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「年金通帳」で、年金の「個人勘定」化が進むと

2009年10月17日 10時29分00秒 | その他
年金通帳の考え方は、かなり前から打ち出されていたので、目新しさはない。しかし、「これまで納付した年金保険料額」と「将来、給付される年金額」が印字され見比べられるという「社会保障個人勘定」の考え方が取り入れられることから、国民=被保険者への情報提供のあり方を考えてみたい。

解決しなければならない問題は、「年金記録問題」だけではない。

多くの若者が、「自分が年をとったときに年金がもらえるかわからない」や「納めた保険料を取り返すことができない。損をする」と考え、「未加入でもよい」あるいは、毎月の給与から天引きされる社会保険料に「何でこんなに」との思いを持っている。
「年金通帳」で、負担と給付の関係が明確になったら、どうなるだろうか。人口ピラミッドがこれだけ崩れ、長年に渡って物価が上昇してきたことから、現役世代は、負担額が給付額を上回る。「個人勘定」化に踏み込むと、国民は、年金制度を「損得」で捉えることになる。「これだけ取られているのに、もらえるのは、たったのこれだけ」との思いを持つことになる、現役世代の年金制度への不満は、ますます高まるだろう。

だからといって「都合が悪いことだから国民=被保険者からは見えないようにすればよい」というわけではない。しかし、国民に向けて発せられる情報=メッセージによっては、社会保険制度=年金制度が崩壊するきっかけになりそうな気がする。

社会保険制度は、生活をおくる上での様々なリスクを被保険者が分散して負担する「社会的な制度」である。年金制度は、「年をとって働けなくなる=生活に必要な収入を得ることができなくなる」ことをリスクとして捉え、生活が立ち行かなくならないよう、国民=被保険者全体で支え合おうという制度である。つまり、「個人勘定」にして被保険者1人あたりの損と得を見えるようにし、「年金制度に加入することが、経済的に合理的だと示す。逆の場合は、未加入のほうが合理的」との民間の保険商品の概念を持ち込むことが、社会保険制度のリスク分散や世代間の支え合いなどの「相互扶助」の理念を壊してしまうのではないか、と思われる。

日本の年金制度は、3階建てになっており、社会保険の概念と民間保険の概念が入り混じっていて、すっきりしない。
1階の国民年金部分は、まさしく社会保険の考え方であり、最低限の生活を保障するための年金制度。2階と3階は、現役時代に納めた保険料(所得)に応じて支給される、民間の保険商品の考え方である。どちらかといえば「損得」で割り切れるところであり、強制加入の社会保険制度には馴染みが悪い。
「年金通帳」を使った国民=被保険者への情報提供のあり方によっては、社会保険制度が根底から崩れていくかもしれない。マニフェストには、次のように書かれている。

所得の把握を確実に行うために、税と社会保障制度共通の番号制度を導入する。

民主党には、複雑化した社会保険制度を根底から組みなおす目論見があるのかもしれない。