「ひどすぎるよ…」
震える声で、ようやくつぶやいた言葉が、これ。
なんなんだよ。ひどすぎるよ。
こんなのってねーだろ…。
同じ男として、いや、人間として、許せない。
せいあは、父親から受けた仕打ちについては、これまでサラ婆にしか話していないと、ぽつりと言った。
ゾッとした。
こんな目にあわされて、なんでこいつはまだ生きてられるんだ、と思った。
しばらくして、
彼女が何度も殺したのは、彼女自身だったのだと、気がついた。
彼女は話題を変えるように、またぽつりと言った。
「あたし、今日ね…取り調べ室の中で、刑事に襲われそうになったんだ」
――!なんだって。
また、目の前がクラリとした。続きを喋る彼女の声が、遠くなる。
「でもあたし、すごく『嫌だ』って思って、思わず顔、背けちゃったの。おかしいよね、娼婦なのに。今まで一度も、そんなことなかったのに」
…嗤ってる。
悲しくなった。
なんで?
なんでそこまで、自分を責めるの?
…。
顔をあげた。
そこには、無表情の彼女が、いた。
「サイテー…」
目を伏せて、吐き捨てるようにつぶやいた。
もう一度だけ、口だけ動かす。
『サイテー』。
嗤った。
誰に言ってんの、おれ。刑事に?こいつの父親に?それとも…おれ?
…マジ、サイテー…。
おれが自分のことを『僕』と呼んでいた、まだ幼い頃に、よく言っていた言葉。
一番近くにいた大人達に対して。…そして自分に対しても、ちょっとだけ。
いつからか、それが負け惜しみのような気がして、口にすることはなくなっていた。
それと同じ頃、同じ理由で、きっと泣けなくなった。
…もう認める。
全部ただの強がり。
自分の無力さ棚に上げて、泣かないようにして生きてきた、だけ。
…生きてたら、それだけでいいじゃん。
だってそれに、おれ、やっぱ、
こいつのこと、好きだもん。
顔をあげた。
無表情の彼女の瞳の中に、おれがいる。
彼女だけを見つめている、おれが、いる。
≪つづく≫
★最後まで読んでくれて、ありがとうございます!★
人気blogランキングへ←ランキング、参加してます♪よかったら、応援クリック、お願いします☆