目覚めた先に広がるのは灰色に染まりどこまでもつまらないと感じさせる空だった。
鼻先を刺激する土の匂いは風に運ばれて来たのだろう。少し足を動かすと地面と擦れる音が響いた。
ああ、僕は横になっているんだ。そもそも一番最初に空が視界へ映ったのだから、上を見上げている形だ。
まさか立った状態に加え空を見上げたまま寝る人間はいないだろう……いないよな?と心配になるも要らない心配である。
「――ぱい――んぱい」
最期に意識があったのはいつだろうか。
時系列的に夏イベント前が都合良いのかなあなんて思ったりするけど、どこまでメタいネタを使用するかって困るよね。
僕はいつもどおり就寝した際に夢を見た。
そこに現れたのが二人の男女で、きっと人間とは呼べない存在なのだろう。
サーヴァントかどうかも解らない。感じる魔力は異質な物で秘めている力も尋常じゃない。
ロンドンの特異点で出会ったマキリの人間よりも実態が掴めない魔術師なのだろうか。
ぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具に少しでも黒が加わると、どうしても暗くなってしまう。使えない色とは言えないけど、進んで“作成”しないだろう。
まるでベディヴェールの腕と同じようにナニカを施された人間との可能性もあって、一概に正体を決めつけるのは出来ない。
きっとグランドキャスターが絡んでいるのだとは想像できる。式と出会ったマンションも、巌窟王と出会った塔もそうだった。
これから僕達はこのイレギュラーな特異点を開放するのだろう。イレギュラーじゃない特異点ってなんだ?
今にもロマンが通信で色々と教えてくれるだろう。
あれ、遅くない?今回のロマン遅くない??いつもなら解説してくれるだろうに――まさか巌窟王と同じか?
「――して――さまして」
そうだろう。ロマンの仕事は評価出来るんだ。彼ならすぐにコンタクトを図ってくれる。
それが遅いのだから恐らく僕は孤立している。この時代にただ独りとして放り込まれたのだろう。
マシュもいない今じゃ、自分の力でなんとかするしかない。巌窟王の時は彼が味方してくれたけど、あれは奇跡だ。
普通なら召喚主であるマスターには歯向かわない……グランドキャスターって実は苦労者じゃないだろうか。
「――先輩! 目を覚ましてください!」
――ま、マシュ……?
――やったー! マシュも一緒だー!!←
独りじゃないってのは精神的に楽になる。やっぱり誰かと一緒にいる方が楽しいのもある。
起き上がって嬉しさを表現するように両腕を万歳しながらぴょんぴょん跳ねてみた。
「やったって……私も先輩が無事で嬉しいです……」
軽蔑してくれないからマシュは優しい。他のサーヴァントだったら奴隷を見るような眼差しで俗物と言われたかもしれない。
頬を赤らめて下を向いているのが可愛い。ランスロットに怒られそうだけど。
というかマシュがいる。僕を心配そうに見ていたのはやっぱりマシュだ。幻術だったらキレる自信があるぞ。
今回の突発特異点はマシュと一緒だ。巌窟王の時とは違って最初から信頼出来る仲間がいるのはとても心強い。
「それよりも先輩。あの二人のことは覚えていますか?」
――誰だっけ←
――知ってる知ってるスキマとトオリスガリ……うっ頭が。
「見たのは私だけでしょうか……まるで夢の中へ語りかけてくるような二人でした」
僕だけが見た夢だったら恥ずかしいから知らないフリをしたけど、現実だったみたい。
マシュにはちょっと悪いことをしたような気もするけど、僕の勘違いでコトを進めたらまずい。
マーリンも絡んでいないみたいだしこれは真剣に取り組まないと危ないなと思う。クリスマスの時みたいにはいかないようだ。
あの二人のことは覚えている女と男だった。さっきも振り返ったけど異質な存在だ。
「敵かどうかも解りませんが聖杯のことを知っていた……そして私達がいるこの世界は明らかに特異点です」
――魔力反応も感じるよね。
「はい。偽りの聖杯を集めろと彼女達は言っていました。正体は不明ですが情報が足りない中で考えても前には進めません。
ここは今できることを取り組みましょう。まずは情報収集で近くに誰かいないか探しましょう。偽りの聖杯について何か掴めるかもしれません」
――おお……お父さんが見たら喜びそうだ。
「お父さん……あぁ、ランスロットさんのことですか。
あの人に情報収集を任せたら女性をナンパするからだめですね、全く……」
――頑張れパパ;;
■――
TIPS【シャアの人】
第二次二次キャラ聖杯戦争においてシャア・アズナブル&アーチャー(雷@艦これ)及び遠坂凜&ランサー(クーフーリン)を当選させた書き手。
トリップは◆F61PQYZbCw。それ以上でもそれ以下でもない。裏切り?逆襲?そんなことしてないよなあ!?
