今年のジロ・デ・イタリアの2週目が今日で終わります。いよいよ本格的なマリアローザ争いが始まるのですが、どうやら第9ステージでマリアローザを手にしたアイザック・デルトロがマリアローザ姿のまま最終週へ突入する公算が大きくなっています。15ステージに向けての繋区間と見られていた第14ステージは雨中の落車により、総合上位の成績がシャッフルされる結果になりました。

総合2位に付けていたアユソが3位へ、総合3位のティベーリは8位へと後退し、サイモン・イエーツが総合2位、カラパスが総合4位へとジャンプアップ。特に山岳に強いカラパスの総合表彰台も夢ではなくなっています。昨年のツールでも後半の山岳で躍動したカラパスでしたが、あの時は序盤に大きくタイムを失いマイヨジョーヌ争いからは既に脱落していたのです。それでも果敢にポガチャルやヴィンゲゴーに挑んで見せたカラパスなら、きっと上位争いが出来るはずです。

気になるのはUAEのアユソでしょう。今のところデルトロがマリアローザを手にしているので目立ちませんが、このステージでもUAEチーム・エミュレーツの動きは妙でした。本来ならマリアローザを守るべきチームメイトがデルトロの傍には誰もいなかったからです。

後半の勝負所でヴィスマが懸命にサイモン・イエーツを守りながら先行していたのに対し、UAE勢の姿はデルトロ一人という状況でした。追走集団分裂の原因になった落車は集団前方で起き、UAEで落車事態に巻き込まれたのはデルトロだけでした。ただ、雨に濡れた石畳での落車で足止めを食った選手は加速に時間を要し、大きな分断が起きてしまったのです。

落車直後には一度はヴィスマが牽引する追走集団から遅れたデルトロは自分だけの力で戻っていたのです。その結果がアユソとの1分4秒というタイム差になってしまったのです。ティベーリはさらに1分後方でゴールすることになりました。本来ならUAEはヴィスマのサイモンをマークする必要があったのですが、ログリッジをマークしていて、デルトロはサイモンの抑えという役割を担っていたように見えました。

UAEとしてアユソの最大のライバルはログリッジと考えるのは当然ですが、それにしても雨の中での位置取りが悪過ぎました。デルトロにはポガチャルのような危機回避能力が高いのかもしれません。マリアローザを獲得した第9ステージでもデルトロの直後で落車が起きているのです。今回もデルトロは落車に巻き込まれ1度脚を止めているのですが、怪我無く追走集団に復帰を果たしているのですから。

アユソはチームメイトと後方に置かれ、アシストが懸命にログリッジのいる集団までアユソを戻しますが、ここでログリッジのいる集団からも遅れていること自体が不思議なのです。ここまでを見る限りアユソがエースのように見えますが、デルトロとアユソのタイム差が1分20秒もあるので、アユソを囮にデルトロで勝ちに行く作戦も十分に考えられます。
デルトロは昨年のブエルタを総合36位で完走しています。2度目のグランツールで今年21歳のデルトロの経験値の浅さは気になりますが、ポガチャルがいきなりマイヨジョーヌを手にしたのも21歳だったのです。勿論、前の年のブエルタでいきなり総合3位だったポガチャルとは比較は出来ませんが、間違いなくアユソより調子が良いのは間違いないでしょう。経験の少ないTTでこそタイムを失っていますが、それ以外ではタイムを失っていないのですから。

UAEがあからさまにエース交代を指示すことにあまりメリットは無いので、あくまでもデルトロを自由に走らせ、ライバルがデルトロに反応した隙にアユソで攻撃に出ることを考えているはずです。ライバル達がアユソをマークすればデルトロがタイムを稼げるという作戦も成り立つはずです。
落車で後続を引き離すことに成功したヴィスマですが、サイモン・イエーツが山岳でどこまでの走りを見せられるのか?実力的にはログリッジやアユソの力が上なので、UAEがしっかりログリッジをマークし続ければ、チームとしてのマリアローザの可能性はかなり高いと見ています。今回の奇襲に近い攻撃でアユソやログリッジからタイムを奪うことには成功したサイモンですが、マリアローザのデルトロとのタイム差は変わらずという結果なのです。問題はマリアローザがアユソなのかデルトロなのかでしょう。
アユソとログリッジのタイム差は1分弱、デルトロとは2分23秒なので、ログリッジとしても両方をマークせざるを得ないので、アシストに係る負担も結構大きくなります。ジャイ・ヒンドレーを欠く布陣でどこまで戦えるのかという疑問も残ります。
個人的には表彰台の残りのひとつを巡る攻防が見物になると見ています。その有力候補はやはりカラパスでしょう。マリアローザを獲得した2019年のような訳にはいきませんが、昨年のツールを見ても山岳ではビッグ4に次ぐ実力者なのは間違いありません。バーレーンのティベーリも有力ですが、今季未勝利というのが気になります。