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下っ端パロロワ書き手のドバーなブログを北の大地から

永劫無明都市 トウキョウシュバルツ その2

2016年08月17日 | 偽聖杯


蒼髪の男は無言でマシュへ接近するとあからさまに拳の速度を下げ、誰でも受け止められるように見世物として振るう。
その名称を表すかの如く、円卓の騎士の一人から受け継ぎし盾で彼女は防ぐ。拳と盾が触れた瞬間に周囲の音を殺す衝撃が走る。
男は笑い彼女は苦い表情を浮かべた。後退りする地面を削る音が響き、ただ殴っただけであるが、サーヴァントは人間の枠を超えている。
簡単に拳一つで常人の生命を奪えてしまう程に、等身大の人間と変わらない存在ではあるが、一個体の兵器だ。
油断を招けば撥ねられるのは己の首であり、完成された一連の動きに瞳を奪われた者から明日の陽光を浴びられずに腐り墜ちる。


シールダーの名に恥じず、傷を負っていない。全てのインパクトは盾で防いでおり、初手は完全に意味を失っている。
蒼髪の男は緩んだ口元から「これで死ぬなら英霊名乗るんじゃねえ」と零し、彼の右掌が輝き始めた。
赤黒い閃光が溢れんばかりに眩き、禍々しさを感じさせながら圧縮される。言うまでも無く魔力が収束される。
高密度に一点集中された魔力の解放寸前に、全ての音が、気配が、時が止まったかのように感じる。
一時の刹那に過ぎないその時間は永劫のように体感し、マスターとマシュの視線が交差する程度には長く。けれども現実として短い時間が終了する。


「挨拶代わりだ。この程度で終わるならテメェは俺の前に立つ資格すら持ってねえカスだ――テメェ自身の弱さに嘆いてな」


突き出された右腕を一度引くと、男は大地に隣接している両足に力を込め、右とは対になる左を伸ばす。
それを瞬時に己へ引き寄せると同時に、右腕を突き出し掌は盾に衝突した。轟音が振動となりて一帯を揺るがす。
バチバチと赤黒の魔力が音を立てながら――圧縮された兵器が爆発の発生と見間違えるかの如く、放たれた。


右掌から永遠に流れ続ける魔力の結晶は尽きることを知らないのか、マシュの身体を後退させる。
盾で防いでいるものの、気を抜けば一瞬で肉体が持って行かれると悟っているため、彼女は全力を出し切り身体へ信号を送る。
振動で腕が、足が、背が、脳が痺れる。けれど意識を手放せば待っているのは死だ。
彼女を基点に魔力が枝分かれを起こし捉え方によっては花弁のようにも見えた。
一枚一枚が殺傷性を秘めており、その中心である収束元の破壊力は説明せずとも解るだろう。


「くっ……宝具を展開……いや、まだです」


必死に生命を喰らい繋げるマシュの身体は壁際まで押し込まれており、魔力との板挟み状態となっていた。
転機を掴み取るべく宝具の展開を選択肢の一つに加えるも、中断し活路を見出す。


街を中心に守るように広がる壁。
警備員も配置されていることから、外敵の進入を防ぐために設置されたと考えられるとマシュは仮定する。
ヴィランと呼ばれたサーヴァントは律儀にも壁の外に現れた――悪役と言われた男が何故、わざわざ街の中では無く外に出現したのか。
一つは気まぐれ。この男は『黒い死神』との遭遇を期待していたかのような発言をしていた。
獲物を求めていたのだろう。但し、出会ったのは名も知らないカルデアのマスターとサーヴァントであったが。
もう一つ。それは壁の中に入れないこと。何かによって阻まれたという訳だ。
魔力的な問題なのか、物理的な問題なのかは不明だ。エルサレムのように現実離れした強度を誇っているかもしれない。
地獄から這い出る業火に対しマシュは一つの行動を選択し実行する。


「壊れないことを祈って――ッ!」


ならば魔力の衝撃に対し直撃したと仮定しても一定の水準は守られるだろう。つまり、街に被害は及ばないものと考えたのだ。
マシュは自分がヴィランの攻撃を回避すれば背面に聳え立つ壁に被害が発生する。それは関係無き市民に危険の波が到達することと同義である。
生命の重さは平等だ。死んでいい、朽ちていい生命など存在してなるものか。旅を通じ出会いと別れを繰り返した彼女が出した答え。
自らを盾とし全てを防ぎ切る覚悟を持って魔力を受け止めていたが、永劫に流れ続けられては守護側に限界が訪れてしまう。
抵抗のために宝具の使用も考慮したが、早々に展開してしまっては相手に手の内を明かすこと。戦闘に置いて切り札でありワイルドカードともなる一枚を教えることになる。
ヴィランの特性や宝具は疎か目的や真名、クラスや性格すら掴めていない中で己の情報を一方的に差し出すには気が引けてしまった。
けれど、このまま黙っていれば打開可能な状況では無い。自分が負ければ次に狙われるのはマスターだ。そんなことが起きてしまえばマシュは己で生命を絶つだろう。


故に壁の強度を信じ――この状況を切り抜ける。
盾を置き去りにし己の身体を右方向へ投げ出すように転がり込む。
土が付着するものの気にせずに立ち上がると、盾を消失させ魔力による再構築を行い手元へ召喚する。
基点を失った魔力は壁に激突し轟音を響かせるものの、マシュの仮定が真実となり、多少の凹みが誕生する程度の被害となった。
街を統べる親玉の力か、壁を創り上げた存在の力かは不明だが、エルサレムにも劣らない鉄壁らしい。


「何を笑っていやがる、ただ俺の攻撃を回避しただけだろ」


魔力の放出を中断させたヴィランは一度気怠そうに己の身体から力を脱力させると――大地を蹴り上げ一気に距離を詰める。
マシュに到達まで残り三十メートルが瞬きの間に十メートルにまで縮められ、彼女の顔が歪む。
ヴィランの右拳に盾で防ぎ、連撃となる左膝の衝撃も重なり身体が硬直状態に追い込まれる。
「何度も攻められる訳には……やァ!!」
ヴィランの右上段蹴りへ合わせるように盾を薙ぎ払いカウンターを狙うも、足の裏でかちあげられてしまう。
両腕が空へ向く形となってしまったマシュは無防備であり、ヴィランがその隙を逃す筈も無く彼女の腹に左足が迫る。
マシュは右膝を腹の前まで持ち上げ相手の左足と衝突させるも、勢いを殺し切れずに数歩蹌踉めいた。
対する相手の方が痛みが発生する。本来ならば、同じ実力者同士での争い基準で判断すれば。


最初から痛みなど発生せずに、いや、元々彼にとってはその段階にまでは至っては無いのかもしれない。
ヴィランは何一つ表情を崩さずに、依然として上半身の防衛が手薄になっているマシュの顔面目掛け拳を放つ。
正面から捉えるストレートでは無く、顎元を掠め取り意識を闇へと誘うフックだ。
マシュからすれば拳が目の前で消えるように視界から逸れるため、瞳から送られる映像と脳が察知する危機感の相違が生まれてしまい、瞬時に動けない。
死んだな――と、確信するヴィランであったが、今回は彼の顔が歪むこととなる。


「少しはやるようだが……剣を抜いたのなら、万が一にもテメェの勝機は消えた」


右拳はマシュの顔から逸れ空を貫いていた。
軌道に変化をもたらしたのは彼女の武器である――剣だ。
キャメロットでの戦いから新たに身に付けた牙を振るいヴィランの腕へ突き立てた。
刀身を伝い流れ落ちる鮮血は彼女が引き寄せた勝利への糸口である。しかし。


「刀……セイバーのサーヴァント」


「セイバーだのサーヴァントだの気に喰わねえな。
 俺はグリムジョー……グリムジョー・ジャガー・ジャック。これからテメェを殺す男の名前だ」


(グリムジョー……?
 聞いたことが無い名前……だけど、この戦闘能力を持つ人物が語り継がれないのは考えられない。
 彼は一体何者なんでしょうか……だけど)


「グリムジョー、それは一つ違います」


「あン?」


「私も先輩も貴方に殺されることはありません。
 使命を果たすまでは絶対に……だから、私達は貴方を倒します」


「――抜かせ雑魚が」


自ら強引に腕を引くことにより剣から解放されたグリムジョーもマシュと同じように刀を抜く。
「名前は告げねえ、告ぐ価値もテメェには感じられねえ」
呼吸をするかのように放たれる一閃はマシュの剣を軽々しく吹き飛ばす。
「しま――ッ!?」


