もう1つの感性の本棚

書くことを仕事にしている者として、日常をどのような感性で掬い取るか。

街の縁取り74~大人の遠足・新潟編◆敷居を削る鍋茶屋

2007-02-11 01:04:40 | 街の縁取り
 「街の縁取り」の新しいカテゴリーとして『大人の遠足』を始めます。身近で贅沢な時空間に焦点を当てようとするのが狙いで、あくまで自分の基準で。

 さて初回は、新潟と言えばまず出てくる古町。
 今、新潟市では「冬・食の陣」というイベントをやっている。この3連休がヤマ場。
 この間、寿司、鍋など新潟の食材を使った料理を屋台で安く提供するとともに、その前後は参加するホテルや料亭、ショットバー、寿司屋が特別メニューを用意している。
 自分が行ったのは鍋茶屋の昼席。行形亭と双璧をなす老舗で、母屋の木造3階建ては文化財に指定されている。
 食の陣では、いくつかの料亭が芸妓の舞と料理をセットにした内容を昼と夜に出している。料亭によって料金は異なるが、鍋茶屋の場合、昼は1万5000円、夜は2万3000円。
 まったく個人で来たらどうなるか。夜だと料理だけで2万円、芸妓は1人2時間で1万8500円。心付を含めると多分5万円近くになる。
 5万円を楽しめるなら高くはないだろうが、覗き見るには高い。

 昼で1万5000円というのは、行形亭の芸妓舞なし、飲み物なしの値段と同じ。しかも、久保田で有名な朝日酒造が協賛して、割増なしで万寿のほか3種類の酒を用意してあった。かなり安い。

 敷居を削る――。
 新潟の料亭はそんな努力を続けている。

 この日は、100人ほどの客が母屋3階の200畳敷の大広間で会食したが、半数以上が女性。敷居を削る努力がリピーターを作り出すことに繋がるのかどうかわからないが、他にも割烹部門(本来の座敷に上がるのではなくカウンターがある店で料理を出す)を持つところでは、そこでも特別メニューを用意している。

 格式を保ちながら敷居を削るむずかしさ、と簡単に言うことは出来るが、その時空に触れる機会の提供は素直に歓迎する。
 それが、文化への理解、対峙ではなく、大勢に紛れた上での大人の遠足であったとしても。

 さて、メニューを書き出してみよう。

 先付)鮟鱇酢みそ
 前菜)サヨリ木の芽寿司・車海老うに粉・百合根茶巾梅味・倍貝酒煮・鮟肝ポン酢あえ菜の花
 御椀)かに真薯・若布筍・結び人参柚子
 御造り)活平目・南蛮海老・
 焼き物)本鱒みそ柚庵・黒豆松葉
 焚き合わせ)大根・含煮・鮑大船煮湿地茸・春菊柚子
 油物)鮟鱇海老包み揚・皮おかき揚・たら芽レモン藻塩
 御飯)鱈の子御飯・止め椀・香物三種
 甘味)福豆

 酒は①久保田萬寿②悟乃越州③越乃かぎろい千寿

 ああ疲れた。
 家人曰く、行形亭より味付けがしっかりしている。酒が進んだ。
 鍋茶屋のこれが食べたい、というものは発見出来なかったが、何気なく高レベルとは感じた。

 なお余談だが、古町の芸妓は地元出身でないと採用されないらしい。今の時代、これは意外だった。新潟らしいのかも知れない。
 20代で売れっ子となれば、会社(置屋は今法人になっている)から貰う25万円の給料に加え、客の心付を入れると月50-60万円にはなる、と同席の分け知り顔の婦人が言っていた。まあ大きく外れてはいないだろうが、手取りか税込みか、その区別は分からない。
 新潟の夜の街で飲んでいると、どこかの大企業の支店長が芸妓に惚れ込んで離婚までする、というような話を耳にすることがある。今そんな色恋沙汰がどれだけあるのかは知る由もないが。

 料亭は馴染みで持っていなければどんどん観光化するしかないが、古町がどこの段階にあるのか、鍋茶屋の遠足程度では見極められない。その位置を知りたいのか、ただそうした時空間でリラックスしたいのか、行ったというプチ贅沢記念を作りたいだけなのか、自分には分からない。だから、多分また遠足には出掛けるだろう。