日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

慶應MCC 講座“複合連鎖危機とニッポンの改革” 第三回 (続き)

2012年04月30日 | 日記

今日は、八田先生がお話されたことを再考してみたいと思います。

A.八田レクチャーの再考
 (八田レクチャーの内容は4月22日のブログを参照してください)。

a.保険

1.引き受けできるか、できるとすればどのような方法になるのか、考えてみました。
今回の福島第一原子力発電所で発生した レベル8クラスの事故で発生する保険金の支払額を、仮に、竹中平蔵・船橋洋一編著、『日本大災害の教訓』(東洋経済新報社)の第6章「原発事故 福島原発事故を何故防げなかったのか」を執筆された吉岡
斉 先生が上げられている、「30年間 50兆円」という数字にしてみます。この損害を 、500社の(保険)会社が団体を組んで引き受けると仮定し、これを1次引き受け団体とします。そして次に、一次団体の損害を引き受ける「原子力発電所事故保険機構(仮称・以下、原発保険機構)」を設立します。しかし、このフロー(流れ)はむしろ逆で、最初に「原発保険機構」を設立し、世界から機構への長期出資を募ります。規模は100兆円だとか200兆円だとかのになるのでしょうか?
次に、1次引受会社の500社を募集します。そして、原発保険機構と1次引受会社は、合同で「原発安全審査機関」を設立し、保険加入申請のあった原子力発電所の安全審査を行います。立地を含めて安全なものしか受理しません。立地、機能とも改善が可能なものには、改善勧告を出します。立地が不適合のものは廃炉勧告をだし、電力会社はこれに従うものとします。

2.事故が起きた時のリスク(保険金が支払われ出資金が戻らない)は、「原発保険機構」の出資者が負います。

3.この内容で、電力会社、電力会社株主、原発が立地する地方自治体と住民の方々、都道府県知事、国の原発許認可機関、安全推進機関、政府、原発保険機構の出資者の間で、合意がなされれば保険は社会システムとして成立すると思います。

4.また、歴史に「たら、れば」はありませんが、この方法、或いは、これに似た方法で、過去、外部機関による福島第一原発への審査が行われ、改善が行われていれば、今回の事故はなかったものと思われます。事実、東京電力・福島第一原子力発電所・5号機・6号機、同・福島第二原子力発電所・1号機・2号機・3号機・4号機、東北電力・女川原発・1号機・2号機・3号機、日本原子力発電・東海第二原発の計10基は無事でした。


b.発電設備の過大について


1.八田先生は、「電力会社は、需要に対応するため、過大な発電設備を持ってきた」と述べられます。知られているように生産と電力は比例関係にあります。また、生活水準と電力も比例すると言っても良いでしょう。
日本の電力会社は、この生産と生活水準を支えて来ました。私の記憶では、停電は落雷による瞬停(しゅんてい)以外、殆どありませんでした。

2.八田先生のご発言は、福島第一原発の事故によって、日本の原子力発電所が運転を停止し、電気の供給量が低下して行く中にあって、その不足分を、減少した供給総量の中で如何(いか)に需給をバランスさせて補うかという、政策提言にその意が注がれているように思えます。

3.関西電力(以下、関電)は、4月23日、現在停止中の11基の原発の再稼働が全くないと、今夏の電力供給量が最大で19.3%不足すると発表しています(日経Web)。この不足分を補うのに、例えば原発6基の稼動で必要な電力はすべて賄(まかな)えるとしたら、後は過剰だと言えるではないかという反論もありましょうが、余裕率、償却廃炉率、定検率を入れたら、一概に過大な設備だとも言えないのではないかと思います。

c.ヨーロッパ式リアルタイム電力市場の導入について

1.電力の絶対量が不足する状態で、リアルタイム電力市場を導入すると、電気は投機の対象となり、野心的なPPS(電力販売業者)は、過剰な設備を持ち、電力の不足している所を見つけて高値で売りたがるでしょう。また、価格は上下は、電力の安定供給を望む工場や、サービスの現場に対しては、マイナス要因として働くのではないでしょうか?