参考URL【第二次二次キャラ聖杯戦争】
http://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/
――■
目が覚めた時に抱いたこの世界の感想は灰色だった。
晴れ渡る空が懐かしく思えてしまう。見ていても何一つ胸が踊らない一面の曇り空。
グランドキャスターによる例の光の輪が浮かんでいるものの、見慣れているからかアクセントを感じない。
僕達が飛ばされた場所は偶々草木が無かっただけだと思っていた。荒野とも呼べないが、自然が一度滅んだような大地だ。
雑草は生えているが逆に言えばそれしかない。水分も感じられず、とても生命が生きていけるような環境ではない。
特異点なのだから人がいるはずだ。ちょっとおかしな発言だけど、この時代に生きている人間がいる。
そもそもロマンとの連絡が取れないし、巌窟王みたいに解説してくれる現地サーヴァントもいないから何も解らない。
マシュに聞くのも可哀想だ。彼女だって訳の分からないこの状況に困っているのは僕と同じなんだ。
それにマシュはマスターである僕を守ろうと考えてくえている。必要以上に心配を与えたくない。
「先輩! 街が見えますよ!」
マシュが嬉しそうに示している方へ視線を移動させると、たしかに街があった。
門があり名前は掠れているため読めないが、そこそこ大きな街だろう。ビルがある。
――ビル?
「ビル、ですね……まさか近代の特異点でしょうか」
高層建築物は過去にもあっただろう。だけど僕達の目の前に映っているビルは元の時代と同じだ。
ガラスが張られていて、無駄に高くて、四角いあのビルだ。
近代的とは言うがサーヴァントならビルの一つや二つは余裕だろう。ピラミッドだって飛ばせるぐらいだったし。
「……先輩」
マシュが声を潜めて呟いてきた。何かに気付いたのだろうか。僕にはまだ魔力的な反応は感じていない。
デミ・サーヴァントだから一般魔術師の僕よりマシュの方が頼りになる。ダヴィンチちゃんもロマンのサポートも期待出来ないんだ。
僕に出来ることはマシュの足を引っ張らないように、この特異点を解決することだ。
「――早く行きましょう!」
ぐっと僕の腕を掴んだマシュは満面の笑みを浮かべて走り出した。
無邪気で子どもっぽくて、まるで初めての体験をする夏休みの少年少女みたいにはしゃいでいた。
ここで僕は一つ昔の出来事を思い出した。あれは冬木の特異点へ赴いた時のことだ。
マシュは特別な出生理由から本来、人間が生活を営んでいる世界を知らないんだ。
だから自分の時代と近いこの特異点は彼女にとって、失われた日常を体験出来る奇跡の時間なのだろう。
――うん!
時間が許す限りは遊ぼう。
どうせいつもどおりなら味方枠のサーヴァントが来る時間だ。キャメロットは違ったけど。
アメリカ帰りで倒れて、キャメロットでの戦いは文字通りの死闘で沢山の出会いと別れがあった。
マシュの精神状況も心配だった矢先にヤクモムラサキとカドヤツカサに巻き込まれたが、不幸中の幸いだ。
とびっきりの笑顔が見れたんだ。だったら少しでもこの時間が続くことを偽りの聖杯とやらに願おう。
僕はマシュと一緒に走り出した――この軽い足取りが数時間後には重くなるなんて、信じたくは無かったけど。
■――
TIPS【偽りの聖杯】
元ネタはウッカリデス氏が呟いた七つの特異点ネタ。
パロロワ総合板及び俺ロワトキワ荘にて現在動いている企画の中からサーヴァントを用いてFGOパロをしたもの。
今回の作品は第一特異点のプロローグ的な部分を試しに書いたものである。
本来のプロローグに当たるあれこれはウッカリ氏の呟きを探してくれ。俺は省いた。ついでに誰かまとめといてくれ。
参考URL【聖杯戦争パロ企画一覧※パロロワ系列板から派生した企画に限る】
http://www11.atwiki.jp/row/?cmd=word&word=%E8%81%96%E6%9D%AF&type=normal&page=%E8%81%96%E6%9D%AF%E6%88%A6%E4%BA%89
――■
やはり街並みは今までの特異点よりも近代的だった。冬木よりも文明は科学に歩んでいる。
街を覆うように作られていた壁には巨大なモニターが貼ってある。映像は恐らく街中だろうか。
緑や水があり、自動車などの乗り物も走っている。自動ロボットのようなマスコットも動いており、近未来都市って表現が合ってるかも。
ロボットが動いているのはエジソンを思い出す。流石に中の人がいるとは思いたくない……思いたくないよ。
繁栄しているだろうと感じた。
でも、空だけは灰色だった。街中だけ晴れていたらそれはそれで驚くけど、キャメロットの後じゃ驚かない。
エルサレムの外と中では正に天国と地獄の違いで、オジマンディアスのエジプトは別世界だった。
ちょっと歩いただけで異なる世界へ行けるのは初めての体験だった。国境を越えた訳なんだけど明らかにそれ以上の景色が広がる。
荒野を歩いた先に近未来都市があったからといって今まで以上に驚くことにはならない。
……と思いつつも、テンションが上がっているのは僕もマシュも内緒の話だ。
「誰かいます……警備員と思われる方が二人ですね。銃も所持しています」
――入国管理でもしてるのかな?
