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異世界銀行

2019-06-01 08:12:43 | 架空世界
 05/07の記事および05/12の記事の続きです。

 なかなかにリアルな異世界を描いた3つの作品に登場する金融システム、小野不由美『十二国記』の界身、香月美夜『本好きの下克上』のギルドカードシステム、保利亮太『ウォルテニア戦記』の銀行の比較をしてみます。金融システムではありますが、どの作品でも前面に出ているのは決済システムとしての機能です。銀行が誰にどんな融資をしているのかなどという本来の金融機関としての姿は描かれてはいません。まあそんなのはストーリーの本筋から外れますからね(^_^)。 でもまさか決済手数料だけでしこしこ稼いでいるだけとも考えにくいでしょう。やはり集めた預金を貸し付けて利子を稼いでいるはずだと思われます。

 そして現実世界を見ればよくわかるように、広範囲に広がり資金力のある金融システムを握る者は強い影響力を持ちます。となると以上の作品世界でも、金融システムを運営しているのはどのような組織なのかということが非常に気になります。

 3つの例の中で『十二国記』の界身が使う烙款には魔術的要素はありません。割符を使うだけの物理的システムです。そして界身を運営するのは普通の人間です。

 といっても普通じゃない人間のことを説明しないと意味がわかりせんね(^_^)。

 『十二国記』の世界で各国を治めているのは麒麟に選ばれたと呼ばれる人々です。のほとんどはにより任命されますが、任命の瞬間から肉体的老化が止まり不老の身となります。死なないとか死ねないわけではありませんが、怪我や病気に強くなり、治りも早くなり、くびが胴体から離れるくらいでないと死ななくなります。

 という具合に普通の人間との間には、『本好きの下克上』における貴族と平民との格差よりも大きな絶対的格差が存在するのですが、は基本的にはに任命された公務員であり、商業は普通の人間が担っているようです。そして普通の人間は各国の国民として法に従っているのであり、界身も少なくとも異なる国の組織間には、例えば親会社子会社のような支配関係みたいなものはない模様です。ただ、国家間の商取引のために界身座という連合体が作られていて烙款はこの界身座に属する界身で利用できるシステムです。なんのことはない現実世界での銀行間取引ネットワークと本質は同じものですね。

 『本好きの下克上』のギルドカードですが、主人公のマインが最初に使ったのはエーレンフェストという一都市の商業ギルドが発行していたものです。つまり預金の管理などは一都市の商業ギルドがやっているのであり、言い換えれば商業ギルドが銀行経営もしているのです。そしてその守備範囲は最大でも一領地内までくらいでしょう。そして領地間の決済についてはいくつかの可能性があります。

 1.領地間決済は現金決済のみで為替システムのようなものは存在しない。
  転地陣[*1]が使えるので現金決済の不便さがあまり無いはずです。
  領地Aの商人が領地Bのギルドに口座を持つということはありそうです。
 2.界身座のように異なる領地のギルド間が連携した決済システムがある。
 3.領地が集まった国家(ユルゲンシュミット)の王族直轄地たる中央に全国共通決済システムの組織がある。

 この世界の都市や領地の境界は一種の結界になっていて、結界内でしか効果が及ばないという魔術が多くあります。知能系魔術(2019/05/07)で紹介した契約魔術もそうなので、ギルドカードの決済システム魔術も領地境界を越えては機能しないという技術的制約を抱えている可能性は大です。

 ネット販売などありませんから商品のやり取り自体は対面取引が基本です。なので領地間での取引なら現金決済が基本となりそうです。毎年繰り返す取引になるなら現地のギルドに口座をもつのが便利でしょう。

 さて『ウォルテニア戦記』の銀行第1章第10話に述べられていますが、「上下黒のスーツにレースの付いたブラウス、首には赤いループタイ」という男性案内者がいて、「赤いリボンに紺のジャケット、制服に身を包んだ女性」である受付嬢」がカウンターの向こうでほほ笑んでいるのでした。名刺程の大きさの紙になにやら記入して透明な板では挟んでカードとし、そのカードをガラス球の台座に開いた投入口に入れて登録者が手をガラス球の上に置くと球が瞬いて固体情報登録が完了。なんと血を使うこともありません!これはもしかして掌紋認証とか血管構造の認識とかなんでしょうか? ちなみに血をつかうならばDNA認証なんてSF的理由付けはできますね。糖鎖とかタンパク質でもいいのですが、方法は魔術的なものとしても、血液の中に本人を特定する情報が含まれているからこそ、本人を特定することができるわけです。その意味では手の平をかざすとか載せることでも、手に含まれる個人特定情報を魔術的方法で読み取れればよいわけです。

 さて「銀行のカード情報と冒険者ギルドの登録情報は共有する事が出来る」ということで1枚のカードで済むとのこと。どうやら冒険者ギルドと銀行とが深くつながっている模様です。さらにおもしろいことには、主人公の亮真(りょうま)に助けられたマルフィスト姉妹は銀行について知りませんでした。元は騎士の娘で、しっかりした教育を受けているにもかかわらずです。つまり銀行は貴族達には使われていないと考えられます。明記されていませんが大商人たちの取引でも使われていない気配が濃厚です。つまり銀行とは大金を自衛する手段に乏しい中下層平民達のための決済や預金が主な役割ではないでしょうか。明記はされていませんが、「安全に預けられる事自体がサービス」ということで預金利率はゼロかも知れませんね。現実世界の当座預金のようなものです。そうして集めた預金は現実世界の銀行にとってと同様に強大な資金力になるはずです。その力を握っている者は誰なのか?

 ここで銀行員たちの服装や接客態度がいかにも現代のビジネスパーソン風であることから、このシステムは地球からの直輸入ではないかとの疑いが生じます。さらに「恐らくあの男はギルドからあれを求めるつもりだろうな[第6章第7話]」という某の独白とか、「冒険者ギルドのSランク達が実は〇〇である[第5章第5話]。」という記述とかから推測すると、銀行システムと某組織とは深いつながりがありそうです。最初に登場した時には主人公の冒険者生活を便利にするための都合のいいアイテムくらいにしか思えなかった銀行システムですが、実は後のストーリーのための大事な伏線だったようです。

 伏線と言えば[第1章第18話]で「俺らはただの盗賊じゃねえ ○○だ」と自白した盗賊の話も実は後の伏線でした。最初に読んだときはサラーッと流して○○の内容など覚えていませんでしたから、伏線判明の場面でも何も気づきませんでしたけれど(^_^)

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*1) 空間を越えて遠隔移送できる魔道具で、質量が少なければ魔力は少なくて済む。貴族しか持たないものだが領地間決済なら領主権限と想像できる。民間同士では使えないだろうが。

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