Cabin Pressure(脚本:ジョン・フィネモア 出演:ベネディクト・カンバーバッチ他)

イギリスBBCのラジオ・コメディ CABIN PRESSURE について語ります。

S1-2 ボストン(前)

2012-12-22 06:52:49 | 日記
CABIN PRESSURE シリーズ1 第2話 ボストン(前)


重ねてのお願いですが、先にドラマを聞いてから、以下をご覧くださいませ。

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それでは、シートベルトを着用して、ENJOY!

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キャロリン:シートベルトはこのように締めて、このように外します。車に乗ったことがない人には大変貴重なレッスンですね。万一の緊急着陸の際に使用する救命胴衣は、みなさんの座席の下にありますが、そのままそこに置いておいておくことをお勧めします。ここからルートン空港の間にある水といえば、ダヴェントリーの屋外プールだけですから。最後に、飛行中は携帯電話の電源をお切りください。もちろん、携帯電話が飛行機の操縦機器に影響を与えることはありませんが、私がイライラするので。 それではどうぞ快適な空の旅をお楽しみください。


(テーマ曲)
 今週は 「ボストン」


マーティン:(無線)フィットン管制塔へ、こちらG-E-R-T-I。6千フィートに上昇、左へ旋回、目的地ルートン。
管制塔:はいよ、楽しんどいで。
マーティン:カール。
管制塔:了解、G-T-I。
マーティン:ありがとう。
管制塔:どういたしまして。ヘンなところに飛んでいかないように。(無線オフ)
ダグラス:離陸後のチェック完了。
マーティン:ありがとう、ダグラス。燃料のバランスを見てくれるかい?(沈黙)ダグラス、燃料だ。
ダグラス:悪いが、機長、手伝えません。
マーティン:“サイモンが言った” 燃料のバランスを見てくれ。
ダグラス:よろこんで。(スイッチオン) なあ、そろそろあきらめたらどうだ? もう6度目だぞ。
マーティン:いや、今日こそ勝つ。もう一度やりたいんだ。前回よりうまくやれる自信がある。
ダグラス:なに、前回よりも?「サイモン・ゲームやるかい、マーティン?うん、じゃ僕が先だ、ダグラス。準備ができたら教えてくれ、マーティン。いつでもいいよ、ダグラス、あっ!」  どうかな、マーティン、このゲームはきみには難しすぎるんじゃないか?
(ドアの開く音)
キャロリン:あら、殿方。
ダグラス:まずい。
キャロリン:どうしたの?
マーティン:僕たちが“殿方”の時はろくなことがない。“バカ”のほうがいいな。
ダグラス:あるいは“うすのろ”とか。
マーティン:“うすのろ”はいいね、うん。
キャロリン:違うわ、いい知らせよ。ひとつ仕事が入ったの。
マーティン:今週は他にも仕事が入ってるよ。
キャロリン:その通り。だからもうひとつのお仕事。アルゴンキン・チャーター社が、ガルフストーム機をルートン空港に上手に着陸させたんだけど、本当はアメリカ行きだったの。荷物と一緒にアメリカに行きたいお客さんたちの夢をかなえてあげるのは誰だと思う?私たちよ。
マーティン:できない。
キャロリン:できるわよ。やるの。決まったの。これであなたの質問の答えになったかしら?
マーティン:質問じゃないよ、キャロリン。声明だ。イスタンブール行きは木曜の夜だよ。
キャロリン:知ってるわ。木曜の朝に戻ってくるもの。
マーティン:でもフライトの間は12時間の休憩が必要だ。
キャロリン:それも知ってます。あなたたちは怠け者のパイロットさんだから。ボストンには水曜の朝に着いて、12時間休み、向こうを夜に出発。木曜の朝に戻ってきて12時間休憩。そしてイスタンブールへ。完璧だわ。
マーティン:でも、僕は水曜の午後にイージージェットの面接があるんだ。
ダグラス:イージージェットだ、簡単さ。
キャロリン:大丈夫でしょ。12時間の間になにをしようとあなたの自由よ。睡眠をとるなり、こそこそ鼠みたい私の会社を裏切ろうとするなり。わたしはどちらでもかまわないわ。
マーティン:ダグラス、助けてくれ。
ダグラス:ああ、うまいね。
マーティン:ちぇっ。
キャロリン:お願いだから、まだサイモン・ゲームやってるなんて言わないで。
ダグラス:あいにくそれには答えられないな。2つの理由でね。