右に払った刀を戻すように彼女の身体を切り裂かんと斜めの傷を刻み込む所で、邪魔が入る。


「今度はテメェが相手かよ……ラァッ!」


マシュとグリムジョーの間に割って入る男に対し振り下ろされる刀の一撃。
謎の男はマシュを守るようにグリムジョーの太刀筋を流すように刀で受け止めると、彼の腹に蹴りを直撃させ距離を取る。
跳ぶかの如く数歩で間合いを調整すると、グリムジョーの仮面を貫く突きが放たれる。
刀で太刀筋を反らし、グリムジョーは身体を屈め男の懐に潜り込もうとするも――銃弾が彼の進路を阻む。


「齊藤さーん! 足下がお留守ですよー?」


開かれていた門の前には狙撃銃を構えた女が立っていた。
明るく戦場に似合わない声色で片腕を振りながら笑顔で齊藤と呼ばれた男へ叫んでいる。
金髪に引き締まった肉体は、必要な物は強調されており、女の武器が詰め込まれた天性の身体だ。


「……黙っていろ」



■――



TIPS【笛ソシャゲ】


FGOのこと。ででどんくんが一人だけこの呼び方を使用している。
実際に発音してみると言い辛い。
はい、このTIPSが早速のネタ切れですね。



――■




時間は止まらない。世界の針は僕を置いて行こうと気にもせずに廻り続ける。
マシュとグリムジョーの戦闘から流れるように乱入した斎藤と呼ばれた男性と狙撃を行った女性。
彼らは一体何者だろうか、グリムジョーの目的は何だろうか、マシュは無事なのか。
気になることが沢山ある中で僕の脳内は必死に一つ一つの事象を処理するために、単語を拾い続けていた。


ゆったりとした空間でゆっくりと時間を費やしたいけど、そんな悠長にしていられない。
僕だけが戦闘に介入しない中でも、みんなは戦っている。マシュもグリムジョーも乱入者達も。
戦乱の最中でただ一人立っていれば、それは邪魔であって格好の的だ。僕が敵将ならその首を討ち取り主に献上する。
だけど無力なのは明らかだ。それでも最初から絶望というか、諦めるのは嫌なんだって毎回思っている。


「無事ですか、先輩……!
 あぁよかった、お怪我は見当たりませんがやせ我慢とかしてないですか!?」


――ありがとうマシュ。僕は大丈夫だよ。

――僕よりもマシュの方が心配だ←


「私よりも先輩が大事です! さぁ本当に何も隠していませんか!?
非常時で余裕もありませんが、放置は最悪の処置だとナイチンゲールさんも言っていました」


――捏造はよくないよ。

――記憶に無いけど言ってそうな人だよね←
 

僕の傍に駆け寄ってくれたマシュは第一声で心配をしてくれる。
自分の方が危険な目に遭っているのに、本当に優しい。とても他人の身を案ずるような余裕は無い。
グリムジョーに一撃を加えたことは事実だ。だけど、僕の視界だと終始あの男が圧倒していたようにしか見えなかった。
マシュも特異点に到着したばかりで本調子では無い。それに生命を奪うつもりで戦ってもいなく、情報収集をメインにしていととも思う。
お互いに本気を出していない戦闘だが、それでも優位に立っていたのはグリムジョーだろう。


「言っていない……?
 だけどあの人なら問答無用で治療という名のナイチンゲール殺法を行うかと」


――殺方!?

――殺法!?←


「……! 不適切な発言でした、すいません……。
 何にせよ辛いことや状態が急に苦しくなったらすぐ私に言ってくださいね、先輩」


マシュの方が僕の何倍にも危険な目に遭っていて、怪我があるとしたら間違いなく彼女の方になる。
僕は極論で殴れば何もしていない。そう――戦闘に於いては何もしていない。
今回の特異点では指示をするサーヴァントがいる訳でも無く、グリムジョーとの戦闘では一切関与していない。
本来ならば第三の目で戦況を把握しマシュへ情報を届けるのだが、今回の戦闘はあまりにも早過ぎた。
グリムジョーが接近し赤黒い閃光を放ってからマシュの剣が彼の腕を貫くまで、一分の時があったかどうか。
例え大きな傷を負っていなくても身体に掛かる負荷は尋常じゃ無い。生死が隣合わさっている状況所精神への圧迫も心配だ。


――ありがとう、マシュ←

――ごめん、マシュ。


だから、僕は小さなお礼をマシュへ。


■――


TIPS【壁】


まだ主人公達は突入していないが今回の舞台となるトウキョウを囲う大きな壁。
外部から犯罪の因子を持ち込ませないために公安局が中心となって建設され、門には警備員が配置されている。
彼らには犯罪係数を測定機能が搭載されたリモコンのような機械が支給されており、来訪者の選別を行う。
なお、トウキョウへ訪れる人間は数えられる程度にしかおらず、今回担当した警備員は初めての作業となった。

(壁のイメージはまあ、進撃の巨人)


――■


決定打が存在しない剣戟の中で風を切り裂く音が、刃と刃の拮抗音が荒野に響く。
相手に読まれない剣筋に加え生命を奪わんと振るわれる一撃は両者の心臓に届いておらず、流れるのは汗のみ。
連なるセイバーの獲物が鍔迫り合いを起こし、互いの意思が衝突する中で言葉が交わされる。


「今日が貴様の命日だったとはな」

「抜かせ雑魚が……テメェの墓を俺が作ってやる、感謝しろよ斎藤一」

「召喚された身で墓など不要だ。そんなことも解らんとは――最も、阿呆の貴様には無理な話か」


百人が百人「あれは怒りの表情だ」と口を揃えるのが容易に想像出来る。
斎藤の挑発に乗ったグリムジョーは刃を己側へ引き寄せると、大地を蹴り後方へ跳躍を行い距離を取る。
天へ掲げられた右腕には赤黒の閃光が収束し始め、標的の生命を消し飛ばすための布石也。


殺してやる。
唇の動きから言葉を遠方にて確認した斎藤一は改めて周囲を見渡す。
戦場は荒野。隠れ蓑になる障害物等は存在しない。壁際には警備員から連絡のあった二人の潜在犯。
一人はサーヴァント、もう一人は反応からして人間だろう。お伴が接触を図ろうとしているが、それは彼女の仕事だ。
自分の標的はヴィランの烙印を押されたグリムジョー一人である。あの女は放っておけと、考えるまでも無い。


「へっ、向かって来るか……面白え!」


グリムジョーの歪んだ笑みの先には大地を駆ける斎藤一。
自身には天敵となる遠距離からの砲撃への対処法として、回避の選択を捨て正面から向かう姿に笑いを堪えきれない。
阿呆と呼ばれたがテメェが馬鹿だ。
迫る馬鹿を持て成すために宴の主でありヴィランを司る仮面の男は己の右腕に魔力を集中させる。
高密度圧縮霊圧魔力変換閃光――虚閃。


「特別だ……くだらねえ霊基の枠に嵌められてからテメェが初めての被験体だ」


刀を大地へ突き刺すと刀身に左指を這わせ、当然のように鮮血が流れる。
指先を持ち上げ刀身から離すと大地へその動きを追うように赤い斑の跡が出来上がる。
完成形とでも謂えようか。行き着く先は己が右腕、斎藤一を殺すために魔力が高まる右腕だ。
赤黒き閃光に、同じく純度なる赤とは呼べない黒が混在した血が垂れ墜ちる。


「王より授かりし刃は十の欠片が一つ、我が欲する光は王に捧げし恩義の光――なんてな。
 別にどうでもいいんだよ俺には。テメェをこの世からかっ消すためだけに放つんだ、光栄に思え――『王虚の閃光』」


その光景を瞳に捉えていた人間全てが鮮やかなる変化に意識を奪われた。
血液を纏いし赤黒き霊圧は同じ色合い同士の融合である。しかし互いを反発するかのように。
グリムジョーの右腕を取り巻く閃光は美しき蒼へと変化した。
世界を覆う空は灰だ。その事実が彼の閃光をより深き蒼へと演出し、霊圧の密度は先とは比べ物にならない。


