Cabin Pressure(脚本:ジョン・フィネモア 出演:ベネディクト・カンバーバッチ他)

イギリスBBCのラジオ・コメディ CABIN PRESSURE について語ります。

S1-3 Cremona(後)

2012-12-29 06:19:08 | 日記
後半です。

  ↓


マーティン:やあ、つい15分前にここに来た者だけど、その、、
受付:覚えてます。
マーティン:そうかもしれないと思ったよ。
受付:私たち、興奮しているんです。冬に特別室を利用なさるお客様はめったにいないので。
マーティン:きっとそうなんだろうね。 実は、さっき部屋を見て、あの、たくさんの部屋を。それでね、正直な話、僕にはちょっと、特別すぎるんだ。
受付:特別室ですから。
マーティン:うん、指摘ありがとう。でも、要するに、あまりに特別で、それこそ特別な人の特別な儀式を行うには良いんだろうけど、それが、怖いくらい広々としていて、高価で。だから、もし払い戻ししてもらえれば、、
受付:おお、、
マーティン:その「おお、、」の響きはいやだな。お願いだから、それは文化の違いで、きみはこれから「おお、、ご安心ください。問題ありません」って言ってくれるんだよね?
受付:それが、問題がありまして。さきほど特別室を使いたいというお客様がいらして、お断りしたばかりなんです。
マーティン:よかった。その人に譲るよ。
受付:いえ、いえ。お客様はもういません。どこへ行かれたのやら。
マーティン:どんな人だった?
受付:えっと、彼は、大きくて、、大きい、コートと、大きな、ヒゲ。
マーティン:そうか。僕がいなくなってからの8分間に、ブライアン・ブレスドがふらりとやってきて、このホテルの最上の部屋を借りたいと言い、そして失望しながら行き先も告げずに消えたわけだ。
受付:名前はお聞きしていません。
アーサー:ブルート?
マーティン:ついさっき、冬にあの部屋を借りる人がいないと言ったにもかかわらず。
受付:なんと申しましょう。運が良いんです。
マーティン:きみたちは運を作り出しているんだろうね。あとの2部屋はどう?通常サイズの部屋。あっちは払い戻しできるかい?
受付:そちらでしたら可能です。
マーティン:そうか、ありがとう。(携帯電話の着信音) ああ、どうしよう! アーサー、ダグラスの部屋に行ってくれ。312号室だ。荷ほどきを止めさせて。僕もすぐ行くよ。
アーサー:分かった。
マーティン:(電話)もしもし。
キャロリン:マーティン、私のお気に入りの飛行士さん。
マーティン:やあ、僕はなにをやらかしたの?
キャロリン:何も、何も! 珍しく私がご機嫌なだけよ。
マーティン:確かに珍しいね。
キャロリン:快晴のイタリア。帰国便が出る夜中まで時間もあるし、映画スタジオはしぶしぶだったけどしっかり払ってくれたし、世の中薔薇色よ。 何か話したいことがあるなら別だけど。
マーティン:ううん。こっちはうまくいってる。
キャロリン:すばらしいわ! それでね、あまりにいい気分だから、今夜はみんなにご馳走しようと思ったの。
マーティン:へえ、それはうれしいな、、
キャロリン:しかも、エクセルシオールでよ!
マーティン:ええっ、だめだ、ダメ。ガリバルディでいいよ。
キャロリン:バカなこと言わないで。ガリバルディが「良い」わけがないじゃない。でなければあなたたちが利用しないでしょ。
マーティン:いや、僕はちょっとレストランを見てみたけど、おいしそうな、イタリアンの、、ハンバーガー、みたいなのがあったよ。
キャロリン:何をたくらんでいるのか知らないけど、マーティン、やめなさい。私としては今夜、どうしてもエクセルシオールでみんなと食事したいの。それで決まり。7時半きっかりにね。(電話が切れる音)
マーティン:ああ、最高だね。


マーティン:310、311、、あった、312号室。(ノック)
(ドアが開く音)
ダグラス:やあ、マーティン、いらっしゃい。 ダメだ。
マーティン:ダメってなにが?
ダグラス:ダメ、お断り、論外だ。
マーティン:僕はまだ何も言ってないだろう?
ダグラス:聞かなくても分かる。
アーサー:やあ、スキッパー。ご心配なく。僕がダグラスに説明したよ。
マーティン:よくやった。
ダグラス:それで、もしアーサーを信頼していいならば―限りなくあやしいと私は思うが―きみが言おうとしていることは、きみがキャロリンに怒られないために、私はこの素敵な5つ星ホテルをあきらめて、ガリバルディに行けと。
マーティン:そうだ。
ダグラス:そしてきみはここ5つ星ホテルの特別室に宿泊する。ふむ、確かにこの件については熟慮する必要があるな。ダメ。
マーティン:ダグラス!
ダグラス:きみには悪いが、私はここが気に入ったんだ。フカフカのガウンが2つもある。どちらかが使えなくなったときのためにね。それに無料のミックス・ナッツがまた魅力的で、、
マーティン:そうだね。でも申し訳ないけど、この部屋はもう払い戻し済みだ。ここには泊まれない。
ダグラス:よろしい。ではきみがガリバルディに行け。私が特別室を使おう。
マーティン:違うよ、ダグラス。僕はきみが正しいって言おうとしていたんだ。
ダグラス:合意できてなにより。
マーティン:きみが正しい。アーサーを信頼するのは間違っている。もちろん僕は特別室には泊まらない。あの部屋も払い戻しできたんだ。
アーサー:本当? 僕がいなくなったあとに?
マーティン:そうだ、きみがいないくなったあとに。
アーサー:へえ、上出来だったね、スキップ。受付の人、厳しそうにみえたから、てっきり、、
マーティン:僕には説得力があるんだ。だから部屋は全て払い戻し済み、僕たちはガリバルディへ行かざるをえない。いいね?
ダグラス:なんだ、つまらない。 よし、10分くれ。物をかばんに詰めないと。
マーティン:もう荷ほどきしてたのかい?
ダグラス:わたしの物とは言ってない。
マーティン:ミックス・ナッツも忘れずに。
ダグラス:忘れるわけがないだろう。


アーサー:うわあ。確かにさっきのところとは違うね。あれって本物?
ダグラス:いいや、あれは装飾用のぬいぐるみのゴキブリだ。 では、夕食の席で会おう。じゃあな。
マーティン:バイバイ。  もう行ったな?よし。 ボンジョルノ。申し訳ない、僕が間違えた。ほしいのは1部屋だけなんだ。あとの2部屋は取り消ししてもらえるかい?
受付:(ため息)
マーティン:ありがとう。
アーサー:どういうこと、スキップ?
マーティン:よし、アーサー、よく聞いてくれ。
アーサー:あ、いやな予感がする。
マーティン:きみと僕はここには泊まらない。エクセルシオールに泊まるんだ。しかも特別室に。
アーサー:でもさっき払い戻しできたって、、
マーティン:いいや、出来なかったんだ。さて、ここで重要なのは、、(外へ出る)我々がエクセルシオールに泊まることをダグラスに知らせてはいけない。そしてへスターには、我々がガリバルディに泊まることを知らせてはいけない。それから、一番大切なのは、キャロリンに、、何も知らせてはいけない。分かった?
アーサー:ううん。
マーティン:そうか。さて、もう着いた。なんとかうまくやらないと。
(へスターのファンたちの声)
マーティン:アーサー、彼女の宿泊先は誰にも教えないって約束したろう!
アーサー:僕は教えてないよ、本当に、僕じゃない。
マーティン:他に誰がいるんだ? ああ、どうしよう、彼女はもう知っているのかな? (携帯電話着信音) もしもし?
へスター:(電話で)いったい、なにを、してくれたの!
アーサー:はい、僕です。
マーティン:やあ、へスター。 僕はその、、
へスター:「へスター」って呼ばないで、この役立たずのチビ。
マーティン:で、、
へスター:とにかく説明して。いいえ、説明しないで。
マーティン:でも、、
へスター:あなたのどもりとごますりにはうんざりだわ。とにかく彼らを追い払って!(電話が切れる)
ダグラス:ふむ、確かに彼女はノーマン・ペイスではないな。
マーティン:ダグラス! ここでなにしてるの?
ダグラス:きみたちが急いで出て行ったから、もしかしたらいい店でも見つけて一杯やるのかと思ったんだ。まさか騎士軍団に遭遇するとはね。
マーティン:僕はどうすればいい?
ダグラス:何に対して?
マーティン:全てに対してさ!
ダグラス:ああ、全てか。そうだな、きみがかかえている問題を整理すると、とんでもなく高額で返金不可能な特別室に、ホテルのロビーいっぱいの能天気なファン、そして怒れる女優。
マーティン:その通り。
ダグラス:そして手持ちは、1ダースの黒シャツ。
マーティン:え?
ダグラス:答えは明らかだろう?
マーティン:僕にはさっぱり分からない。
ダグラス:そうか、それは面白いな。私には明白なのに。さてと、仮に私が全ての問題をきみのために解決してあげることができたとして、最後に残るのは素敵なエクセルシオールの部屋。
マーティン:はい、はい。きみに譲りますよ。
ダグラス:よろしい。  騎士たち、聞きたまえ。ひとつ提案がある。汚れた豹のようにきみたちがここで寝そべって待っているのは、へスター・マコーレイに会うためだろう?
騎士たち:そうだ!
ダグラス:そしてより確かなことは―きみたちには分かっていないらしいが―きみたちがよそへ行かない限り、彼女は降りてこない。
騎士たち:我々は彼女が降りてくるまでどこにも行かない!
ダグラス:それはそれは形而上学的難問だな。だが、幸いなことに、私には答えがある。このなかの12名は、ミス・マコーレイと会うだけでなく、実際に握手ができる。その汚い手を少なくとも16、7回は洗ったあとだがね、当然。ただし条件がひとつ。残りの者はただちに遥か彼方に消えること。
騎士:どうやって12人を選ぶんだ?
騎士:くじびきかい?
ダグラス:おいおい、そんな方法できみたちの熱意を表すことはできないだろう。一生に一度のチャンスなんだぞ。
騎士:戦いか?
ダグラス:いや、いや、いや。きみたちには賭けてもらいたい。最初は、そうだな、500ユーロから始めては?
騎士:500ユーロ!
ダグラス:お手ごろ価格だったらしい。