「その可能性もありますね。外敵から街を守っているのでしょうか……外と中が違いすぎますから」
――まるで聖都みたいだ。
「はい……聖罰と似たようなことが起きていないといいんですが」
聖都エルサレムには王たる存在獅子王とそれを取り囲む円卓の騎士。多くの人間が楽園として求める場所に彼らは立っていた。
外の世界は地獄であり生き続けることが罰になりかねない悲惨な状況だった。
やっとの思いで辿り着いたとしても中に入れるのは僅か数人程度で、他の人々は惨殺される未来が待っている。
あの惨劇は出来れば記憶の片隅に追いやって二度と思い出さないように封じたい。
警備員と仮称する男性二人は僕達の存在に気付くと、ひそひそと話し始めた、感じ悪いけど口出しはしないようにする。
これまでの旅で学んだ幾つかの中に「先制パンチはダメ」という言葉が辞書に載ってしまった。
そもそも先制パンチされる側なんだけど、例えばオジマンディアスに黒髭のノリで接したら殺されそう……いや、笑ってくれるか?
意外と笑って許しそうだ……ファラオ……さすがファラオ……ってどうでもいいんだ。僕達は警備員の言葉を待つことにした。
ファラオで思い出したけど、フォウ君が見当たらないのも心配の種だ。
「まさか本当に人が来るなんてな……」
「こちら正門前、こちら正門前。本部応答願います――外の世界から人体を形成する存在が二名。
これより犯罪係数の測定を実行しオールクリアならば本部へ連行し規定内の数値を超えた場合は――はい、了解いたしました」
「先輩……」
――これは穏やかじゃないね。
警備員の男性はヘルメットで表情が覆われているため、僕らに対しどのような視線を送っているかは解らない。
服装は特殊スーツのようなもので、警察というよりも機密エージェントに近い印象を抱く。
そんな彼らが僕達を見るとまるであり得ない出来事だと謂わんばかりの反応だった。外から人が来ることを想定していなかったらしい。
まるで街だけがこの世界に存在し、残りの広がる荒野は隔絶された空間で生命体の反応があることがおかしいのだろうか。
聞こえた話では人体を形成する存在だなんて言っている。酷い言い草だけどサーヴァントを警戒しているのかもしれない。
英霊だろうと多くは人間である。見た目だけで判断すると危険な状況を招くのはこの身で知っている。警備員も知っているのだろうか。
本部に実行や判断を伺っているようだけど、犯罪係数の単語に聞き覚えは無い。推測するにそれはやはり犯罪に係る係数が一番妥当だ。
僕とマシュの心に不安の種が広々と蒔かれた。
一筋縄で解決するとは思っていなかったけど、今回も波乱の幕開けらしい。
「あの……私達は」
「外から来られたのですか?」
「そ、そうです。遠い国から遙々と」
「……」
「先輩、どうやら私達はとても疑われています」
――ですよねー←
――流石に失礼ではなかろうか。
「身元の証明が出来ないのはこちらも理解しております。ただ、この街を取り巻く環境が大変危険な状況にあるためご協力をお願いいたします」
「危険な状況……映像で見る限りでは何も感じませんでしたが、何か問題でもあるのでしょうか?」
「それはですね」
「喋りすぎた。貴方達には申し訳ないがこれより――犯罪係数の測定を受けていただく」
部下らしき男の人はまだ僕達に対して友好的だった。だけど上司らしき人の反応は冷たい。