放たれた王虚の閃光は始動から斎藤一への到達にまで、流れた時間は一瞬だ。
瞬きをしていれば、その間に着弾し生命はこの世から消え去ることになるだろう。

「――チッ」

誰の耳にも届かないグリムジョーの舌打ちが空間に残る。
彼の視界に映るは壁への到達を防ぐために、その身を呈して前線へ躍り出ていた。
盾を大地に突き刺しているため、表情は窺えないがグリムジョーにとっては一切の得が生まれない。
短い手合わせだったが彼がマシュの戦闘から読み取った印象は『盾の強度は流石英霊か』
近距離の霊圧を受けても傷一つ付かない表面の硬度は彼にも想定外であった。
ただの雑魚なら一瞬で消し炭だと思っていたため、元から低評価で舐めていたのも要因の一つだろう。


苛立ちの対象は彼女じゃない。敵対するは斎藤一であり、マシュは既に獲物から外れている。
警察を始末すれば次の対象は彼の部下である金髪の女となり、その処分が終わった段階でやっとマシュが再度獲物となる。
つまり盾で防がれようが、グリムジョーにとっては気にすることでも無く勝手にしていろというのが彼の抱く雑な感情である。
今の獲物は斎藤一だ。視界から消えた外野がどれだけ騒ごうと所詮は外野止まりである。


「正面、左右、背後……いねえなら残るは――上だァッ!!」


到底人間では反応不可能な戦局の応酬の中で斎藤一は閃光に対し、空を翔るように跳躍。
類い希なる脚力により宙を蹴る事が可能だと錯覚してしまう。滞空時間は元が人間とは思えない程に長い。
突き刺した刀を握り天へ駆け上がろうとするグリムジョーだが、影が二つ存在する事に気付き、舌打ちを行い距離を取る。
そもそもおかしな話だ。近接特化である斎藤一が何故、王虚の閃光を回避することが出来たのか。
特別な回避術を持つ訳でも無ければ、人智を超えた神類に到達する身体能力を持ち合わせている訳でも無い。


「ヒーローは遅れて登場するってよく言うよな」


「それが貴様の遅刻を肯定する材料にはならん、阿呆め」


「そんなこと言うなよ斎藤さんよ……はぁ。
 ヒーローは平和の象徴を皮切りに神隠しのせいで数が少ないのは知ってるだろ? 現に警察サイドのあんただって現場に駆り出されている」


大地に降り立った斎藤一と肩を並べるは白を基調にアクセントとして光を反射する鮮やかな緑が光沢を潤すフォルム。
パワードスーツや強化外骨格。幼き夢を見続ける少年が憧れる鋭利なボディは正にヒーロー。
誰が呼んだか世界は彼をワイルドタイガーと呼ぶ。
所用により遅れた我らがヒーローは駆け付けると同時に斎藤一を抱え跳躍し、グリムジョーに奇襲を仕掛ける。
最も大地にクレーターを生成するに終わり、ヒーローらしい活躍はまだしていない。


「宝具で呼び出せば最大で何人召喚可能か言ってみろ」


「馬鹿、お前あんなの連発したら俺の霊基が保てなくって消えちまうだろ!
 俺が消えりゃあヒーローは全滅に近いんだから簡単に言うなよ……俺だって出来るなら常に全員呼んでるわ」


「……使い勝手の悪い宝具だな」


「仲間の絆が生んだ奇跡の宝具と呼んでくれ……って来るぞ!」


「お前にな」


「勘弁してく――れッ!?」


会話を切り裂くように振るわれた刃の持ち主はグリムジョーだ。空間を飛躍するかの如く最小数の歩幅で接近しワイルドタイガーを獲物に定める。
両腕を交差させ装甲と自身の力で防御を試み、身体が震えるものの刃による損傷は発生していない。
ヒーローの素顔は機械のマスクに覆われているが、素顔には汗が浮かんでおり笑みは消えている。
「痛ッ」
刃を防がれた仮面の豹は追撃を緩める事は無く左膝で正義の虎の腹に衝撃を与え、更にもう一撃を加える。
身体が折れ曲がったワイルドタイガーは反撃に転じ、左腕による裏拳をグリムジョーへ放つも空を切り裂くのみ。
屈むことにより回避したグリムジョーは左掌に霊圧を収束させワイルドタイガーの眼前へ脅すように閃光を走らせる。


「消し飛べ」


「――ッ、斎藤ォ!」


虎徹必死の叫びが届いたのか斎藤一はグリムジョーの側面から刀を薙ぎ彼の首を撥ねようとしたが、刃に防がれてしまう。
その状態から左足を蹴り上げ霊圧を纏う滅殺の左腕を上空へ。
放たれた閃光はワイルドタイガーを焼却すること無く、灰に包まれる箱庭に一筋の光を刻む。
生命が助かった事に本気で溜息を漏らしたヒーローはお返しだと咆哮しグリムジョーの右脇腹に蹴りを叩き込んだ。
骨に衝撃が響く。その音は戦闘を行う三人の耳に届いており、手応えはアリだ。
しかしこの程度でグリムジョーが倒れるならば元々ヴィランなどとは呼ばれていない。
振り上げた足により硬直状態に陥いるワイルドタイガーの顔面を破面の拳が捉え、大きく吹き飛ばした。


間髪入れずに齊藤一が刀による連撃を仕掛け、グリムジョーの選択手段を抑制。
時に打撃も混入させ出来る限り相手に太刀筋を、意図を読まれぬために幾多の技を要り乱させる。
刃が、柄が、持ち手が、拳が、足が。接近戦に於ける全ての可能性を活用した技術の応酬が繰り広げられる。


立ち上がったワイルドタイガーも後方から駆け寄っており、第三者が見ればグリムジョーが劣勢だろう。
単純に数の差で一対二。サーヴァントの枠に嵌められていようと覆せない現実が存在する。
しかし、彼らは誰一人として宝具を展開しておらず、言ってしまえば切り札を見せていない。


「舐めんじゃねえぞ、テメェら二人揃って殺してやる――最期に俺の力を見れる事に感謝しやがれ」



■――


TIPS【警察】


トウキョウの秩序と法を守る組織。ヒーローと結託しており組織的には同じ所属となる。
主にヒーローの活動を必要としない場合に出番が多く、常に市民のために働いている。
中には執行官と呼ばれるドミネーターを扱える権限を持つ者もいるが、神隠しによって数が激減している。
本来ならばヴィランとの戦闘はヒーローが担当するのだが、度重なる消失により斎藤やセラス、沖田のように前線へ出る者もいる。


――■


「あの柄悪そうで怖い目つきの人が私の上司で斎藤一さん」


彼らの戦闘は圧巻だ。宝具を使わずに繰り広げられる闘争は観戦者であろうと一切の油断が出来ない。
何が起こるかが全く以て予想不可能であり、咄嗟の事態に対応しようにも全ての現象がイレギュラーだ。
僕とマシュは出来る限り彼らの情報を集めようと観察していたが、戦闘から得られる目視の断片では真名に辿り着けない。
これ以上被害が広がらないためにもマシュが戦線へ参加することを決意した直後に、婦警さんが声を掛けてきた。
彼女は肩に担いでいた狙撃銃を大地に下ろし、体重を寄せながら笑顔で接してくれている。潰れた形になる胸はちょっと刺激が強くて顔が熱くなるのが触らなくても解る。


斎藤一。
聞き間違いで無ければ、僕でも知っている名前が飛び出した。
牛若丸や弁慶……弁慶。清姫などと同じ日本の英霊だ。新撰組の名前は知っているし、沖田さんと同じ所属だろう。


――斎藤一って新撰組の?

