益田森林・林業普及情報

島根県西部農林振興センター 益田事務所

マツの病虫害診断と治療の研修会に参加しました。

2008年02月26日 | 森づくり
 2/8(金)の13:00~17:00、
 益田市のグラントワの多目的ギャラリーで、
 庭園木マツの病虫害診断とその治療についての
 研修会が開催されました(写真1)。


 写真1 マツの樹勢回復と菌根菌について講演される小川 眞先生


 主催団体は、
 島根県立緑化センター、島根県中山間地域研究センター、
 日本樹木医会島根県支部、(社)日本造園建設業協会島根県支部、
 島根県緑化技術協会です。

 私達、益田事務所林業部のメンバーも勉強のため、
 来賓参加のA部長以下、Oグループ課長、K専門林業普及員、大場の
 計4名が、研修を受講しました。

 当初、研修会の定員は40名の予定でしたが、
 結局、当日は100名近い参加者があり、
 盛況な研修会となりました。
 マツの病虫害に対する関係者の関心の高さが窺えます。

 まず、はじめに、
 島根県中山間地域研究センター
 陶山主任研究員から、
 庭園木マツで発生する主要病害の診断と防除について、
 説明がありました。
 庭マツの主要病害の診断と防除について、
 具体的でわかりやすい説明がありました。
 今後、褐斑葉枯病の拡大が予想され、
 特に注意が必要とのことでした。

 
 次に、休憩を挟んで
 大阪工業大学客員教授である
 小川 眞先生から、
 マツの樹勢回復と菌根菌についてと題して、
 講演がありました。
 
 菌根というと、日本ではあまりなじみがない言葉ですが、
 欧米では、菌根の役割は古くから知られ、
 ミコリーザ(菌根)と言えば、子供でも知っているそうです。

 菌根は、樹木の根に菌(キノコ)が共生したものです。
 キノコの菌糸が、水やミネラルの吸収を助け
 樹木が炭水化物を与えて、
 根の細胞の間で物々交換しています。
 
 キノコの菌糸が、根を包んで、
 病気や乾燥、凍結などから根を守り
 成長に必要な物質を生産することもしています。

 菌根をつくる樹木は、珍しくはなく、
 マツ科、ブナ科、カバノキ科、ヤナギ科・・・等、
 高木になる樹木の多くがそうだということです。

 菌根をつくる樹木にとって、
 菌根菌(キノコ)は大切な助っ人で、
 何らかの原因で菌が消えてしまうと、
 水も十分に吸えなくなり、
 木が弱ってしまうということです。

 クロマツは、ショウロ菌等と共生することによって、
 痩せ地等の悪条件で強い反面、
 土壌に有機物が溜まり、富栄養化してくると
 ショウロ菌等が消え、根が腐り、
 マツの樹勢が弱ってくるということでした。

 また、マツ苗に窒素(N)を添加する実験をすると、
 無添加のマツ苗は、主根から細い側根がたくさん出て菌根をつくる
 少し添加したもの苗は、主根から側根が少しだけ出る。
 多く添加したものは、主根だけで側根が出ない
 という結果になるそうです。

 このような理由から、
 マツに有機物や窒素肥料は厳禁!ということで、
「海岸マツ林で、マツを元気に保つには、
 3年に1度程度は、落ち葉掻きをしないといけません。」

「新たにマツを植林しようというときは、
 あらかじめ、表土を重機(バックホウ)で、全部、はぎ取って
 きれいな砂を出してから植えないといけません。」
 とおっしゃっていました。

 但し、マツが健康になれば、
 絶対枯れないかというと、そういうことではなくて、
 マツクイムシの被害木を除去したり、
 薬剤による防除も合わせて行う必要があるということです。
 
 地球温暖化の問題にも言及され、
「3億年かけて閉じ込めた化石燃料を
 たった300年で燃やした結果が、地球温暖化。」

「COを閉じ込め、地球が寒冷化した結果、
 寒冷適応で繁栄してきたのが、菌根をつくる樹木とほ乳類。
 地球が温暖化すれば、これらが真っ先に影響を受ける。」
 と警鐘を鳴らされました。

 地球温暖化防止は、掛け声だけでは何にもなりません。

 小川先生は、その具体的方法として
「木質系廃棄物を炭にして、
 土壌改良材等として、農業や植林に使い、
 炭素を封じ込めること」
 を提案されています。

 日本では、あまり受け入れられなかったこのアイデアは、
 近年、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、ブラジル等で、
 取り組みが広まりつつあるそうです。
「アグリチャー(農業用炭)」として、
 炭の農業利用を奨め、
 炭素を土壌中に封じ込めることによって、
 地球温暖化防止に貢献しよういうものです。
    
 ナラ枯れについての話もありました。
 ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが運ぶ
 ナラ菌による広葉樹の伝染病で、
 ミズナラやコナラ等、ブナ科の樹木の枯れが、
 特に問題になっています(写真2)。


 写真2 ナラ枯れ(津和野町)
(赤茶色に枯れているのがそうです)

 これらの樹木も菌根をつくりますが、
 空から、黄砂窒素酸化物硫黄酸化物等が、
 降ってくることによって、根が弱っているそうです。

 空から降ってくる汚染物質が、
 樹木の枯れに何らかの影響を与えているのは、
 間違いないということでした。

 他にも、興味深い話が、色々ありましたが、
 とても書ききれませんので、この辺りで止めます。

 詳しくは、小川先生の著書、
「炭と菌根でよみがえる松」を御覧下さい。
 ちなみに、印税は、白砂青松再生の会の活動資金になるそうです。
 

 最後に、
 島根県農林水産部林業課(県立緑化センター)の
 佐藤調整監から
 庭園木マツの樹勢回復について
 話がありました。

 マツ本来の性質(痩せ地で生育等)を踏まえた上で、
 病虫害の対策や樹勢回復を行うべきで、
 薬剤散布等の対症療法だけではなく、
 土壌改良等の根本的な治療も同時に考える必要がある。
 という趣旨の説明がありました。
 
 また、小川先生の提唱する
 炭と菌根菌を使った樹勢回復技術についての実証報告もあり、
「確かにマツが元気なるのが、目で確認できた。」
 ということでした。

 会場からの質問も活発で、
 大変満足感のある研修会でした。

 
投稿者 島根県西部農林振興センター益田事務所林業普及グループ 
     主任林業普及員 大場寛文

 ~清流高津川、山の緑に映える柿色の瓦屋根の町並み~ 
  なつかしの国石見(いわみ)


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