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chuo1976

心のたねを言の葉として

嘔吐 塔和子

2017-12-08 04:40:50 | 文学
嘔吐                 塔和子


台所では

はらわたを出された魚が跳るのを笑ったという

食卓では

まだ動くその肉を笑ったという

ナチの収容所では

足を切った人間が

切られた人間を笑ったという

切った足に竹を突き刺し歩かせて

ころんだら笑ったという

ある療養所では

義眼を入れ

かつらをかむり

義足をはいて

やっと人の形にもどる

欠落の悲哀を笑ったという

笑われた悲哀を

世間はまた笑ったという

笑うことに

苦痛も感ぜず

嘔吐ももよおさず

焚火をしながら

ごく

自然に笑ったという
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