――おろ?←


「あ、その反応ちょっと面白い」


「新撰組の斎藤一……やはり沖田さんと同じく……沖田さんと同じというと失礼な感じもありますが……はい。
 機敏な動きと確実に生命を狙う太刀筋、悪・即・斬と謳われたあの斎藤一……確かに婦警さんが仰るとおり怖い目つきですが」


「だよねー。口数少ないしなんか喋ったと思ったら大体悪いことでさー、なんとかハラスメント? に引っかかりますってね。
 人遣いも荒くてね、私の前のマスターとは方向性が違うんだけどろーどーきじゅんほー?に裁かれてくれないかなあって毎日思ってる訳ですよ」


「前のマスター……!?
 婦警さんはもしかして何処か遠い別世界からやって来たのですか!?」


「ん……ああ、ごめんごめん違うよ。それと私のことはセラスでお願いね。
 マスターっていうのは私の師匠みたいな人のことだよ。私にとって一生忘れることの出来ない、ね」


「そうでしたか……変なことを聞いてしまったようで申し訳ありません。セラスさん」


「いいよいいよ!
 それよりも――潜在犯の貴方達をこれから私は収容施設へ送らないといけないの。
 ちなみにグリムジョーは斎藤さん達に任せます。会話の流れを無視してごめんね。実はそんなに時間が、ね」


「どうしてもですか。正直、突然リモコンで犯罪者予備軍扱いには納得がいきません。
 それに私達は聖杯を集めてこの特異点を修復――やらなければならないことがあります」


「……ごめんね。それは知ってる、沖田さんから聞いたんだ。カルデアの話も私達は知っている。
 全て貴方達の使命を知った上で――私達には私達のやることがあるの。ごめんねマスターさん、それにマシュさん」


「沖田さん……!?
 あの病弱のセイバーで新選組の沖田さんがこの時代にいるのですか!?」


「ま、斎藤さんが居るんだから驚かないよね。でも、もうあの人は神隠しで消えちゃった」


――神隠し?←

――消えた?


「神隠しってのはね……いや、いっか。
 施設でゆっくり学べるから頑張ってねマスターさん。彼処から更正扱いで抜け出した潜在犯は0人だけど」


「0人……!?
 それでは私達は一生その施設に缶詰で時を過ごすことになってしまいます!」


「それがシビュラの判決で、神の選定なの。
 馬鹿みたいな話だよね、私がマシュさんの立場ならキレてる自信がある。でもね、今の私はこの世界の秩序を守るサーヴァントなの」


人が変わったように婦警――セラスの表情は笑顔から真剣な眼差しとなり、瞬時に空気が張り詰めた。
本気だ。彼女の瞳を見て僕とマシュは冗談じゃなく、本当に僕達を隔離施設へ連行するつもりだと悟ってしまった。
勝手に潜在犯扱いされ弁解の余地も無いままじゃ納得何て出来ない。それはマシュも一緒だと思う。


このままじゃ、今までの旅が無駄になってしまう。
皆の力が、思い出が、全てが台無しとなってしまい、世界に明日は訪れない。
そんなのは嫌だ。まだ、僕達にはやるべきことが山程残っている。時間には限りがあるんだ。


セラスさんの放った拳がマシュの眼前で止まる。


それが僅か数秒の、それなのに長く感じる戦いの始まりだった。


■――


TIPS【神隠し】

トウキョウに突如発生した失踪事件を表す用語として使われている。刑事事件では無く、一切の前振りや証拠を残さない。
神隠しの対象となっているのはこれまでヒーロー(警察含む)ヴィラン、潜在犯限定となっており一般市民は被害に遭っていない。

平和の象徴を皮切りに良くも悪くも多くの著名人がこの世界から姿を消している。
誰も真相と掴めておらず、まるで神の仕業だと噂されているが、シビュラが関わっているかどうかは警察から公式に発表されていない。


――■


拳圧によりふわりと浮かんだ前髪が降り切る前にマシュは距離を取り弧を描くようにセラスへ接近を試みる。
盾を具現化し、殴るかと思えば距離を詰める前に投擲を始めた。
予想の範囲を超えた奇襲にセラスは面を喰らい驚くものの、対処不可能な話では無い。


回避するどころか一歩踏み込み大地を力強く蹴り上げ加速。身体を低く保ったまま盾の下を掻い潜る。
大地に身体が擦り付く寸前まで体勢を落とすものの回避に成功し、マシュとの距離を詰めるために走り続けた。
正面に対象を捉えたセラスは拳を力強く握り込み、相手が防御態勢に移っていようが関係無しに一発をぶち込む。


「重い――でもッ!」


左掌で拳を包み込み、右腕を添え、大地に付く両足に全体重を負荷させ吹き飛ばされないように防ぎ切るマシュ。
彼女の身体を突き抜けるように衝撃と風が走り、後方の砂塵が舞い上がっていた。


「フルパワーじゃないけど、よく抑えこんだね」


「これで……も、私は多くの戦いを経験していますから」


「よく言った! 流石マスターさんと一緒に何度も世界を救っただけのことはあるね!
 でもごめんね、悪いけど後ろから帰ってくる盾に当たる訳にはいかないから、よろしく!」


セラスが抱いたマシュへの第一印象は線が細い子だった。
元々沖田総司から話は聞いていたため、見た目で決め付けるつもりは無かった。
しかし実際に相対してみると盾に振り回される姿が簡単に思い浮かんでしまう程に細い女の子だった。


けれど戦闘が始まるとグリムジョーの霊圧を防ぎ、自らが放った拳にも対処を施した。
盾をただの守り切る置物とは考えずに投擲を行い、戦術的な倫理観も携わっている。彼女は本物だ。
デミ・サーヴァントとは聞いていたがその力、意思、精神は英霊のソレと変わらない。
少しの会話を交わしただけで彼女の明るさや優しさ、気遣いも感じられた。それ故に辛い物があるとセラスの表情は曇り掛かる。


シビュラの判決は絶対だ。


マシュから大きく距離を取るように後方へ跳ぶと、盾が彼女の手元へ収まった事を確認し再度、大地を駆ける。
宝具は展開しない。出来るだけ穏便に。使い時を誤る事は無い。


盾を右腕で持ち上げたマシュは迫るセラスに対し自ら距離を詰める。
リーチは己が有利でありレンジにさえ捉えてしまえば先手を撃てる。後手に回れば厳しくなるのは自分である。
マシュはセラスの情報を一切知らない。唯一知っていることと云えば狙撃銃を使っていたことだけだ。
現在は背中に背負っており尚且つ接近戦のため、出番は無いように感じられるが油断は禁物である。
視線は彼女を捉えているが背中の獲物にも最大限の警戒を行う。逆にセラスは沖田総司から自分の聞いている可能性がある。
宝具の事も話されていれば手の内は全て明かされている状態であり、先程のように投擲などの奇策を用いなければ負ける。
マスターである先輩の持ち味であり武器である戦況判断からの指令は、一対一よりも多数の軍略寄りだ。


此処は己の力で乗り切らなければ。


両者が肉薄するまで残り十メートル。
先手はマシュが盾を振るいセラスへ仕掛けるも、彼女は避けるどころか足をその場で止めた。
迫る盾を両腕で抑える。筋力はどうやら彼女の方がマシュよりも上らしい。
武器を止められたことにより焦るマシュだが、幾ら力を込めて状況を脱しようにも全く動かない。
隙間に接着剤を注ぎ込まれたかのように、どれだけ動かそうがセラスの腕力から逃げられる可能性が感じられなかった。


「ごめんねマシュさん。
 貴方にはちょっと――気を失ってもらう」


「……ッ!?
 き、牙……まさかセラスさん、貴女は……!」


両腕を空へ吹き飛ばすように振るったセラス。
その勢いに負けてしまいマシュの盾は大きな回転と共に放物線を描きながら遥か彼方へ飛ばされてしまう。
もう一度具現化すれば問題無いのだが、変化するセラスの身体に意識が奪われる。
口元から覗く鋭利な牙から連想するは――吸血鬼。


数多くの逸話と歴史を創り上げた夜の主役がマシュの目の前に立つ。


マシュの両肩を豪快に掴むと無理矢理己側に引き寄せ、顔を振り上げた。
瞳が餌を見下すように動く。交差するマシュが抱く感情は恐怖だ。自分はこれから、血を吸われる。
その先に待つ未来は死だ。皮になるまで身体中の血液を吸い上げられ、最期には自分の力で己を支えることすら不可能になる。
嫌だ、そんな結末は認めるものかと身体を動かそうにも吸血鬼の筋力に正面から負けてしまい、一切の身動きが封じられている。


見開いた吸血鬼の蒼眼が宴への案内状だと気付くのに時間は必要無かった。
館の主は自分を客だと選定し招待した。断れば主催主の顔に泥を塗ることになる。
最初から不参加など許されることは無く、選択肢の中にも存在していない。
宴は時を忘れ、太陽が沈んだ中で、夜を彩るように月と共に世界を盛り上げるだろう。






