A.シュンペーターの歴史把握
1.シュンペーターは、人間の歴史を、人間が作る生産物とそれを消費する、均衡する経済を通して考えます。例えば、人間は、太古には、自分が生産したものしか消費することができませんでした。生産は、土地(土地用役)に、自分の労働(労働用役)を加えて行います。土地用役には、その地で行う狩猟による獲物を含みます。生産=消費が、シュンペーターの基本認識です。この経済における貨幣は、この生産と消費を行い、次年度の生産を行うために資材を買い付ける手段であり、それ以上の貨幣量を必要としません。これは中世まで続きます。
2.続いてヨーロッパは、近世に入り、商業交易によって富(貨幣)が蓄えられるようになります。また、農村には長期にわたるプロト工業が起こります。そして、工業化(産業革命)の時代に入って行きます。ここからが、シュンペーターの分析で有名な「企業者による(技術・財・土地・人)の新結合と銀行家による信用(貨幣)創造」が起こり、新企業と貨幣量が増加する、経済が量と質において発展して行く時代となりました。
3.記述の中で、彼は、「企業者利潤」、「利子」について書き、「経済発展の転換点」を述べます。(『経済発展の理論』・岩波文庫・下) そして、彼にあって、この「経済発展の転換点」の波動が、叙述は成功していませんが、「新結合」と「新企業の群生的出現」の新しい出現です。
4.このときに現れる社会の状況を、彼は、おそらく、社会の変革期を示す状況としての期待もあるのでしょうが、「通常新しいものは旧いものの中から発生するのではなく、むしろ古いものと並んで登場し、これを打ち負かし、あらゆる関係を変化させ、その結果、ひとつの特殊な「秩序化の過程」が必要になるという事実を考慮しなければならない」(前掲書p192)、「新しい発展は以前のものとは異なった前提から、また部分的には以前のものとは異なった人々から出発する。多くの旧い希望や価値は永久に葬られ、まったく新しい希望や価値が生れる。」(前掲書p194)と述べます。
5.彼は、社会において見られる経済現象の中に法則性を発見しようとして、分析の対象を経済現象に限って行うことを強調し、ここで、旧い企業に並んで、新しい社会の様式が現れる様子を述べています。いわば社会論です。
6.しかし、このシュンペーターの期待も混じった予見(予言)でもある、社会論は、容認できません。社会は、人が生きる希望を奪うものであつてはなりません。人の希望は、それが悪意によってなされる他者の命を奪い、意志を服従させ、人を害し、社会を害するものでなく、生きることに望みを託し、生きたいと願う希望を、奪ってはなりません。人が善く生きたいと望む思いと共にあろうとする思想家は、これを強く語らなければならないのです。
B.シュンペーターの社会の簡単な経済式を通した検討
1.シュンペーターで唯一認められるところは、社会の発展に不可欠の貨幣量の増加を、企業者による事業活動に結び付けたところにあります。これ(貨幣量の増加)を、既にケインズは政府投資として明らかにしています。ケインズの経済式を簡単に書けば、Y(国民所得)=C(消費)+P(生産)+G(政府支出)となります。ここでは、貿易と海外投資は省略しています。不況期に、消費と生産が落ち込んだ時、政府の公共投資によってYの激しい落ち込みを食い止めることができます。有名な例として、アメリカのニューディール政策を挙げることができます。
2.シュンペーターは、ヨーロッパにおいて、産業革命と大航海時代から生じた経済発展は、企業者活動の活発化とその事業に銀行家が与えた信用貨幣の増加にあることを発見しました。これは認めなければなりません。しかし、彼が予見する資本主義社会の次に来る社会について、彼は書きます。(産業の独占化と巨大化により)、「独占化がよりよき知能の影響力の範囲を拡大し、より劣った知能の影響力の範囲を縮小せしめ(『資本主義・社会主義・民主主義』 上巻 p182)」、企業者機能は、「その重要性を失いつつあり、しかも将来必ずや加速度的に失われざるをえないものである(前掲書 p239)」。「完全に官庁化した巨大な産業単位は、(中略) ついには企業者自体をも追い出し、階級としてのブルジョアジーをも収奪するにいたる(前掲書 上巻 p243)」。私たちは、社会の全員が豊かに活き活きと幸福に暮らす社会を作り、このシュンペーターの予見する社会を拒否しなければなりません。
3.ここで、先ほどのケインズの経済式を使って、シュンペーターの予見する社会を、考えてみましょう。生産(P)は政府機能になりますから、政府(G)に統合され、Y(国民所得)=C(消費)+G(政府)となります。この式から思い浮かべることのできる社会は、文化の創造と生産の喪失した社会であり、人々の人生と共にある何かを作るという意欲を削ぐ社会であり、科・化学者の研究・創造・発見を抑制する社会です。そして、消費や娯楽も創造的なもの、個性的なものは抑制されるだろうという思いがあります。そして、社会は、シュンペーターが、「よりよき知能の影響力の範囲を拡大し、より劣った知能の影響力の範囲を縮小せしめ」と言いますから、より統制的な、強い権力機構の存在する社会となるでしょう。私たちは、これとは逆の人々が生き生きと活力を存分に発揮できる、動態の社会を作らなくてはならないのです。
4.シュンペーターの予見する社会は、かつて、旧ソビエトと中国において現れました。しかし、どちらも失敗しました。また、私たちは、Y(国民所得)=C(消費)+G(政府)の経済式に似た経済構造を、人類が、かつて、持ったことを知っています。古代の王権が強く、巨大遺跡を作らせた時代です。日本で言えば、仁徳天皇陵を作った時代であり、世界で言えば、古代エジプトでピラミッドを築いた時代です。ここで、私たちは、マルクスの考えも、シュンペーターの思いも、古代へと回帰する思想であることを知ります。しかし、私たちは、前へと進むのです。
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2025年5月6日 ブログ筆者 前田子六
山吹(やまぶき)