アーサー:こんばんは、サー。本日の搭乗ありがとうございます。こんばんは、マダム。本日は搭乗ありがとうございます。こんばんは、サー。搭乗は本日でありがとうございます。あ、あの、すみません。
客:うん? なに?
アーサー:お知らせしますが、MJNは全席禁煙です。それにともない、タバコも葉巻もシガリロも搭乗の際には消して、そのままの状態を着陸完了後まで保ってください。ご協力感謝します。
客:協力しないよ。
アーサー:あ、今はまだでも、でも、すぐ協力してくださるでしょ。そしたら感謝します。
客:このフライトにいくら払ったか知ってるか?
アーサー:高かったんですか?
客:いい推理だ。まさに高かったんだよ。それだけ払ってるんだから、どこでも好きなところで吸わせてもらうよ。
アーサー:でも、その、機内で吸うのはすごく危険です。
客:いいや、そんなことはない。
アーサー:なんて言っていいか、分からなくなっちゃった。
客:きみはいくつだ、若いの?
アーサー:28歳と半年。
客:そうか、私はきみが生まれる20年も前から飛行機でタバコを吸っている。どうして機内の“禁煙”のサインがついたり消えたりすると思ってるんだ?
アーサー:あ、うちのはずっと消えてますよ。1つだけチカチカするのはあるけど。あ、もう1つ、触っちゃいけないのがあって、それをオンにすると機内が魚のにおいになるの。
客:おかげで安心だ。さあ、もういいだろう?
アーサー:はい。
客:タバコも吸っていいね?
アーサー:え~っと、、
キャロリン:いらっしゃいませ。ご搭乗誠にありがとうございます。なにかございましたら、私、あるいはスタッフにお知らせいただければ、いつでもお手伝いいたします。例えば、お客様のタバコを火を消すとか。
客:おい!
キャロリン:あらま。アーサー、こちらのお客様に新しいワインを。こっちはちょっと、タバコっぽい味のようね。ご協力に感謝します。どうぞ快適なフライトをお楽しみください。


マーティン:ダグラス、中間燃料チェックを頼むよ。(沈黙)“サイモンが言った”中間燃料のチェックを。
ダグラス:直ちに。 飛行計画より10分早く、700キロアップだ。
マーティン:もうすこしでひっかかるところだったろう?
ダグラス:いいや。(アラーム音)ああ、またか。今度はこのばあさんのどこに欠陥が、、おっと!
マーティン:どうした?
ダグラス:燃料たっぷりで大西洋上空を飛んでいる我々のうすっぺらな金属の機体に面白いことが起こってるよ。
マーティン:なに?
ダグラス:火がついた。
マーティン:ダグラス。
ダグラス:火災報知器です、機長。煙を感知。客室のトイレ。
マーティン:ああ。(インターコム)キャロリン、我々は、、
キャロリン:はい、はい、分かっています。あなたたちのゴーグルは外さないでいいわ。ご機嫌ななめな3Bのレイマンさんよ。ちょっと待ってて。

(トイレのドアをノック)
レイマン(客):使用中だ!
キャロリン:お客様、タバコは消して、火災報知器からペーパーカップを外してください。そのトリックは通用しないことを覚えておいて、お席に戻って。
レイマン:やだね。

(ドアが開く音)
キャロリン:マーティン、ダグラスにあなたの帽子を貸してあげて。 貸して。
マーティン:“サイモンが言った”は?
キャロリン:私はそのゲームには参加しませんよ。お客がトイレに閉じこもっているの。だからダグラスにあなたの帽子を渡しなさい。
マーティン:その2つの文章は自然につながっているかもしれないけど、僕には全く分から、、
キャロリン:分からなくていいの。帽子をダグラスに渡すだけなんだから。
マーティン:渡したくない。
ダグラス:こう言って役に立つようなら、私は受け取りたくない。
キャロリン:もう、いいかげんにして!どうして誰も昔みたいに黙って従わないの? あなたの帽子が必要なの。そうすれば彼は機長として向こうに行ってお客を震え上がらせることができるのよ。
マーティン:でも機長は僕だ。
キャロリン:あなたが機長だってことは苦しいほどよく分かってるわ、マーティン。でもダグラスのほうが機長らしく見えるし、機長らしく話すでしょ。あなたじゃお客を震え上がらせることができません。バーでくどきでもしない限りね。
マーティン:そうか。じゃあ試してみるかい?


