【朗読】茄子

2019年06月09日 | 朗読
【朗読】茄子




movement et temps 第十一番

      茄子





茄子の笑いは人知を超えている。とぼけた丸い頭と江戸紫のテカリ、しっぽの恣意的な曲がりとヘタまでの絶妙な紫のグラデーション。茄子は一個の人格である。憎めない。憎からず思っている茄子を裏返すと、ヘタから白い光が射している。光が射して紫が静かに開けるところである。日の出だ。夜が明けると茄子が三本、キッチンの水を張った桶の中でうなずき合っている。きらきら水滴のついた茄子を一個、まな板の上にころがす。包丁の刃を斜めに入れると、ざくっと気持ちのいい手ごたえがある。そして、いつの間にか手ごたえも包丁も消えて茄子そのものになっている。茄子――それは天地に満ちた大いなる笑いなのである。



   天地のむらさき満つる茄子かな







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