主役は吸血鬼。演出するはマシュだ。


セラスの牙が彼女の首筋へ到達する。それが本来の筋書きである。


言ってしまえば元々、偽りの聖杯など彼女達にとって起こり得る事の無い宴だ。


誰にも招待状など届いておらず、参加条件は巻き込まれること。


故にありきたりの台本だろうが、役者が一級品だろうが。


この物語にプロットなど存在しない。それは神も同じだ。


世界を管理している存在にすら認知されない者もいる。


例外はあるのだ。数を減らそうと新たに補填され、世界はそうやって、回っている。






「噛まれて――い、いない?」


諦め瞳を閉ざしていたマシュは己の身体に一切の異変が起きていないことに違和感を抱いた。
そもそも、違和感を抱くこと自体がおかしい話ではある。普通の生活ならば吸血鬼と拳を交える機会など到底訪れないだろう。
幾ら彼女の出生が特殊であるとは云え、常識は人と同じだ。感情も同じであり、人間として生きている。


瞳の先に広がる世界は変わらず地平線まで灰色に覆われた曇り空と緑が感じられない大地だ。
手前に居るのは吸血鬼――その更に手前に一人の女性が立っていた。
髪はそこまで長く無く、ジーパンにスカジャンを纏い、よく見ると髪にはアクセントとして若干の赤が目立つ。
左腕にはギターケースらしき長方形型で銀の箱を担いでいた。空いている右腕は――なんとセラスの顔面へ伸びている。
まさか自分達の間に割って入り拳を叩き込んだのだろうか。表情は伺えないかかなりの度胸の持ち主だろう。
助けてもらった手前、礼を述べるのが筋であるが、状況が状況であり迂闊に動けない。


「ッ~~~~~~~~~~、酸っぱい……………………」


ぼとりとセラスの口から落ちた黄色い物体はレモンだ。レモン、そう、レモンである。
呆気に取られるマシュだがそもそも何故レモンが落ちるのか。理解しようと努力するが無駄だろうと思考の中から切り捨てた。
セラスが戦場には似合わない割りとコミカル寄りな表情を浮かべている。よっぽと酸っぱいレモンだったのか。
いや、レモンはレモンだ。酸っぱいだろうとそれはレモンである限り当然だ。何を考えているのかとマシュは己に悩む。


「そんなにがっついてどうした? 初恋の味が恋しくなったか、婦警殿」


やはりと言うべきか、状況から察するに助けてくれた女性がセラスの口へレモンを放り込んだのだろう。
視界から得た映像を脳へ送り込み処理すれば自然と答えに辿り着くのだが、意味が解らない。
何故、レモンなのだろうか。きっとそれはどうしてそんなに大量のお米が出る宝具があるのだろう。それと同義の問題だ。
ワケが解らないことに無理矢理に答えを導き出したところで、その労力が報われるかどうかは結末による。
今すべきことはお礼を述べることであり、この場から脱することだ。


「助けてくれてありがとうございます……貴女は?」


「あ? 一緒だよあんたもあたしも」


「……?」


「っと悪い悪い。これじゃあワケ解かんねえよな!」


ギターケースを降ろし中から紅い――剣だろうか。
刃も柄も見当たらない一刀の紅片刃を取り出した女性は獲物をセラスへ向けた。
ニィと口角を釣り上げ、失礼に表現するならば悪巧みを浮かべる女子高生の表情だ。
これから起こることは碌でもない騒ぎだ。だが、青春の一ページに刻まれる大切な思い出を作るような。



「潜在犯の纏流子、無理を通して道理を蹴っ飛ばす女だ! 覚えときな!!」



■――



第一の偽聖杯 ―セーラー服と紅片刃―
CODE: Proof of justice 
永劫無明都市 トウキョウシュバルツ



――■


これは駆け付けて正解だった。
トウキョウ内で発生したドミネーター舞台と反政府組織の争いを捨て、わざわざ壁に登ったかいがあると言うものだ。
久方の来訪者に下されたくだらん神の判定は潜在犯。此処までは特段、記事にする価値も感じられん。


だがヴィランであるグリムジョーの襲来と斎藤一、ワイルドタイガーの小競り合い。
正門付近では新入り潜在犯と婦警であるセラス、それに反政府組織のシンボル的ポジションである纏流子が揃い踏みだ。


神隠しが始まってからこれ程の面子が揃った日は久方ぶりだ。
まるで真実を闇へ隠すように消された役者達、残された人間が紡ぐ物語には興味を抱く。
当然だ。この世界は狂っている。シビュラと呼ばれる存在も明かされていない機械に支配されているなど、面白みの欠片も無い。


民衆は愚かだ。何故、この世界に疑問を抱かない!
明らかに隠蔽された真実に! 手を伸ばそうとしない!


人間としての本質を失った彼らに価値などあるのか。
私は違う。私は、真実を、知りたい。灰掛かった筋書きの先にある結末を、この目で確かめたい。


それを罪だとシビュラは言うのか。
神は私を裁くのか。その権利を神は持っているのか。


時が来れば、答えは出るだろう――マイケル・ゼーバッハ。


■――





第二弾です。テキストは30kbらしいですが、そんな長く感じないと想います。
ちなみに前回は20kbらしいです。目安ね目安。kbの長さ自慢する人、でではそんな好きじゃないから。

んでんで、個人的にはやっぱそんな長くねえと思うんですy。
それは味が薄いのか、内容がペラッペラなのか、テンポが良いのか、短くまとめられているのか。
どう捉えるかはお任せします。僕は前向きに捉えますよ、そうやって生きて来た!

ちょっと会話がチグハグなのは反省点です。どうせ中盤から後半にかけてはやりたいことのオンパレードなのは目に見えてる。
だからと言ってそれに通じる布石(序盤)がねえ……組み立てる(ストーリーを)ってのは難しいと実感痛感ででんどどん。

それと主人公の一人称もどきってどうなんだろう。とりま名前公式発表して。
今回はマスターで通したけどこのまま進むならノブナガ・シマザキになりそう💢
一人称は勉強というか、書くことすら避けていたので頑張らなければ。
いつぞやのチャットでおねーさまにも勉強しろ的なことを言われた記憶があるけどやってねえよなあ!?


さて。


出演は前回のゴッサム聖杯からグリムジョーに続いて5人ですね。


PSYREN聖杯

纏流子@セイバー


夢幻聖杯

斎藤一@セイバー
虎徹おじさん@ヒーロー


虚無聖杯

セラス@アーチャー


???


マイケル・ゼーバッハ(隠す必要は無いです)



続きを書くかはわかりません。ゆったりまったりででんどどんです。
エタっても怒る権利を持つ人はいないのです……いや、違うよなあw

鎌倉から一体かなあ。次に出るのは。
次の次に二次聖杯から一人かなあ……うーむ、バットマン知らねえのはちょっともったいないなあ。

(ヴィラン募集(亜種聖杯から)。一体は新規に書くしかねえなあってなるぐらいには)

次?アニロワIFとサイレンですね……w




※各当選作品の作者様から許可は得ていません。
えんちゃんとふぁいあさんを始めとする作者さんに怒られたらやめます。
ででどんは馬鹿なのか?

12月の定期的に行われているオフに行こうかなあと思ってカレンダーを見たらクリスマスですよ。
これはいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーかないッ!!

そんじゃ今回はこのへんで……ノシ





永劫無明都市 トウキョウシュバルツ その1

2016年08月14日 | 偽聖杯


目覚めた先に広がるのは灰色に染まりどこまでもつまらないと感じさせる空だった。
鼻先を刺激する土の匂いは風に運ばれて来たのだろう。少し足を動かすと地面と擦れる音が響いた。
ああ、僕は横になっているんだ。そもそも一番最初に空が視界へ映ったのだから、上を見上げている形だ。
まさか立った状態に加え空を見上げたまま寝る人間はいないだろう……いないよな?と心配になるも要らない心配である。


「――ぱい――んぱい」


最期に意識があったのはいつだろうか。
時系列的に夏イベント前が都合良いのかなあなんて思ったりするけど、どこまでメタいネタを使用するかって困るよね。


僕はいつもどおり就寝した際に夢を見た。
そこに現れたのが二人の男女で、きっと人間とは呼べない存在なのだろう。
サーヴァントかどうかも解らない。感じる魔力は異質な物で秘めている力も尋常じゃない。
ロンドンの特異点で出会ったマキリの人間よりも実態が掴めない魔術師なのだろうか。
ぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具に少しでも黒が加わると、どうしても暗くなってしまう。使えない色とは言えないけど、進んで“作成”しないだろう。
まるでベディヴェールの腕と同じようにナニカを施された人間との可能性もあって、一概に正体を決めつけるのは出来ない。
きっとグランドキャスターが絡んでいるのだとは想像できる。式と出会ったマンションも、巌窟王と出会った塔もそうだった。
これから僕達はこのイレギュラーな特異点を開放するのだろう。イレギュラーじゃない特異点ってなんだ?