(エレベーターの音)
ダグラス:お先にどうぞ、ミス・マコーレイ。(ドアが閉まる)ミス・マコーレイ、MJN航空を代表して、これまでのご迷惑を深くお詫びします。
へスター:もちろんそうすべきね。
ダグラス:確かにそうすべきで、これからそうします。まず第一に、中世の騎士団は全員姿を消しました。そして、謝罪のしるしに、ローマ法王によってまだ占有されていないイタリア一豪華な部屋を私はあなたに提供します。ご覧あれ。(ドアが開く)あなたの特別室です。(ドアが閉まる)
へスター:どうやったらあなたの演説をドアの音にぴったりあわせることができるの?
ダグラス:何回か往復したんです。練習のたまものですよ。
へスター:わぁ、素敵お部屋。
ダグラス:まさに素敵な部屋です。そしてその先にはもっと素敵な部屋、続いて、正直、びっくりする部屋、その奥には、、タオルの乾燥戸棚。これは期待外れだな。
へスター:こんなおもてなしを受けるとは思わなかったわ。
ダグラス:当然の事です。さらに、我々はホテルに支払って、滞在中、あなたのためだけにサービスする従業員のチームを組ませました。紹介させてください。(ドアが開く)あなたの執事です。
執事:我々に、、
ダグラス:残念ながらこのチームは誰も英語は解しません。
へスター:はじめまして。
ダグラス:そしてこちらが準執事、準々執事に、執事見習い。それからあなたのシェフ、ワインウェイター、パティシエ、それに、、プリン職人。
へスター:お会いできて嬉しいわ。
プリン職人:はじめまし、、て。
へスター:大丈夫?
ダグラス:あれはクレモナの方言で、「光栄です」という意味です。 最後にあなたの洗濯係、あなたのナイフとブーツの係、トイレットペーパーの先をV字に折る係、それから、、馬丁。
へスター:どうして私に馬丁が必要なの?
ダグラス:要りませんか? ウンベルト、きみはクビだ。
ウンベルト:あああ、、
へスター:メイドはいないの?
ダグラス:そうですよね、もちろん。ウンベルト、再雇用決定。
ウンベルト:わぁお!
ダグラス:さあ、みんな、出て行きなさい。退室!(ドアの閉まる音)
へスター:皆、おかしな制服着てるのね。
ダグラス:ええ。私は気に入ってます。
へスター:もし私がホテルの支配人だったら、スタッフに黒いシャツは与えないわ。
ダグラス:ああ、でもそれが美学なんです。かっこいい忍者みたいだと思いませんか?


ダグラス:いたって明解。へスターはきみの特別室を使う。宿泊費は握手オークションでまかなえる。私はへスターの前の部屋を使い、きみはガリバルディの私の部屋に泊まる。
アーサー:僕は?
ダグラス:きみもガリバルディの私の部屋に泊まる。
アーサー:最高! 床に寝ていい?
マーティン:なぜ床がいいんだ?
アーサー:冗談でしょ、ぼくは毎晩ベッドで寝てるんだよ。 あれ、母さんだ!
ダグラス:キャロリンが? もう帰国したと思ったが。
マーティン:フライトは今夜だ。その前に僕たちをどうしてもここの夕食に招待するって。なぜなんだか、、キャロリン、やあ。
キャロリン:マーティン、いったい何したの?
マーティン:なにもしてないよ。全て順調さ。へスターはハッピーだし、宿泊費も予算内におさまって、全く問題なし。
キャロリン:あの追っかけ連中はどこにいるの?
マーティン:ああ、そのことを聞いたんだね。確かにファンの人たちとはちょっとしたトラブルがあったけど、心配ご無用、僕たちがみんなを追い払ったんだ。
キャロリン:追い払ったですって?どうして追い払うの?彼らは私の復讐だったのに。
マーティン:そうなの?
キャロリン:ええ。せっかく私が彼女の滞在先を連中に教えたのに。
マーティン:きみが教えた?
キャロリン:もちろん教えたわよ。スタジオからお金を受け取った直後にね。私を「お嬢ちゃん」呼ばわりして許せるわけがないでしょう。だからわざわさこのテーブルを予約して、大騒ぎを見物しようと思ったの。ダグラス、あなた、彼に説明してなかったの?
ダグラス:あの、、
マーティン:ダグラスが説明を?
キャロリン:そうよ。だってこれは彼が考えたことだもの。
マーティン:ダグラス!
ダグラス:ミックスナッツいるかい?


 (エンドクレジット)





S1-3 クレモナ(前)

2012-12-28 08:14:43 | 日記
キャビンプレッシャー シリーズ1 第3話 クレモナ(前)です。
以下は、番組を聞いてから、ご覧ください。
   ↓
「フランク・シナトラ」で遊んでいる2人のパイロットからお話は始まります。
では、どうぞ!

   ↓


(ピンポン)
ダグラス: こんばんは。副操縦士のダグラス・リチャードソンです。我々は離陸に向けての最終準備に入り、これからみなさんを月にご案内します。飛行中は是非、この機会を逃すことなく、星たちに囲まれて遊んでください。左側にお座りの方は木星にどんな春が訪れるかをご覧いただけます。そして右側では、火星を。つまり、私の手を握って。あるいは、ベイビー、キスを。 キャビンドアは自動に。

(テーマ曲)
 今週は 「クレモナ」

マーティン:いいね、すごくいいよ。次は僕の番だ。
ダグラス: よし。じゃあ、「come fly with me」を。
マーティン:(ピンポン)こんばんは、みなさん。MJN航空を代表して、みなさんをご招待します。 Come fly with me~let's fly,let's fly away~♪
キャロリン:(無線)マーティン!マーティン、なにをしているの?
マーティン:キャロリン! 僕はその、、別に何も。
キャロリン:そっちで一体なにしてるの? もう30分も駐機場にいるじゃない。私はあなたたちをポーターキャビンでずっと待っているのよ。
ダグラス: ああ、灯りがついているから、きみがまだいるんじゃないかと思って。
キャロリン:じゃあどうしてこっちに来ないの?
ダグラス: いや、灯りがついているから、きみがまだいるんじゃないかと思って。
キャロリン:今すぐ来て。話したいことがあるの。あ、そうじゃないわね、伝えることがあるの。


