歴程日誌 ー創造的無と統合的経験ー

Process Diary
Creative Nothingness & Integrative Experience

辯證法にかんする覚書: プラトン 1

2005-05-07 | 哲学 Philosophy
辯證法のルーツ

プラトンは認識の段階を四つに区別し、真理にあずかる程度の低いものから順次、
  1. 想像〔臆測〕(eikasia)
  2. 信念(pistiV)
  3. 悟性知(dianoia)
  4. 理性知(nohsiV)
と名づけ、前の二つは「可見的なもの」(感覚されるもの)に、後の二つは「可思考的なもの」(nohta)にかかわるとするが、この可思考的な対象をも下位のものと上位のものとに区別し、これに対応して下位に悟性知を、上位に理性知を考えている。

悟性知は「幾何学やそれに類する術知(tecnh)」であり、理性知が「弁証の学知(h tou dialegesqai episthmh)」つまり学としての弁証法なのである。(『国家』509D-511E)

「仮設法」と「綜合・分割法」

(1) 仮設法

それぞれの問題にさいして最も確実と判断される言説を仮定(前提)として立て、これと一致することは真、一致しないことは偽としながら推理してゆく方法。この場合、前提そのものが正しいかどうかは、そこからでてくるいろいろの帰結のあいだに矛盾がないかどうかによって決められる。仮設法は、矛盾を斥けることによって矛盾をもたない前提を積極的に追求してゆくための論証の方法なのであって、その点でソクラテスの弁証法と性格を同じくしていることがわかる。しかもこの論証の過程は、一つの前提が真であることが証明されると、「さらに上位にきたるべき前提のなかから最善と思われるものをえらび、あらためてこれを前提として立てたうえで、そこから証明を行ない、最後にこれで十分というものに到達するまでつづけ」られる。それは一つのイデアからいっそう包括的なイデアヘと事物の根拠を追求してゆき、ついに最高のイデアである「善のイデア」に達して究極の根拠を見いだすことと解されるが、こうしていわば個別的・特殊的なものから普遍的なものへと上昇してゆく推理方法は、帰納的に普遍的なものの定義を求めたソクラテスのあの方法をさらに発展させたものと見られるであろう。

ところでこの仮設法は、こうした普遍的なものへの上昇という点からみれば、また「綜合法」といってもよいであろう。このことは、プラトンが『国家』第六巻・第七巻で、国の統治者にとって必要な最高の学問としての弁証法について語るところによくでている。プラトンは理想国における教育課程について、弁証法を、計算術、幾何学、天文学、和声学など予備的教科ののちに学ばれるべき最高の学問としているが、それは弁証法がたんに一番むずかしい学問だからというだけでなく、あらゆるものの根本原理を認識して諸科学を総括的に基礎づける地位にあるからである。予備的な諸学科では、たとえば計算術や幾何学における奇数・偶数・種々の図形・三種類の角などのように、それぞれ一定の前提が根本におかれていて、その前提そのものは誰にでも明らかなこととして説明されないまま放置されている。(510C, 533C)

ところが弁証法では、これも前提を用いはするけれども、「諸前提を初め〔根本原理〕としてではなく文字通り前提〔仮設〕として」、「すべてのものの初めに向って無前提のところまで進む」(511B)のである。

「辯證的方法(h dialektikh meqodoV)だけが、このように諸前提を廃棄しながら初めそのものへ向って進んでゆく。」(533C)これは、さきに『パイドン』でいわれた、一つの前提からさらに上位の前提へと進んで、最高のイデアにまで昇ってゆくことを意味しているが、こうして普遍的なものに上昇するということは、多様なものを一つの共通な本質によって綜合し、それら
すべてのものの連関を綜観することにほかならない。そしてこの綜合・綜観ということがプラトン辯證法の一つの特徴をなすのである。すなわち彼はこういつている。

「二十代の者の中から逮び出された人びとは……子供のころにその教育で無秩序に追求したいろいろの学問をよせ集めて、それらの学問相互の問の、また有るもの〔存在〕の本性との間の類縁関係を綜観しなければならない。……これはまた、弁証的な本性とそうでないものとを区別する最大の試験なのだ。なぜなら綜観する者(sunoptikoV)はディアレクティコス弁証家であり、そうでないものは弁証家ではないからだ。」(537C)
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