街を取り巻く環境が危険であると言ったが、マシュの反応と一緒でモニターの映像からじゃ緊迫感は伝わらない。
壁の外にある荒野と地平線まで曇る灰の空。
この世界が普通じゃないことは解る。彼らの対応から察するに人間を超えた存在――サーヴァントが絡んでいるのだろう。
一個体の力は人間と比較することすら馬鹿になる話だ。最初から逃走を前提に作戦を練った方が時間の有効活用と言えよう
「犯罪係数……?」
「知る必要の無いことですよ、結果によっては」
――む。
「先輩、ここは流れに任せましょう。何が起きるかも解らずに行動するのは危険です」
マシュの言うことは最もだ。
上司の男の態度にむっとするも事を大きくするつもりは無いためここは黙ることにした。
なにやらリモコンのような物を持ち出して蒼い光が僕達に向けられた。身体中をスキャンされているようだ。
実害は出ていないが部下の人の手が震えていた。僕達は何も知らないが彼が理解していること――犯罪係数に異常があったのか。
犯罪を犯しているつもりは無い。だけど元々狂っていた歴史を何度も修正してきた僕達は謂わば、運命を歪めている。
それが正しい行いだとしても、その世界を信じていた人々からすれば立派な犯罪者である。
仮に犯罪係数とやらの数値が異常だったならば、それはそれで認めるしかないかもしれない。そもそも、犯罪係数ってなんだろう。
「こちら正門前、本部へ報告――潜在犯を確認。
これより収容施設へ運送を始めます――はい。了解です――ドミネーター実行部隊か或いは特記戦力の増援を要請いたします。」
「えっと……私達はこれからどうなるんでしょうか? あまり穏やかとは言えない状況のようですが」
「よくそんな言葉が吐けるな潜在犯め。お前達はこれから収容施設に送り込まれカウンセリングを受けてもらう」
「潜在犯……?」
「潜在犯はサイコパスの数値――精神をデータ化したものの中で犯罪係数が規定内を超えた人達を差します。
心の中に潜在する犯行意識――簡単に言えば犯罪者予備軍と見なされた貴方達はこれから収容施設へ行ってもらい、更正してもらいます」
「犯罪者予備軍……!
あの、私達にそんなことはありません! 何かの間違いじゃないんですか!?」
「……。貴方達はこの管理社会が初めてだから違和感を示すのでしょう。私もそうでした。
ですが、それが下された決断であり私達は従うしかあれません。ヴィラン判定では無かったことを喜ぶべきです。
だってヴィラン判定なら――」
「喋りすぎだとさっきも言っただろ!
潜在犯と話すことなど何も無い。さぁ、さっさと歩け!!」
上司の男は部下を一喝すると僕達に銃を向けた。
言葉遣いも荒くなっており、どうやら彼の中で僕とマシュは犯罪者の烙印を押されたようだ。
途中で遮られてしまったけど部下の人が教えてくれた情報は何も知らない僕達とってとても有意義な話だ。
精神が数値化された世界で黒や灰の判定を受ければ供述も認められずに収容施設へ強制送還――今の情報で導き出せる解がこれだ。
犯罪者予備軍扱いは不服だけど、さて、これからどうしたものか。ヴィランという単語も気になってしまう。
まずは向けられた銃にどうやって対処するかだけど――人間の僕には悔しいけど限界がある。
「先輩は私の後ろに回ってください!