(ドアの音)
キャロリン:ああ、やっと来たわね。さて、明日仕事がある人は誰だと思う?ヒントをあげましょう。私たちよ。
ダグラス: なのに皆はヒッチコックがサスペンスの王様だと言う。
キャロリン:とにかく、きっとこの仕事は気に入るわ。映画スターをイタリアに連れていくのよ。
マーティン:映画スター?
キャロリン:そう。
マーティン:どの人?
キャロリン:へスター・マコーレイよ。
マーティン:ああ、彼女って、、
アーサー:へスター・マコーレイ?
ダグラス: 驚いた!アーサー、ここにいたのか。気づかなかったよ。
アーサー:へスター・マコーレイ?”湖の乙女”が?僕のキャビンに?
マーティン:後ろでなにしてたんだい?
キャロリン:それに何のことを言ってるの、おバカさん?
アーサー:ジゼルダをやった人だよ、湖の乙女の役。「キャメロットの冒険」の!
キャロリン:ああ、そうなの。
アーサー:うん!彼女がアーサー王にエクスカリバーを連れてこいって言うんだ。
ダグラス: エクスカリバーを連れてこい? エクスカリバーを渡す、だろう。
アーサー:どうやったらエクスカリバーを渡せるの?エクスカリバーは人だよ。
ダグラス: そうか。きっとアーサー王伝説の権威なんだな、その映画を作った連中は。
アーサー:えっと、人って言ったけど、でも本当は吸血鬼なんだ!
キャロリン:アーサー、顔に何かついてるわよ。
アーサー:そう、とれた?
キャロリン:いえ、もっと下。顔の下のほうにある部分で、骨と肉でできているんだけど、それがぺちゃくちゃと音を立ててるの。お願いだから止めてくれる?
アーサー:あ、そうか、ごめんね、母さん。
キャロリン:ありがとう。さあ、みんな解散よ。マーティンは飛行計画、ダグラスは積載表、アーサーはコーヒーを。
アーサー:了解。
キャロリン:さあみんな、飛んでいって。
マーティン:おいで、おサルさん。
アーサー:承知!
(ドアの音)
ダグラス: クレモナか。ではエクセルシオールに泊まれると期待していいかな?
キャロリン:期待はしてもいいけど、ダグラス、それ以上はだめ。ミス・マコーレイはエクセルシオール宿泊だけど、あなたたちはその先のガリバルディよ。
ダグラス: うそだろう、ガリバルディはあばら家だ。
キャロリン:確かにあばら家よ、値段相応のね。
ダグラス: ちゃんとした航空会社ならエクセルシオールに泊めるぞ。
キャロリン:ごもっとも。もしあなたたちがちゃんとしたパイロットなら、ちゃんとした航空会社に勤めているでしょう。話は以上。さあ、積載表をお願い。乗客1名と、1ダースのシャツよ。
ダグラス: 汗かきの女優さんなのかね?
キャロリン:いいえ、映画はファシズムのイタリアが舞台らしくて、スタジオ側が多めの黒シャツを、、えっと、
ダグラス: エキストラ用に?
キャロリン:そうよ、役は、、
ダグラス: 黒シャツ隊?
キャロリン:その通り。


マーティン:「おはようございます、マダム、ようこそ」 違うな、マアムか。「おはようございます、マアム」いや、女王じゃないんだから。「おはようございます、ミス・マコーレイ」じゃない、やっぱりマダムか。
(ドアの音。後ろに歌声)
アーサー:あのさ、お客さんに、昔、パスタであなたの顔のコラージュを作ったことがあるんですって言っても問題ないよね?
ダグラス: どうかな、分からない。
アーサー:つまりね、僕としては、、
ダグラス: すまない。さっき「分からない」って言ったか?訂正するよ。興味ない、だ。 おはよう、マーティン。今日は格好いいね。
マーティン:そうかい、いつも通りさ。普段からこんな格好だろう。何言ってるんだい?
ダグラス: そうだな、大変失礼なほめ方だった、謝罪するよ。 さて、アーサー、スポットテストだ。
アーサー:やった、大好き!
ダグラス: さっき我々がすれ違った、ポーターキャビンの外で待っている人たちについて教えてくれ。
アーサー:うん、えっと、ちゃんと見てなかった、、えっと、男の人が多くて、確か一人にはひげがあって、、それだけ。
ダグラス: 30人はいたぞ。それが皆手作りの鎧を着て、ドラゴンの歌を歌ってる。
アーサー:あ、そう言われると、、
マーティン:鎧だって? 一体どうして、、
(ドアの音。歌声)
へスター:ありがと、ありがとう、みんな、ありがとう!(ドアを閉める音) あ、こんにちは。こちらがMJN航空さん?
マーティン:そうです、こんにち、、あ、おはようございます、ミス、マダム。あ、その、マダム・マコーレイ、ミス・マアム、ミス・マコーレイ!
へスター:あら、ありがとう。でもどうかへスターと呼んで。
ダグラス: いっぱいいっぱいよりは、敬称がいっぱいのほうがいいな。
マーティン:わ、わ、わ、わたしは副操、、じゃなくて、機長のマーティン・クリーフ。そしてこちらが副操縦士のダグラス・リチャードソン、副機長(co-pilot)です。
へスター:はじめまして、副機長さん。これって、共演者(co-star)みたいなもの?
ダグラス: きっとそうでしょうな。
マーティン:まさかそんな。共演者は他の出演者と同等でしょうが、副機長は僕より格下です。
へスター:あら、そうなんでしょうね、クリーフ機長。
マーティン:どうぞ、僕のことはマダムと呼ん、いや、マーティンと!
へスター:ありがとう、マーティン、そうするわ。そしてこちらは?
アーサー:こんにちは。 僕はアーサー。
へスター:なんですって?
アーサー:えっと、アーサーです。
へスター:”ブリトンの王様”?
アーサー:飛行機のスチュワード。
ダグラス: 彼は、本当にアーサーという名前なんだ。
へスター:あ、ごめんなさい、アーサー。 私ったら、あの馬鹿なファンと勘違いしちゃって。さて、よければこちらのマネージャーさんと少しお話したいんだけど?
マーティン:どうぞどうぞ、もちろん。あのドアの向こうです。
へスター:どうもありがとう、機長、あ、マーティン。
マーティン:如何いたしまして。へスター。
(ドアの音)
ダグラス: ほう、「如何いたしまして、へスター」か。いかが、いかが、いかが。
マーティン:やきもち焼き!


(ドアの音)
キャロリン:あら、こんにちは、ミス・マコーレイですね。お会いできて嬉しいわ。
へスター:マネージャーはどこ? 彼と話したいの。
キャロリン:彼女よ。 私がマネージャー兼社長のキャロリン・ナップ=シャッピーです。
へスター:あらそう。じゃあいったいどういうことなのか説明してちょうだい。優秀で用心深いチャーター会社をお願いしたはずのに、どうしてファンが知ってるの? 大群に囲まれちゃったじゃない。
キャロリン:あれを大群って呼ぶの?
へスター:中に入るのが大変だったんだから。
キャロリン:30人は大群とは言わないわ、ちょっとした集まりよ。
へスター:誰も私を迎えにこなかったでしょう。それに、タクシーから荷物を降ろすのを手伝って、どこに行けばいいかを、、
キャロリン:それはごめんなさい、知らなかったわ。今すぐ手配します。お体のどちらに不自由があります?
へスター:なによ、私は障害者じゃないわ。
キャロリン:あら、そう。ごめんなさい。だってタクシーから降りるのに手伝いがいるっておっしゃるから。
へスター:教えて。今までに映画スターを乗せた経験はあるの?
キャロリン:ええ、ノーマン・ペイスさんをファーンボローまで。彼はいい人よ。
へスター:そう、でも私はノーマン・ペイスじゃないわ。
キャロリン:そうじゃないかと思った。
へスター:よく聞きなさい、お嬢ちゃん。あと一言でも余計なことを言ったら、映画の製作総指揮はこの契約を破棄して、プロの航空会社にお願いするわよ。
キャロリン:大変失礼しました。気分を害したならお詫びします。そんなつもりじゃなかったの。
へスター:いいわ。 あともうひとつ。あのおかしな赤ら顔のちっちゃい人は本当に免許を持ったパイロットなの? つまり、彼で安全?
キャロリン:クリーフ機長は私の会社ではかなり優秀なパイロットですわ。