マーティン:レイマンさん?
レイマン:うん?
マーティン:もうトイレは使用していないんでしょう?
レイマン:ああ、きっときみのあだ名はホークアイ機長だな。
マーティン:僕は10分前にこのフライトを中止するところだったんです。
レイマン:それは薦められないね。この下は海だ、ちょっと濡れるよ。
マーティン:なぜなら、お客様、当機に火がついたという情報を受けたからです。
レイマン:なんだ。それは私がちょっとタバコを吸っているだけだ。
マーティン:ええ、知ってます。
レイマン:よし。じゃあ飛行はもう中止しないね。
マーティン:お客様、僕はこのフライトの司令官として、
レイマン:オーケイ。もう充分だ。どうしようっていうのかね、司令官殿?私を逮捕するか?いいや、できないはずだ。なぜだか教えてやろうか?それはきみが、つまらない、ちっぽけな飛行機の一機長で、私はその何億倍も価値がある仕事をしているからだ。そんな子供だましな、「大きくなったら機長さんになりたいな」みたいな格好で私を脅せるとでも思ったのか?冗談じゃない。なにが司令官だ。きみは大人のゲームに参加できないチビだ。海軍少将さんの制服を着ていても、きみはただの空飛ぶタクシーの運ちゃんさ、そうだろ?
マーティン:違う!違いますよ。あなたは、とっても失礼な人だ。僕に向かってそんな風に言うなんて。僕は機長なんだ!
レイマン:オーケイ、機長。さっさと逃げるんだな。それから、大切な機器に涙を落とすなよ。
マーティン:泣いてなんかいない! タバコの煙が目に入っただけだ。


(ドアが開く音)
ダグラス:どうだった?
マーティン:大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。  アーサー?
ダグラス:5回も言うからには正しいに違いない。
アーサー:はい、スキッパー?
マーティン:よし、アーサー、僕がレイマンさんにうちの禁煙方針を伝えたのは見ていたよな?
アーサー:ああ、その、ちゃんとは見てなくて、つまり、泣かされてのは気づかなかったよ。あの、つまり、そんなことはなかったよね。
マーティン:泣いてない。煙が目に入っただけだ。
ダグラス:煙がきみの目に ~♪
マーティン:黙れ、ダグラス!さあ、アーサー、僕たちはすでに火を感知した。これ以上の危険は冒せない。レイマンさんにはうちの方針を全て伝えたわけだし、彼だってもうトイレで喫煙することはないはずだから、、
アーサー:またやると思うな。
マーティン:いや、アーサー、彼はもうしないよ。
アーサー:うん、その、きみの言葉にさからうわけじゃないけど、僕ときみとの違いは、僕は前に母さんに言われてイプスウィッチで人を理解する講習を受けたことがあるんだ。
マーティン:今度イプスウィッチの人を理解したいときがきたら、真っ先にきみを呼ぶよ。それでは、、
アーサー:そうじゃなくて、僕は人の心が読めるんだよ。本みたいに。 
ダグラス:いままで本を読んだことがあるのか、アーサー?
アーサー:うん、あるよ。「白い牙」を2回も! でね、僕の読心術を使えば、レイマンさんは行動を矯正する5つの兆しのうちの、ひとつも見せてないんだ。つまり、簡単に言うと、あの人はまたトイレでタバコを吸うに違いないよ。
マーティン:良く聞いてくれ、アーサー。彼は絶対にもう吸わないんだ。よって、もしも今後、火災報知器が作動したら、それは本当に火事だってことだ。万一そんなことになったら、きみはノックして待つなんて無駄は省いて、すぐにドアロックを外し、どんな火でも消火器で消すんだ。
アーサー:ああ、どんな火でもか。
マーティン:その通り。それがどんなに小~さな火でもね。
アーサー:了解、スキッパー。


