風のこたろう

'05年4月6日~'07年4月7日 ウランバートル生活日記
'09年8月~  詩吟三昧の徒然日記

袖振り合った人

2023年02月05日 | 詩吟
常磐線が1時間40分遅れていますとのアナウンス。
お稽古帰りの駅のホーム、すぐ前に並んでいた人がぎょっとして振り返る。
今から、1時間40分も待つのかと思ったらしい。

遅れますの駅のアナウンスほど、惑わされるものはない。
10年通い続けた池袋線は、少々の遅れはよくあったものだ。
初めは、そのたびに別の線に乗り換えたほうが良いかと、その頃は、
まだ慣れてなかった駅探を操作して調べたものだ。
田舎と違って、時間を置かず何本も来る電車は、遅れが出たところで、
さして影響がない。
前を走っていた電車が遅れてきて、私が乗車するはずだった電車の定刻よりも
何分か早く来て、それに乗ったら、いつもよりちょっぴり早く行く先に到着
なんてことも何度も経験したから、驚かない。
さっき、一つ前の駅からこちらに向かってゆっくりと進行中とも言ってたし。
遅れても今から1時間以上待つわけではなく、前の電車がすぐに来るはずです
からと、伝えると、ほっとしていた。
そのご婦人は、到着した電車に乗り、私に向かってここにお座りなさいませと
隣の席を指し示す。
最近では、見知らぬ同士がそんなことをすることはまずないから、先ほどまで
会話をしていても、座る時はそそくさと離れて座るものなのに。
私は、すぐ次の駅で降りるのだから、あまり話はできないはずだったのに、
外が暗いせいで、かなりの徐行運転していたのに気が付かなかった。
昨年最愛の夫を亡くしたばかりで病院にかかるほど落ち込んでいたら、
知り合いが食事会に招いてくれたその帰りなのです。
と、問わず語りに話し始めました。  私は、詩吟のお稽古の帰りで、
楽しくてすっきりしているところです。
大きな声を出すのは、心が解放されて、体にもいいですよと、私も問わず
語りをしました。
気持ちが落ち着いて、その気になった時に、「詩吟」と思いついてくれるかな。
この電車が遅れているなら、私の行き先は〇〇なんだけど、どこで乗り換え
したらいいかしらと、また、問わず語りにつぶやいた。
すかさずスマホを取り出して、検索すると、次の駅で乗り換えて、ご婦人が
来るときとは違う経路で帰った方が良さそうです。と伝える。
じゃぁあなたと一緒に次でおりますね。

私の乗り換える線とご婦人の乗り換える線とは、入り口が並んでいるので、
ホームから、ご一緒しました。
私〇〇と申しますとご婦人、私は△△ですと名乗りあった。
ここで若い人たちは、スマホで、連絡先を交換するだろうか。
私たちは、それだけだった。
私の乗る線の入口が先だったので、歯切れ悪くではここでと、改札へ向かう。
人が居ないので、エスカレーターまでの半分まで歩いて後ろを振り返ったら、
さっきのお辞儀をして別れたところに、ご婦人はまだ立っていて、泣きそうな
顔をして居た。
大きく手を振って、元気にお別れ。さっきより大股で、歩く。エスカレーター
前で次に振り返ったときは、電車が到着して、人が溢れ、改札もそのご婦人も
見えなくなっていた。
あと帰りをしようとした瞬間エスカレーターの一段目に足がかかった。
本当は、背中をポンポンしてあげたかった。
そして、仲良くなって一緒に大きな声を出させてあげたかった。
今思い出しても、胸が悲しみでいっぱいになる。
「いっしょにあなたと」という言葉は、意思表示だったのかな。
もっと話をという。
人と会って、賑やかな時を過ごし、電車の遅れを聞いて驚いて、さほど年の
はなれていない見知らぬ女性に自分のことを話して、改札で、お別れして。
喫茶とはいかなくても自販機のコーヒーでもお誘いしたらよかった?
いやいや、このご時世だから、不審者になる前にお別れした方が良かったよ。
名残惜しいくらいがよかったよ。と、また、次の一駅分を自分で自分を
慰める。悲しい者同士が、一瞬呼びあったんだね。
ドラマなら、また、偶然の再会があるんだろうねぇ。
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