【朗読】十二ロールのシングルのトイレットペーパー

2019年06月09日 | 朗読
【朗読】十二ロールのシングルのトイレットペーパー







movement et temps 第九番


十二ロールのシングルのトイレットペーパー



どこにも存在しない青い花がプリントされた、ビニールのパッケージからは微かにその青い花の香りがしている。ドラッグストアーのやや高い棚に積み上げられた十二ロール入りのパッケージはあまり目立たない。「ふっくらやわらか」がセールス・ポイントのトイレットペーパーも、四つずつ三段重ねると意外に重い。一ロールで五十メートルあると謳っている。五十メートルの空間が十二個凝縮しているわけである。つまりは六百メートルの空間が、この安っぽいビニール・パッケージ一つの中にある。次々に縦に伸びるか横に重なって広がるか、垂直に高い壁と化すか、意外な重さは六百メートルの空間の重さであった。五十メートルのロールの芯には幻の青い花の香りが宿り、それが六百メートルの空間を自在に咲き乱れている。どこにもない青い花が咲き乱れた夏野をまるめて十二ロール、手に提げてレジに並ぶ。下の方に買い物した印の黄色いテープを貼ってもらって帰る。幻の花の消費量は激しいのである。







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