今にもロマンが通信で色々と教えてくれるだろう。
あれ、遅くない?今回のロマン遅くない??いつもなら解説してくれるだろうに――まさか巌窟王と同じか?


「――して――さまして」


そうだろう。ロマンの仕事は評価出来るんだ。彼ならすぐにコンタクトを図ってくれる。
それが遅いのだから恐らく僕は孤立している。この時代にただ独りとして放り込まれたのだろう。
マシュもいない今じゃ、自分の力でなんとかするしかない。巌窟王の時は彼が味方してくれたけど、あれは奇跡だ。
普通なら召喚主であるマスターには歯向かわない……グランドキャスターって実は苦労者じゃないだろうか。


「――先輩! 目を覚ましてください!」


――ま、マシュ……?

――やったー! マシュも一緒だー!!←


独りじゃないってのは精神的に楽になる。やっぱり誰かと一緒にいる方が楽しいのもある。
起き上がって嬉しさを表現するように両腕を万歳しながらぴょんぴょん跳ねてみた。


「やったって……私も先輩が無事で嬉しいです……」


軽蔑してくれないからマシュは優しい。他のサーヴァントだったら奴隷を見るような眼差しで俗物と言われたかもしれない。
頬を赤らめて下を向いているのが可愛い。ランスロットに怒られそうだけど。
というかマシュがいる。僕を心配そうに見ていたのはやっぱりマシュだ。幻術だったらキレる自信があるぞ。
今回の突発特異点はマシュと一緒だ。巌窟王の時とは違って最初から信頼出来る仲間がいるのはとても心強い。


「それよりも先輩。あの二人のことは覚えていますか?」


――誰だっけ←

――知ってる知ってるスキマとトオリスガリ……うっ頭が。


「見たのは私だけでしょうか……まるで夢の中へ語りかけてくるような二人でした」


僕だけが見た夢だったら恥ずかしいから知らないフリをしたけど、現実だったみたい。
マシュにはちょっと悪いことをしたような気もするけど、僕の勘違いでコトを進めたらまずい。
マーリンも絡んでいないみたいだしこれは真剣に取り組まないと危ないなと思う。クリスマスの時みたいにはいかないようだ。
あの二人のことは覚えている女と男だった。さっきも振り返ったけど異質な存在だ。


「敵かどうかも解りませんが聖杯のことを知っていた……そして私達がいるこの世界は明らかに特異点です」


――魔力反応も感じるよね。


「はい。偽りの聖杯を集めろと彼女達は言っていました。正体は不明ですが情報が足りない中で考えても前には進めません。
 ここは今できることを取り組みましょう。まずは情報収集で近くに誰かいないか探しましょう。偽りの聖杯について何か掴めるかもしれません」


――おお……お父さんが見たら喜びそうだ。


「お父さん……あぁ、ランスロットさんのことですか。
 あの人に情報収集を任せたら女性をナンパするからだめですね、全く……」


――頑張れパパ;;



■――



TIPS【シャアの人】

第二次二次キャラ聖杯戦争においてシャア・アズナブル&アーチャー(雷@艦これ)及び遠坂凜&ランサー(クーフーリン)を当選させた書き手。
トリップは◆F61PQYZbCw。それ以上でもそれ以下でもない。裏切り?逆襲?そんなことしてないよなあ!?


参考URL【第二次二次キャラ聖杯戦争】

http://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/



――■



目が覚めた時に抱いたこの世界の感想は灰色だった。
晴れ渡る空が懐かしく思えてしまう。見ていても何一つ胸が踊らない一面の曇り空。
グランドキャスターによる例の光の輪が浮かんでいるものの、見慣れているからかアクセントを感じない。
僕達が飛ばされた場所は偶々草木が無かっただけだと思っていた。荒野とも呼べないが、自然が一度滅んだような大地だ。
雑草は生えているが逆に言えばそれしかない。水分も感じられず、とても生命が生きていけるような環境ではない。


特異点なのだから人がいるはずだ。ちょっとおかしな発言だけど、この時代に生きている人間がいる。
そもそもロマンとの連絡が取れないし、巌窟王みたいに解説してくれる現地サーヴァントもいないから何も解らない。
マシュに聞くのも可哀想だ。彼女だって訳の分からないこの状況に困っているのは僕と同じなんだ。
それにマシュはマスターである僕を守ろうと考えてくえている。必要以上に心配を与えたくない。


「先輩! 街が見えますよ!」


マシュが嬉しそうに示している方へ視線を移動させると、たしかに街があった。
門があり名前は掠れているため読めないが、そこそこ大きな街だろう。ビルがある。


――ビル?


「ビル、ですね……まさか近代の特異点でしょうか」


高層建築物は過去にもあっただろう。だけど僕達の目の前に映っているビルは元の時代と同じだ。
ガラスが張られていて、無駄に高くて、四角いあのビルだ。
近代的とは言うがサーヴァントならビルの一つや二つは余裕だろう。ピラミッドだって飛ばせるぐらいだったし。


「……先輩」


マシュが声を潜めて呟いてきた。何かに気付いたのだろうか。僕にはまだ魔力的な反応は感じていない。
デミ・サーヴァントだから一般魔術師の僕よりマシュの方が頼りになる。ダヴィンチちゃんもロマンのサポートも期待出来ないんだ。
僕に出来ることはマシュの足を引っ張らないように、この特異点を解決することだ。


「――早く行きましょう!」


ぐっと僕の腕を掴んだマシュは満面の笑みを浮かべて走り出した。
無邪気で子どもっぽくて、まるで初めての体験をする夏休みの少年少女みたいにはしゃいでいた。
ここで僕は一つ昔の出来事を思い出した。あれは冬木の特異点へ赴いた時のことだ。
マシュは特別な出生理由から本来、人間が生活を営んでいる世界を知らないんだ。
だから自分の時代と近いこの特異点は彼女にとって、失われた日常を体験出来る奇跡の時間なのだろう。


――うん!


時間が許す限りは遊ぼう。
どうせいつもどおりなら味方枠のサーヴァントが来る時間だ。キャメロットは違ったけど。
アメリカ帰りで倒れて、キャメロットでの戦いは文字通りの死闘で沢山の出会いと別れがあった。
マシュの精神状況も心配だった矢先にヤクモムラサキとカドヤツカサに巻き込まれたが、不幸中の幸いだ。
とびっきりの笑顔が見れたんだ。だったら少しでもこの時間が続くことを偽りの聖杯とやらに願おう。
僕はマシュと一緒に走り出した――この軽い足取りが数時間後には重くなるなんて、信じたくは無かったけど。



■――



TIPS【偽りの聖杯】

元ネタはウッカリデス氏が呟いた七つの特異点ネタ。
パロロワ総合板及び俺ロワトキワ荘にて現在動いている企画の中からサーヴァントを用いてFGOパロをしたもの。
今回の作品は第一特異点のプロローグ的な部分を試しに書いたものである。
本来のプロローグに当たるあれこれはウッカリ氏の呟きを探してくれ。俺は省いた。ついでに誰かまとめといてくれ。


参考URL【聖杯戦争パロ企画一覧※パロロワ系列板から派生した企画に限る】

http://www11.atwiki.jp/row/?cmd=word&word=%E8%81%96%E6%9D%AF&type=normal&page=%E8%81%96%E6%9D%AF%E6%88%A6%E4%BA%89



――■



やはり街並みは今までの特異点よりも近代的だった。冬木よりも文明は科学に歩んでいる。
街を覆うように作られていた壁には巨大なモニターが貼ってある。映像は恐らく街中だろうか。
緑や水があり、自動車などの乗り物も走っている。自動ロボットのようなマスコットも動いており、近未来都市って表現が合ってるかも。
ロボットが動いているのはエジソンを思い出す。流石に中の人がいるとは思いたくない……思いたくないよ。


繁栄しているだろうと感じた。
でも、空だけは灰色だった。街中だけ晴れていたらそれはそれで驚くけど、キャメロットの後じゃ驚かない。
エルサレムの外と中では正に天国と地獄の違いで、オジマンディアスのエジプトは別世界だった。
ちょっと歩いただけで異なる世界へ行けるのは初めての体験だった。国境を越えた訳なんだけど明らかにそれ以上の景色が広がる。
荒野を歩いた先に近未来都市があったからといって今まで以上に驚くことにはならない。
……と思いつつも、テンションが上がっているのは僕もマシュも内緒の話だ。


「誰かいます……警備員と思われる方が二人ですね。銃も所持しています」


――入国管理でもしてるのかな?


