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学問全般について語ります

欧州電力輸出入事情

2011-06-15 06:35:54 | 社会
 05/30の記事で河野太郎の以下の発言を肯定的に紹介しました。
http://www.taro.org/2011/04/post-982.php
原発を増やさないために 2011年04月18日
しかし、フランスの場合、他国と送電線がつながっていて、ドイツその他の国に電力を販売している。だから、他の国の最小消費量を足していった分だけ夜間も発電できる。

 また自分では「ドイツとフランスは対照的な原発政策を取っているように見えますが、実は持ちつ持たれつのような気がします。」と書きました。

 しかし実際の数値はどうなのかは自分では確認していませんでした。そこで今回、欧州の電力貿易について数値の確認をしてみました。

 電力に限らず輸出入においては、各国について次の4つの量が考慮されます。
  pd 生産量(product) 発電量
  cs 消費量(consumpt) 消費電力量
  ex 輸出量(export) 輸出電力量
  im 輸入量(import) 輸入電力量

 そして次のような比率が考えられます。
  ex/pd (生産量・発電量の中の)輸出比率
  im/cs (消費量・消費電力量の中の)輸入比率
  (ex-im)/pd (生産量・発電量の中の)純輸出比率
  (im-ex)/cs (消費量・消費電力量の中の)純輸入比率

 通常出回っている数値はex/pdやim/csですが、片方しか記載がないと純輸出(輸出超過量)または純輸入(輸入超過量)と勘違いすることがあるので要注意です。例えば輸出比率だけ記してあると文脈によっては、その国が純輸出国だと錯覚しかねません。

 またある国がA国との間では輸入超過でも全体で輸出超過という場合もあります。例えばエネルギー白書2010二次エネルギーの動向に「【第223-1-6】欧州の電力輸出入の状況(2007年)」と題した図がありますが、実はフランスの輸出入しか載っていません。この図ではドイツはフランスに対しては輸入超過であることはわかりますが、ドイツ自体が純輸出国なのか純輸入国なのかはわかりません。表題にいつわりありですね(^_^)。

 さて末尾の表1.にヨーロッパ主要国の電力貿易についての上記4種の量を示しました。データはindexmundiというサイトの"Country Facts"からたどって得ましたが、そのソースはCIA"The WORLD FACTBOOK"で、数値は実績値ではなく推測値(estemated values)と思われます。国により(2007 est.)と(2008 est.)がありますが、est.(estemation)の方法は不明です。推測値で語るのは不満ですが、まとまった実績値が見つからなかったもので、やむなくこのデータを使いました。

 推測値の精度確認のために2006年と2007年の発電量の実績値を表2.に示しますが、ほぼ一致していて、傾向を語るには差し支えないようです。表2のデータは総務省統計局Ref-2および国際比較データサービスRef-3からです。

 表1.からは次のことがわかります。
1. フランスは純輸出量も発電量中の輸出率でも最大
2. ドイツは純輸出国であり、輸出量はフランスに匹敵する
3. 純輸入国はイギリスとイタリア
4. 43TWh/年ほどが他の国に輸出されている。

 なおドイツは脱原発に梶を切ろうとはしていますが、現時点ではなかなかの原発大国です。確かにフランスとは対照的な原発政策を取っているのでしょうが、その政策が実態に反映されてくるのは先のこととなると考えられます。

 例えば(社団)海外電力調査会のサイトから。
 http://www.jepic.or.jp/data/gl_date/gl_date03.html
  主要国の発電電力量の電源構成(2008年)
 http://www.jepic.or.jp/data/gl_date/gl_date05.html
  主要国の発電設備の電源構成(2008年)

 例えばRef-3から
  http://www.globalnote.jp/database/data.php
   原子力発電量世界順位は、1998-2006が米仏日独露、2007が米仏日露韓独

 http://www.globalnote.jp/database/data.php
   原子力発電比率世界順位は、日本・ドイツ・フィンランドが25%前後で15位前後、フランスとリトアニアが70-80%でダントツのトップグループ、3-15位にはベルギー、スウェーデン、スイス、チェコなど意外とも思える国々が並んでいます。
   ベルギーの原子力発電所立地はフランスと一緒に示されています。スイスもなかなかに揺れている様子です。


 なおドイツの原子力発電開発の現状(2009/12)については原子力百科事典の記載があります。その中の立地を見ますと、やはり原発とワインの記事で思ったように大河の側にあるように見えます。ワイン畑との関係は不明です。

 また、この4月にはドイツが電力の純輸入国に転じたとの報道がありました。ロイター(2011/04/05)によれば、ドイツのエネルギー・水道業界団体BDEWから「原子力発電所の停止措置により、ドイツは1日当たり50ギガワット時(GWH)の純電力輸入国となった」との発表があったとのことです。これは1年間では約1.8TWhに相当します。

 最後にこの問題についてかなりの事情通らしき人のブログ記事がありましたのて紹介だけしておきます。
 フライブルクから地球環境を考える~村上 敦のエコ・エッセイ~
 ドイツの急速な脱原発は、フランス原発に依存か?
(その1)2011/05/27 17:15
(その2)2011/05/27 16:03
(その3)2011/05/27 17:41
(その4)2011/05/27 18:59
(最終回)2011/05/27 19:28

 (その2)より(その1)のアップ時間が後なのはご愛敬(^_^)  (その3)のグラフではドイツにおける太陽光発電のあまりの貢献度に目をむきました。年間平均だけではわかりません。「両国(チェコとフランス)で余った電力は、主にドイツの市場で叩き売りされている」(その2)との見解ですが、「ドイツでは発電しようと思えば発電できる能力がありながら、今も、昨年も、フランスから一定量の電力を輸入超過していますから」(その1)という数字も挙げています。ふーむ、スイスとオーストリアは欧州中央の電池と呼ばれるのですか(その2)。

 なお主なソースと言っているBDEW(ドイツのエネルギー・水道業界団体)のデータは以下からたどれると思うのですが、よく見てはいません。
http://www.europeangashub.com/listing/guide/market_data_price_sources Market Data & Price Sources


----------
 以下の表で電力量の単位は10億kWh/年=TWh/年(テラワット時/年)=billion kWh/年、である。

表1. 欧州主要国の電力貿易量(TWh/年;推測値)Ref-1
発電消費輸出輸入純輸出輸出/発電(%)輸入/消費(%)
535.7447.258.6910.6848.0111.0%2.4%
593.4547.361.7041.6720.0310.4%7.6%
368.6345.81.2712.29-11.020.3%3.6%
西300.5276.116.925.8811.045.6%2.1%
289.7315.03.4343.00-39.571.2%13.7%
925.9857.617.703.0714.631.9%0.4%


表2. 欧州主要国の発電量(TWh/年;実績)
 Ref-2Ref-2Ref-3
2006年2007年2007年
574.6569.8570.02
636.8637.1637.60
398.3396.1397.04
西299.5303.3303.29
314.1313.9313.90
995.81015.31018.70


-----参考文献-------
Ref-1) indexmundi。各国別のページでEconomyのElectricity - exports等を見る。また例えば以下のURLで国名を置換すれば、その国の同一データにアクセスできる。
  http://www.indexmundi.com/france/electricity_production.html
  http://www.indexmundi.com/france/electricity_consumption.html
  http://www.indexmundi.com/france/electricity_exports.html
  http://www.indexmundi.com/france/electricity_imports.html
Ref-2) 総務省統計局の統計データ > 世界の統計 > 第6章 エネルギーの「6-4 電力発電量〔統計表〕(エクセル:43KB)」
Ref-3) GLOBAL NOTE 国際比較データサービス【無料登録が必要】

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