chuo1976

心のたねを言の葉として

「明日」   谷川俊太郎

2012-04-12 05:32:23 | 文学
「明日」   谷川俊太郎




ひとつの小さな約束があるといい

明日に向かって ノートの片隅に書きとめた時と所
そこで出会う古い友達の新しい表情

ひとつの小さな予言があるといい

明日を信じて
テレヴィの画面に現れる雲の渦巻き 〈曇のち晴〉
天気予報のつつましい口調

ひとつの小さな願いがあるといい

明日を想って 夜の間に支度する心のときめき
もう耳に聞く風のささやき川のせせらぎ

ひとつの小さな夢があるといい
明日のために
くらやみから湧いてくる未知の力が
私たちをまばゆい朝へと開いてくれる

だが明日は明日のままでは
いつまでもひとつの幻
明日は今日になってこそ 生きることができる

ひとつのたしかな今日があるといい
明日に向かって
歩きなれた細道が地平へと続き
この今日のうちにすでに明日はひそんでいる
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