った。そこに手ごろな価格のコンバーターボタンアコがあるのに、言葉も通じず つてもなくて手が届かない、という悔しい気持ちも何度も味わった。

そしてついにスペインの Cristo Cristini Crucianelli 氏にたどり着いた。昨年12月中旬に話はまとまったのだが、クリスマス、年末年始をはさんでわたしの元にこのコンバーターボタンアコが届いたのは年明けて何日も経ってからであった。ふう~!
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なんでこの楽器を手に入れようと思ったのか、どうやって手に入れたのかの長い話はここまで。


ここからはこの楽器について。
ハンドメイドリードです。ダブルチャンバーです。15kg あります。そんなに古いものではありません。
右手は HMML 、B♭~F の4オクターブ+8音で55音のボタンがあり、それが3オクターブ4セット。MM はドライチューニングでうなりは少ない。音程がずれているのはわたしは好きではないので、このチューニングは好みだ。スイッチは15個で15通りの組み合わせ方を選ぶことが出来る。C と F のボタンに刻みが入っているので、ブラインドで分かる。チンスイッチが6個あるのだが、実はまだ上手く使えていない。どうしたもんだか。


↑写真は左手のボタンである。左手はストラデラ式とフリーベースを切り替えられるコンバーターで、5セットのリードがある。ストラデラ式は7通りの組み合わせを選ぶことが出来る。
フリーベースは E~B♭の4オクターブ+7音で、5通りの組み合わせ方を選ぶことが出来る。リードのセットによっては54音全部が出なかったりする。

写真のボタンで左から2列目がストラデラ式のルートの単音で写真の下で切れかかっている窪んだボタンが C、ラインストーンのついているのが E である。写真に入っていないけれど、もっと下にもラインストーンの入っているボタンがあってそれは A♭。一番左の列のボタンはルートに対して3度上の単音の対位ベースで、残りの4列のボタンはコードで複数の音がいっぺんに出る。ストラデラ式については みかづき氏のサイト が分かりやすいかな。

コンバータースイッチで切り替えると右4列がフリーベースになる。うっかり左2列のボタンに触るとびっくりする。写真の一番右の列の窪んだボタンが C、3列目のメロンパンのような刻みの入ったボタンが F。右手も左手も同じC配列の地図なので分かりやすい。ただし左手は右手の鏡像で、楽器を構えたとき右手も左手も上にくる音が低くて下にくる音が高い。それはB配列も同様だ。ピアノの感覚が残っていると左手は混乱する。バヤンはC配列ではなくB配列だが、左手の右側の音が高く左側の音が低い、という意味では合理的だな。
C配列(B配列も)は1オクターブの12音を4音×3列に配していて、4列目や5列目は1列目や2列目に重複しているのが特徴だ。フレーズによって使いやすい方を選ぶことが出来る。このアコーディオンの右手は5列あるのに左手は4列だし、左手の4列目にくる C ボタンは窪んでいないし、どちらもC配列だからといってなんでも一緒なわけではない。そもそもボタンの大きさが違う。左手は蛇腹を動かしながらボタンも操作するからなのだろうな。

ということで意気揚々練習を始めたのだが、やはりこたえるのが 15kg という重さ。慣れるしかない。と頑張っていたが、日々飲む UFT で体力を削がれているのも地味にきつい。BWV 659 は最後まで譜読みもすみ暗譜したもののノーミスで通すのが出来るようにならない。やっぱり無謀だったかも、と少々挫折気分を味わったのも事実である。そういう理由もあって、この素敵なアコーディオンを手に入れた話をなかなかブログにアップ出来なかったのだ。


 

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