マーティン:そしてこれが人工水平機。
へスター:まあ、すごい、どうやって使うの?
マーティン:うん、これで調べるのは、飛行機が水平か、あるいは、、
へスター:うん?
マーティン:水平じゃないか。もし水平じゃなければ、これで正しい位置に直して、それで、えっと、
ダグラス: 水平にする?
マーティン:そう、水平に。
ダグラス: すてきに。
マーティン:それからこの2つが高度計(Altimeters)で、
へスター:ほんと?なんだかかわいい中流クラスのカップルみたいな名前ね。
(笑い声)
マーティン:ど、どういう意味?
へスター:ほら。 「ようこそ、いらっしゃいませ。ねえ、アルティメーターズ夫妻とお会いになったことは?」
マーティン:ああ。なるほど、それはいいね。そうか、アルティメーターズ夫妻ね、ミセス・アルティメーターとミスター・アルティメーターか。「僕は、僕はグレッグ・アルティメーター。こちらは妻のキャサリン・アルティメーター」
へスター:ええ、、そうね。  どうして2つ必要なの?
マーティン:えっと、片方が壊れたときのために。
ダグラス: それが一般論なんだ。実際には、孔子曰く、「1つの高度計を持つ者は高さを知り、2つを持つ者は確信できず」
(へスター、笑う)
マーティン:ああ、そういうのならいっぱい知ってるよ。孔子曰く、、えっと、、みんな忘れちゃった。
へスター:気にしないで。そろそろ席に戻らないといけないでしょうし。いろいろ見せてくださってありがとう。
マーティン:そんな、どういたしまして。楽しんでもらえてよかった。もしかしたら、いつかきみに撮影現場を見せてもらえるかもしれないね。
へスター:そうね、もしかしたらね。
マーティン:「黄色い雪は食うべからず」
へスター:ええっ?
マーティン:論語だよ、つまりその、、あまりいいのじゃないけど。
へスター:そうね。
(ドアの音)
マーティン:素敵な人だ。
ダグラス: ほう、もしかして気に入ったのか?それにしてはクールに応対してたよな。
マーティン:そんな、僕が?本当に!?
ダグラス: いいや。


アーサー:こんにちは。
へスター:あら、どうも。
アーサー:お伺いしてもよろしければ今日機内で上映する娯楽番組にもし興味がありましたらお聞きになりたいかと。
へスター:は?
アーサー:テレビつけます?
へスター:ご丁寧にありがとう。でも本を読みたいから結構よ。
アーサー:どういたしまして。
へスター:他になにか?
アーサー:いえ、以上です。えっと、一つだけ。さっき僕と会ったときに、ファンの人と勘違いさせちゃってごめんなさい。
へスター:あら、違うわ。謝るのは私のほうよ。あのイカれたキャメロットのファンときたら、世界中追いかけてきて、歌ったり騒いだり、それでいて「一番のファンです」なんて言ってるのよ。全く、迷惑な話でしょ?
アーサー:うん、そう。でも、言っておきたくて。僕はあなたの一番のファンです。
へスター:そうなの?
アーサー:もちろん!
へスター: 私のクリュタイムネストラはお気に召したかしら?
アーサー:クリュ、、?
へスター:私がストラトフォードで演じたクリュタイムネストラよ。あるいオリビエ賞をいただいた「人形の家」のほうが良かった?
アーサー:人形の家で演じたの?
へスター:あら、違うのね。 映画のほうがお好き?
アーサー:うん!大好きだよ、あの、、
へスター:言わないで。当ててみせるから。「光は闇に輝く」?「コイントス」?「ファーデルの熊」?
アーサー:ううん。僕が好きなのは、、
へスター:まさかあなたが好きなのは、私が飼い猫の腎臓透析機を手に入れるためだけに、2週間も沼で過ごして撮影したあのくだらないファンタジー映画だって言わないでね。
アーサー:うん。それじゃないほうが好きかも。猫は良くなった?
へスター:いいえ、死んじゃったわ。
アーサー:あ、そうなんだ。 でもさ、猫のことはこう言うじゃない。
へスター:なんて?
アーサー:猫に9生あり。だから、まだ生きているんだよ!
へスター:今すぐ消えて!
アーサー:承知!
(カーテンの音)
キャロリン:こちらは問題ないかしら?
アーサー:僕はお客さんから見えないところに行くところ。
キャロリン:それも快適なフライトの秘訣ね。
へスター:いったいどうなってるのか教えてちょうだい。
キャロリン:難しい本なのね?。
へスター:本じゃないわよ! もうおかしなファンから迷惑は受けないって請けおいながら、そのファンを私のスチュワードに指名したでしょ。
キャロリン:お詫びしますわ、マダム。でも、トラブルに対処するあなたの強硬な姿勢は素晴らしいですね。
へスター:え?
キャロリン:だって、ほとんどの人は、目の前でその仕事をほめてくれる方に出会ったら、微笑んで、ありがとう、って言うでしょう。でもあなたは違う。とことん侮辱するのね、上出来でした。
へスター:聞きなさい、今からでも私はここから出て行くことができるのよ。
キャロリン:確かにそう。離陸の前に製作総指揮さんに電話できればね。 お客様に申し上げますが、電子機器の使用は離陸後までお控えください。
へスター:私が製作総指揮よ。
キャロリン:お客様には快適に過ごしていただけるよう、努めます。
へスター:いいわ。あのキャメロットおたくをここにこさせないで。あなたにサービスしてもらうわ。まずレモンティを頂戴。
キャロリン:ただちに、マダム。 (カーテンを引く音) アーサー、やかんを用意して、レモンの香りがするハンドタオルをそれに放り込みなさい。


アーサー:わぉ、このホテルすごいね!あの壁は滝になってる。
マーティン:あまり馴染むなよ、ガリバルディとは大違いだからね。でも、確かにあっちのホテルも壁から水が出ていたな。
ダグラス: ミス・マコーレイ、ここがエクセルシオールです。
へスター:素敵ね、ダグラス。どうもありがとう。
受付:ボンジョルノ、セニョール。
マーティン:ああ、ボンジョルノ。あの、英語話せる?
受付:もちろんです。
マーティン:よかった、ありがとう。1部屋お願いします。
受付:かしこまりました。お名前は?
マーティン:ミス・ヘス、、
へスター:マーティン?
マーティン:はい?
へスター:本名はダメよ。ファンを覚えているでしょう?
マーティン:ああ、そうだったね。なんて名前を使っているの?
へスター:いろいろよ。マンガのキャラクターが多いわ。
アーサー:わぁ、それって「ノッティングヒル」から盗ったの?
へスター:彼らが私から盗ったのよ。
マーティン:ではどの名前に?
へスター:あなたが選んで。
マーティン:ああ、うん。じゃあ1部屋を、ミス、、ジェシカ・ラビットに。
へスター:マーティンったら!
マーティン:いや、違う!あの、きみが似てるってわけじゃなくて、その、似てないわけでもないけど、えっと、ジェシカ・ラビットではなく、、ミセス・スヌーピーで。
へスター:でもどうして1部屋だけなの?あなたたちはどこに泊るの?
ダグラス: ガリバルディさ。
へスター:そんな、ダメよ、あれはひどい所よ。「あなたのルーツ」の収録時に、あそこに泊めさられるとこだったの。
ダグラス: へえ、イタリアに親戚がいるんだね?
へスター:とんでもない。BBCから私の家族の故郷ならどこにでも飛んでいいってオファーがきたら、キッダーミンスターですなんて言わないでしょ。 ガリバルディは最悪。他のホテルにしてもらったわ。
ダグラス: そうなのか。きっとキャロリンはよく知らないで予約したんだろうな、マーティン。
マーティン:ああ。
へスター:私だったらこっちに泊まるわ。あ、どうしてもっていうなら別だけど。
ダグラス: 機長?
マーティン:いや、どうしてもってことはないよ、うん。部屋をあと3つ頼む。
受付:かしこまりました。お名前は?
アーサー:僕、グーフィがいい!
マーティン:ダグラス・リチャードソン。アーサー・シャッピー。そして機長のマーティン・クリーフだ。
受付:おお、機長でいらっしゃいますか?
マーティン:うん、そうだよ、飛行機の機長だ。
受付:ではスイートルームがよろしいでしょうか?
マーティン:え?
受付:航空会社のクルーがお見えになるときは、たいてい機長はスイートを希望されます。
へスター:わあ、すごい。
マーティン:確かに!でも、今回は、、、
受付:いえ、お聞きしたのは、残念ながらスイートは満室なんです。
マーティン:ああ、うん、そうか、そうだね。確かに僕は機長としてスイートルームを希望するし、正直、5つ星ホテルにしては不手際だったね、とても失望したよ。
受付:特別室でしたら空いています。
マーティン:なんだって?
受付:5階にある特別室です。5階全てが。
へスター:すごいじゃない、マーティン。そこになさいよ。
マーティン:よし、うん、そこにするよ、決めた!
ダグラス: 冷静沈着だな。