アーサー:オーケイ。彼が立ったよ。動き出した。(ドアの開閉音)いま、中に入った。
マーティン:オーケイ、アーサー、出動準備。
アーサー:オーケイ。
マーティン:待ってろ。(アラーム音)ああ、困った、緊急事態発生、緊急事態発生。 飛行機が火事だ。 アーサー、後生だから皆を救ってくれ!
アーサー:はい、スキッパー!
(ドアが開く音)
レイマン:おい、なにやって、、
アーサー:火事だ~
レイマン:わぁ~ ああ!胸が、ああ!(倒れる)
アーサー:消火完了。

(ピンポン)
マーティン:こんばんは。私は機長のクリーフです。実は1人のお客様が病気でして、もしお医者様がいらっしゃいましたら、操縦室のドア前までお越しください。ありがとうございます。
(ドアが開く音)
ダグラス:よし、彼をギャレーに移したぞ。
マーティン:容態はどう?
ダグラス:そうだな、泡まみれで心臓発作を起こしているが、それ以外は大丈夫だ。
マーティン:あの、、考えたんだけど、僕たちは戻るほうがよさそうかも。
ダグラス:ああ。当然そうすべきだ。まだ旋回してないのか?
マーティン:そう、そうだよね。でも、キャロリンはきっと気に入らないだろう。
ダグラス:マーティン、それは論外だ。これは重大な緊急医療事項なんだぞ。一番近い空港に着陸する。我々は中間地点から20分の場所にいるから、イギリスのほうが40分近い。引き返すべきだという結論に達するのが当然でしょう、機長。
マーティン:うん、その通りだ。(無線)シャンウィック、こちらG-E-R-T-I。急患発生。至急引き返したい。
管制塔:了解、G-T-I。待機して。ルートを調整するわ。
マーティン:オーケイ。(無線オフ)キャロリンも分かってくれるよね?命にかかわることなんだから。そういえば乗客リストにドクターってあったような、、ほら、ここだ、7Aにドクター・トーマス・プライス。彼はどこだ?
ダグラス:隠れてるんだろう、きっと。
マーティン:ええ? どうして?
ダグラス:告訴されるのを避けるために。
マーティン:冗談だろう。
ダグラス:いいや。アメリカ行きではよくあることさ。治療しようとして何かが起これば、医療ミスで派手に訴えられるんだ。
マーティン:でも、命を救おうとしている人を訴えるヤツなんていないだろ。
ダグラス:考えてみろよ。レイマンさんならやりかねない。
マーティン:ちょっと見に行ってきてくれるかい?(沈黙)“サイモンが言った”ちょっと見に行ってくれ。
ダグラス:サイモンには従いましょう。
(ドアが閉まる音)
管制塔:(無線)G-T-Iへ、このルートなら今夜は飛行機が少ないわ。3-3-0を維持。レイキャビックへ向かい、領域に入ったらアイスランドと交信、118.05。
マーティン:レイキャビックだって?イギリスに引き返すと思ってたよ。
管制塔:でもレイキャビックのほうがずっと近いわよ。急患なんでしょ?
マーティン:うん、そうだ、了解。(無線オフ)(ピンポン)みなさん、ふたたびクリーフ機長です。 先ほど話しました病気のお客様ですが、緊急治療を受ける必要があり、私たちは今日、その、、レイキャビック空港に立ち寄ることになりました。ご迷惑をお詫びします。そして、機内にお医者様がいらしたら、お願いですからクルーに声をかけてください。ありがとう。
(ドアが開く音)
キャロリン:レイキャビック!
マーティン:キャロリン、やあ。
キャロリン:レイキャビック、レイキャビック、レイキャビック!
マーティン:キャロリン、まるで毛玉を吐き出しているように聞こえるよ。
キャロリン:なぜよりによってレイキャビックへ行くの?
マーティン:なぜなら―もちろん忙しいスケジュールなのは分かっているが―きみの息子がお客に消火器を向けて、心臓発作を起こさせたからだよ。病院につれていってあげて、誠意をみせるほうがいいと思って。
