大阪「都」構想について
1.大阪市民に、大阪市を廃止し大阪府に行政組織を単一化することの賛否を問う「特別区
設置」住民投票の実施が、2015年4月27日、告示されました。投票日は5月17日で
す。
2.この問題は、単に大阪市民に止(とど)まらず、日本という民主主義国家の在り方の根
幹にかかわる国民全体の問題でもあります。それ故、少し書きます。大阪維新の会の諸君
も、この一文を目にされたなら、少し立ち止まって考えてみてください。
3.国家や都市は、その行政の在り方が多元(的)であればあるほど、その国家や都市のキ
ャパシティは多元(的)であり、その行政権力の在り方が単一(的)でありモノポリー(独
占)的な国家や都市より、より多くの文化や政治意識(ここではこれらを一括りに多元的価
値と呼びます)を生み出します。これは歴史の事実です。
4.例えば、日本が明治維新という大改革をなし得たのも、幕藩制に併せて天皇制と言う、
当時は既にその権力の実体的な基盤は失われており、むしろ褒賞的な階位の授与者の地位に
留まられていましたが、天皇が在位され、その位階システムが細々とかろうじて存在してい
たが故です。
5.また、現代世界に目を転じても、言論の自由が保障された議会制民主主義に基づき、複
数の政党が切磋琢磨して第一党を目指し、政治を行っている国々の方が、独裁者や独裁政党
が権力を独占して国家運営を行っている国々より、人々の暮らしと社会がより豊かであるの
は誰の目にも明らかです。
6.このように、行政の単位は多元のものである方が、単一のものよりより多くのものを生
み出します。これは当りまえの話しで、例えば、行政の単位をUとし、その人口規模、立地
条件が同程度としますと、2U>1U(2Uの生み出すものは、1Uより大きい)は自明の
理なのです。
7.今、大阪で、行政単位としての大阪市を廃止した場合、従来、大阪市が蓄積してきた行
政能力、住民サービスは、新たに設置される5エリアの特別区が引き継ぐものの、すべて失
います。今、大阪市の人々は、大阪市の行政に参加し、大阪府の行政にも参加することが出
来ます。住民サービスも同様に享受することが出来ます。住民投票は、この大阪市の持つ能
力を、大阪市の人々に捨ててくださいと言っているに等しく、この提案が住民投票で賛成さ
れた場合の損失は、大阪市民が自分自身の住民権を自らが毀損(きそん)する前代未聞の
歴史的なものとなります。このことをしっかりと弁(わきま)えて頂きたいと思います。
8.大阪「都」構想の実現による改革効果の推計額は、平成45年までの累計で500億円
から1000億円 [注: 大阪維新の会によって作成された『橋下徹が解説する大阪都構
想』→『デマに御注意!大阪都構想』というタイトルの中の『都構想の効果額はほとんどな
いの?』という動画に挿入された改革効果の累計金額をグラフで示した単位は億円(500
億円と1000億円)ですが、橋下氏はこれを5000億円と1兆円と表現されています。
2015年4月28日、21時33分現在、どちらかに誤りがあります。単位の統一が必要
です。] であると、橋下大阪市長によって報告されています。また、氏は、この改革効果の
実現は、大阪市を廃止する「都」構想の実現をもってしかないと主張されています。そうで
しょうか?この金額は大阪府と大阪市の職員によって算出されたものであり、大阪「都」構
想に反対する議員たちは、この金額は大阪「都」構想によらなくても、府と市の改革によっ
て達成できると主張されていることが、同じく橋下氏によって報告されています。であるな
らば、指導者たるものは漸進(ぜんしん)的な方法を選択しなければなりません。おそら
く、現在、市の行政組織が大阪市のGDP産出に果たしているであろう貢献を考えれば、そ
の行政組織を失うことによって生じる損失には相当大きいものを、何年かの期間は見込まな
くてはならないでしょう。これに対して、「それは心配しなくていい。市の行政組織をその
まま新設する5か所の特別区の行政組織に改編すればそのロスは生じない」という声が返っ
てくれば、それは組織の成熟に要する年月を考慮に入れない、無邪気なもののように思いま
す。市を廃止し、そこを5か所の特別区に分け、従来の市の財源8500億円中の6200
億円を5か所の特別区に引き当て、学校・大学・病院・国府道・消防・船・電車等の引当金
である2300億円を府の財源に組み入れる。そして大阪府の財政をパワーアップさせ、大
