歌よみもどきの書

歌詠み「もどき」のあかんたれが吐き出す、短歌になりきれない五七五七七の羅列です。

『夏鴉』

2015-01-21 | 学習ノオト

ハシブトガラスのぶっちーくんとお近づきになって?以来。
カラスの歌を詠んだり(読んだり)がひそかな楽しみの私。
ただ、積極的に探していないのでカラスを詠まれた歌(で気に入っている歌)は次の1首しか知りません。



わりといい路上ライヴのかたすみで翼をととのふる街鴉

(藪内亮輔 「霊喰ヒM」/角川短歌 )



そんな私が、あてもなく本屋さんの棚を物色していて目に付いたのがこちらの歌集でした。

『夏鴉』
澤村斉美

もうね、ジャケ買いというかタイトル買いですね。^^;

夏鴉とか寒鴉とか、俳句では季語に使われますが。
どうして「鴉」であって「烏」ではないのでしょうね。。
カラスの本やらサイトを読む限りでは、鴉はハシブトガラス、烏はハシボソガラスを表すとあったのですが、短歌や俳句の世界でもそうなんでしょうか?
そんなことを思いつつ、先ずは、さっくりと鴉の登場歌を漁るように読みました。




逆光の鴉のからだがくっきりと見えた日、君を夏空と呼ぶ


帰らないつもりの家へ帰りゆく鴉のからだ黒いだらうか


空をゆく鴉のやうなメールあり返事書くとき雨が降りだす


美しき友を見送りこの町はわれを住まはす 鴉降りる路地


ベランダに鴉の赤い口腔が見えたりけふは休みの上司


あをあをと天の映れる水の弧にずり落ちさうに夏鴉立つ




もしかしたら鴉の歌は1首だけかも、と思っていた私にとって嬉しい誤算の6首みっけ!!
最初に引いたお歌は、この歌集の1首目でもあり、タイトルにされた「夏鴉」の6首目の歌と一対になっているように感じます。
好き!気に入ってしまいました。*^^*
春に繁殖するので夏鴉というのは、巣立ったばかりの若いカラスをさすのでしょうか。
雨上がりの夏空に少し頼りなげに?けど自らの意思で飛び立つハシブトガラスが脳内再生されます。

カラスの歌が1首でなかった以上に、(いい意味で)裏切られたな!と思ったことがもうひとつ。
歌集のトップバッターが鴉だから、最後も鴉の歌で締められると思ったのですね。
ところが!



ここからはもう待たないといふ声がして夕間暮れ、ともしびの鷺



え?鴉と違て鷺なん?
期待を裏切られたけど、なかなかニクイ演出やん!とニヤリとしてしまいました。
このサギは、グレー(アオサギとかゴイサギみたいな)でなく白いサギ(ダイサギかチュウサギかコサギかは知りませんが)ですよね、たぶん。(個人的嗜好でそうであって欲しいです。^^;)
真昼(逆光でくっきり見えるのだからたぶんそうです)の黒いカラスで始めて、夕間暮れの白いサギで終わるなんて、洒落てます!
この歌集、いいなぁ。。
そう思って、もう一度。
今度は、しみじみと、カラスの歌以外も(笑)丁寧に読みました。

そうして、もっと、いいなぁと思いました。
何がかといいますと。
え?もしかしてこれって?と思うくらいの、控えめな相聞が。
カラスって、巣立ってもすぐにペアにならない鳥らしくって。
若い夏鴉のつがいになる前のはっきりしない恋の様子が控えめな詠み方で余計に浮かび上がるというか、きゅんとくるというか。
そういう意味もタイトルに込められているとしたら、澤村さんも、結構カラスお好きなのではないでしょうか?^^

カラスファンといたしましては。
ありがちなマイナーイメージで扱われることなく、淡々と、けど身近な存在として詠まれていてとても嬉しかったです。
数えた訳ではありませんが、「光」「ひかり」「光る」「ひかる」の言葉が多く登場したように感じるので、むしろ明るく、けれど静かな印象でした。
最後に鴉以外で(しつこいですね、笑)気に入ったお歌を何首か引かせていただきます。



からだの中の柊を見てゐるやうな君のまなざし 逢ひたいと言ふ

海のあることがあなたを展(ひら)きゆく缶コーヒーに寄る波の音

消えさうな人だから呼びたくなりぬ冷えた受話器に声を集めて

おしまひに始まりの符を付すやうな抱擁のため腕は伸べらる

わたくしのからだの影として思ふいつも遠くにひかる杉やま

浅すぎた思ひに気づく梅の木の痩せつつ曲がる夜を帰り来て

会はぬと決めて会はざる日々にハナミズキ若き名もなき木にかはりたり

決別といふほどのことわれはせずひとりで閉ぢゆく扉を思ふ




第二歌集も出ているらしく、ちょっと気になります。。