DEATH, THE PHILOSOPHER

2014年09月16日 | Charles Simic


DEATH, THE PHILOSOPHER

He gives excellent advice by example.
"See!" he says. "See that?"
And he doesn't have to open his mouth
To tell you what.
You can trust his vast experience.
Still, there's no huff in him.
Once he had a most unfortunate passion.
It came to an end.
He loved the way the summer dusk fell.
He wanted to have it falling forever.
It was not possible.
That was the big secret.
It's dreadful when things get as bad as that-
But then they don't!
He got the point, and so, one day,
Miraculously lucid, you, too, came to ask
About the strangeness of it all.
Charles, you said,
How strange you should be here at all!

FROM CHARLES SIMIC "The VOICE at 3:00 A.M."


死、大いなる哲学者

死はすばらしく具体的なアドバイスをくれる
「見よ!」と死は言う「あれが見えるか」
死は助言するのに
口を開く必要がない
その深淵な経験は信ずるに足りる
いまだに、死は怒りを持ったことがない
一度だけ、死はとても不幸な感情を持ったことがあった
しかし、その感情は消えた
死は夏の落日を愛した
それが永遠に続けばいいと思った
でもそれは不可能だった
そこまでひどくなったら終わりだ
そう、だからそうはならない
死はそれを悟った だからある日
奇跡的な明晰さで、きみも尋ねるようになったのさ
存在の不思議さについてね
チャールズ、ときみは言う
ここにきみが存在しているなんて、なんという不思議なことなんだろう

チャールズ・シミック 詩集『午前3時の声』から



THE BIG WAR

2014年08月02日 | Charles Simic
THE BIG WAR


We played war during the war,
Margaret. Toy soldiers were in big demand,
The kind made from clay.
The lead ones they melted into bullets, I suppose.

You never saw anything as beautiful
As those clay regiments! i used to lie on the floor
For hours staring them in the eye.
I remember them staring back at me in wonder.

How strange they must have felt
Standing stiffly at attention
Before a large, incomprehending creature
With a moustache made of milk.

In time they broke, or I broke them on purpose.
There was wire inside their limbs,
Inside their chests, but nothing in the head!
Margaret, I made sure.

Nothing at all in the heads...
Just an arm, now and then, an officer's arm,
Wielding a saber from a crack
In my deaf grandmother's kitchen floor.

大いなる戦争

戦争中、戦争ごっこをして遊んでいたんだよ、マーガレット
おもちゃの兵隊さんは大人気だったんだ
陶器で出来ていてね
鉛の奴は溶かされて弾になっちゃたんじゃないかな

あんなに美しい陶器の部隊なんてなかったな
何時間も床に寝そべって
見つめていたものさ
兵隊さんの方も驚いて見返してきたのを憶えている

気をつけの姿勢で立ってはいたけれど
ヘンだと思っていたに違いないよ
でかくて理解不能な生きものが
ミルクの口髭を生やして目の前にいるんだからね

そのうち兵隊さんは壊れちゃった ぼくが壊したのもある
手足の中には針金が通してあったし
胸の中にもあったね けれど 頭の中はからっぽだったんだよ!
マーガレット、ほんとうなんだ

頭の中はからっぽ...
腕だけでさ ときどき 将校は腕だけでさ
耳の遠い祖母の台所の割れ目から
サーベルを引き抜いて振りまわすんだ


Charles Simicは、1938年生れ。76歳。
セルビア系アメリカ人。ユーゴスラビアのベアグラード生れ。
15歳のとき、家族とアメリカへ移住。受賞歴多数。
同時代のもっとも重要なアメリカ詩人の一人として広く知られている。
ニューハンプシャー在住。

Charles Simic(5)

2013年04月28日 | Charles Simic






CAFÉ DON QUIXOTE

Charles Simic



Trees like country preachers
On their rostrums,
Their arms raised in blessing
Over the evening fields.
Every leaf now, every weed
Helping the night
Darken and quiet the world
For what’s to come.

Birds of a feather, listen,
Pay attention to me.
I’m setting out astride my phantom Rozinante.
Down a winding road where crows vanish.
Imponderabilia, wherever you’re hiding,
Hop in the saddle with me.

No two blades of grass, no two shadows
Whisper our names alike.
CAFÉ DON QUIXOTE in blood-red neon
Just now coming into view
In the vast, dark-clouded,
Storm-threatening West.