阪を東京に伍する日本の二つの「都」とする、というのが橋下氏の構想です。しかし、これ
は誰のために行われる政治なのでしょうか?大阪市民のためでしょうか?いいえ、大阪市民
と言う存在は無くなります。大阪府民のためでしょうか? 大阪市が消滅する前の大阪府を
考えれば、大阪府の予算には消滅する大阪市の財源から2300億円が組み入れられるので
すから、その分、大阪府の公共サービスの費用は増加することになります。しかし、この2
300億円の使い道は、新設される特別区と大阪府の協議会(橋下氏は、これを「都」区協
議会と呼んでいます。)によって、従来の市エリアの住民のために使用するよう特別会計で
監視すると橋下氏は言っていますので、厳密な意味での建前上は、大阪市が廃止される前の
府下住民のためではないと言えます。それに、廃止される大阪市の住民は大阪府下の特別区
の住人となり、同時に新しい大阪府の住民となりますが、現在の大阪市民は同時に大阪府民
でもあるのです。この大阪市民と大阪市は消失します。ここでもう一度尋ねます。受益者は
誰でしょうか?そうです、受益者は存在しません。厳密に受益者は誰かということを、この
ように考えて行きますと、都市は公共財ですから、一般論としては、受益者は大阪府民だと
いうことは言えますが、住民投票の当事者である大阪市の住人の立場に立てば、住人・私
は、大阪市民であることを辞(や)め、大阪市を廃止し、現在享受している公共サービスを
放棄しても、その代替に受け取るものは従来と同じものであり、むしろ大阪市という行政組
織とその蓄積された文化を失うことになるのだと言うことに気が付きます。そして、大阪
「都」構想は、豊かな財政状況にある大阪市から2300億円を大阪府の財源に組み入れる
ための方便に過ぎないという構図が見えて来ます。大阪市の財源から2300億円を大阪府
の財源に組み入れるために、大阪市を廃止してしまえという論法です。ここまで来ると、先
程尋ねました真の受益者(これは金銭、便益の受益という意味ではありません)がよく分
かります。それは、2300億円が特別会計として財源の中に組み入れられた大阪府予算の
執行者・大阪府知事です。むろんこれは、先程述べましたように、都市は公共財ですから、
大阪「都」構想とその実施は「公共(大阪)のため」というまぶしく輝く光の中で、大阪市
民の皆様にも維新の会の諸君にも、見えなくなっています。(補記:このセンテンスの最後
は、「殺し文句によって隠されています。」と結んでいました。しかし、維新の会の諸君の
主張を善意に考えようとすれば、彼らも「公共のために何かを果たしたい」というまぶしく
輝く光を求めようとする人々であると思われます。そしてそのまぶしさゆえに、見えなくな
っているものがあります。それを維新の会の諸君に考えてほしいと思い、表現を改めまし
た。2015年5月1日)
9.かって日本では、証券会社を潰し、銀行を潰しに潰した時期がありました。その後、訪
れたのが冷え切った経済です。私達はこの轍を踏んではなりません。大阪市は日本を代表す
る大都市です。大阪市を廃止してはなりません。改革を叫ぶならば、対話と議論を伴って漸
進的に行われるべきです。維新の党の諸君は気付いていないのかも知れませんが、私には諸
君が都市財源の収奪者のように映ります。それ故、私は諸君の言う、「憲法改正による統治
機構改革」、「広域地方政府としての道州制を導入」に反対します。日本には、徳川幕藩制
を引き継ぎ、日本人が練り上げて来た都道府県制があります。州を考えるならば、TPPが
発展して環太平洋国家ユニオンのようなものが出来れば、その一州(一国)として日本を考
えても良いと思っています。
10.結語
大阪市民の皆様、来たる5月17日の「大阪『都』構想」の賛否を問う「特別区設置」住
民投票では、「反対」とお書きください。
[注] 文中の大阪「都」構想に関わって記載してある金額は、大阪維新の会が作成した
『橋下徹が解説する大阪都構想』ビデオ中に提示されている金額です。
[注]2.赤字の語句の追記と変更を行いました。(2015年5月2日)
[お願い] この記事の拡散をお願い致します。
文責: 前田子六(正治)
e-mail: shouji_zen @ybb.ne.jp
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