2.これに対して、日本の電力会社による電力供給は、一定の品質で安定した電力供給を行って来ました。恐らく、私達の世代以降の日本人は、電気は水と同じようにスイッチを入れれば直ぐに使えるものだということに対して、何の不思議も感じたことはないと思います。基幹産業に対しては電気は安定して供給され、生産が行われる必要があります。そのベース電力の供給を安定的に支える新エネルギー(自然エネルギーは含みません)は現在のところまだ開発されていません。この地位はまだ原子力が占めています。水素がエネルギーとして利用可能となり、水素発電の技術が開発されるまで、原子力は、やはり日本のエネルギー政策上不可欠のものと言えるでしょう。

3.敢えて書きますが、ご提言には、日本が発展して行く将来像が見えません。事故後、しかも原発が全て停止した状態での均衡論を述べていらっしゃるに留まっているように思えます。ここでは電力の需給の縮小均衡さえ懸念されます。
これでは企業は自社の将来ビジョンさえ描けません。主力工場はもとより本社機能さえ移転してしまう可能性も出てきます。

d.発送電分離について

1.発送電分離は行いません。

2.まだそのメリットが何も見えません。電気を作る側から言うと、作った電気を一定の品質で需要家に届けるには、送電網がどのような状態にあるかということは最大の関心事であり、今まで作ってきた送電網が別会社にゆだねられるとなると、いわばそれは鉄道会社の車両・送電部門と線路・駅舎部門が分離されるようなもので、電気という国家の根幹を支えるエネルギー政策の上からも、品質の上からも、回避した方が良いように思います。

3.50Hz地域と60Hz地域の相互融通を可能にする変換プラントを作る。

4.九州と沖縄が相互融通できるようにする。

5.送電網はNTTがやったようにPPS(電力販売業者)が使えるようにする。技術的に可能ならば、基幹送電網とPPS用送電網を分ける。或いは、PPSは自社存立のコンセプトに基づいて独自の送電線を作る。

6.ユーザーは電力会社を自由に選定できる。

7.都市タイプ別、ビルタイプ別、リゾートタイプ別に、各々の都市、ビル、リゾートは各々独自の電源選択を自由に行うことができる。

e.東京電力について

1.分割、清算・解散は行わず、事業を継続させる。

2.但し、「原子力発電は安全だ」と言明し、その言明を遵守せず、検証を怠り、今回の事故を招いた最大の責任は東京電力にあります。東京電力は、マグニチュード10クラスの地震と津波にも耐え得る十分安全な施設に原子力発電所を含めたすべての施設を改善する義務と、事故を起こした福島第一原子力発電所を清浄にする義務をを負います。

3.東京電力は、福島第一原子力発電所内の、冷却水ポンプ、非常用発電機、非常用発電機用重油タンク、制御盤、非常用バッテリーといった、非常時にこそ確実に作動しなければならないシステムを、冷却水ポンプと非常用発電機は冠水する位置(タービン建屋地下、おそらく制御盤と非常用バッテリーも同フロア)、重油タンクは流出してしまう位置(1F屋外)に設置されているのを、何故、定期点検・安全審査で見過ごしたままとしていたのか、何故安全な高所へと移設を行わなかったのか、安全マネジメント(管理上の意思決定)に問題があります。

4.上記の検証はなされたのでしょうか? 何故見過ごされたのか、何故誰も疑問に思わなかったのか、疑問に思っても発言とならなかったのは何故か、「発言はあったが無視したとか、握りつぶしたとか、こんな惨事を引き起こすとは想像できず放置した」とかは誰も言わないでしょうが、東電は社内において徹底的にこの問題を討議し、従来の安全マネジメントシステムと社のバックグランドともいうべき精神風土を刷新する必要があります。

5.加納先生にお願い申し上げます。上記の安全マネジメントシステムが、東電において確立されることを、原子力行政の最後の仕事として、やり遂げられますようお願い申し上げます。



[お知らせ]
慶應MCC 講座 “複合連鎖危機とニッポンの改革” は、レクチャー頂いた内容をご報告して参りましたが、
レクチャーいただく先生方の御一人から、 「ツイッタ―やブログに書かないでください」というご要望があり、ご報告は今回までとさせて頂きます。
忠実に復元致しました先生方の講義の内容は、十分に刺激的であります。
受講生から異論のあった部分、第3回八田先生のレクチャーとそれに対する私の見解などは、日本の今後の社会の骨格を決める大きなテーマであります。十分に比較ご検討いただき、お考え頂きたく存じます。

袖川芳之先生の「災害時の消費者行動」、西川智先生の「震災被害の実態と防災対策」、丸谷浩明先生の「企業継続のマネジメント」をご紹介申し上げることができませんでした。
特に丸谷先生のお話は、今後、業界団体での講習等も企画され、皆様も先生から直接お話を聴かれる機会もあろうかと存じます。是非お勧めいたします。

どの先生もその分野のトップランナーでいらっしゃり、
そのお話を伺う機会を与えて頂いた竹中先生と慶應MCCのスタッフの方々に深く感謝申し上げます。

 

 

 

 

 



                   

                                 新緑


                  

                            著莪(シャガ)=胡蝶花


                 

                                牡丹(ボタン)

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