選挙と公約
1.2021年衆議院議員総選挙が終わり、次の参議院議員選挙が2022年の6月25日から7月25日の間に行われます。衆議院議員選挙では、保守の危機感が作用し、自民党が261議席を獲
得して終りました。次の選挙に備え、今日は、衆議院選挙で飛び交った「公約」の一つである「消費税廃止」を取り上げます。尚、本稿では2021年度の政府予算から消費税を廃止した場合の金額
を計算していますが、ここには2021年11月に政府が新たに決定しました2021年度の補正予算案で示されました35兆9895億円は含んでおりません。この財源は、税収の増加分の6兆4
320億円、2020年度の余剰金、6兆1479億円、そして国債の追加発行、22兆580億円で補填します。そのため、次項で述べている2021年度の国債の償還費23兆7588億円は、
2022年度では今回の国債の追加発行額の償還費を加算して計上することになります。このことを申し上げました上で次に移ります。
2.先ず、「消費税を廃止することは可能か」自問しましょう。2021年度の政府予算(一般会計総額)は、106兆6097億円です。これは支出額です。この中には、国債の償還費(借金を返
済するお金)23兆7588億円を含みます。そのため政府予算の内で正味に使えるお金は82兆8509億円となります。これに対し収入である税収(総額)の見込み額は、60兆8216億円で
す。国債償還費を含めた支出(政府予算〔一般会計総額〕)に対して収入が45兆7881億円(約46兆円)不足しています。これはまた国債で補います。そして、税収の内、消費税収入は20兆
9714億円です。消費税の税収に占める割合は、約34,5%となります。上記の収支から消費税をなくしてみましょう。支出に対して収入の不足が66兆7595億円へと増加します。そして、
国債も発行せず、消費税もない政府予算を考えて見ましょう。政府予算は、税収(総額)- 消費税=39兆8502億円になってしまいます。約40兆円です。ここから更に、国債償還費23兆75
88億円を引いてみましょう。16兆0914億円になってしまいます。約16兆円です。これが、消費税を廃止した時の政府の正味の予算規模となります。これは数字のマジックではありません。
この数字は、現在、社会が成立し、お金が循環している日本の社会の中で、消費税を廃止したら、日本の経済規模がどのように縮小し、歪(いびつ)な社会になって行くかを示したものです。
3.「消費税の廃止」を叫んでいる人たちは、減額した税収をどこかで補填しなければなりませんから、家計と企業への増税を行います。そのため家計と企業が細って行くこととなります。このた
め、日本の富裕層と企業の中からは、日本を脱出し海外へと移住してしまう人々や、本社と生産拠点を日本に置かない企業が出てきます。まさに負のスパイラルです。
4.先の衆院選に立候補し、「消費税廃止」を公約に掲げた候補者の中には、「緊急時には通貨発行権を行使できる」と言っている人があることを、スポーツ紙が伝えていました。通貨発行権とは、
鋳貨を鋳造し紙幣を印刷することです。先に見ました通り、現在の日本の税収から消費税による収入を引き、更に国債の償還費を引いた政府の予算規模は、約16兆円です。これでは財源があまりに
も少なくなってしまいますので、国債を償還するのを止めてみましょうか。これは、債務不履行=デフォルトとなり、日本の通貨である円は暴落し、輸入品の価格は高騰し、国内産品も高騰して行き
ますので、できません。やはり、この人たちが公約として掲げた「消費税廃止」によって失う税収を補填するには、増税しかないように思えます。そこで確認して置きますが、この人たちの政治志向
が大きな政府か小さな政府かを考えて見るに、その政治志向は、大きな政府を組(く)んで人々にキャンディをバラ撒(ま)きたいキャンディズム(これは造語です)にあります。これを確認して置
いて、仮定として、禁じ手である「通貨発行権」を抜いて(使って)見ましょう。貨幣が鋳造され、紙幣がどんどん刷りはじめられます。この時、海外の為替市場では円売りが始まり、円の価値はど
んどん下がって行きます。その結果は、日本政府に債務不履行が生じた時と同じように、円は暴落し、輸入品の価格は高騰し、国内産品も高騰し、結局、困るのは庶民なのです。「消費税廃止」を公
約に掲げる人には、これが見えていないことを語っています。
5.(結語)
大きな政府を志向しながら、「消費税廃止」を公約に掲げることは、阿片は体の苦痛を和らげると言って人にすすめて、反って本人の体を蝕(むしば)ませ、ボロボロにしてしまうことと同じです。
そしてこれは敢えて書きますが、現在の日本にあって、禁じ手である「通貨発行権」を語る人たちの権力志向が、どのようなものであるのか、疑ってかかり警戒しなければならず、国政の場に選んで
はならないことを教えます。そして、私達は、日本を人権大国、科学技術大国、環境大国にし、GDPを増加させて豊かな国にすることが、国際社会へも貢献する日本の道であることを、あらためて
強く思います。
陽光の空