マーティン:ではもし何かあったら、僕の携帯をいつでも鳴らしてね!(エレベータードアの閉まる音)
アーサー:わぉ、スキップ、5つ星だよ、これぞ人生!
マーティン:いや、違う。
アーサー:違うの?
マーティン:違う。これからすぐにロビーに下りて、部屋を払い戻ししてもらい、ガリバルディに向かう。失望させて申し訳ないね。
アーサー:気にしないで。どっちみち、大きいホテルは好きじゃないんだ。引き出しが多すぎて。
マーティン:引き出し?
アーサー:うん。だってさ、全部の引き出しに必ずなにか入れるでしょ。でないと家にいる気分になれないから。大きいホテルだと、時々ソックスを1つづつ別に入れないといけないもん。


 (続く)


ベネディクト・カンバーバッチ氏

2012-12-25 06:50:55 | 日記
「キャビン・プレッシャー」のなかで、オープニングとエンディングに
キャストの名前などを読み上げているのは、
BBCのTVドラマ「SHERLOCK/シャーロック」のホームズ役で一躍有名になった、
マーティン・クリーフ機長こと Benedict Cumberbatch氏。

初回は普通にこなしていらっしゃいますが、
回を重ねるごとにハジけてきて、
すごく早口で読み上げたり、アドリブでアレンジしたり、と遊び心いっぱい。
エンディングだけでもとても楽しめます。


個人的なお勧めは

 シリーズ2のJohannesburg、

 シリーズ3のQikiqtarjuaqとOtterySt.Mary。

是非、聞いてみてください!





そして次回はシリーズ1 第3話 クレモナ です。

映画女優を乗せて、イタリア・クレモナへ行くことになったMJNメンバー。
特にマーティンとアーサーは、この話を聞いて大喜び。

そして出発日当日。
やってきたのは女優だけではなくて、、、






S1-2 Boston(後)

2012-12-23 06:45:25 | 日記
後半をお送りします。


  ↓


アーサー:さようなら。MJN航空ご利用ありがとうございます。さようなら。MJN航空ご利用ありがとうございます。さようなら。MJN航空ご利用ありがとうございます。さようなら、、あ、もう誰もいない。終わったよ、母さん。
ダグラス:そして機体の先っちょも終了。制限時間の12分前だ。
キャロリン:すばらしいわ。救急隊の人たちはギャレーのLさんのところだし、彼らの準備さえ整えば、(カーテンが開く音)ああ、噂をすれば影、じゃなくて太陽さん。
救急隊員:あなたがキャロリン・ナップ=シャッピーさん?
キャロリン:はい。
救急隊員:あなたが救急車を呼んだんですか?
キャロリン:ええ、そうよ。
救急隊員:いったいどうしてです?
キャロリン:どうしてですって? それは、、彼を見てよ。
救急隊員:診ましたよ。それで我々になにをしてほしいんですか?
キャロリン:正直言って、私には関係ないわ。私の飛行機から彼が降りたら、あとはあなたのお好きなようにどうぞ。
救急隊員:彼は死んでいます。私たちの到着よりずっと前に。私たちは緊急救急チームなんです。彼は、それほど緊急ではないわ。
キャロリン:じゃあ私はどうすればいいの? 彼をおんぶして病院へ運べと?
救急隊員:検視官と連絡をとってください。迎えをよこしてくれますよ。
キャロリン:いつ?
救急隊員:さあ、分かりませんわ。明日の朝電話してみてください。いつになるか教えてくれますよ。
キャロリン:明日の朝?
救急隊員:ええ。この時間は閉まってますから。
キャロリン:じゃあ私たちはどうしたらいいの? このまま彼をここにほおっておくの?
救急隊員:とんでもない!
キャロリン:よかった。
救急隊員:ちゃんと付き添ってください。
キャロリン:ええっ? そんなの無理よ、絶対無理。
マーティン:ねえ、ちょっといいかな?
キャロリン:マーティン、やめて。
救急隊員:なんでしょう?
マーティン:ありがとう、僕はこの飛行機の機長だ。彼女じゃなくてね。
救急隊員:はい。それで?
マーティン:それで、いま、、彼、動いたよ。
救急隊員:いえ、まさか。
マーティン:本当に見たんだ。
救急隊員:死んでからそれなりに時間がたっているんですよ、彼。
マーティン:そうは思えない。動いたところを僕は見たんだよ。
救急隊員:どんな動きでした?
マーティン:ちょっと手を振った。
救急隊員:錯覚です。
マーティン:いや、錯覚じゃない。機長として、当機の司令官として、僕は彼が絶対に動いたと断言する。彼は僕にちょっと手を振ったあと、きみを指差して、それから時計をトントンと叩いたんだ。まるで「まだ病院に着かないのか?」って言っているみたいに。そして再び意識をうしなった。だからきみが彼を救急車に乗せることを拒むとしたら、僕としては何時間もかけてそちらに対する抗議文を作成せざるを得ないし、皆がお役所仕事に縛られる。その後、もしかしたら僕が見たのはただの死後硬直だったとようやく認めるかもしれない。 あるいは、今すぐにきみの大きくて空っぽの救急車に彼を乗せて、病院へ連れて行ってくれたら― どっちにしても病院に帰るんだろう?―僕たちにできることは、彼がその間に死なないことを祈るだけだ。
救急隊員:分かりました。ルーカス、患者さんに生存兆候ありよ、ガーニーに乗せて!
マーティン:恩に着るよ。


キャロリン:彼はどこ?
ダグラス:そうだな、昨晩のあの様子だと、出会う人みんなに手柄話をしていそうだ。それで遅れているんじゃないか?
アーサー:待ってるあいだに免税店をのぞいてきてもいい?
キャロリン:ダメよ、アーサー。 これ以上トブラローネはいらないわ。
アーサー:でも母さん、ここには白いのがあるんだ!
マーティン:ああ、みんなここにいたね。おはよう、おはよう、おはよう、おはよう。
ダグラス:おはよう、マーティン。まだ元気いっぱいのようだね。
マーティン:もちろんさ。12時間たっぷり休憩して、今朝は快晴、飛行機日和。それに一仕事終えた充実感。
キャロリン:そうね、マーティン。あなたが男らしくなって皆大喜びよ。さあ、税関を済ませて家に帰りましょう。
税関係員:これはあなたのかばんですか?
マーティン:はい、そうです。キャロリン、なんだか言葉にトゲがあるんじゃないかい? 昨日、何千ポンドも価値がある旅行をフイにする寸前のきみを僕1人で助けてあげたのを忘れたわけじゃないだろう?
税関係員:中身を拝見します。
マーティン:ああ、いいよ。
(カバンを開ける音)
キャロリン:まだ分からないでしょ、予定通りに帰国してからじゃないと。
マーティン:心配無用だよ、キャロリン。雲ひとつない空、無風、途中で死んじゃう面倒な乗客もいない。イスタンブールが僕たちを待っている。そしてイージージェットの善き人々も、たぶん僕を待っている。
税関係員:これはなんですか?
マーティン:なにが?
税関係員:これです。(機械音)
マーティン:ああ、どうしても知りたいっていうのなら、それは鼻毛切りだよ。
税関係員:これは手荷物では持ち込めません。機内預けにしないと。
マーティン:でもただの鼻毛切りだよ。一体僕がこれでなにをしでかすっていうんだ?
税関係員:申し訳ありませんが、連邦法です。
マーティン:あのね、きみ、操縦室には斧があることを知っているかい?
税関係員:なんですって?
ダグラス:あの、機長、力任せな作戦は相手と場所を選ばないと、、
マーティン:非常時用の斧だよ。だからきみが脅威の鼻毛切りを機内に持ち込むことを禁じるなら、僕は、その気になれば、斧を振り回すことができるんだ。
税関係員:本気でおっしゃってるんじゃないでしょうね?
ダグラス:彼は何もおっしゃってないよ。そんなちっぽけな古い機械なんていらない。さあ行こう、マーティン。これ以上なにか言って、、
マーティン:第一、僕は飛行機を操縦しているんだ。墜落させたかったら、わざわざ斧なんて使う必要はない。目の前の操縦桿を押すだけで、、ああっ!
ダグラス:やってしまった。
税関係員:2002年対テロ法第6条に基いてあなたを逮捕します。
マーティン:なんだって?
税関係員:証人の目の前で飛行機の安全を脅かした。こちらへきてください、ほら!
キャロリン:バカね、マーティン。あなたはとてつもない大バカ者よ!
マーティン:でも、でも、僕は40分後には飛行機を飛ばすんだ。
税関係員:いいえ、そうは思いませんね。一緒にきてください!
キャロリン:戻ってきて、戻って、、彼を連れ戻して!
ダグラス:さて、アーサー、トブラローネを見に行こうか?

