フレーベル少年合唱団 第46回定期演奏会

2006-10-23 23:21:29 | 定期演奏会



 かつて座席数400の土曜日の芝公園ABCホールですら満席にできなかったフレーベル定演も、21世紀に入ってからホームグランドのイイノホールをたて続けに満席にし、昨年はついに席数を100席追加して紀尾井ホールへ。そこでもさらに満席状態になりました。毎年頂いていた「ご招待」のハガキはもう何の意味も果たしません。団員さんのお母様にムリヤリ席を融通していただいたりして何年か座ることができました。今年は一挙に1801席のすみだトリフォニーへ場所を移しての開催。全席指定。合唱団が定期演奏会の客席を全席指定にしたのは昭和時代の終わり頃の定期演奏会以来およそ18年ぶりのことです。観客は2階席まで入りました。昭和時代最後の最盛期は25周年記念定演の1983年頃のことです。当時は団員や会社のコネが無くてチケットをとるとちょっと厳しい席にしか当たらないほどの盛況でしたが、その再来を見るようでした。プログラムもしばらく続いて来た賑やかなタッチのものではなく、ミッドセンチュリーモダンなシックなデザインに変わって内容も無難に整理されました。

 プログラムに並んだ演目はフレーベルらしい懐かしい匂いのするものが多く、定期演奏会のステージにふさわしいものになっています。わかりやすく言うとOBのお兄さんたちが暗譜で歌えそうな曲が各所にちりばめられていて、タクトを振っているのが合唱団のOBでもあるのですから当然なのでしょうけれど、誠意と言うものを感じさせました。しかし、その聞き知った曲の間から私たちにもたらされたのは、この少年合唱団が今後、何を克服していけば良いのかという明快な道筋でした。

 第4部になると、これもフレーベルお得意のスクリーンミュージックのナンバーをセレクトチームの子どもたちが主としてソプラノ声部のソロをフィーチャーして聞かせます。お客様は大喜びでした。本来これらの曲は叙情性や物語性にあふれ、メロディーラインは比較的低めで、ひばりがさえずるような華やかなboy sopranoとは無縁のものです。低めのメゾかアルトの子どもたちに歌わせたい作品群でした。肝心のアルトの子どもたちは演奏中どうしていたかというと、ソプラノのソロの団員たちの歌声にうっとりと聞き入っていました。それは、彼らが本当はどうしていたいのかをきちんと話してくれているようでした。

 現在のアルト声部のコア団員たちの基本隊列が出来たのは2年前の2004年のことです。当時、偶然ですが、私はこのアルトの団員たちをかなり近くで見たことがありました。小さかった…というよりは子どものことなのですから当然背丈の問題ではなく、どの子も頼り無さそうな肩の線を見せて立っていました。ただ、彼ら新アルトはチームとして非常に魅力的なものを持っていることがわかりました。このチームが後年どういう使われ方をするのか見届けたいと思ったものです。
ちょうどその時代にはFMの合唱団のアルトで面白い動きがありました。「ぼくたちは日本一のボーイ・アルト」と自ら公言してはばからないアルトやメゾ低声の男の子たちが自信に満ちあふれたパート展開を繰り広げていた時期でもあって、2つの合唱団の低声部の違いが際立って見えていました。あちらでは本来メゾソプラノが歌うべきソロのャXトをアルトの少年たちが奪い取って来ては我が世の春とばかりに歌っています。テレビの公開クラッシック番組でソロ出演した子どもたちもメゾとアルトのチームから選ばれてきていました。そこで私はフレーベルのアルトの子どもたちもあと何年かしたらチーム的に精神面でも肉体面でも変化があるのだろう…合唱団全体の声のカラーもボリューム感も全く違ったものに変化を遂げるはずと思っていました。

 定期演奏会当夜、フレーベル少年合唱団はフィナーレに児童合唱組曲「火のくにのうた」(プログラムでは「ひのくにの歌」と表記されている)を持って来ていました。この曲も先輩方が以前にレパートリーにとりあげていた作品です。20世紀の終わりに児童合唱のひな壇に立っていた全国の子どもたちの多くが今でも前奏を聴いただけで「どっどどどどーどどどどー」と歌えるでしょう。かつて、フレーベルの定演のステージで「火のくにのうた」を歌った団員たちが2006年の私たちに予言し、教えてくれていたのは、2006年のフレーベル少年合唱団のメルクマールとは何かということでした。目にも鮮やかなコバルトのお揃いのジャケットをずっぽりとまとって歌いながら、彼らは「なんで21世紀の僕らの後輩たちはソプラノとアルトが同じなの?」とイタズラっ子そうに言います。「ハレルヤ・コーラス」のときも彼らはトリフォニーの客席はるか後方でそうつぶやきます。美しい、きらびやかな、シャンペンシルバーに輝く至福のひとときでしたが、それでこれからこの合唱団がどういう声を作って行ったらいいのかがよくわかりました。

 今回の定期演奏会に出てきた少年たちは明らかに片足を「新生フレーベル少年合唱団」突っ込んだ状態であると言えます。愛すべきB組の子どもたちは相変わらずの見事な出来とキュートさで私たちをクラクラさせてくれるのですが、A組にはいくつかの揺さぶりがありました。まず、一見して分かるのは無帽での登場やベストを充てた団服のバリエーションなどのクロージングの面。さらに手を後ろに組まずに歌う姿を見せるなど合唱団が何十年も維持してきた約束事の部分的保留ということがあります。どれも彼らが「ちょっとだけやってみた」という段階にあることは明らかなのですが、私たち聴衆にとっては「今後のお楽しみ」ということでもあります。
 勿体ないと思うのは、フレーベル少年合唱団らしいおっとりした「出はけ」が緞帳の下りない大きなホールの会場になってちょっと目立ってしまっていたこと。バリエーションもありません。観客は同じひな壇にぞろぞろと並ぶ少年たちの様子を2時間15分のうちに何度も鑑賞させられることになります。もう一つはとても難しいことではあるのですが、少年たちが、すみだトリフォニーの音響特性を上手に使いきっていないことです。1年目のステージなので、これらは毎年繰り返し使ってみていろいろ研究してくださると面白いと思いました。
 アンコールに「シング」を入れましたが、あとは定石通り「勇気りんりん」と「アンパンマンマーチ」を歌って8時45分に終演。休憩時間を含めれば年少さんの団員からいる少年合唱団の演奏会としてはかなり長尺の部類に入ると思います。