カフェ・ドンキホーテ

チャールズ・シミック




説教台の
田舎牧師さながらに
木々は夕べの野を
両手をあげて祝福する
いま どの葉もどの草も
来るべきもののために
夜が世界の闇を深め
静めるためにある

友よ 聞いてほしい
わたしは幻のロシナンテに跨り
出発するつもりだ
曲がりくねった鴉のいない道を南へ
おまえがどこに姿を隠していても
わたしは軽々と鞍に跨ってみせようぞ

われわれの名をささやく
二枚の葉 二つの影
声たちが同じはずがない
カフェ・ドンキホーテのネオンがいま
血のように赤々とついた
嵐の前の黒雲湧き出づる
大いなる西の空に








Charles Simic(4)

2012年09月17日 | Charles Simic

■旧暦8月2日、月曜日、敬老の日

9月一杯で、丸の内の松丸本舗が閉店になるので、先週、始めて行ってみた。何か、記念に、と思い、フェルナンド・ペソアの詩集と中山義秀の『芭蕉庵桃青』を何気なく購入。二冊とも、知らなかったので、ここで、初めて出会ったことになる。とくに、ポルトガルのアヴァンギャルド運動をたった一人で担ったフェルナンド・ペソア(1888-1935)は、まったく知らなかった。訳者解説を読み、その人生と詩作の方法に大変興味を覚え、その詩をじっくり読む前に、アントニオ・タブッキの『フェルナンド・ペソア 最後の三日間』を読んだ。統合失調症かと、思われるほど、自分の分身を何人も作り上げ、異名者たちが、別の人格と思想で、それぞれ、まったく別の作品を作る。それが一つの全体性を構築するように計算されている。ペソアは、非常に面白い詩人だと思う(あるいは、小説家に近いのかもしれない)。これは、自分の経験からする直観だが、ペソアは、実人生でも、幻聴や幻覚に近いものをたびたび体験していたのではないかと思う。その意味では、実に危険で勇気ある実験を行ったと思う。精神科医は、生活態度に、「無難さ」を求めるものだが、ペソアは、正反対の果敢さで47年を生きた。この詩人は、今後も、繰り返し読むことになるという予感がある。




THE LITTLE PINS OF MEMORY
                      


Charles Simic

There was a child’s Sunday suit                                                                         
Pinned to a tailor’s dummy 
In a dusty store window.
The store looked closed for years.

I lost my way there once
In a Sunday kind of quiet,
Sunday kind of afternoon light
On a street of red-brick tenements.

How do you like that?
I said to no one.
How do you like that?
I said it again today upon walking.

That street went on forever
And all along I could feel the pins
In my back, prickling
The dark and heavy cloth.
   

The Voice at 3:00 A.M.


小さな記憶のピン

チャールズ・シミック


埃っぽいショーウィンドーの
マネキンに
子どもの日曜の晴れ着が
ピンで留められていた

そこで一度道に迷った
日曜のしづけさ
日曜の午後の光
赤レンガの借家が並ぶ道

それどう?
わたしはだれでもない誰かに言った
それどう?
今日は歩きながらまた言った

その道は永遠に続いていた
そのあいだずっと背中のピンが
黒っぽい重い服に
突き刺さってくるのを感じていた




■日本語にしてしまうと、凡庸になってしまうが、In a Sunday kind of quiet,/ Sunday kind of afternoon lightという表現が面白く心に残った。最後のAnd all along I could feel the pins/ In my back, prickling/ The dark and heavy cloth.という表現のcouldの使い方。これも、なかなか、面白いと思った。能力は、基本的に、善いものだから、ピンが服に突き刺さるのを喜んでいるニュアンスがある。

Charles Simic(3)

2012年08月30日 | Charles Simic

■旧暦7月13日、木曜日、

(写真)夏の最後の夕日


ここ数日、湿度が異様に高く、朝起きるとシャワーを浴びないではいられない。英独仏と断続的に漫然と会話番組を聴いているが、一向に聞き取りが上手くならない。検定試験みたいなものを受けてみようかと思い始めている。目標があれば、断続的が持続的になり、漫然が集中になるのではないか。甘いかな?

一年半前に、インタビューしたメモを再構成できなくなっている。当たり前と言えば当たり前だが、不覚だった。メモは直後に文章化しておくべきだった。そのメモ内容の価値判断は、その時点で行ってはならない。思考停止して、メモを作るべきだ。なぜなら、その時点では、文脈は、ほぼ、何も見えておらず、何がどこにつながるか、見当がついていないのだから。どんなに些細なことも(たぶん、歴史に些細は存在しない)、無関係と思える人名も、一年半も経って見ると、俄然、輝きだすからである。



OCTOBER ARRIVING

           Charles Simic




I only have a measly ant
To think with today.
Others have pictures of saints,
Others have clouds in the sky.

The winter might be at the door,
For he’s all alone
And in a hurry to hide.
Nevertheless, unable to decide

He retraces his steps
Several times and finds himself
On a huge blank wall
That has no window.

Dark masses of trees
Canst their before him,
Only to
Erase them next
With a sly, sea-surging sound.