「その可能性もありますね。外敵から街を守っているのでしょうか……外と中が違いすぎますから」


――まるで聖都みたいだ。


「はい……聖罰と似たようなことが起きていないといいんですが」


聖都エルサレムには王たる存在獅子王とそれを取り囲む円卓の騎士。多くの人間が楽園として求める場所に彼らは立っていた。
外の世界は地獄であり生き続けることが罰になりかねない悲惨な状況だった。
やっとの思いで辿り着いたとしても中に入れるのは僅か数人程度で、他の人々は惨殺される未来が待っている。
あの惨劇は出来れば記憶の片隅に追いやって二度と思い出さないように封じたい。


警備員と仮称する男性二人は僕達の存在に気付くと、ひそひそと話し始めた、感じ悪いけど口出しはしないようにする。
これまでの旅で学んだ幾つかの中に「先制パンチはダメ」という言葉が辞書に載ってしまった。
そもそも先制パンチされる側なんだけど、例えばオジマンディアスに黒髭のノリで接したら殺されそう……いや、笑ってくれるか?
意外と笑って許しそうだ……ファラオ……さすがファラオ……ってどうでもいいんだ。僕達は警備員の言葉を待つことにした。
ファラオで思い出したけど、フォウ君が見当たらないのも心配の種だ。


「まさか本当に人が来るなんてな……」


「こちら正門前、こちら正門前。本部応答願います――外の世界から人体を形成する存在が二名。
 これより犯罪係数の測定を実行しオールクリアならば本部へ連行し規定内の数値を超えた場合は――はい、了解いたしました」


「先輩……」


――これは穏やかじゃないね。


警備員の男性はヘルメットで表情が覆われているため、僕らに対しどのような視線を送っているかは解らない。
服装は特殊スーツのようなもので、警察というよりも機密エージェントに近い印象を抱く。
そんな彼らが僕達を見るとまるであり得ない出来事だと謂わんばかりの反応だった。外から人が来ることを想定していなかったらしい。
まるで街だけがこの世界に存在し、残りの広がる荒野は隔絶された空間で生命体の反応があることがおかしいのだろうか。


聞こえた話では人体を形成する存在だなんて言っている。酷い言い草だけどサーヴァントを警戒しているのかもしれない。
英霊だろうと多くは人間である。見た目だけで判断すると危険な状況を招くのはこの身で知っている。警備員も知っているのだろうか。
本部に実行や判断を伺っているようだけど、犯罪係数の単語に聞き覚えは無い。推測するにそれはやはり犯罪に係る係数が一番妥当だ。
僕とマシュの心に不安の種が広々と蒔かれた。
一筋縄で解決するとは思っていなかったけど、今回も波乱の幕開けらしい。


「あの……私達は」


「外から来られたのですか?」


「そ、そうです。遠い国から遙々と」


「……」


「先輩、どうやら私達はとても疑われています」


――ですよねー←

――流石に失礼ではなかろうか。


「身元の証明が出来ないのはこちらも理解しております。ただ、この街を取り巻く環境が大変危険な状況にあるためご協力をお願いいたします」


「危険な状況……映像で見る限りでは何も感じませんでしたが、何か問題でもあるのでしょうか?」


「それはですね」


「喋りすぎた。貴方達には申し訳ないがこれより――犯罪係数の測定を受けていただく」


部下らしき男の人はまだ僕達に対して友好的だった。だけど上司らしき人の反応は冷たい。
街を取り巻く環境が危険であると言ったが、マシュの反応と一緒でモニターの映像からじゃ緊迫感は伝わらない。
壁の外にある荒野と地平線まで曇る灰の空。
この世界が普通じゃないことは解る。彼らの対応から察するに人間を超えた存在――サーヴァントが絡んでいるのだろう。
一個体の力は人間と比較することすら馬鹿になる話だ。最初から逃走を前提に作戦を練った方が時間の有効活用と言えよう


「犯罪係数……?」


「知る必要の無いことですよ、結果によっては」


――む。


「先輩、ここは流れに任せましょう。何が起きるかも解らずに行動するのは危険です」


マシュの言うことは最もだ。
上司の男の態度にむっとするも事を大きくするつもりは無いためここは黙ることにした。
なにやらリモコンのような物を持ち出して蒼い光が僕達に向けられた。身体中をスキャンされているようだ。
実害は出ていないが部下の人の手が震えていた。僕達は何も知らないが彼が理解していること――犯罪係数に異常があったのか。
犯罪を犯しているつもりは無い。だけど元々狂っていた歴史を何度も修正してきた僕達は謂わば、運命を歪めている。
それが正しい行いだとしても、その世界を信じていた人々からすれば立派な犯罪者である。
仮に犯罪係数とやらの数値が異常だったならば、それはそれで認めるしかないかもしれない。そもそも、犯罪係数ってなんだろう。


「こちら正門前、本部へ報告――潜在犯を確認。
 これより収容施設へ運送を始めます――はい。了解です――ドミネーター実行部隊か或いは特記戦力の増援を要請いたします。」


「えっと……私達はこれからどうなるんでしょうか? あまり穏やかとは言えない状況のようですが」


「よくそんな言葉が吐けるな潜在犯め。お前達はこれから収容施設に送り込まれカウンセリングを受けてもらう」


「潜在犯……?」


「潜在犯はサイコパスの数値――精神をデータ化したものの中で犯罪係数が規定内を超えた人達を差します。
 心の中に潜在する犯行意識――簡単に言えば犯罪者予備軍と見なされた貴方達はこれから収容施設へ行ってもらい、更正してもらいます」


「犯罪者予備軍……!
 あの、私達にそんなことはありません! 何かの間違いじゃないんですか!?」


「……。貴方達はこの管理社会が初めてだから違和感を示すのでしょう。私もそうでした。
 ですが、それが下された決断であり私達は従うしかあれません。ヴィラン判定では無かったことを喜ぶべきです。
 だってヴィラン判定なら――」


「喋りすぎだとさっきも言っただろ!
 潜在犯と話すことなど何も無い。さぁ、さっさと歩け!!」


上司の男は部下を一喝すると僕達に銃を向けた。
言葉遣いも荒くなっており、どうやら彼の中で僕とマシュは犯罪者の烙印を押されたようだ。
途中で遮られてしまったけど部下の人が教えてくれた情報は何も知らない僕達とってとても有意義な話だ。
精神が数値化された世界で黒や灰の判定を受ければ供述も認められずに収容施設へ強制送還――今の情報で導き出せる解がこれだ。
犯罪者予備軍扱いは不服だけど、さて、これからどうしたものか。ヴィランという単語も気になってしまう。
まずは向けられた銃にどうやって対処するかだけど――人間の僕には悔しいけど限界がある。


「先輩は私の後ろに回ってください!
 こちらの話を聞いていただけますか、私達は潜在犯とやらではありません!」


「潜在犯は皆揃って同じ台詞を述べるだけ。それこそが潜在犯の証拠だ。
 自分の心に眠る犯罪への可能性から逃げるな――抵抗するならばヴィランと同じく殺処分となるぞ?」


「殺処――くっ!」


戦闘はサーヴァントのマシュに任せるしかない。
向けられた銃口は全て彼女に集まっており、後ろに隠れている僕には届かない。
弾丸がどれだけばらまかれても、マシュが立っている限り僕は倒れない。


――いくらなんでもそれはあんまりだ。


キャメロットの時も、アメリカの時も、ロンドンの時も――ずっと僕はマシュに甘えていた。
一度だけ前に立った事もあったけど結局は力になっていなくて、足が震えていた。


「せ、先輩!?」


気付けばマシュの前に立っているんだけど、困った。
だってもうトリガーを引く気満々なのが伝わってきて、僕は弾丸をはたき落とす技術なんて持ち合わせていない。
例えばどこぞの暗殺拳を用いて飛び道具を封殺したり、どこぞのヤクザのように刀で切り裂く芸当も無理だ。
外れることを祈ろう。何かの奇跡が起きて弾丸が明後日の方角へ飛んで行けば僕の勝ちだ。
全く……マシュの後ろに隠れていればこんなことにはならなかったのに。大馬鹿だって色んなサーヴァントのみんなに言われそうだ。
自分から死にに行っているとは正に僕のことじゃないだろうか。ロマンが居たら死に急ぎ野郎だなんて言われるかもしれない。