キャロリン:ボストンの病院じゃいけないの?
マーティン:いけなくはないさ。きっと設備も立派だと思うよ。でも1500マイルも離れているんだ。
キャロリン:アイスランドに着陸するのに一体いくらかかるか分かる?全員の宿泊先と、明日のフライトを手配して、イスタンブール行きは取り止めになるのよ。
マーティン:でも人が1人死にそうなんだ。
キャロリン:ひどい人がね。
マーティン:キャロリン、お客がきみに無礼だったからって、死なせることはないだろう。
キャロリン:そうね。マーティン、聞いて。私たちはほぼ半分まで来てるわ。ボストンまで、せいぜい40分くらい遠いだけでしょう? コストが何千ポンドもかかることは脇においといて、彼のために考えましょう。彼はボストンに住んでます。このまま進めば、彼は地元の病院に行けるわ。家族も友達もいる。
マーティン:友達?
キャロリン:彼はお金持ちよ、もちろん友達がいるわ。もしアイスランドの病院なんかに行ってごらんなさい。外国で一人きり、家族は飛行機で向かい、でも、間に合わないかもしれない。たった40分のためにね。
マーティン:(無線)シャンウィック、こちらG-T-I。さきほどの依頼はキャンセルして、ボストンに向かいたい。
管制塔:あら、治ったの?良かったわね。了解、G-T-I。北へ51度、西へ30度。元の進路に戻って。
キャロリン:よい判断です、機長。じゃ、あとでね。
(ドアが閉まる音)
(ピンポン)
マーティン:たびたび申し訳ございません。当機はボストンへの飛行を続けることになりましたのでお知らせします。それから、お医者さんが乗っていて、その人が医学部を卒業するときのヒポクラテスの誓詞を少しでも覚えていたら、ギャレーに来ていただけると大変助かるんです。よろしく。
ダグラス:なにやっているんだ、マーティン?
マーティン:プライス先生に気付いてもらおうとしてる。
ダグラス:そうじゃなくて、なぜボストンに向かうんだ?
マーティン:ああ、それは、、よく考えたら、あまり距離が変わらないと、、
ダグラス:キャロリンに説得されたな?
マーティン:え?違うよ。彼女はただ、ちょっと新しい点を指摘をして、、
ダグラス:マーティン、旋回しろ。
マーティン:いや、もう正式に決断したんだ。
ダグラス:間違った決断だ。ボストンへはさらに40分かかる。
マーティン:そうだ、40分だよ、そんなにたいした、、
ダグラス:ボストンまで30分ってところで彼が死んだら―本来ならその時間にはレイキャビックで救急車に乗って助かっていたかもしれないのに―どう家族に伝えるんだ?
マーティン:(無線)やあ、シャンウィック、こちらまたしてもG-T-Iだ。
管制塔:あら、ねずみ花火じゃなかったのね。次はどちらにお連れしましょうか?この時期はテネリフェがお勧めよ。
マーティン:レイキャビックでいいよ、ありがとう。
管制塔:今度こそ本当に?いいのよ、ゆっくり考えても。私は一生暇をもてあましてるんだから、大西洋のどこにでも案内するわよ。
(ピンポン)
マーティン:みなさん、またしてもクリーフ機長です。先ほどは間違った情報を伝えてしまいまいした。我々は予定通りレイキャビック空港へ向かいます。(乗客の不満な声)はい、分かりますよ。命を救うことは辛い仕事ですよね。そういえば、全く聞く耳をもたないようだが、当機に医者がいれば、そしてその医者が(紙をめくる音)チキン・キャセロールとブルーベリー・チーズケーキを食べおえて、ああ、それにミルク入り砂糖なしのコーヒーね。その仮説上の医者が、免税品カタログをめくったり、薄茶色のひげをひっぱったりしているのなら、7席ほど前に進んで、ギャレーの患者を診てくれるとありがたい。でも、もし医者がいなければ、気にしないでくれたまえ。