こちらの話を聞いていただけますか、私達は潜在犯とやらではありません!」
「潜在犯は皆揃って同じ台詞を述べるだけ。それこそが潜在犯の証拠だ。
自分の心に眠る犯罪への可能性から逃げるな――抵抗するならばヴィランと同じく殺処分となるぞ?」
「殺処――くっ!」
戦闘はサーヴァントのマシュに任せるしかない。
向けられた銃口は全て彼女に集まっており、後ろに隠れている僕には届かない。
弾丸がどれだけばらまかれても、マシュが立っている限り僕は倒れない。
――いくらなんでもそれはあんまりだ。
キャメロットの時も、アメリカの時も、ロンドンの時も――ずっと僕はマシュに甘えていた。
一度だけ前に立った事もあったけど結局は力になっていなくて、足が震えていた。
「せ、先輩!?」
気付けばマシュの前に立っているんだけど、困った。
だってもうトリガーを引く気満々なのが伝わってきて、僕は弾丸をはたき落とす技術なんて持ち合わせていない。
例えばどこぞの暗殺拳を用いて飛び道具を封殺したり、どこぞのヤクザのように刀で切り裂く芸当も無理だ。
外れることを祈ろう。何かの奇跡が起きて弾丸が明後日の方角へ飛んで行けば僕の勝ちだ。
全く……マシュの後ろに隠れていればこんなことにはならなかったのに。大馬鹿だって色んなサーヴァントのみんなに言われそうだ。
自分から死にに行っているとは正に僕のことじゃないだろうか。ロマンが居たら死に急ぎ野郎だなんて言われるかもしれない。
もう、マシュに必要以上の負担を掛ける訳にはいかないんだ。
出生の秘密を知ったからじゃない。勿論、そのこともあるんだけど。
マシュは僕の大事な仲間で友達で、後輩とは違うんだけど大切な存在なんだ。
守られているだけじゃ駄目なんだ。僕がマシュを守ってやるんだ――って内心ではかっこいいことを言っているけども!
ジャンヌ、ネロ、ドレイク、モードレッド、ナイチンゲール、ベディヴェール。僕達の旅を救ってくれた英雄達。
彼女達と同じように誰かが駆け付けてくれる――はは、最初から誰か頼みだなんて。
情けないとは思うけど、銃声は聞こえてこない。
僕は幸運なんだろうか。そうだろう、だってグランドキャスターに挑める数少ない存在なんだ。
世界の崩壊を知っていて、尚且つそれを止めるために動けるんだ。恵まれている。
「魔力反応に寄ってみりゃあどこぞの馬の骨じゃねえか――黒い死神かと期待したがハズレだな」
銃口は地面に向いていて弾丸も倉に詰まったままだ。僕は生きている。
安心よりも先に襲い掛かるのは圧倒的な魔力だった。目の前に立っている男はサーヴァントだ、確実に。
この距離になるまで一切の魔力を感じず、唐突に現れた男は警備員が持っている銃を素手で押さえている。
その男はまるで空間を切り裂き、歪みの穴から出て来たように突然の出現だ。
蒼い髪に白い服装。上半身の中心には肌が露出しており、腹には穴が空いている。
そして目立つ特徴は右頬に仮面のような何かが付いていた。牙と牙を合わせたような口を象った半仮面である。
僕に向けられた銃からの危険は去ったが生きた心地がしない。会話すら行っていないが僕の直感で――このサーヴァントは敵だと本能が叫んでいるから。
「先輩!
大丈夫ですか!? ……よかった、ここからは私が前に出ます!」
威圧され身体が停止状態に追い込まれていた僕を救ったのはマシュの声だった。
透き通るかのような声色で意識を取り戻し、彼女が前へ出るタイミングに合わせるように僕は下がった。
魔力の圧だ。蒼髪のサーヴァントから溢れている魔力は今まで遭遇した英霊の中でも異質らしい。
重力に引かれるようにまるで身体が井戸の底へ沈むような感覚だ。強く意識を繋ぎ止めなければ、生命が天へ持って行かれてしまう。
「ヴィ、ヴィランめ――ヒィっ!?」
「うるせえなあ……近くで喚くんじゃねえぞ雑魚が」
ヴィランと口走った上司の男の首元を蒼髪のサーヴァントが掴み、軽々しく持ち上げた。
警備員の腕から銃が落ち、呼吸が上手く行えないために呻き声が口から漏れている。あのままでは死んでしまう。
マシュが助けるために走りだしたが――。
「あの邪魔な銃すら持ってない雑魚が粋がるんじゃねえぞ……ったく」
骨の折れる音が僕の耳に届いた。
これまでに多くの生命が失われる瞬間を目にしてきたが、慣れることでは無い。
目を下に伏せたが前を見る。マシュが戦っているんだ、僕だけが感傷に浸るだなんて駄目だ。
「あぁ……ころ、殺される……!?」
「死にてえのか? 俺ぁ止めはしねえよ」
蒼髪のサーヴァントは自分が殺害した男をごみを捨てるように放り投げた。
地面を跳ねるように転がって勢いが無くなれば止まる。呼吸の音すら聞こえない物体として扱われた。
人間の生命を――ごみ同然のように、扱った。
「あ……ああ!」
残った警備員に歩み寄るサーヴァント。
銃口から防衛のために放たれた弾丸は地に落ちた。そう、地に落ちたんだ。
サーヴァントに向かっていたソレはまるで重力に屈したかのように、地に落ちた。
彼中心に磁場のような――魔術と似た力によって阻まれているようにも感じる。
サーヴァントは全く気に留めることも無く警備員の前に到達すると、面倒な表情を浮かべながら右腕を振り上げていた。
手の先は伸びており、僕の脳裏には手刀によって首を跳ねられてしまう警備員の姿が浮かんでしまった。
最悪の結末を防ぐために動いたのがマシュだった。
サーヴァントと警備員の間に割って入ると盾を大地に突き刺し、震え上がる後者に何かを伝えているようだ。
「あのサーヴァントは私が対処します!