(エンドクレジット)


S1-2 ボストン(前)

2012-12-22 06:52:49 | 日記
CABIN PRESSURE シリーズ1 第2話 ボストン(前)


重ねてのお願いですが、先にドラマを聞いてから、以下をご覧くださいませ。

  ↓

それでは、シートベルトを着用して、ENJOY!

  ↓
  
キャロリン:シートベルトはこのように締めて、このように外します。車に乗ったことがない人には大変貴重なレッスンですね。万一の緊急着陸の際に使用する救命胴衣は、みなさんの座席の下にありますが、そのままそこに置いておいておくことをお勧めします。ここからルートン空港の間にある水といえば、ダヴェントリーの屋外プールだけですから。最後に、飛行中は携帯電話の電源をお切りください。もちろん、携帯電話が飛行機の操縦機器に影響を与えることはありませんが、私がイライラするので。 それではどうぞ快適な空の旅をお楽しみください。


(テーマ曲)
 今週は 「ボストン」


マーティン:(無線)フィットン管制塔へ、こちらG-E-R-T-I。6千フィートに上昇、左へ旋回、目的地ルートン。
管制塔:はいよ、楽しんどいで。
マーティン:カール。
管制塔:了解、G-T-I。
マーティン:ありがとう。
管制塔:どういたしまして。ヘンなところに飛んでいかないように。(無線オフ)
ダグラス:離陸後のチェック完了。
マーティン:ありがとう、ダグラス。燃料のバランスを見てくれるかい?(沈黙)ダグラス、燃料だ。
ダグラス:悪いが、機長、手伝えません。
マーティン:“サイモンが言った” 燃料のバランスを見てくれ。
ダグラス:よろこんで。(スイッチオン) なあ、そろそろあきらめたらどうだ? もう6度目だぞ。
マーティン:いや、今日こそ勝つ。もう一度やりたいんだ。前回よりうまくやれる自信がある。
ダグラス:なに、前回よりも?「サイモン・ゲームやるかい、マーティン?うん、じゃ僕が先だ、ダグラス。準備ができたら教えてくれ、マーティン。いつでもいいよ、ダグラス、あっ!」  どうかな、マーティン、このゲームはきみには難しすぎるんじゃないか?
(ドアの開く音)
キャロリン:あら、殿方。
ダグラス:まずい。
キャロリン:どうしたの?
マーティン:僕たちが“殿方”の時はろくなことがない。“バカ”のほうがいいな。
ダグラス:あるいは“うすのろ”とか。
マーティン:“うすのろ”はいいね、うん。
キャロリン:違うわ、いい知らせよ。ひとつ仕事が入ったの。
マーティン:今週は他にも仕事が入ってるよ。
キャロリン:その通り。だからもうひとつのお仕事。アルゴンキン・チャーター社が、ガルフストーム機をルートン空港に上手に着陸させたんだけど、本当はアメリカ行きだったの。荷物と一緒にアメリカに行きたいお客さんたちの夢をかなえてあげるのは誰だと思う?私たちよ。
マーティン:できない。
キャロリン:できるわよ。やるの。決まったの。これであなたの質問の答えになったかしら?
マーティン:質問じゃないよ、キャロリン。声明だ。イスタンブール行きは木曜の夜だよ。
キャロリン:知ってるわ。木曜の朝に戻ってくるもの。
マーティン:でもフライトの間は12時間の休憩が必要だ。
キャロリン:それも知ってます。あなたたちは怠け者のパイロットさんだから。ボストンには水曜の朝に着いて、12時間休み、向こうを夜に出発。木曜の朝に戻ってきて12時間休憩。そしてイスタンブールへ。完璧だわ。
マーティン:でも、僕は水曜の午後にイージージェットの面接があるんだ。
ダグラス:イージージェットだ、簡単さ。
キャロリン:大丈夫でしょ。12時間の間になにをしようとあなたの自由よ。睡眠をとるなり、こそこそ鼠みたい私の会社を裏切ろうとするなり。わたしはどちらでもかまわないわ。
マーティン:ダグラス、助けてくれ。
ダグラス:ああ、うまいね。
マーティン:ちぇっ。
キャロリン:お願いだから、まだサイモン・ゲームやってるなんて言わないで。
ダグラス:あいにくそれには答えられないな。2つの理由でね。


アーサー:こんばんは、サー。本日の搭乗ありがとうございます。こんばんは、マダム。本日は搭乗ありがとうございます。こんばんは、サー。搭乗は本日でありがとうございます。あ、あの、すみません。
客:うん? なに?
アーサー:お知らせしますが、MJNは全席禁煙です。それにともない、タバコも葉巻もシガリロも搭乗の際には消して、そのままの状態を着陸完了後まで保ってください。ご協力感謝します。
客:協力しないよ。
アーサー:あ、今はまだでも、でも、すぐ協力してくださるでしょ。そしたら感謝します。
客:このフライトにいくら払ったか知ってるか?
アーサー:高かったんですか?
客:いい推理だ。まさに高かったんだよ。それだけ払ってるんだから、どこでも好きなところで吸わせてもらうよ。
アーサー:でも、その、機内で吸うのはすごく危険です。
客:いいや、そんなことはない。
アーサー:なんて言っていいか、分からなくなっちゃった。
客:きみはいくつだ、若いの?
アーサー:28歳と半年。
客:そうか、私はきみが生まれる20年も前から飛行機でタバコを吸っている。どうして機内の“禁煙”のサインがついたり消えたりすると思ってるんだ?
アーサー:あ、うちのはずっと消えてますよ。1つだけチカチカするのはあるけど。あ、もう1つ、触っちゃいけないのがあって、それをオンにすると機内が魚のにおいになるの。
客:おかげで安心だ。さあ、もういいだろう?
アーサー:はい。
客:タバコも吸っていいね?
アーサー:え~っと、、
キャロリン:いらっしゃいませ。ご搭乗誠にありがとうございます。なにかございましたら、私、あるいはスタッフにお知らせいただければ、いつでもお手伝いいたします。例えば、お客様のタバコを火を消すとか。
客:おい!
キャロリン:あらま。アーサー、こちらのお客様に新しいワインを。こっちはちょっと、タバコっぽい味のようね。ご協力に感謝します。どうぞ快適なフライトをお楽しみください。


マーティン:ダグラス、中間燃料チェックを頼むよ。(沈黙)“サイモンが言った”中間燃料のチェックを。
ダグラス:直ちに。 飛行計画より10分早く、700キロアップだ。
マーティン:もうすこしでひっかかるところだったろう?
ダグラス:いいや。(アラーム音)ああ、またか。今度はこのばあさんのどこに欠陥が、、おっと!
マーティン:どうした?
ダグラス:燃料たっぷりで大西洋上空を飛んでいる我々のうすっぺらな金属の機体に面白いことが起こってるよ。
マーティン:なに?
ダグラス:火がついた。
マーティン:ダグラス。
ダグラス:火災報知器です、機長。煙を感知。客室のトイレ。
マーティン:ああ。(インターコム)キャロリン、我々は、、
キャロリン:はい、はい、分かっています。あなたたちのゴーグルは外さないでいいわ。ご機嫌ななめな3Bのレイマンさんよ。ちょっと待ってて。

(トイレのドアをノック)
レイマン(客):使用中だ!
キャロリン:お客様、タバコは消して、火災報知器からペーパーカップを外してください。そのトリックは通用しないことを覚えておいて、お席に戻って。
レイマン:やだね。

(ドアが開く音)
キャロリン:マーティン、ダグラスにあなたの帽子を貸してあげて。 貸して。
マーティン:“サイモンが言った”は?
キャロリン:私はそのゲームには参加しませんよ。お客がトイレに閉じこもっているの。だからダグラスにあなたの帽子を渡しなさい。
マーティン:その2つの文章は自然につながっているかもしれないけど、僕には全く分から、、
キャロリン:分からなくていいの。帽子をダグラスに渡すだけなんだから。
マーティン:渡したくない。
ダグラス:こう言って役に立つようなら、私は受け取りたくない。
キャロリン:もう、いいかげんにして!どうして誰も昔みたいに黙って従わないの? あなたの帽子が必要なの。そうすれば彼は機長として向こうに行ってお客を震え上がらせることができるのよ。
マーティン:でも機長は僕だ。
キャロリン:あなたが機長だってことは苦しいほどよく分かってるわ、マーティン。でもダグラスのほうが機長らしく見えるし、機長らしく話すでしょ。あなたじゃお客を震え上がらせることができません。バーでくどきでもしない限りね。
マーティン:そうか。じゃあ試してみるかい?