(カーテンが開く音)
男:あの、、
マーティン:ああ、いらっしゃい。プライスさんですね?
プライス:ドクター・プライスです。
マーティン:ああ、ドクターですか!それはそれはありがたい。ずっと探していたんです。こちらに患者さんが。
プライス:どれ、見てみよう。ふむふむ。
マーティン:どう思われます?
プライス:私が思うに、橋だな。
マーティン:橋?
プライス:うん、トンネルは問題外だ。彼を通すとしたら、ドリンク用トロリーとストレッチャーで、簡単な土木ゲルバー橋を作ること。これが、少なくとも、専門家としての私の意見だ、土木工学博士号をもつ私のね。あるいは誰かがとても気まずいミスをおかしたか?
マーティン:え、、あ、申し訳ございません、僕は、、
プライス:ああ。それよりも、私は医学の心得はないが、この人には医者は必要ないぞ。
マーティン:え?
プライス:今はもうね。


キャロリン:すぐ進路を変えなさい。
マーティン:僕の話も聞いてくれ。
キャロリン:いいえ、もっと大切なことがあるの。進路を変えなさい。今すぐ。
マーティン:進路変更はできないよ。
キャロリン:マーティン、あなたが今回のフライトで証明したことは、何度も何度もだけど、あなたは進路を変えられるってこと。あるいは私たちはスローモーションのハリケーンの中にいるの?
マーティン:でも、レイマンさんは、、
キャロリン:死んだのよ。彼の気難しい魂に安らぎを。だからもう救急車はいらないし、病院もいらないの。今の彼に必要なのは、家に帰ることよ、ボストンに。
マーティン:ダグラス。
ダグラス:安全にボストンに到着できる燃料がもう残ってないって言うこともできるな。
マーティン:そうだ、ありがとう。キャロリン、僕たちは、、
ダグラス:でも残ってる。
マーティン:どうもありがとう。
ダグラス:悪いが彼女が正しいよ。ボストンへ向かうべきだ。
キャロリン:ほらね!
マーティン:分かった、分かったよ。ボストンに行こう。でもひとつだけ、、
キャロリン:なあに?
マーティン:ダグラスがシャンウィックと話してくれたら。
キャロリン:ダグラス?
ダグラス:喜んで。(無線)やあ、シャンウィック、ヨーヨー航空の陽気な男たちからの再度の挨拶だよ。


アーサー:じゃあ、お別れだね。誰かが最後の挨拶をすべきだって思って。ハミルトン・R・レイマン、1943年、たぶんアメリカ生まれ。2008年に間違いなく空で死亡。ノン・ベジタリアン・ミール。僕はあなたのことはよく知らないけど、レイマンさん、でも声が大きい人だってことは覚えておくよ。叫ぶのが好きで、そしてタバコ。この2つがあなたの情熱だったね。そう、だから、死ぬときも好きなことをして最後を迎えられたんだね。叫んで、タバコ吸って、泡まみれになって。泡は好きだったかのかな、きっと好きじゃないよね。じゃ、さようなら。安らかに眠ってね。MJN航空のご利用ありがとうございます。


マーティン:間に合うかな?
ダグラス:分からないって3分前に言ったの覚えているか?その後、新しい情報は入ってきてないよ。
マーティン:そうだね。
ダグラス:大丈夫か?
マーティン:うん。ただ、今回はいいフライトじゃなかっただろう?僕はその、間違いを、、いや、それでも、その、帰国して面接に行くときに、もし、間に合えば、だけど、もう無理だね。そのときに、僕は機長として、その、、聞きたいのは、きみは機長だっただろう、それで、その、難しいんだけど、、アドバイスもらえるかい?
ダグラス:ああ。大切のは、アドバイスを求めるなってことだ。
マーティン:そうかい、ありがと。
ダグラス:いいんだよ、このあとから始めれば。きみが機長なんだ、マーティン。機長でいるってことの利点は、磁石のように女性をひきつける魅力や、チーズトレイから取る最初の一口とかの他に、常に正しいってことだ。意見を聞くのはいいんだぞ。だが覚えておくんだ。キャロリンに従う必要はない。管制塔に従う必要はない。そのうえ、うん、これは二度と言わないからよく味わっておけ。私に従う必要すらないんだ。きみがボスだ。きみの言うことが正しい。
マーティン:うん、うん、そうだね、ありがとう。でも、えっと、ダグラス?
ダグラス:なんだ?
マーティン:“サイモンが言った”アドバイスもらえるかい?
ダグラス:ああっ、、よくやった。
マーティン:次は僕だ、僕の番だよ!
ダグラス:よろしい、準備できたら言ってくれ。(沈黙)“サイモンが言った”準備ができたら言ってくれ。
マーティン:準備OK。
ダグラス:もう一度言って?
マーティン:準備OK。  あ!

 
(続く)