10月の到来

       チャールズ・シミック



今日のぼくに考える相手は
ちっぽけな蟻しかいない
それが聖人画の人もいれば
空の雲の人もいる

冬はたぶんドアのところにいる
彼は一人で
隠れようと焦っているから
それでも決心がつかない

彼は自分の足跡を
何度もたどり直して
やっと殺風景な窓のない大きな壁の上に
いることに気がつく

黒い木々の塊が
彼の前に迷路を投げかけるが
次の瞬間 悪意ある波の音とともに
かき消されてしまう


■冬将軍という言葉があるけれど、英語もwinterはheで受けるのが面白い。



Charles Simic(2)

2012年06月30日 | Charles Simic


■旧暦5月11日、土曜日、、夏越の祓

(写真)夏の空

最近、早く起きると、必ず、ラジオ体操をみっちり行っている。その後、軽く筋トレ。「大人のラジオ体操」という本がなかなか、ポイントを押さえてあって重宝している。

ルカーチの「全体性」の考え方は、複雑系だと、自身が、述べているので、ずっと「複雑系」が気になっていた。先日、池袋の古本屋で、たまたま現代思想が複雑系を特集している1996年11月号を見つけて、即、購入し、読んでいる。問題意識を抱えていると、向うから本が飛び込んでくる、というのが、本屋、古本屋めぐりの愉しみの一つなのだろう。

今日は、午後からHenri Le Sidaner展へ。あまり感心しなかった。はじめから認められる画家に大した人はいないと思う。実験精神や展開する意志が感じられない。せいぜい、光の推移の時間帯が、印象派の昼の光とは別に、夜から朝へ、昼から夜へと、工夫した程度で、あとは、フランスの東山魁夷といった当たり障りのない絵だと思う。妹がルオーに嫁いでいるが、そして、同じ、ヴェルサイユに住んでいたが、交流がない。ルオーのような人から見ると、シダネルは、名誉心の強い通俗的な画家だったのではなかろうか。ルオーは、シダネルより一回り下になる。常設展のゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルオーの方がはるかに、こちらへ訴えてくるものがある。




EARLY EVENING ALGEBRA

The madwoman went marking X's
With a piece of school chalk
On the backs of unsuspecting
Hand-holding, homebound couples.

It was winter. It was dark already.
One could not see her face
Bundled up as she was and furtive.
She went as if wind-swept, as if crow-winged.

The chalk must have been given to her by a child.
One kept looking for him in the crowd,
Expecting him to be very pale, very serious,
With a chip of black slate in his pocket.
The VOICE at 3:00 A.M by Charles Simic



手をつないで家に帰る
人のいいカップルたちの背中に
狂った女が
X=とチョークで書いて行く。

冬だった。もう暗かった。
人眼を避けて顔に包帯を巻いていたとしても
女の顔は見えなかっただろう。
風のように音もなく鴉のようにすばやく
女は動いた。

チョークは子どもからもらったに違いない。
その子を人ごみの中でずっと探していた。
きっとポケットに石板のかけらを入れて
生真面目な蒼い顔をしているはずだ。





■X'sをどう理解していいのか、わからない。代数と言っているのだから、X社やXの、といった意味ではない。それとも、たわむれに、そのカップルはXのものという意味で、そう描いたのか。まあ、単純に、代数と言っているのだから、Xは、なんだろう。

Charles Simic(1)

2012年06月23日 | Charles Simic

■旧暦5月4日、土曜日、、沖縄慰霊の日

(写真)夜の池袋

昨日のデモには参加していないが、ウェブでのその余韻で、なかなか、眠れず、早くに目が覚めた。間違いなく、歴史的なデモになっていくだろう。4万人を超える国民が首相官邸を包囲する、というのは、只事ではない。安保闘争以来じゃないだろうか。今回は、学生に限定されない幅広い参加者が参加している。原発関連で、二つ、重要な論点が浮かんできているように思う。一つは、福島第一の事故の原因が、(想定不可能な)津波による「自然災害」ではなく、地震に耐えられなかった「人災」であること。この認識枠組みを作れるかどうか。もう一つは、原発が核兵器と一体であること。この認識を広く共有できるものにして行けるかどうか。



DECEMBER

It snows
and still the derelicts
go
carrying sandwich boards―

one proclaiming
the end of the world
the other
the rates of a local barbershop.


Charles Simic The VOICE at 3:00 A.M


12月



雪が降っている
それでもホームレスたちは行く
サンドイッチボードを手に持って

一人は
世界の終焉をアピールし
一人は
地元の床屋が高いとアピールする


■チャールズ・シミックは、1938年、ユーゴスラビアのベオグラード生まれ。セルビア系アメリカ人。15歳のとき家族とともに渡米。ニューパンプシャー在住。

比較的短くて、鮮やかな印象に残る詩が多いので、ぼちぼち、翻訳していきたい。ホームレスのサンドイッチボードの内容が面白い。この詩には、ユーモアと尊厳を感じる。