マーティン:レイマンさん?
レイマン:うん?
マーティン:もうトイレは使用していないんでしょう?
レイマン:ああ、きっときみのあだ名はホークアイ機長だな。
マーティン:僕は10分前にこのフライトを中止するところだったんです。
レイマン:それは薦められないね。この下は海だ、ちょっと濡れるよ。
マーティン:なぜなら、お客様、当機に火がついたという情報を受けたからです。
レイマン:なんだ。それは私がちょっとタバコを吸っているだけだ。
マーティン:ええ、知ってます。
レイマン:よし。じゃあ飛行はもう中止しないね。
マーティン:お客様、僕はこのフライトの司令官として、
レイマン:オーケイ。もう充分だ。どうしようっていうのかね、司令官殿?私を逮捕するか?いいや、できないはずだ。なぜだか教えてやろうか?それはきみが、つまらない、ちっぽけな飛行機の一機長で、私はその何億倍も価値がある仕事をしているからだ。そんな子供だましな、「大きくなったら機長さんになりたいな」みたいな格好で私を脅せるとでも思ったのか?冗談じゃない。なにが司令官だ。きみは大人のゲームに参加できないチビだ。海軍少将さんの制服を着ていても、きみはただの空飛ぶタクシーの運ちゃんさ、そうだろ?
マーティン:違う!違いますよ。あなたは、とっても失礼な人だ。僕に向かってそんな風に言うなんて。僕は機長なんだ!
レイマン:オーケイ、機長。さっさと逃げるんだな。それから、大切な機器に涙を落とすなよ。
マーティン:泣いてなんかいない! タバコの煙が目に入っただけだ。


(ドアが開く音)
ダグラス:どうだった?
マーティン:大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。  アーサー?
ダグラス:5回も言うからには正しいに違いない。
アーサー:はい、スキッパー?
マーティン:よし、アーサー、僕がレイマンさんにうちの禁煙方針を伝えたのは見ていたよな?
アーサー:ああ、その、ちゃんとは見てなくて、つまり、泣かされてのは気づかなかったよ。あの、つまり、そんなことはなかったよね。
マーティン:泣いてない。煙が目に入っただけだ。
ダグラス:煙がきみの目に ~♪
マーティン:黙れ、ダグラス!さあ、アーサー、僕たちはすでに火を感知した。これ以上の危険は冒せない。レイマンさんにはうちの方針を全て伝えたわけだし、彼だってもうトイレで喫煙することはないはずだから、、
アーサー:またやると思うな。
マーティン:いや、アーサー、彼はもうしないよ。
アーサー:うん、その、きみの言葉にさからうわけじゃないけど、僕ときみとの違いは、僕は前に母さんに言われてイプスウィッチで人を理解する講習を受けたことがあるんだ。
マーティン:今度イプスウィッチの人を理解したいときがきたら、真っ先にきみを呼ぶよ。それでは、、
アーサー:そうじゃなくて、僕は人の心が読めるんだよ。本みたいに。 
ダグラス:いままで本を読んだことがあるのか、アーサー?
アーサー:うん、あるよ。「白い牙」を2回も! でね、僕の読心術を使えば、レイマンさんは行動を矯正する5つの兆しのうちの、ひとつも見せてないんだ。つまり、簡単に言うと、あの人はまたトイレでタバコを吸うに違いないよ。
マーティン:良く聞いてくれ、アーサー。彼は絶対にもう吸わないんだ。よって、もしも今後、火災報知器が作動したら、それは本当に火事だってことだ。万一そんなことになったら、きみはノックして待つなんて無駄は省いて、すぐにドアロックを外し、どんな火でも消火器で消すんだ。
アーサー:ああ、どんな火でもか。
マーティン:その通り。それがどんなに小~さな火でもね。
アーサー:了解、スキッパー。


アーサー:オーケイ。彼が立ったよ。動き出した。(ドアの開閉音)いま、中に入った。
マーティン:オーケイ、アーサー、出動準備。
アーサー:オーケイ。
マーティン:待ってろ。(アラーム音)ああ、困った、緊急事態発生、緊急事態発生。 飛行機が火事だ。 アーサー、後生だから皆を救ってくれ!
アーサー:はい、スキッパー!
(ドアが開く音)
レイマン:おい、なにやって、、
アーサー:火事だ~
レイマン:わぁ~ ああ!胸が、ああ!(倒れる)
アーサー:消火完了。