もう、マシュに必要以上の負担を掛ける訳にはいかないんだ。
出生の秘密を知ったからじゃない。勿論、そのこともあるんだけど。
マシュは僕の大事な仲間で友達で、後輩とは違うんだけど大切な存在なんだ。
守られているだけじゃ駄目なんだ。僕がマシュを守ってやるんだ――って内心ではかっこいいことを言っているけども!
ジャンヌ、ネロ、ドレイク、モードレッド、ナイチンゲール、ベディヴェール。僕達の旅を救ってくれた英雄達。
彼女達と同じように誰かが駆け付けてくれる――はは、最初から誰か頼みだなんて。


情けないとは思うけど、銃声は聞こえてこない。
僕は幸運なんだろうか。そうだろう、だってグランドキャスターに挑める数少ない存在なんだ。
世界の崩壊を知っていて、尚且つそれを止めるために動けるんだ。恵まれている。


「魔力反応に寄ってみりゃあどこぞの馬の骨じゃねえか――黒い死神かと期待したがハズレだな」


銃口は地面に向いていて弾丸も倉に詰まったままだ。僕は生きている。
安心よりも先に襲い掛かるのは圧倒的な魔力だった。目の前に立っている男はサーヴァントだ、確実に。
この距離になるまで一切の魔力を感じず、唐突に現れた男は警備員が持っている銃を素手で押さえている。
その男はまるで空間を切り裂き、歪みの穴から出て来たように突然の出現だ。
蒼い髪に白い服装。上半身の中心には肌が露出しており、腹には穴が空いている。
そして目立つ特徴は右頬に仮面のような何かが付いていた。牙と牙を合わせたような口を象った半仮面である。
僕に向けられた銃からの危険は去ったが生きた心地がしない。会話すら行っていないが僕の直感で――このサーヴァントは敵だと本能が叫んでいるから。


「先輩!
 大丈夫ですか!? ……よかった、ここからは私が前に出ます!」


威圧され身体が停止状態に追い込まれていた僕を救ったのはマシュの声だった。
透き通るかのような声色で意識を取り戻し、彼女が前へ出るタイミングに合わせるように僕は下がった。
魔力の圧だ。蒼髪のサーヴァントから溢れている魔力は今まで遭遇した英霊の中でも異質らしい。
重力に引かれるようにまるで身体が井戸の底へ沈むような感覚だ。強く意識を繋ぎ止めなければ、生命が天へ持って行かれてしまう。


「ヴィ、ヴィランめ――ヒィっ!?」


「うるせえなあ……近くで喚くんじゃねえぞ雑魚が」


ヴィランと口走った上司の男の首元を蒼髪のサーヴァントが掴み、軽々しく持ち上げた。
警備員の腕から銃が落ち、呼吸が上手く行えないために呻き声が口から漏れている。あのままでは死んでしまう。
マシュが助けるために走りだしたが――。


「あの邪魔な銃すら持ってない雑魚が粋がるんじゃねえぞ……ったく」


骨の折れる音が僕の耳に届いた。
これまでに多くの生命が失われる瞬間を目にしてきたが、慣れることでは無い。
目を下に伏せたが前を見る。マシュが戦っているんだ、僕だけが感傷に浸るだなんて駄目だ。


「あぁ……ころ、殺される……!?」


「死にてえのか? 俺ぁ止めはしねえよ」


蒼髪のサーヴァントは自分が殺害した男をごみを捨てるように放り投げた。
地面を跳ねるように転がって勢いが無くなれば止まる。呼吸の音すら聞こえない物体として扱われた。
人間の生命を――ごみ同然のように、扱った。


「あ……ああ!」


残った警備員に歩み寄るサーヴァント。
銃口から防衛のために放たれた弾丸は地に落ちた。そう、地に落ちたんだ。
サーヴァントに向かっていたソレはまるで重力に屈したかのように、地に落ちた。
彼中心に磁場のような――魔術と似た力によって阻まれているようにも感じる。
サーヴァントは全く気に留めることも無く警備員の前に到達すると、面倒な表情を浮かべながら右腕を振り上げていた。
手の先は伸びており、僕の脳裏には手刀によって首を跳ねられてしまう警備員の姿が浮かんでしまった。


最悪の結末を防ぐために動いたのがマシュだった。
サーヴァントと警備員の間に割って入ると盾を大地に突き刺し、震え上がる後者に何かを伝えているようだ。


「あのサーヴァントは私が対処します!
 此処は引いてください――貴方まで死ぬ必要はありません」


「そ、そんな……市民を見捨てて逃げるなんて……それに潜在犯を見逃すなんて」


「自分の生命を粗末に扱わないでください! 今は使命よりも生きることを考えてください。
 もう誰も目の前で殺させない……死んでいい生命なんてありません。貴方が牙無き無関係の市民を襲うなら私が相手をします」


盾を自分へ引き抜くと土を払うようにその場でマシュは旋回を行っていた。
動きはまるで演舞のように僕達の視線を集め、己の意識を高めているようにも感じられた。
戦闘態勢へ移行――蒼髪のサーヴァントに盾を向けたことが開戦の合図となったようだ。


「俺とやるのか。お前如きに相手が務まるとは思えねえけどな」


髪を怠く掻き数歩歩いたサーヴァントの瞳がマシュを捉えた。
寝ていた獣が目を覚まし、獲物を定めた瞬間の瞳と何一つ変わらない殺意の塊だ。


「別に殺すつもりは無かったが、向かって来たのはテメェだからな。
 恨むのなら馬鹿な選択をしたテメェ自身をあの世で呪ってろ、何処ぞのサーヴァント」


「貴方が何者かは知りませんが人々の生命を奪うなら、私が止めます。
 持て余した力を他人にぶつけることでしか使えないサーヴァント……何故、その力を――っ!?」


「――言いたい事はそれだけか?」


風が瞬時に切り替わり、少しの希望が完全に絶望へ喰われてしまう刹那を体験してしまった。
僕もマシュもサーヴァントから目を離していなかった。そう、全てを視界に捉えているつもりだった。
獣が動き出すには当然のように初動があるのは今更、幼い子供だって理解している。
なのに、僕達の意識は完全に真っ白だ。買ったばかりのキャンパスのようで、洗う必要も無いのに。


「止まってンならこのまま吹き飛ばすが――いいのかよォ!」


「ッ――させま、せん!」


背後に立つサーヴァントに対しマシュは盾を豪快に、持てる力を全て注いで回していた。
直撃すれば無視出来ない損傷だろうが、サーヴァントはまた瞬時に消えたかのように、マシュの正面へ移動していた。
標的を失った盾が空を斬り、行動の余韻でマシュが数歩蹌踉めいていたが、体勢を立て直した。
一筋縄でいかないことは解っていた。偽りの聖杯を巡る戦いがこうして始まる。


そして、今の僕達はまだ知らない――この世界の神と対立することを。



■――



第一の偽聖杯 ―セーラー服と紅片刃―
CODE: Proof of justice 
永劫無明都市 トウキョウシュバルツ



――■



というわけで、連載物を書いてみましたよ。FGOパロです。
エタるの前提でこれを書くならもっと他に書くものがあるんだろうけど……はぁw


元ネタはウッカリさんのツイートです。それを僕なりに肉付けしました。
一応本人には書くね!って言ってるからおっけー(何が?)

設定も変えてるし八雲紫とディケイドのパートすっぽかしてるからね。
冬木のプロローグじゃなくてオルレアンから始まってる感じです。
例えば舞台は永久の曇り空だけど本家(ムッシャリ)は違うし……自由だ。

ゲストサーヴァントはゴッサム聖杯からグリムジョー。
ヴィラン枠で次に書くときには戦闘の主役ですね、はい。

もし、続きを書くなら↓。

夢幻聖杯から二人
東京聖杯から一人
それと纏流子ちゃんを出すかなあって感じ。


さて、誰が読むんだこれ。


(あーバットマン知らないからどうっすかなあって)