此処は引いてください――貴方まで死ぬ必要はありません」
「そ、そんな……市民を見捨てて逃げるなんて……それに潜在犯を見逃すなんて」
「自分の生命を粗末に扱わないでください! 今は使命よりも生きることを考えてください。
もう誰も目の前で殺させない……死んでいい生命なんてありません。貴方が牙無き無関係の市民を襲うなら私が相手をします」
盾を自分へ引き抜くと土を払うようにその場でマシュは旋回を行っていた。
動きはまるで演舞のように僕達の視線を集め、己の意識を高めているようにも感じられた。
戦闘態勢へ移行――蒼髪のサーヴァントに盾を向けたことが開戦の合図となったようだ。
「俺とやるのか。お前如きに相手が務まるとは思えねえけどな」
髪を怠く掻き数歩歩いたサーヴァントの瞳がマシュを捉えた。
寝ていた獣が目を覚まし、獲物を定めた瞬間の瞳と何一つ変わらない殺意の塊だ。
「別に殺すつもりは無かったが、向かって来たのはテメェだからな。
恨むのなら馬鹿な選択をしたテメェ自身をあの世で呪ってろ、何処ぞのサーヴァント」
「貴方が何者かは知りませんが人々の生命を奪うなら、私が止めます。
持て余した力を他人にぶつけることでしか使えないサーヴァント……何故、その力を――っ!?」
「――言いたい事はそれだけか?」
風が瞬時に切り替わり、少しの希望が完全に絶望へ喰われてしまう刹那を体験してしまった。
僕もマシュもサーヴァントから目を離していなかった。そう、全てを視界に捉えているつもりだった。
獣が動き出すには当然のように初動があるのは今更、幼い子供だって理解している。
なのに、僕達の意識は完全に真っ白だ。買ったばかりのキャンパスのようで、洗う必要も無いのに。
「止まってンならこのまま吹き飛ばすが――いいのかよォ!」
「ッ――させま、せん!」
背後に立つサーヴァントに対しマシュは盾を豪快に、持てる力を全て注いで回していた。
直撃すれば無視出来ない損傷だろうが、サーヴァントはまた瞬時に消えたかのように、マシュの正面へ移動していた。
標的を失った盾が空を斬り、行動の余韻でマシュが数歩蹌踉めいていたが、体勢を立て直した。
一筋縄でいかないことは解っていた。偽りの聖杯を巡る戦いがこうして始まる。
そして、今の僕達はまだ知らない――この世界の神と対立することを。
■――
第一の偽聖杯 ―セーラー服と紅片刃―
CODE: Proof of justice
永劫無明都市 トウキョウシュバルツ
――■
というわけで、連載物を書いてみましたよ。FGOパロです。
エタるの前提でこれを書くならもっと他に書くものがあるんだろうけど……はぁw
元ネタはウッカリさんのツイートです。それを僕なりに肉付けしました。
一応本人には書くね!って言ってるからおっけー(何が?)
設定も変えてるし八雲紫とディケイドのパートすっぽかしてるからね。
冬木のプロローグじゃなくてオルレアンから始まってる感じです。
例えば舞台は永久の曇り空だけど本家(ムッシャリ)は違うし……自由だ。
ゲストサーヴァントはゴッサム聖杯からグリムジョー。
ヴィラン枠で次に書くときには戦闘の主役ですね、はい。
もし、続きを書くなら↓。
夢幻聖杯から二人
東京聖杯から一人
それと纏流子ちゃんを出すかなあって感じ。
さて、誰が読むんだこれ。
(あーバットマン知らないからどうっすかなあって)