-------竜吉じいちゃんの話-------
「この村は、昔から大理石が良くとれたもので、それで皆が生活しておったのは知っての通りじゃが、そのころ一人の学者が、この村を訪れたのじゃ。
その学者が言うには、大理石の中にある物質に、はやり病に効く物があるとかで、その研究のために川の上流あたりに家を建て、その中に研究室を作って大理石を分析していたそうじゃ。
その頃のはやり病は、この村でも恐れられていたため、村人も喜んで手を貸したそうじゃ。
おまえたちも一度は見たことがあると思うが、あの西洋かぶれした館じゃよ。
学者は、あの中で研究をしておったのじゃ。」
「じいちゃん、僕、見たことあるよ。 森をずっと登って行ったところにあったよ。でも、母さんや村の人たちが、あそこには近づいちゃいけないって言ってるよ。」
「そうなんじゃ。あの忌まわしい事件がなければ、そんな話はなかったろうに。」
そう言うと、竜吉は口をつぐんだ。
「じいちゃん、最後まで話をして! お願いだから。」
「わかった。じゃあ話そう。
それは学者の研究の成果があったらしく、薬作りの最終段階に入ったとのことじゃった。
そのため、もう少し大理石が欲しいというので、村人数人で運んだそうじゃ。
大理石の大きさが人の背丈ほどあったらしいから、さぞ重かったろう。
それを研究室の壁に立て掛けた時じゃった。
大理石がぐらついたと思ったときには、学者はもう、石の下敷きになっていたのじゃ。
すぐに助け出したが、頭はつぶれて、おぞましい光景だったそうじゃ。
その死体の手には、ほぼ完成された液体の薬が持たれていたらしいのじゃ。
村人が手にすると、その黒い液体は見る見るうちに固まって、まるで石のようになったとのことじゃよ。
たぶん、最後の仕上げに何かを入れれば、完成したのじゃろう。
もちろん村人のなかに、その研究を継げる者はいなく、また、はやり病も、思ったほど村に被害を与えることがなくなったので、次第に学者のことも薬のことも忘れられていったのじゃ。
それから数年後の事じゃ。いつものように村人が石切場で働いているときに不思議な事が起こった。
切り出した石が、見る間に真っ黒になったかと思うと、村人に襲いかかるように倒れて来たそうな。
村人は即死だったとのことじゃ。
皆は、それが学者の呪いだと思った。村人のために研究をして不幸な死を遂げたのに、皆が忘れてしまったことで呪ったのだと考えたのじゃ。
それで、神社を建てて祈ったところ、二度とそのようなおぞましいことは、なくなったそうな。
その神社とは、おまえたちの家の近くにある石神神社なのじゃ。
あの神社の中には、精霊石という真っ白い大理石が奉ってあるのは知らんじゃろう。
それが、あの学者の呪いを鎮めていると語られておる。 わしが知っていることはここまでじゃ。」
「じいちゃん、話してくれてありがとう!」
「いやいや、おまえたちに話をして、わしも気が楽になった。しかし、今の時代に呪いなどがあろうものか。
ただの言い伝えだと思って、早く忘れておくれ。とにかく、母さんを大事に看病してあげるのじゃ。」
「うん、わかったよ。じゃあ、家に帰るよ。 じいちゃんも元気でね。さようなら。」
「ありがとよ。元気でな。」
-------次回へ続く-------
「この村は、昔から大理石が良くとれたもので、それで皆が生活しておったのは知っての通りじゃが、そのころ一人の学者が、この村を訪れたのじゃ。
その学者が言うには、大理石の中にある物質に、はやり病に効く物があるとかで、その研究のために川の上流あたりに家を建て、その中に研究室を作って大理石を分析していたそうじゃ。
その頃のはやり病は、この村でも恐れられていたため、村人も喜んで手を貸したそうじゃ。
おまえたちも一度は見たことがあると思うが、あの西洋かぶれした館じゃよ。
学者は、あの中で研究をしておったのじゃ。」
「じいちゃん、僕、見たことあるよ。 森をずっと登って行ったところにあったよ。でも、母さんや村の人たちが、あそこには近づいちゃいけないって言ってるよ。」
「そうなんじゃ。あの忌まわしい事件がなければ、そんな話はなかったろうに。」
そう言うと、竜吉は口をつぐんだ。
「じいちゃん、最後まで話をして! お願いだから。」
「わかった。じゃあ話そう。
それは学者の研究の成果があったらしく、薬作りの最終段階に入ったとのことじゃった。
そのため、もう少し大理石が欲しいというので、村人数人で運んだそうじゃ。
大理石の大きさが人の背丈ほどあったらしいから、さぞ重かったろう。
それを研究室の壁に立て掛けた時じゃった。
大理石がぐらついたと思ったときには、学者はもう、石の下敷きになっていたのじゃ。
すぐに助け出したが、頭はつぶれて、おぞましい光景だったそうじゃ。
その死体の手には、ほぼ完成された液体の薬が持たれていたらしいのじゃ。
村人が手にすると、その黒い液体は見る見るうちに固まって、まるで石のようになったとのことじゃよ。
たぶん、最後の仕上げに何かを入れれば、完成したのじゃろう。
もちろん村人のなかに、その研究を継げる者はいなく、また、はやり病も、思ったほど村に被害を与えることがなくなったので、次第に学者のことも薬のことも忘れられていったのじゃ。
それから数年後の事じゃ。いつものように村人が石切場で働いているときに不思議な事が起こった。
切り出した石が、見る間に真っ黒になったかと思うと、村人に襲いかかるように倒れて来たそうな。
村人は即死だったとのことじゃ。
皆は、それが学者の呪いだと思った。村人のために研究をして不幸な死を遂げたのに、皆が忘れてしまったことで呪ったのだと考えたのじゃ。
それで、神社を建てて祈ったところ、二度とそのようなおぞましいことは、なくなったそうな。
その神社とは、おまえたちの家の近くにある石神神社なのじゃ。
あの神社の中には、精霊石という真っ白い大理石が奉ってあるのは知らんじゃろう。
それが、あの学者の呪いを鎮めていると語られておる。 わしが知っていることはここまでじゃ。」
「じいちゃん、話してくれてありがとう!」
「いやいや、おまえたちに話をして、わしも気が楽になった。しかし、今の時代に呪いなどがあろうものか。
ただの言い伝えだと思って、早く忘れておくれ。とにかく、母さんを大事に看病してあげるのじゃ。」
「うん、わかったよ。じゃあ、家に帰るよ。 じいちゃんも元気でね。さようなら。」
「ありがとよ。元気でな。」
-------次回へ続く-------