goo blog サービス終了のお知らせ 

金山のまぼろし

全力で生きる!!

111 仕事仕事仕事

2021-06-20 18:45:59 | 幻の走り屋奮闘記エピソード2

 

 

研修終了後の約2月間、仕事のオンパレードだった。

 

AM8:30開始で定時はPM6:00のはずだが、毎日PM11:00までの残業は当たり前になりつつあった。

時には午前様になることもあった。

同僚の4人も顔が青くなってげっそりしていた。

雨が降った日は午前様でも金山に行って少しだけでも金山のエキスを吸った。

 

朝はもちろんAM7:30までには起きないと遅刻してしまう。

版部は僕とおじさんの上司しかいないので、遅刻はできなかった。

フレックスタイム制も使えるルールだが、皆が仕事中にのこのこ遅れて出勤は挨拶のタイミングがわからなく気まずくなるので当然使うことはない。

それもあるが、工場の同僚4人が既に僕がいる版部の仕事が〝工場の仕事よりも楽〟だと感づき始めているので〝工場と同じように大変〟だと思わせたかった。

 

工場は新人4人だけで1週間研修をしただけでは印刷はできないようなので、現役を引退した70歳の工場長が指導係として招かれて来ていた。

 

おじいさん工場長がたまに版部に来て、「坂本、調子はどうだ。版は作ってるか。」と声を掛けてくれた。

印刷工場と版部の部屋は廊下を挟んでいた。

 

印刷物が変われば当然その元の版は変えなければならない。

印刷の部数が多ければ版は変えなくてもいいが、印刷の部数が少なくなるとちょこちょこと版を変えることになるので、版部は忙しくなる。

印刷の部数が多ければ工場も版部も仕事は楽になる。

 

工場長はおじいさんなのに顔がキリっとしていた。

工場長が乗っている車はなんと緑のプレセアだった。

僕が中学生の頃に〝カッコいい〟と思った初めての車だったのだ。

なんという偶然!

工場長は物持ちがいいな、と思った。

 

版部の上司は中年のおじさんでカメラさんと言う。カメラが好きでプロの写真家もしているようだ。

カメラさんは部屋の中をいつも忙しそうに歩いている。

版部の内情を知っている僕は「忙しくなる要素がないのに、なんでいつもカメラさんは急ぎ足で歩いているのだろう」と疑問に思っていた。

 

僕がいる版部は社内の雰囲気から印刷工場よりも広告制作をする制作部寄りになっていた。

制作部は1部屋挟んでガラス越しによく見える。パソコンが並んでいて制作部の人たちの動きも見えた。

 

たまに制作部のお姉さんがカメラさんの所に用事があって版部まで入って来た。

カメラさんの机は版部にあるがカメラさんの部屋と僕がいる部屋もガラスを1枚挟んでいた。

 

制作部のお姉さんたち(9割が美人)と版部の僕は話す必要はなかったが、1人奥まで入ってきて僕に話しかけて来た可愛い女性がいた。

 

若かわ女性 「あのー‥、AE86乗ってるんですか?」

 

坂本 「あ、はい。」

 

若かわ女性 「あの‥、AE86ってカッコいいと思います。」

 

え!?

 

坂本 「あ、はい‥。そうですよね‥。」

 

 

若かわ女性 「どのくらいの期間乗ってるんですか?」

 

坂本 「買ってから1年は過ぎました。」

 

若かわ女性 「へぇー‥、いいなぁと思います。」

 

 

カメラ 「若かわちゃーん、俺も昔走っててその時はラリーしてたんだよ。その当時はAE86が新車で高かったから中古のトレノでもTE27っていう車で走ってたんだよね!」

 

若かわ女性 「カメラさん、すごーい!ラリーしてたんですね!」

 

横取りされ、僕以外の若かわさんとカメラさん2人で盛り上がっていた。

 

 

なんで僕は女性に気の利いた事が言えなかったんだ!!

 

‥それもあるけど、なんでカメラさんは奥さんいるのに僕たちの話に割り込んできたんだ。

 

別に彼女を作る為に僕はここへ来たわけではないし!

 

 

ある時、カメラさんはポツリと言った。

 

カメラ 「坂本君がさぁ、面接の時は一番で選ばれたんだってさ。珍しいこともあるんだなぁ。」

 

カメラさんからしみじみ言っている感が漂ってきた。

 

瞬間的にムッときたが、「確かに」と思った。

 

僕が社長だったら、僕のような人は採用しない。

 

部長は見る目が無かったのだ。

 

僕は面接の時はなぜかニコニコ出来てしまう。

たぶん、育ちが良さそうに見えて髪型が中分けで眼鏡をかけていて中肉中背で少し背は高めなので〝仕事を円滑にこなしそう〟と見えるのかもしれない。

 

ただ、それだけだ。

頑張れば初対面で相手に良い印象を与えることはできる。

でも、それを毎日するのは体力が持たない。

 

僕に何か特別な能力があれば、と思うことはあるが他人を納得させる物は持ってないし、小さなころから築き上げて来たものは無く、何に手を出したらいいのかも分からないのだった。