(ピンポン)
マーティン:こんばんは。私は機長のクリーフです。実は1人のお客様が病気でして、もしお医者様がいらっしゃいましたら、操縦室のドア前までお越しください。ありがとうございます。
(ドアが開く音)
ダグラス:よし、彼をギャレーに移したぞ。
マーティン:容態はどう?
ダグラス:そうだな、泡まみれで心臓発作を起こしているが、それ以外は大丈夫だ。
マーティン:あの、、考えたんだけど、僕たちは戻るほうがよさそうかも。
ダグラス:ああ。当然そうすべきだ。まだ旋回してないのか?
マーティン:そう、そうだよね。でも、キャロリンはきっと気に入らないだろう。
ダグラス:マーティン、それは論外だ。これは重大な緊急医療事項なんだぞ。一番近い空港に着陸する。我々は中間地点から20分の場所にいるから、イギリスのほうが40分近い。引き返すべきだという結論に達するのが当然でしょう、機長。
マーティン:うん、その通りだ。(無線)シャンウィック、こちらG-E-R-T-I。急患発生。至急引き返したい。
管制塔:了解、G-T-I。待機して。ルートを調整するわ。
マーティン:オーケイ。(無線オフ)キャロリンも分かってくれるよね?命にかかわることなんだから。そういえば乗客リストにドクターってあったような、、ほら、ここだ、7Aにドクター・トーマス・プライス。彼はどこだ?
ダグラス:隠れてるんだろう、きっと。
マーティン:ええ? どうして?
ダグラス:告訴されるのを避けるために。
マーティン:冗談だろう。
ダグラス:いいや。アメリカ行きではよくあることさ。治療しようとして何かが起これば、医療ミスで派手に訴えられるんだ。
マーティン:でも、命を救おうとしている人を訴えるヤツなんていないだろ。
ダグラス:考えてみろよ。レイマンさんならやりかねない。
マーティン:ちょっと見に行ってきてくれるかい?(沈黙)“サイモンが言った”ちょっと見に行ってくれ。
ダグラス:サイモンには従いましょう。
(ドアが閉まる音)
管制塔:(無線)G-T-Iへ、このルートなら今夜は飛行機が少ないわ。3-3-0を維持。レイキャビックへ向かい、領域に入ったらアイスランドと交信、118.05。
マーティン:レイキャビックだって?イギリスに引き返すと思ってたよ。
管制塔:でもレイキャビックのほうがずっと近いわよ。急患なんでしょ?
マーティン:うん、そうだ、了解。(無線オフ)(ピンポン)みなさん、ふたたびクリーフ機長です。 先ほど話しました病気のお客様ですが、緊急治療を受ける必要があり、私たちは今日、その、、レイキャビック空港に立ち寄ることになりました。ご迷惑をお詫びします。そして、機内にお医者様がいらしたら、お願いですからクルーに声をかけてください。ありがとう。
(ドアが開く音)
キャロリン:レイキャビック!
マーティン:キャロリン、やあ。
キャロリン:レイキャビック、レイキャビック、レイキャビック!
マーティン:キャロリン、まるで毛玉を吐き出しているように聞こえるよ。
キャロリン:なぜよりによってレイキャビックへ行くの?
マーティン:なぜなら―もちろん忙しいスケジュールなのは分かっているが―きみの息子がお客に消火器を向けて、心臓発作を起こさせたからだよ。病院につれていってあげて、誠意をみせるほうがいいと思って。
キャロリン:ボストンの病院じゃいけないの?
マーティン:いけなくはないさ。きっと設備も立派だと思うよ。でも1500マイルも離れているんだ。
キャロリン:アイスランドに着陸するのに一体いくらかかるか分かる?全員の宿泊先と、明日のフライトを手配して、イスタンブール行きは取り止めになるのよ。
マーティン:でも人が1人死にそうなんだ。
キャロリン:ひどい人がね。
マーティン:キャロリン、お客がきみに無礼だったからって、死なせることはないだろう。
キャロリン:そうね。マーティン、聞いて。私たちはほぼ半分まで来てるわ。ボストンまで、せいぜい40分くらい遠いだけでしょう? コストが何千ポンドもかかることは脇においといて、彼のために考えましょう。彼はボストンに住んでます。このまま進めば、彼は地元の病院に行けるわ。家族も友達もいる。
マーティン:友達?
キャロリン:彼はお金持ちよ、もちろん友達がいるわ。もしアイスランドの病院なんかに行ってごらんなさい。外国で一人きり、家族は飛行機で向かい、でも、間に合わないかもしれない。たった40分のためにね。
マーティン:(無線)シャンウィック、こちらG-T-I。さきほどの依頼はキャンセルして、ボストンに向かいたい。
管制塔:あら、治ったの?良かったわね。了解、G-T-I。北へ51度、西へ30度。元の進路に戻って。
キャロリン:よい判断です、機長。じゃ、あとでね。
(ドアが閉まる音)
(ピンポン)
マーティン:たびたび申し訳ございません。当機はボストンへの飛行を続けることになりましたのでお知らせします。それから、お医者さんが乗っていて、その人が医学部を卒業するときのヒポクラテスの誓詞を少しでも覚えていたら、ギャレーに来ていただけると大変助かるんです。よろしく。
ダグラス:なにやっているんだ、マーティン?
マーティン:プライス先生に気付いてもらおうとしてる。
ダグラス:そうじゃなくて、なぜボストンに向かうんだ?
マーティン:ああ、それは、、よく考えたら、あまり距離が変わらないと、、
ダグラス:キャロリンに説得されたな?
マーティン:え?違うよ。彼女はただ、ちょっと新しい点を指摘をして、、
ダグラス:マーティン、旋回しろ。
マーティン:いや、もう正式に決断したんだ。
ダグラス:間違った決断だ。ボストンへはさらに40分かかる。
マーティン:そうだ、40分だよ、そんなにたいした、、
ダグラス:ボストンまで30分ってところで彼が死んだら―本来ならその時間にはレイキャビックで救急車に乗って助かっていたかもしれないのに―どう家族に伝えるんだ?
マーティン:(無線)やあ、シャンウィック、こちらまたしてもG-T-Iだ。
管制塔:あら、ねずみ花火じゃなかったのね。次はどちらにお連れしましょうか?この時期はテネリフェがお勧めよ。
マーティン:レイキャビックでいいよ、ありがとう。
管制塔:今度こそ本当に?いいのよ、ゆっくり考えても。私は一生暇をもてあましてるんだから、大西洋のどこにでも案内するわよ。
(ピンポン)
マーティン:みなさん、またしてもクリーフ機長です。先ほどは間違った情報を伝えてしまいまいした。我々は予定通りレイキャビック空港へ向かいます。(乗客の不満な声)はい、分かりますよ。命を救うことは辛い仕事ですよね。そういえば、全く聞く耳をもたないようだが、当機に医者がいれば、そしてその医者が(紙をめくる音)チキン・キャセロールとブルーベリー・チーズケーキを食べおえて、ああ、それにミルク入り砂糖なしのコーヒーね。その仮説上の医者が、免税品カタログをめくったり、薄茶色のひげをひっぱったりしているのなら、7席ほど前に進んで、ギャレーの患者を診てくれるとありがたい。でも、もし医者がいなければ、気にしないでくれたまえ。

(カーテンが開く音)
男:あの、、
マーティン:ああ、いらっしゃい。プライスさんですね?
プライス:ドクター・プライスです。
マーティン:ああ、ドクターですか!それはそれはありがたい。ずっと探していたんです。こちらに患者さんが。
プライス:どれ、見てみよう。ふむふむ。
マーティン:どう思われます?
プライス:私が思うに、橋だな。
マーティン:橋?
プライス:うん、トンネルは問題外だ。彼を通すとしたら、ドリンク用トロリーとストレッチャーで、簡単な土木ゲルバー橋を作ること。これが、少なくとも、専門家としての私の意見だ、土木工学博士号をもつ私のね。あるいは誰かがとても気まずいミスをおかしたか?
マーティン:え、、あ、申し訳ございません、僕は、、
プライス:ああ。それよりも、私は医学の心得はないが、この人には医者は必要ないぞ。
マーティン:え?
プライス:今はもうね。


キャロリン:すぐ進路を変えなさい。
マーティン:僕の話も聞いてくれ。
キャロリン:いいえ、もっと大切なことがあるの。進路を変えなさい。今すぐ。
マーティン:進路変更はできないよ。
キャロリン:マーティン、あなたが今回のフライトで証明したことは、何度も何度もだけど、あなたは進路を変えられるってこと。あるいは私たちはスローモーションのハリケーンの中にいるの?
マーティン:でも、レイマンさんは、、
キャロリン:死んだのよ。彼の気難しい魂に安らぎを。だからもう救急車はいらないし、病院もいらないの。今の彼に必要なのは、家に帰ることよ、ボストンに。
マーティン:ダグラス。
ダグラス:安全にボストンに到着できる燃料がもう残ってないって言うこともできるな。
マーティン:そうだ、ありがとう。キャロリン、僕たちは、、
ダグラス:でも残ってる。
マーティン:どうもありがとう。
ダグラス:悪いが彼女が正しいよ。ボストンへ向かうべきだ。
キャロリン:ほらね!
マーティン:分かった、分かったよ。ボストンに行こう。でもひとつだけ、、
キャロリン:なあに?
マーティン:ダグラスがシャンウィックと話してくれたら。
キャロリン:ダグラス?
ダグラス:喜んで。(無線)やあ、シャンウィック、ヨーヨー航空の陽気な男たちからの再度の挨拶だよ。


アーサー:じゃあ、お別れだね。誰かが最後の挨拶をすべきだって思って。ハミルトン・R・レイマン、1943年、たぶんアメリカ生まれ。2008年に間違いなく空で死亡。ノン・ベジタリアン・ミール。僕はあなたのことはよく知らないけど、レイマンさん、でも声が大きい人だってことは覚えておくよ。叫ぶのが好きで、そしてタバコ。この2つがあなたの情熱だったね。そう、だから、死ぬときも好きなことをして最後を迎えられたんだね。叫んで、タバコ吸って、泡まみれになって。泡は好きだったかのかな、きっと好きじゃないよね。じゃ、さようなら。安らかに眠ってね。MJN航空のご利用ありがとうございます。


マーティン:間に合うかな?
ダグラス:分からないって3分前に言ったの覚えているか?その後、新しい情報は入ってきてないよ。
マーティン:そうだね。
ダグラス:大丈夫か?
マーティン:うん。ただ、今回はいいフライトじゃなかっただろう?僕はその、間違いを、、いや、それでも、その、帰国して面接に行くときに、もし、間に合えば、だけど、もう無理だね。そのときに、僕は機長として、その、、聞きたいのは、きみは機長だっただろう、それで、その、難しいんだけど、、アドバイスもらえるかい?
ダグラス:ああ。大切のは、アドバイスを求めるなってことだ。
マーティン:そうかい、ありがと。
ダグラス:いいんだよ、このあとから始めれば。きみが機長なんだ、マーティン。機長でいるってことの利点は、磁石のように女性をひきつける魅力や、チーズトレイから取る最初の一口とかの他に、常に正しいってことだ。意見を聞くのはいいんだぞ。だが覚えておくんだ。キャロリンに従う必要はない。管制塔に従う必要はない。そのうえ、うん、これは二度と言わないからよく味わっておけ。私に従う必要すらないんだ。きみがボスだ。きみの言うことが正しい。
マーティン:うん、うん、そうだね、ありがとう。でも、えっと、ダグラス?
ダグラス:なんだ?
マーティン:“サイモンが言った”アドバイスもらえるかい?
ダグラス:ああっ、、よくやった。
マーティン:次は僕だ、僕の番だよ!
ダグラス:よろしい、準備できたら言ってくれ。(沈黙)“サイモンが言った”準備ができたら言ってくれ。
マーティン:準備OK。
ダグラス:もう一度言って?
マーティン:準備OK。  あ!

 
(続く)